15.水漏れと土魔法
ライルがゾルの説得に成功?したので憂いの亡くなった三人はミスリル鉱脈を探し始めた。
「ゾル、ミスリル鉱脈があるのがどの方向だ。」
「待って。」
ゾルは持っている鉱石にあるミスリルの欠片に鼻を近づける。
「スンスン。」
「え、ゾル。何やってんだ?」
ゾルの奇怪な行動に理解が追いつかずライルは困惑する。
「ライル静かに!ゾルが集中できない。」
「いや、え、だって。分かったよ。」
ゾルの集中を乱すライルにナガレは視線で黙らせる。
ミスリルの欠片の匂いを嗅ぐのを止めると今度は坑道の壁や地面に鼻を近づけて匂いを嗅ぎ始めた。
「「・・・。」」
ライルは何か言いたげだがどうせナガレに黙らせられるだけだ、なので黙ってゾルがミスリル鉱脈を探し終わるのを待つ。
「アッチ。」
坑道の奥に向かって左側の壁をゾルは指さした。
「さすがゾル、鉄鉱脈だけだでなくミスリル鉱脈がある方向まで分かるとはな。」
褒められたゾルは両手を腰に当てて胸を張っている。背中にエッヘンとでも浮かんできそうだ。
「え!え!ゾルってホントに地中にある鉱石の匂いを嗅ぎ分けてんのか?ウソだろ!?」
「ライル何言ってんだ。そんなわけないだろ。そもそもライルが匂いで嗅ぎ分けれるわけないって言ってたじゃないか。」
「言ったよ。俺出来ないって言ったよ。でもゾルが目の前でミスリルの匂いを嗅いで鉱脈の方向を指さした・・。え、まさか俺を騙したの?適当に指さしただけ?」
混乱したライルは混乱した原因であるゾルの奇怪な行動を説明してほしかったのだがナガレの言葉を聞いて余計に混乱している。
「お前を騙しても俺やゾルに何の得もないぞ。ゾルは土魔法を使っただけだ。」
「土魔法?え?いやでも、魔法を使うのに匂いを嗅ぐ必要はないだろ?」
ナガレにゾルが何をやっていたのか聞いてもライルの混乱は益々深まってゆく。
そんなライルを見ながら一から説明するために初めて坑道を掘り始めたときのことを思い出す。
それはナガレとゾルの二人が入れる程の坑道を掘ったときにさかのぼる。
「それじゃ、ゾル頼むぞ。」
「(コク)」
ナガレの言葉にゾルは頷くと壁に手を当てて土の感触の違いを確かめるようにゆっくりとなぞってゆく。
次に耳を壁に当てて目を閉じて集中した状態で壁をコツコツと叩いて音を確かめる。
最後に壁の土を削って口に含むと舌の上で転がして味を確かめた後吐き出した。
「どうだ、分かったか。」
「(フルフル)」
「無理かぁ。そんな簡単に鉱石の場所が分かったら苦労ないわなぁ。」
ゾルの自身に溢れる態度とドワーフという種族に期待していた分ナガレの落胆は大きなものがある。
「ドワーフって坑道を掘ったりするのが得意なイメージがあるけど鉱脈を簡単に見つけれるわけじゃないのか。」
「得意、土魔法。」
ドワーフが坑道を掘るのが得意なのは間違っていない。
身体の頑強さでツルハシやスコップで苦もなく坑道を掘り、土魔法で坑道の壁を補強できるからだ。
ゾルもナガレが掘った坑道の壁を土魔法で補強している。
「ゾルは土魔法が得意なのか。土魔法で土の成分を分析したりできないのか?」
「?」
「この世界には化学的な知識はないか、因みにゾルは元々どうやって鉄の鉱脈を探すつもりだったの?」
鉄の鉱脈を見つける自信はあったみたいだから何か根拠があったはずだ。
「匂い。」
「え!匂いが分かるの!?」
「金属だけ。」
ナガレが半分冗談のつもりで言った匂いを嗅ぎ分けることがゾルにはできる。
たださすがに地中に埋もれた金属の匂いは分からない。
「土魔法、匂い、金属・・・。もしかして土魔法で金属の匂いを集められない?」
「?」
言葉少ないナガレの説明では分からないゾルは困惑して眉をしかめている。
「土魔法は土に干渉できる魔法だよな?」
「(コクコク)」
「土に干渉できるなら土の中の匂いを集めて外に出せると思うんだけど、どうかな?」
「(コクコク)」
ゾルは壁に手を当てて目を瞑り手中する。ナガレはその様子を黙って見守る。
・
・
・
・
「(フルフル)」
ゾルはため息をつくと両手を挙げてお手上げ状態を表現しする。
しかし、ナガレは諦めない。今鉱脈を見つける可能性があるのはゾルだけなのだ。
ゾルの土魔法に頼る以外の道はない。
「魔法はイメージが大事だよな?」
「(コクコク)」
「それなら匂いを集めるイメージや匂いに敏感になるイメージをしたらできるんじゃないか。壁に手を当てて集中するんじゃなくて犬をイメージして匂いを嗅ぐとか。」
ナガレの突拍子もない意見にゾルは目を見開いて『それだ!』とナガレを指さすとスコップの鉄部分に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
次に壁に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
「!!コッチ。」
この場に他の魔法使いがいたら非常識さを指摘されたかもしれないがここにいるのは異世界から来た人と魔法の専門家ではないドワーフだけだ。
常識に囚われてないからこそナガレのいい加減なアドバイスでゾルは土の中にある金属の匂いを取り出す魔法完成させたのだろう。
ただその匂いを嗅ぎ分けているのはゾルの金属に敏感な嗅覚だから他の人には同じことはできないだろうけれども。
「やったな、ゾル。あとは俺に任せておけ。」
ゾルが指さす方向にスコップと突き刺してハガレは坑道を掘り進めた。
「なるほど、あれはゾルの土魔法なのは納得はできないけど分かった。」
一から丁寧に説明したのにライルはなぜか納得はしてくれない。
ドワーフが地中の金属の匂いを犬のようにして嗅ぎ分けるのは実際に目にしても受け入れ辛いのだろう。
「俺は新しくミスリルの鉱脈を目指して坑道を新しく掘るからゾルとライルは鉄鉱石の採掘を頼む。」
「分かったよ。」
「(コクコク)」
ライルとゾルはナガレと別れて鉄鉱石を採掘しに坑道の奥へと消えた。
「よし、やるぞ。ホイ」
ナガレはスコップを壁に突き刺すと山盛りの土をすくい上げる。
普通なら両手がプルプル震えてもおかしくない両だが今のナガレはそんなことにはならない。
「ヨイ」
「ヘイ」
掘っては拡張バックに土を入れてまた掘る。
拡張バックに土を大量に入れれば重たくて持てなくなるがナガレにはその心配はない。土を外に運ぶ必要がないのでドンドン新しい坑道を掘り進められる。
(ピシ)
「ん?」
(パキパキ)
「んん?」
小さな音が聞こえたような気がして前方の壁に目を凝らす。
黒い筋のようなものが見える。
(ピキピキ)
黒い筋が大きくなった。
「あっ、これは不味くないか。」
(バキバキ、ドガ!)
