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秋月宗助

 2019年12月2日。



 昼休みの廊下を職員室へと歩く。


 俺が通るたびに向けられる無遠慮な視線。


 こんな体格で目立つから仕方ないとは思う。


 別に悪意があるわけでもないこともわかってる。


 それでも気持ちのいいものじゃない。


 ただ、以前に比べると嫌な目で俺を見る人が増えた気はする。受験勉強に苦労してなさそうに見えるんだろうな。


 俺だって、別に何もしなくて成績がいい訳じゃないのに。


「はぁ……」


 センター試験を目前に控えたせいか、雰囲気がピリピリしてるのは仕方がないとは思う。


 単なる伝説だったはずのムー大陸とアトランティス大陸が現れたといっても受験が無くなるわけでもない。


 あの時は本当に大騒ぎになったけど終わってしまえばそれまで。


 魔法のお陰でカンニング対策が大変になったくらいで、変わりなくセンター試験はやってくる。


 ああ、いや、言葉の壁がなくなったせいで試験項目から語学が消えたのは人によっては大問題か。


 まあ、どちらにしろ俺にはもう関係ない。関係なくなる。


 突き当りの扉の前に立つ。目の前のプレートには職員室の文字。


 上手く言えるかな。緊張する。


「失礼します」


 扉を開け、できるだけ控えめに声を出す。俺には低すぎる出入口を頭を屈めてくぐると、一斉に全員の視線が集まった。


 教師ですらこれだ。本当に、嫌になる。


 そんな気持ちを顔には出さず、自分の席に座る担任へと真っ直ぐに進む。


「先生、相談があります」


「お、おお、どうした、秋月」


 なんで逃げ腰なんだよ。俺が今まで一度だって問題起こしたことあるか?


「俺、進学やめます。昨日、両親の許可も取りました」


「なっ!?」


 周りがざわつく。


 まあそうだろう。合格実績目的で必要もない滑り止めまで受験させようとしたくらいなんだから。


「どうしたんだ、秋月。お前だったらどこの大学だって……、それにムーだのダンジョンだの、これから大変なんだぞ。大学くらい行っとかないでどうするんだ!」


 大変だから、大学なんて行ってる場合じゃないんですよ。


「先生は昨日のニュース見ましたか?」


「ニュース? ニュースってお前……」


 そう呟いて、何かに気づいたように目を見開く。


「秋月、お前まさか……。何考えてんだ! 死ぬかもしれないんだぞ!」


「知ってますよ。そんなこと」


 3年間、俺を腫れ物扱いしてきた貴方達に心配される謂れはない。


 それに死ぬかもしれないからどうした。今のまま死んだように生きるのと何が違う。


 少なくともあそこなら、ダンジョンなら、俺はきっと全力を出すことができる。全力で生きることができる。


 そう、俺は……。


「俺は、迷宮探索者になります」




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