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10.通行証と当たり屋

「ここが鉄鋼の街メントかぁ。」

ナガレはナン村から最も近い街であるメントにやって来た。

すでにナン村が盗賊に襲われてから7日間の時が過ぎている。

神力がない状態で≪神威≫を無理矢理発動させたために反動で魔力と命力が枯渇して3日間もナガレは寝込んでいた。

今でもそのときのことを思い出すのは気を失っている間に何か柔らかいものに包まれている気がしたのを妙にハッキリ覚えているからだ。

そして目を覚ましたら何故かナン村のみんながナガレを紳士と呼び始めたのことにナガレは困惑することになる。

確かに盗賊から村のみんなを助けるためにナガレなりに力を尽くしたがそれはガロも同じであるのになぜ自分だけ紳士扱いなのか未だに解明できていない。

理由を聞いても分かってますと言って笑顔になるだけで何も答えてくれないだから答えが分かるわけがない。

背中がむず痒くて仕方ないので必死に否定して何とか紳士呼びを止めてもらえたが今度はナガレ様と呼ばれ初めて余計に悪化させる始末だ。

これ以上悪化されても困るので問題解決は諦めてそのままナン村を出ることにしたが聞きつけた村長がお礼の宴をだけでもさせてくれと泣いて縋られたので渋々了承。男に縋られたナガレは危うくチェンジって言いそうであった。

酒を少し飲んだだけでも翌日には頭が痛くなり気分が悪くなっていたのが無くなっていたので身体能力が向上して内臓も強くなっているのが分かり、今後はもう少し楽しんでお酒が飲めることが分かったのは収穫であった。

宴の翌日、懸念していた二日酔いもなく村のみんなに見送られて出発した。

ナガレにとってアンリさんに笑顔で見送られたのが何と言うか正直残念だった。

なぜなら一緒に旅をしてウフフムフフなことがあるのを期待していたからだ。

ガロが走れば二日でメントの街に着くと言うので野宿なんて一回でも少ないしたいナガレは走って移動した。

何度か草原狼やニセゴブに遭遇したが《神威》アッサリと撃退。魔力限定状態で使用すれば強力な威圧の効果に限定され傷を癒したり心の象を止めたりはしない。泡を吹いて気絶した敵の首を斧でサクっと切り落とす簡単な作業と化していた。

この斧は盗賊の頭が持っていた魔法具だ。斧はカッコ良いと思わない上にナガレが好んで呼んでた武術書『史上最強の〇子』にも斧使いはいなかった・・・と思うので使うつもりはなかった。ただガロが使わないなら売って金にすれば良いと強引に渡してきたのだ。

ナガレはガロが言うようにメントで売って自分に合った武器を買うつもりである。

《神威》は役に立つのは分かったが魔力消費が多いからか性能が限定されているからか理由は不明だが連続して使える時間は限られることと一度使うとインターバルが必要と言う特性があることも試して分かった。

野宿の食事は干し肉と乾パンを食べているときに絶対料理が出来る仲間を見つけるとナガレは心に誓った。

そうしたこと経験した今ナガレはメントの街の関所に並んでいるのだ。


「身分証を提示しなさい。」

皮鎧に槍を持ったドラ〇エⅢの兵士を彷彿とさせる門番がナガレに身分証を出すように指示する。

「身分証はありませんが代わりにナン村の村長さんからもらった保証書があります。」

門番はナガレの差し出した封筒を受け取り、中身を開くと首から掛けていたペンダント上の物をかざした。ペンダントは保証書が本物であるか判別する門番に必須の魔道具である。

「うむ、確かにナン村の保証書だな。入税は銀貨1枚だ。」

ナガレは素直に銀貨1枚を払う。

残りの金は銀貨4枚、これは食事込みで8日間分の宿代相当だ。

ランブルク国の通貨制度は銅貨10枚で大銅貨1枚、大銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で大銀貨1枚、大銀貨10枚で金貨1枚だ。

平民の1か月の収入は大体銀貨10枚~15枚だ。

「分かっていると思うが問題を起こすなよ。起こせばナン村にも連帯責任が発生するからな。」

「え!」

兵士の言葉にナガレは驚いた。村長が簡単に保証書をくれたからもっとお手軽な物だと思っていたのだ。

「ム、まさか知らなかったのか?」

「いえいえ、もちろん知ってますよ。知ってますとも。」

門番に怪しいヤツと思われたくないナガレは慌てながらも知っていると答える。

「そうか、なら良い。さっさと行け、次の者が待っている。」

「は、はい。すいません。」

ナガレは嫌な汗が流れるのを誤魔化しながら門をあとにする。

門をくぐると鎚を振るうカンカンという音がハッキリとナガレの耳に届き始めた。

「さて、まずは冒険者ギルトに行って身分証を作らないとな。そのつもりはなくてもこのまま保証書を使っていたらいつかナン村のみんなに迷惑をかけることになるとも限らない。」

