11.借金と鉱山仲間
当たり屋の被害にあったが仮に訴えても住所不定無色のナガレが逆に衛兵のお世話になるりナン村に迷惑がかかる可能性を考えて大人しく金を払うことにした。
手持ちの銀貨4枚では全く足らないので盗賊の頭が持っていた魔法具の斧を売るためにある店の前にやって来た。今一番嫌なことは美女ではなく男二人に両腕をつかまれていることだ。
「このボロ屋がホントに店なのか?」
木造二階建の壁はところどころ板が剥がれている上に錆びた釘の頭が飛び出している。日の光が届いてないから中は薄暗く中の様子が窺えない。日本でこんな建物は廃屋と呼ばれているのだからナガレが疑問に思うのは無理もない。
「ムンゴォ!いるか!」
コケ男の当たり屋が建物の中に向かって叫ぶ。
「うるせぇな。大声出さなくても聞こえとるわ!」
建物の中からくぐもるった高めの声がすると茶色のローブで全身を覆った背の低い仮面を被った人物が出てきた。
仮面を被っている上にローブで全身を覆っているせいで体型も分からないため性別不明である。
声も仮面をつけているためハッキリと判別できないので判断材料にならない。
「ああ、ちょっと買い取ってほしいもんがあってな。」
「あんたもよく来るな。俺に買い叩かれてんのは分かってんだろ。」
「冗談言うぜ。俺らみたいなヤツからココほど高値で買い取ってくれる店はないぜ。」
コケ男はムンゴのご機嫌をとる為に先ほどまでと全く違う柔らかい声で話しかけている。
「え?ホントに買い叩くのか?」
少なくとも当たり屋二人を納得させる金額が手に入らなければ衛兵のお世話になるかもしれないのだ。
それだけは防ぐ必要があったので買い叩くと言う言葉をナガレは無視できなかった。
「アンタ何者だい?」
仮面の奥の瞳が一瞬輝いたかと思うと少し震える声で店主がナガレに尋ねた。
「客だよ。」
「ふ~ん、まぁいい。質問の答えはイエスだ。お前らみたいな怪しいヤツラから買うんだから当たり前だろ。気に入らなかったら売らなければ良いだけだ。」
ムンゴの言う通り売る売らないは自分が決めれば良いのだ。
「オメェ何言ってんだ!この店以外で身元のはっきりしねぇオメェから買取してくれる店なんてあるわけねぇだろうが!オメェがムンゴに嫌われるのは勝手だが俺らを巻き込むなよ!すまねぇムンゴ。コイツ街に来たばかりの田舎ものなんだ。それとコイツとは仲間でも何でもねぇんだ。」
ナガレの態度にコケ男は自分も仲間だと思われて今後の取引に支障がでるのではと焦ってムンゴに頭を下げる。
「ああ、別に良いよ。」
ムンゴはナガレの態度を気にした様子はない。
「アンタが何者なのか知らないがギルド以外から買取を行なうなら買い叩くのは当たり前なんだよ。品質の保証も出所の保障もされていない品を買うわけだからな。」
この世界にスキルが存在するが誰もが自分が必要とするスキルを持っているわけではない。
鑑定のようなスキルを持っていれば容易く物の価値が分かるがスキルがなければ全ての品を見極めて買い取ることは不可能である。
なぜなら品質の良しあしだけでなく、呪いの有無、エンチャントの有無、魔法耐性の有無に加えてそれぞれの効果内容を把握しなければならないのだから。
それに加えて出処となれば鑑定スキルを持っていても分からない。
盗品と分かれば持ち主に返還しないといけないため買取金額がそっくり店主が損をするため個人間の買取は買い叩かれるのが普通なのだ。
「分かったか兄ちゃん。ムンゴは俺らみたいなヤツから一番高値で買取してくれるんだ。他の店だったら最悪盗品扱いされて衛兵に没収されるんだからな。態度には気をつけろよ。」
当たり屋二人も出来るだけ高値で売りたいはずだから嘘は言ってないとナガレは判断した。
「分かった。店主、この斧を売りたい。いくらになる。」
背中に背負っていた斧をムンゴに見せる。
「ふ~ん、魔法具かい。」
「マジだったのか。でいくらになる?」
「やったぜ。兄貴!」
ひと目見ただけで魔法具と判断したムンゴは鑑定系のスキルを持っている可能性が高い。
それが高い買取が出来る秘密かもしれない。
「新顔さんはこれを何処で手に入れたんだい?」
普段で買取時に出処なんて聞かないムンゴの発した言葉に当たり屋二人は驚いた。
そんなことを知らないナガレは疑問に思うことなく答える。
