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1.邪神復活まであと30分

ここは世界の外側にある管理者の領域。

「ぬがぁぁ~。何でよ!あいつの封印はあと5年は持つはずでしょ!忘れないようにカレンダーにも印つけていたのに!」

世界の管理者の一人である目付きのキツイペタンコ少女の叫び声が領域内に響き渡るが叫び声に答える者は誰もいない。

それもそのはず世界の管理も効率化の波にさらされており今や一つの世界に一人の管理者となっておりペタン子少女の管理領域も彼女一人しかいないのだから誰も答えないのは当たり前だ。

基本的な世界の調整や管理は自律思考型精霊や自律思考型龍が担っており、管理者は全体の方向性の決定やイベントの管理やバグ修正などを行なうだけで良くなっている。

つまり基本的に管理者は暇なのである。

どのくらい暇なのかと言えば平日の昼間からネッタサーフィンに明け暮れることが出来るくらい暇である。非常に羨ましい仕事である。

そんな暇なペタンコ少女がどうして慌ただしく動いているのかと言えば彼女が犯した大きなミスの収拾に奔走しているからだ。

「この新しく配布された封印期間計算アプリのバグだったらどんなにうれしいか。安心と信頼の世界管理機構のアプリに限ってそれはないのは分かっているけどね。でもまだ5年あるはずの封印期間が後30分しかないってどう考えてもおかしいよ。」

ペタンコ少女は自分のミスが発覚する原因になった封印期間計算アプリが間違っていると思いたいようだがそのアプリのお陰で最悪の事態を回避するべく行動が起せていることをしっかりと認識すべきだ。

愚痴を言う前に良くこのタイミングでこのアプリを配布してくれたと世界管理機構にお礼を述べねばならないだろう。

そして分かりきっていることだが封印期間計算アプリは間違っていない。

5年あるはずの封印期間が30分しかないのはペタンコ少女が過去に行い続けたことに理由がある。

その原因の発端はペタンコ少女が他の管理者と異界通信で互いの近況を話していたときに始まる。


「あなた最近えらく神力を貯め込んでいるらしいわね。」

「な、なんのこと。」

指摘された通りペタンコ少女はとある目的のために神力を貯めている。

しかしそれは知られるわけにはいかない。ペタンコ少女は何としても隠し通さなければならないのだ。

セリフを噛んで顔にも動揺が表れてしまい神力を貯めていることがバレているとしても貯めた神力を何に使うのかは決して知られてはならない。

「その顔が全てを物語っているけどね。」

「・・・」

話術が得意でないペタンコ少女は口を閉ざすことでそれ以上の情報を与えないようにした。

何が何でもそう例え不審に思われても神力を貯めている目的を知られるわけにはいかない。

知られれば恥ずかしくてとても生きていけない。

もし知られたら自害という禁忌を犯してしまうかもしれないほどに恥ずかしいのだ。

「言いたくないなら別に良いわよ。」

その言葉を聞いてペタンコ少女にあからさまに安堵する。

異界通信の相手は事実を知ることを諦めたわけでない。

ペタンコ少女の口から情報を聞く必要が無くなっっただけだ。

彼女が先ほど言ったようにペタンコ少女の顔、特に目が全てを教えてくれていた。

先ほどからペタンコ少女は彼女の胸を親の敵かのように睨み付けていることからその心中を察することができる。

お察しの通り彼女の胸はペタンコ少女と正反対に山のように豊満なのだ。

まさに山と壁。

そんな対照的な容姿の二人は凸凹コンビとして世界管理人の間ではそこそこ知られている。

そしてペタンコ少女が自分の胸にコンプレックスを抱いているのは公然の秘密であった。

なぜ胸にコンプレックスを持っていることが知れ渡っているかと言うと彼女以外の管理人は全て豊満な胸を持っており胸にコンプレックスを持つような管理人は彼女しかおらず、たった一人、他人の胸を羨ましそうに見る彼女の視線が目立っていたからだ。

「それで何か用事があって連絡したんじゃないの。」

神力の話題を終わらせるためにペタンコ少女は話題変更を計る。

「用事がないと連絡できないなんて寂しいこと言うなよ。ちょっと良い物が手に入ったから可哀想なアナタに見せてやろうと思ってね。ジャ~ン、これよ。」

通信画面にイチゴのモンブランやミルフィーユ、チョコレートケーキにティラミスなど見ただけでも美味しいことが分かる数多のケーキが画面上に映し出された。

「そ、それってもしかして噂のケーキ!」

ペタンコ少女は震える声で、そして確信を持って尋ねる。

実は彼女は前々からケーキを食べてみたいと思っていたのだ。

しかし、ケーキを召喚するためには神力が必要なのだ。

大きな目的のために神力を貯めてる彼女にとってはその少しの神力も無駄にできない。

そのため映像を見るだけで我慢していたのだ。

「そう、神力をたくさん手に入れることができたからいろんな種類のケーキを召喚してみたの。神力を貯める必要があるアナタはまだ食べたことないと思って雰囲気だけでも感じてもらおうと思ったのよ。」

