忘却。
『唯さー、平塚の店って駅近いん?』
「近いよ〜、駅降りて5分くらい。寮入るの?」
『寮はいいやー、もしかしたらお願いするかもだけど』
「どっちだよ!はははっ」
ここまでで俺が得ている情報は…
マナトと俺が移籍決定。
あと3人くらい引っ張って、唯と俺がスカウト。
寮に入るなら寮費は給料から2万円引かれる。ホテル、部屋を借りる等はもちろん自分で。
3月中旬のプレオープンまでにキャストを15人まで増やしたいとのこと。
ちなみに業界でいうところの小箱ってやつだ。席はボックス席が7、カウンターもあり、唯の知り合いがバーテンをやるらしい。
唯は付け回しや、経営をやりつつ自分のお客様が来た時のみ接客するみたい。
このくらいか。
俺は4月の本オープンまでホテル暮らしすることを選択した。
荷物もないし。スーツもないし。
ピョー!!
幹部補佐がスーツなし!!
マズイやろさすがに…
この時、ホスト業界で流行っていたのは、不良キャラならティノラス。
打て打て系(枕ホスト※等)ならトルネードマート。
※枕…お客様とベッドイン、この頃のイケイケ野郎は寝れば落ちる、お金もおとす、と思っていた。俺も。
もちろん俺は、なんでやろ。
ティノラス1択です。
なんでやねんそっちかい!!
どうかしてるぜ。
で、どうせ行くとこもないやん?
だからその足で新宿のマルイ◯行ってスーツ買って平塚コースやん?
まず新宿へ。
憧れていたマフィア映画の、幹部が着ていたマオカラー※というスーツを見る!見る!!見まくる!!
※襟が立った、前の空いていないスーツ。
初見はマジかこいつ!的な素敵な印象を与える可能性大。
全部10万超えは当たり前なティノラスパイセン!!
『すいませーん』
店員さん襲来。
「はい、あ、マオカラーですか?マオカラーですとこちらにもございます。お客様マオカラーお似合いになると思いますよ。マオカラーは…」
マオカラーマオカラー言うなや!!
恥ずかしくなってくるわ!やめよかな!
『はぁ、、、あの白いマオカラーってありますか?』
「ございますよー、白は着る人を選びますからねー」
どうゆう意味やねん。
「こちらでございます〜」
サザエ◯さんが脳内をノックする。
…
『ドゥッ』
(どうして)
24まん8せんえーーーーン!!
めっちゃかっこいいけど!
ティノラスには珍しい白で細身のマオカラー!これならトルネードマートにも勝てる!!
オラオラとイケイケの混合スーツ!
24まん8せんえーーーーン!!
しかしこちとらグレートの2月度ナンバー10ホスト。そしてGグループ幹部候補生。
『アハァ、試着していいっすか?』
「こちらでございます〜」
サザエ◯さんが脳内に侵入する。
…
かっけェェェエエ!!
俺、かっけェェェエエ!!
金髪に白のマオカラー…
完璧だ。
『ください、着ていきます』
「え?あ、ありがとうございます」
こうして着ていたジャージをマルイ◯の紙袋に収納し、夕陽が眩しい新宿の街を歩く。
見てる見てる。
かっこええやろー!!
散々遊んで残ったお金33万円で買ったマオカラーくん。
残金7万ちょいやけどええねん。
かっこええやろー!!
(この時はまだ初期ホスト時代に、マオカラーの人と呼ばれることになるなどと知るよしもなかった)
そのまま夕陽をバックに駅構内へ。
湘南新宿ラインに乗り込み、いざ湘南へ!!
ガタンゴトン…
平塚、到着ー!!
ガラわるーーー!!
何この街ー!!
しかし俺はマオカラー。
堂々と歩く。からまれない。
ありがとうマオカラー!!
唯と19時に待ち合わせしているのだが18時についてしまった俺が考えること。
何を隠そう地元時代、先輩や仲間に散々ナンパに連れていかれた挙句、声かけ特攻隊長という重要ポストを任命されていた男。
ヤンキーも多いけど元気そうでかわいい子もおるやーん!!
せぶんすたーを1本とりだす。
…
ポイッとな。
止まった、もらった(改札出口)
『すいませぇーん!すいま、せーーーん!!』(大声』
「?」
街は今日も輝いている。