「それはナン村を襲った盗賊の頭が持っていたものだ。」
「ふ~ん。そうかい。そうだね金貨4枚でどうだい。」
「おぉぉ!やったぜ。」「やりましたね兄貴!」
当たり屋二人は想像以上の高額買取に飛び跳ねるほど喜ぶ。
ナガレといえばあと金貨一枚高ければ問題は解決したのにとガッカリしていた。
「店主、何とか金貨5枚にならないか。」
「なるわけないだろ!」
金貨4枚から金貨5枚、25%アップの買取などあるわけない。
「ムンゴそういうなよ。俺らもコイツから金貨5枚回収しないといけねぇんだ。何か方法はねぇか。」
当たり屋二人もナガレに金貨5枚を手に入れてもらう必要があるのだ。
「ああ、そういうことか。」
当たり屋二人の様子を見たムンゴは大よその経緯を把握して代替案を考える。
手段を選ばなければいくらでも金を作る方法はある。
ムンゴは別に極悪非道な商人ではないので自分の良心が痛まない比較的まともな案を提案することにした。
「アンタ、身体は丈夫なんだよね?」
店主は確信をもってナガレに尋ねる。
「他人と比べたことはないけど丈夫だと思う。」
この世界の一般的なことは分からないがナン村での数日間の生活から自分の身体能力がかなり高いことをナガレは理解している。
「それなら鉱山で働くことを条件に金貨一枚を貸してやるぞ。」
鉱山の仕事はキツイ・汚い・危険な3Kな仕事である。
大抵は犯罪奴隷がゆくことが多いが短期間で高額の借金ができるのが利点だ。
当たり屋二人と穏便に別れるには今すぐ金が用意する必要がある。ナガレには金を用意する当てがコレ以外に思いつかない。ナン村に迷惑がかかる可能性がゼロでないために可能であっても逃げることは戸惑われる。
最終的に最低限の衣食住が保障されてこともあってムンゴの提案を受け入れることにした。
「分かった、それで頼む。」
「そんじゃ、この契約書にサインしてくれ。」
衣食住の保障と鉱山での仕事内容が書かれていることを確認してナガレはサインした。
金貨1枚を受け取るとナガレは合計5枚の金貨を当たり屋二人に渡す。
「これでお前らへの弁済は終了だ。」
「へへ、分かってるよ。衛兵に届けたりはしねぇさ。」
金貨5枚という大金を手に入れた当たり屋二人はご満悦だ。
「じゃあな兄ちゃん。今度からはもっと気をつけるんだな。」
そういうと当たり屋二人は軽い足取りで店の外へ出て行った。
「アンタ良かったのかい?あいつ等に金を払う必要はなかったと思うぜ。」
「身元不明の俺が衛兵に突き出されたら保証人に迷惑がかかるからな。」
「ふ~ん。お人よしだな。」
「悪いか。」
「いんや。」
ムンゴはそれだけで大よその事情を察したのかそれ以上はこのことに言及しなかった。
「こっちに来な。アンタと一緒に鉱山に行く人間を紹介するよ。分かっていると思うけどアンタは今借金奴隷だからな。逆らったり逃げようとしたりするなよ。」
ムンゴが奴隷になったナガレに暴力を振るったり首輪をつけたりせず普通に接しているのは理由がある。
借金奴隷は奴隷と言っても内容としては低賃金の期間労働における給与前借契約である。
この契約には互いを保護する力が働いている。
そのため借金した側も身の危険を感じれば反撃できるので無碍な扱いはできない。
だから最低限の衣食住が果たされなかったらナガレはすぐに解放されるし、不当な暴力にも抵抗できる。
その代わり仕事を放棄して逃げようとすると動けなくなり、契約期間が延びたる。何度も逃げていると犯罪奴隷としての契約に書き換えられるのだ。
犯罪奴隷となると内容にもよるが命令に逆らうと身体が動かなくなり、不当な暴力にも抵抗することはできない状態になる。
だからムンゴが特別優しいわけではない。当たり前の対応をしているだけである。
二階の部屋には二段ベットが三つとテーブル一つと椅子が5脚が置いてあった。
「ゾル、ライル。こっちに来い。」
名前を呼ばれてベットの中から二人の男が出てくる。
「こいつはナガレ、明日からお前らと一緒に鉱山へ行く。お互い仲良くやれとは言わんが問題は起すなよ。」
そういうとムンゴは部屋を出ていく。
「俺はライルでそっちの黙っているのがゾルね。明日からお互い頑張ろうね。」
中肉中背にどこにでも居そうな人族、ザ・平凡の称号を持っていそうなライルがナガレに親しげに話しかける。
