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第6話 興梠さんのお説教

 昼前の出張所は昨日と違い、まばらながらも探索者の出入りがあった。


 この県の探索者が214名いる割りには少ない気もするけど、時間的なものなのか、昨日の影響なのか。


 たぶん昨日の影響なんだろうな。


 プレハブに入ると、やはりこちらに視線が集まるが、それも一瞬だけ。


 2ヶ月も同じ場所で講習を受けてたこともあって、流石に皆さん慣れてるらしい。


「おう、秋月くん」


 見知った顔を捜していると声がかかる。


 180cmを超える身長にがっしりとした体躯。


 その上に乗った、髪を短く刈った優しげな顔。


「お久しぶりです、河野(かわの)さん。無事だったみたいでなによりです。」


 河野(かわの)さんは、講習中、どうしても敬遠されがちな俺に色々世話を焼いてくれた人だ。


 見たところ大きな怪我はしてないみたいでよかった。


「お、心配してくれてたのか。秋月くんは結構ドライかと思ってたよ。」


「そんなことないですよ。まあ、初探索で舞い上がって少し忘れてましたけけど。」


 それは隠しとけよ、と笑う河野(かわの)さん。


 ほんとに元気そうだ。


 けど、パーティーを組んでるはずの2人が見当らない。


「あの、松田さんと川越さんは、もしかして…。」


 2人は河野(かわの)さんの大学の同級生。


 3人で大学卒業と同時に探索者になる話だったはずだ。


 ここにいないということは…


「おう、2人とも昨日の騒ぎで骨折してな。療養中だ。」


 あっけらかんと言う河野(かわの)さん。


 ラグビーやってたって聞いたけど、ラガーマンはみんなこうなんだろうか。


「軽いですよ河野(かわの)さん。でも初日から大変ですね。これからが楽しいのに。」


「楽しいって言える秋月くんも大概だろ。けど悪いことばかりじゃないぞ。怪我するくらいには活躍したからな。なんと報奨金が出た」


「報奨金出るほど活躍したんですか!?」


「おう、すごいだろ。」


 俺が言えたことじゃないけど、この人達もだいぶおかしい。


「素直にすごいですよ。あの時って海外のゾンビドラマみたいになってたんですよね?」


「なってたなあ。シーズンのクライマックスレベルだったな。」


「ああ、想像しやすいです。」


「そうそう、俺達だけじゃなく、甲斐くんも凄かったぞ。」


「甲斐くんですか!?」


 クラスは違うけど高校の同級生だった甲斐くん。


 中性的な容姿で少し気弱な印象のある彼が、そんなに頑張ったとは。


「俺達が潰れかけのところで、気絶するまで魔法を連発してくれてな。あれがなかったら俺達3人は押し潰されて死んでたかもしれん。」


「それは…、意外と言うと甲斐くんに悪いですが、そこまでやれるとは…。」


「おう、たいしたもんだった。会ったら声かけてやれよ。」


「もちろんです。」


 バシバシと肩を叩いてくる河野(かわの)さん。


 結構いたい。


「よし、俺は腹が減ったから帰る。たまにはこっちにも来いよ。」


「はい、一区切りついたら来ますね。おつかれさまでした。」


 ひらひらと手を振りながら去っていく河野(かわの)さんを見送る。


 なんか、すごいな。


 最近まで普通に生活してた人達が闘って、命の危機でも踏みとどまってる。


 昨日、俺だから闘えたなんて考えたのは思い上がりだったかもしれない。


 このまま皆が強くなって、俺なんて普通の人みたいになったらいいのに。


 いや、それはそれでモヤっとするな。一番じゃないと嫌とか、そんな欲求あったっけ、俺。


 まあいいや、とりあえず査定してもらおう。


 あ、発券機がある!


「いまは誰も待ってないから大丈夫ですよ。」


 発券機から整理券を取ろうとしたところで、受付に座った興梠さんが教えてくれた。


 経験がないから、少し整理券取ってみたかった。


 後ろ髪を引かれつつ興梠さんの前に座る。


「もしかして整理券取りたかったですか?いいですよ。番号で呼びましょうか?」


「いや、流石にそれは恥ずかしいです。」


 なんでわかったんだ!?


「ふふ、冗談です。でも来てくれて助かりました。実はこちらから連絡しようとしてたんですよ。」


「なにかあったんですか?」


「少しダンジョンのことでお願いしたいことがあるんです。後で少しお時間いただけますか?」


 声を潜める興梠さん。なにか話しにくいことなんだろうか。


「わかりました。俺も相談したいことがあったので丁度よかったです。」


「秋月さんが相談したいって、なんだかすごそうですね。じゃあ、こちらを先に済ませちゃいましょう。今日も査定ですよね?」


「おねがいします。」


 バッグからフェルト製の袋を取り出し、トレイに魔石を並べていく。


 それにしても、まだ2度目なのに俺のイメージってどうなってるんだろう。


 えっと、魔石14個に回復薬3本。


 顔を上げると、ポカンとした顔で興梠さんが固まっていた。


「どうしたんですか?」


「こ…。」


「コ?」


 口をパクパクさせて、すぅ~、はぁ~、と深呼吸。

 大きな目を鋭くして俺を睨みつける。


「秋月さん。」


「えあ、はい。」


「昨日、あれほど無茶しちゃダメですよって言いましたよね?」


「え、あ、はい。」


 言われたっけ?なんか有耶無耶になってたような。


「この魔石、下手したら中級下位ですよ? なんで探索2日目でこんなのと戦ってるんですか!」


 だんだんと語気が荒くなり、こちらに注目が集まる。


 中級下位とか聞こえちゃったかな。まぁ、なにもしなくても目立つからいいんだけど。


「えっと、すいません、興梠さん。実は相談ってそのことで…。」


「え?」


 相談の言葉に少し勢いが弱まる。


「実は、家のダンジョンが防衛状態になったみたいなんです。」


 だんだんと赤くなる興梠さんの顔。


 何かを堪えるようにプルプルと震えだして…。


「やっぱり無茶してるじゃないですかあ!」


 めっちゃ怒られた。




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