周りを見回して冒険者ギルドの看板である剣と盾を探す。

魔法のある異世界だから街並みは中世ヨーロッパ風だと思われがちだがこの街は確かにヨーロッパ風だがメンスの街は古き良き時代の名残をそのまま残す現代ヨーロッパと言ったほうがしっくり来る雰囲気がある。

清潔感と人々の服装と街のあちこちに見えるカラフルな色がそう思わせる。

周りを見回してそんな街の様子がナガレの目に入るが肝心の冒険者ギルドは見つけられない。

「困った、門番の人に冒険者ギルドの場所を聞くべきだったな。」

門番に保証書の連帯責任という衝撃の事実を告げられた驚きで聞きそびれてしまっていた。

(グゥー)

ナガレの腹が空腹を訴えて大きな音を出した

「そろそろ昼時だな。」

太陽が頭上にあるのを見てハガレは言葉を零す。

「さっきから肉の焼ける良い匂いが漂って我慢できない。ギルドを探すのは腹ごしらえをしてからにしよう。腹が減ってはなんとやらと言うしな。」

街に入ってからずっと肉の焼く良い匂いをさせる屋台で腹ごしらえをすることに決めた。

屋台を出すには商業ギルドで商取引に関する権利を取得すれば誰でも出来る。屋台の激戦区になりそうな人通りの多い門のすぐ近くなのだが不思議なことに屋台はその店しかない。

不思議なことはさらにある。昼時にこれだけ美味しそうな匂いを漂わせているの屋台に客が一人もいないのだ。

この街にきたばかりのナガレがそんなことに気が付くはずもなく怪しむこともなく露店へと吸い込まれていく。その姿を見た街の人は何とも言えない視線を向けていたがナガレが気付くことはない。

「らっしゃい!」

頭にハチマキのようにタオルを巻いたスキンヘッドのおっさんがニコニコ笑って出迎える。

「良い匂いだけどこれって何の肉?」

香ばしい匂いをさせる肉にナガレの食欲は刺激され続けている。

「これはコレカスバッファローの肉だぜ。肉も柔らかいしコッテリした油が口の中で大暴れするぜ。」

おっさんの語彙が少ないせいで字面だけではコレカスバッファローの肉のおいしさがナガレには伝わってこないが肉の匂いとおっさんの自信ありげな表情から美味いことは伝わった。

コレカスバッファローは貴族がこぞって買うなんてことはないが平民がちょっとしたお祝いなどで使う少し高級な肉である。そんな肉がこんな屋台で売られているのはおかしいとこの街に住んでいる者なら誰でも分かることが異世界から来たナガレに分かれというのは酷なことだ。

「うんじゃ、それを一つくれ。」

「毎度、銅貨5枚な。」

ナガレは銀貨一枚を差し出す。

「なんだよ。銅貨はないのか。」

「悪い、今はそれしかない。」

「まぁ、いいけどよ。ホレ、おつりと肉だ。熱いから気をつけて食べろよ。」

「ありがと。それと冒険者ギルドって何処かな。」

ナガレは先ほど兵士に聞けなかった冒険者ギルドの場所を忘れずに聞く。

「さては兄ちゃんこの街はじめてだな。」

「ああ、さっき着いたばかりで道が分からないんだ。」

「冒険者ギルドならそこの細い道を通ったら早いぜ。真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がる。暫く進めば剣と盾のマークを掲げている建物が冒険者ギルドだ。」

「親切にありがと。」

「おお、また来てくれよな!」

ナガレは肉を頬張りながら屋台のおっさんが指さした道へと入っていく。

露天のおっさんはナガレの後ろ姿が見えなくなるとさっきまでのニコニコ顔は鳴りを潜めていた。

「今度の鴨は良い金になりそうだ。」

そういうと手元においていた魔法具の一種である鈴を鳴らした。


ナガレが道に入って暫くすると周りの雰囲気が変わる。

今までと変わらず足元には切り出した石で舗装されており建物も裏側とは言え同じものだ。違いは路地が細くなり、両側を建物の壁で太陽の光が遮られているので昼間でも陰になって薄暗いことと人の気配がほとんどないことだ。