コミュニケーション力は普通だと自負しているナガレだが自分から話を切り出すのは苦手なので相手から話かけてくれるのは助かる。
「ああ、よろしく頼む。」
「・・・・。」
ゾルがナガレに黙って手を差し出す。
「ああ、それはドワーフ族特有の挨拶だ。互いに手を握り合うんだ。」
この世界にもドワーフ族特有の挨拶として握手が存在していた。
ナガレも手を差し出してゾルの手を握るとゾルは上下にコレでもかと激しく腕を振った。
「ぬおぉ!何なんだ一体。ビックリしたぞ。」
普通なら肘を痛めるほどの勢いにナガレが思わず声を上げた。
「ハッハッハ、どうやらゾルに気に入られたみたいだな。」
「・・・・。」
ゾルは相変わらず口を閉ざしたまま、顔も無表情なので感情を読み取ることが出来ないのでその本心は分からない。
「それでナガレはどうして借金をすることになったんだ?因みに俺はバクチで負けたからだな。最後のカードが10だったら俺は大金持ちになってたはずなんだ。次は絶対に負けないから大丈夫だけどな。」
ライルの借金の原因はバクチという典型的なパターン、しかも次は絶対に負けないと言っている時点で負ける未来が目に浮かぶ。
「俺は高級品の弁償だな。」
「ああ、当たり屋だな。その上ナガレはまだ身分証がないと。」
たった一言でライルは正確にナガレの現状を把握した。
「すごいな、よく分かったな。」
「簡単なことだよ。借金するほどの高級品の弁償となったら貴族か大商人が相手だろ。貴族だったら今頃生きていないし、大商人ならこんなところじゃなくてもっと高く売れる店を知っているはずだからな。こんなところで借金するとなると相手は平民。平民の中で高級品に関係ありそうなのが当たり屋ってだけだ。ほら、簡単だろ。」
ライルは簡単だと言っているがその推理をするための前提として貴族・商人・当たり屋のそれぞれについて詳しく知っていないと出来ないことだ。
ナガレは情報や知識と面でライルは非常に頼りになると確信した。
「ライルが物知りってことは良く分かったよ。」
「この説明の意味が分かるナガレもかなりのもんだよ。」
ライルは自分の推理を聞いただけで推理に必要な情報量を読み取ったナガレに関心していた。
ライルは頭の中で瞬時に計算してナガレと仲良くしておけば鉱山での行動が楽になると結論をだす。
ナガレも有用な情報がライルから手に入ることを期待している。
それ以上に社交的なライルがこの世界で3人目の友人になれたらうれしい。
「それでゾルはなんで借金したんだ?」
無口で真面目そうに見える彼が借金したのだ余程の理由があるにちがいない。
「鉱石、貴重。」
「??ライル分かるか。」
ゾルの伝えたいことはナガレに伝わらなかった。
「たぶん、貴重な鉱石を買うために借金したんじゃないかな?」
そうだとゾルが頷いている。
「鉱石ってお金貯めて買えばよかったんじゃないのか?なんで借金?」
ゾルは肩を竦めながら両手を上げ首を振りつつため息を吐いた。
「貴重な鉱石はいつでも手に入るものじゃないんだ。一度タイミングを逃したら次はいつチャンスがあるか分からない。どうしても欲しかったからゾルは借金してまで手に入れたんじゃないか?ゾルは鍛冶師らしいしな。」
「なるほどね。それにしてもゾルって無口だけど感情表現は豊かだな。」
「俺もそう思うわ。」
この発言にゾルは首を傾げているが男がやってもどうかと思う。
「さて、自己紹介も終わったし明日は朝早くから一日馬車で移動らしいからもう寝ようぜ。」
夕食は野菜と干し肉のスープと乾パンだった。
ナガレは鉱山でどの程度食べれるか分からないから不味くても食っておけとライルに言われて無理やり口の中に押し込んだ。味はともかく量はあったので腹は十分に膨れた。
保障されているのは最低限の衣食住で行き先は鉱山、改めて考えると当たり屋に構わず逃げれば良かったのではと思うがナン村(主にアンリ)に迷惑をかけないためにもコレが正解だったのだ。
明日からまともなベットで寝れないので少し固めのベットにも感謝しながらナガレは目を閉じた。
筆者はのやる気は評価ポイントで変化します。
少しでもこの話興味を持っていただけたら下へスクロールして評価をしてください。(最新話のみです。)
もちろんブックマークも待っています。