大きな破裂音が響くと同時に掘り進めていた穴から大量の水が溢れ出す。
地下水へと穴が開いてそこから水が溢れだしてきたようだ。
「ゴボ、ボバ。(ま、不味い!いくら強くなっても窒息したら死んでしまう。蓋、何かで蓋をしないと俺にもゾルみたいに土魔法が使えたら穴を塞ぐのに!)」
―――要請を受諾しました。―――
―――保留状態である称号≪地形を書き換えし者≫とスキル≪土魔法;極≫の獲得をします。―――
―――≪地形を書き換えし者≫・・・地形が変わるほどの大規模破壊を行なった者への称号。―――
―――≪土魔法;極≫・・・土魔法の極地、魔力と明確なイメージがあれば星をも作り出す。―――
都合の良いことに≪神滅者≫≪神威≫以外にも保留になっていた称号やスキルの一つを獲得したようだ。
ホントに都合が良い。
「ゴバ(土壁)。ハァハァハァ。助かったぁ~。」
掘り進めた坑道の途中に≪土魔法:極≫で土壁を作り溢れ出す水を堰き止めた。
水の勢いで流されたので水が溢れ出した穴そのものを塞ぐことはできなかったのだ。
「デカイ音がしたけど大丈夫か?それにそこらじゅうが水浸しだぞ。何があったんだ?」
大きな濁流音を聞いたライルとゾルが心配して様子を見に来ていた。
地下水路から溢れた水が新しい坑道を抜けてライル達とゾルがいた鉄鉱脈まで届いたのだ。
「すまん、地下水路にぶち当たったみたいで水が溢れてきたんだ。」
「確かにそんな感じに見えるがあふれ出る水はどこだ?」
「それはこの壁の向こう側だ。」
「意味が分からん。」
「なんか土魔法が使えるようになって土壁を作って塞いだ。」
「余計に意味が分からん。」
魔法とは魔法の資質のあるものが師匠に弟子入りして覚えるものだ。
簡単な火をつける魔法でも出来るようになるまで短くても半年はかかる。
それがなんか使えるようになったと言われても理解できないのは当たり前だ。
「いや、ホラ。」
ナガレは混乱するライルに魔法を使って見せる。
ナガレの足元で小さな土人形、ゴーレムが踊りはじめた。
「なに!ゴ、ゴーレム!」
ゴーレムは土魔法における一つの完成形と言われている魔法である。
ナガレが何でもないことのようにアッサリできるのは土魔法の極地である《土魔法:極》スキルを持っていることに加えてレベル1000に見合う大量の魔力を持っているからである。
普通なら宮廷魔術師とその弟子が協力することでやっと一体造れるほどの物だ。
いくら手乗りサイズであってもその異常さは変わらない。
「(パチパチパチ)」
ただそんなことを知らないゾルは素直にナガレの土魔法を賞賛している。
この世界では魔法とは英才教育の末に身に着けるか、または先天的に魔法スキルを持っているかでしか身につかないと言われている。称号で≪土魔法:極≫スキルを取得したナガレは例外である。
そしてドワーフであるゾルは先天的に使えるので魔法の知識を学んだことはないのだから知らないのは当然である。
「ハァ、ナガレの異常さは今に始まったことではないから良いか。戻って作業を続けるわ。」
ゾルも疲れた顔をしたライルと共に採掘作業に戻って行った。
ライルのことが心配だがゾルが一緒なら大丈夫だろうとナガレも自分の作業に戻る。
「《土魔法:極》は何でも出来るな。もしかして・・・」
ナガレは両手を壁に手をつけると鉄の分子と吸引機をイメージて魔法を発動。
すると鉄が集まって壁の色が鈍い銀色に変わった。
「おお、やっぱり。これならどうだ。」
初めての魔法にナガレは夢中になって土魔法を使った。
集めた鉄をバットにして振ってみた後、日本男児として刀を作ってみたが形は刀になったが刃ができないので波紋のない劣化模擬刀しかできなかったのにはガッカリした。
気を取り直してその後も石の塊を飛ばしてみたり、鉄を弾丸状にして飛ばし、地面から幾つも鉄の針を生やして、最後は100体の小型ゴーレムにダンスをさせたりした。
坑道の中なので大規模な魔法は使えなかったが始めての魔法を思う存分堪能したのだった。