日本の裏通りでもこういった場所はあったので特に気にするでもなくナガレは冒険者ギルドへと向かう。

屋台のおっさんから聞いた突き当たりを右へ曲がろうとしたときそれは起こった。

建物の陰から人が飛び出してきたのだ。

ただレベル1000を超えるナガレは高い身体能力を発揮して難なく避ける。

「チッ。」

飛び出してきた男が舌打ちしたのに驚いていると男の影から小さな男がナガレに向かって飛び出してきた。

コレも避けられるのだがここで問題が生じた。ナガレが避けると男は建物の壁にぶつかってしまうのだ。

普通ならそんなことは気にせず避けるだけなのだが今のナガレはそういうわけにもいかない事情がある。

ナガレの身分を保証しているのがナン村の村長だからだ。

ナガレが怪我をさせるわけではないがこの男が難癖をつけてきたら、いやこいつらの行動を見るに当たり屋だ難癖をつけるに決まっている。

この国の治安機構がどうなっているのかは分からないがもし俺に何か罪に問われたら連帯責任でナン村に迷惑をかけてしまう。

だからナガレはそのまま小男を受け止めることにした。

(パリン)

何かが砕ける音が裏路地に鳴り響いく。

「あぁ!てめぇ、どうしてくれんだ。おめぇが足引っ掛けたせいで大事な魔法具がぶっ壊れたじゃねぇか!」

先に大声で叫んだのはナガレにぶつかり損ねて自分でコケた男だった。手には壊れた小箱を持っている。

日本にいた頃のナガレなら男の顔とこの怒声でビビッて身を竦ませていただろうが今やそんなことはない。ナン村で盗賊にもビビらなかったのだから当然だ。

「いや、お前が飛び出して来て勝手にコケただけだろ。俺のせいにするなよ。」

典型的な当たり屋のコケ男に正論を言っても無駄なのはナガレも分かっている。しかし、ここで逃げるのが良いのかこの男に力を見せつけるが良いのかどちらもナガレには可能だがどうするのが最善なのか分からないのだ。だから無駄と分かっていても正論で返した。

「あぁん!俺が悪いってのかぁ!良いんだぜ俺はぁ衛兵を呼んできっちり調べてもらってもよぉ。」

衛兵と日本の警察みたいなものだ。

今のナガレは住所不定無職、日本でも犯罪現場付近にいれば警察に職質される。

この国でもそれは同じだ。

住所不定無職のナガレは問答無用で捕らえられる可能性が高い。捕まるだけなら良いのだがナン村にまで不利益を与えるわけにはいかない。

それに男の口ぶりから衛兵と通じている可能性が高い。

だから、ナガレは譲歩して穏便済ませることを選んだ。

「分かった。弁償する。いくらだ。」

「あぁ!いくらですかだろがぁ!金貨三枚だぁ、お前に払えんのかぁ。あぁ。」

金貨3枚は平民20か月分の給与である。ナガレが弱気になったと思ってか、どう考えても吹っかけている金額を提示してきた。

コケた小汚い男がそんな高価な品を持っていたとは考えづらいが男が嘘を付いていると断定する知識をナガレは持ち合わせていない。ナガレには壊れた小箱の価値も分からなければ本当に魔法具だったのかでさえ分からないのだから。

「オイオイ、二人だけで話を進めんなや。兄ちゃん、もちろん俺の高級ガラス細工も弁償してくれんだよな。」

今度は小男がガラスの欠片を持ってナガレに金を要求してくる。

先ほどぶつかられたときに割れたにしては細かく割れすぎている。

さっきのやり取りを聞かれたのでナガレも小男も衛兵の話を出してくるのは目に見えている。

「ああ、いくらだ。」

とにかくナン村に迷惑をかけずようにさっさとこの二人の対処を終わらせて冒険者ギルドで登録すべきだ。

「俺のはそっちの男みたいなことは言わねぇよ。金貨2枚で良いぜ。」

金貨二枚でも吹っかけているのは変わりないがここで騒いでも自分が不利になるだけなのでナガレは何も言わない。

「で合わせて金貨5枚きっちり払ってくれるんだな。」

手元にある金は銀貨4枚である。到底ナガレには払える金額ではない。

ただナガレにも一応金の当てはある。盗賊の頭が持っていた魔法具の斧だ。これを売れば金になるとガロも言っていた。

「ああ、この斧を売ればそのくらいにはなる。」

ナガレは小男とコケ男に背負っていた斧を見せる。

「あぁ、こんな小汚い斧が金貨5枚になるわけねぇだろ。」

魔法具を判別出来ないのはナガレだけでなく壊れた小箱を持っていたコケ男も判別出来ないようだ。

コケ男の鑑定眼が自分より優秀でないことにナガレは安堵していた。

しかし、すぐに小男の鑑定眼が自分より良いことにナガレはショックを受けることになる。

「ちょ、ちょっと兄貴これ魔法具ですぜ。」

「偽物じゃなくて本物なのか?」

「へい。」

「オイオイ、兄ちゃん良いもん持ってんじゃねえか。よし、さっさと金に換えに行くぞ。」

両腕をコケ男と小男につかまれて歩かされる。

逃げる気はないのだがどうして美女じゃんくてこんな男に腕をつかまれないといけないのか考えるナガレであった。

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