彼女は決して親切心でそんなことを言っているわけではない。

管理者は自分の領域で誰とも会わずに一人で世界を管理している。

そのため溜まったストレスを発散するためにお互いに軽い嫌がらせやイタズラを行なうことが常習化していた。そして彼女の行動もストレス発散を目的にした嫌がらせの一つである。

「グヌヌヌヌ。」

ペタンコ少女はケーキをニコニコと美味しそうに食べる彼女の姿を血の涙を流しそうな表情で眺めることしかできない。

ペタンコ少女も何度も嫌がらせをしてきたので文句を言うことはできない。

「あ~、美味しかった。久しぶりにアンタの悔しそうな顔が見れて良かったわ。じゃあねぇ。」

そういうと異界通信が切れた。

ペタンコ少女はこのとき心に誓ったのだ。何としてもケーキを食べてやると。

ただ自らの目的のためには自分の神力を使ってケーキを召喚するのはダメだ。

一分一秒でも早くペタンコ少女は目的を達成しなければならない。

ここで幸か不幸か天才的な、いや悪魔のアイディアがペタンコ少女の頭に閃いた。

その閃きとは彼女の管理する世界に存在する封印のために保存されている予備神力を使用するというものだ。

この神力はすでに彼女の身体から離れているので彼女自身の目的には使えない。その代りケーキの召喚には使えるのだ。

この予備神力は封印に不測の事態が起きた際に使われるものだ。

封印のマニュアルに従って保存していたがこのマニュアルができてから一度も使用された記録がないことをペタンコ少女は知っていたのだ。

予備神力はケーキの一個や二個、いや百個や二百個を召喚したとしても枯渇することはありえないほど保存されている。

だから普通なら例えこの神力を使ったとしても封印に影響はないはずだった。

ただペタンコ少女のケーキへの渇望は普通ではなかった。

最初は一番気になっていたケーキ一つを召喚して食べただけだった。

あまりに美味しくてペタンコ少女は気がつくと皿を舐めていた。

この時だけは管理所の空間にいるのが自分一人だけであることをペタンコ少女は心底感謝していた。

そこで終わればよかったのだがペタンコ少女は予備神力が全く減っていないことに気がついてしまった。

もう一つケーキを召喚した。そしてまた皿まで舐めた。

やはり予備神力は全く減っていない。

そこでペタンコ少女は一日一個召喚したとして予備神力が何時まで保つのか計算してしまった。

計算結果は封印が解けたときまで召喚し続けたとしても予備神力は半分以上残ることが導き出されてしまった。

このとき彼女の未来はすでに決まっていたのだ。

ペタンコ少女は予備神力の使用を自分自身の言い訳するために再計算をする。

十分な余裕があることに変わりはない。

ペタンコ少女にはこの結果が天啓のように思えたのかもしれない。

しかしそれはただ自分の行為を肯定したい願望が見せた悪魔のささやきでしかない。

それからの結果は火を見るよりも明らかである。

一日一個が二個に、二個が三個に、そして最終的には一日に10個以上のケーキをペタンコ少女は召喚していた。

ごくわずかな神力しか使わないと言え長きにわたりそんな数を召喚していれば予備神力も枯渇する。

ペタンコ少女の最大の欠点は一度結論を出すとそのまま最後まで突っ走るのだ。

そんな彼女は予備神力が枯渇したことに気が付くわけがない。

予備神力が枯渇しているのにそこから神力を取り出そうとしても通常なら神力を取り出せずケーキは召喚されないはずであった。

しかしペタンコ少女が使った予備神力は封印と繋がっている。

そのため繋がりを通して封印の神力を使いケーキを召喚し出来てしまった。

予備神力に留まらず封印本体の神力を使い果たしてしまったのだ。

その結果彼女は忙しく奔走しているのだ。


「と、とにかく何か対策しないと。」

5年後に封印が解けることを見越して既に神託システムを使い勇者召喚に必要な神力を込めたアイテムと召喚方法を下界に伝えているが、そんな通常の方法では30分後の邪神復活に対処できないのは目に見えている。

邪神とは自律型精霊や自律型龍を使う上で出てくるバグの一種だ。

邪神という名のバグに対処するのは管理者の仕事の一つである。

普通の管理者はバグが出たら排除するのだがペタンコ少女はそれを行わなかった。

ペタンコ少女は自分の目的のために邪神の持つ神力を利用しようと考えたからだ。

定期的に邪神の神力を回収するために排除ではなく封印と言う手段を使ったのだ。

「復活して暴れられたら世界の調整に私の大事な神力を大量に使わないといけない。勿体無いけどこいつは排除しよう。問題は排除する方法よね。」

ケーキに目が眩んで封印をダメにしたペタンコ少女だが管理者である彼女は基本優秀だ。

すぐに気持ちを切り替えて神力の回収元である邪神を排除することを決定する。

自律型精霊や自律型龍を終結させれば邪神を排除することは可能だが30分後に特定の場所に集結させるような指示は出せないしできない。

ペタンコ少女自ら対処するのも無駄に神力を使うことになるうえに管理世界に多大な影響を与えるので避けたい。

ここから誰かを邪神の元に送るのが神力の消費を最も抑えることができる方法なのは分かっているが送り出す人材はいない。

しかしここに人物が迷い込むことになる。

これはペタンコ少女にとっては幸運だが迷い込んだ人物にとっては不幸である。

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