立直。
暑い…冬やのに…
暖房のきいた車内でお酒飲んだ後、マフラーしてジャージで寝たらそら暑い。
運転者さんにはどう映っただろう。
傷害事件を起こしたアホな弟と、身元を引き取りに来た姉?
いや、俺が寝てる間に行き先変更を告げたマミ、起きない俺。
きっと普通に、ホストとお客様。
そう映ってた。と思いたい。
「着いたで、終〜?」
『うーん?うん。』
財布を出す。
「あー、良いよ、払ったから」
『あ、ほんま、ありがとう』
「出世払いな、ほら降りて降りて」
『どこ〜?』
バタンッ
東京ドームやん。
なんで東京ドーム?
初めて来たわ。
デカ!!
「私がここで踊るとき、終もバンドで一緒におるといいな〜、友達同士でステージ上がれたら最高やな〜」
『最高やな〜、バックダンサーな』
「ちゃうで、バックバンドな」
『ほなバックダンサーとバックバンドな』
「誰がメインやねん、どんだけ暗い2人やねん」
東京ドームを見上げながら高架下で沈黙。
…
「終さ、MSって知ってる?」
ただのフリだと思った。
『知らん、ロウソク?』
「SMな、おもろいおもろい」
『なんやねん』
「私な、1回大阪帰らなあかんねん」
『いつ?なんで?ガンダム乗るん?』
「モビルスーツな。」
『で、なに?』
「まぁ、ママが帰ってきなさいって。いろいろあんねん、で、東京ドーム見たくなった」
『めちゃくちゃやな』
…
「なー。」
『なんかあったん?いつから大阪?』
「来月あたまやな」
『いつ戻るん?』
「わからんねん」
『ん?部屋は?』
「わからんねん、たぶん部屋は失くす」
『しばらく大阪ってこと?』
「わからんねん」
俺もよくわからん、けど。
なんかあったって言うか。
なんとなく何かを悟ったって言うか。
いつも聞いてたマミの声が、俺の勝手な解釈やけど、おもちゃを取り上げられた子供みたいに聴こえた。
『わかったよ〜、ほな1ヶ月めっちゃ遊ぼう、終わり』
「うん、ありがとう、めっちゃ遊ぼう」
これしか言葉が出ない。
ホストドリームはほんまに夢やったんかな。
今の俺はたぶん1番どころかナンバー入りすら危いな。
『電車で帰ろ』
「うん」
…
それから1ヶ月間、俺はホストの仕事を休んでずっとマミと遊んでた。
大学の学食に潜り込んで食べたり。
スタジオ借りて一緒に踊ったり。
ドラムやりたいって言うから教えたり。
社長には、マミが病気って伝えたらすぐにオッケー出してくれた。
当時はこういうのもザラやった。
何故かというと、俺らはお金やから。
社長からしたら俺もマミも大きな収入。
歩く200万、飛んだら制裁、単純な世界。
俺もマミも、やりたいこと全部やって1ヶ月なんてほんまにあっという間に過ぎてった。
MSは勝手に調べた。
この時の俺の情報収集が正しくないことを祈ったけど結果は残酷で。
正解してしまった。間違えるべき問題を。
3月のあたま。
俺とマミは東京駅にいた。
約1ヶ月半過ごした東京の普通の部屋はすっからかん。
今だにadidas◯のジャージ。
俺の誕生日、今年はホストで初のバースデーは出来なかった。
でも全然良い。
実は2月中旬頃、唯から電話があった。
4月にオープン予定の湘南、平塚の系列ホストクラブの代表に唯が就任するとのことやった。
理由の1つとしては、唯の地元やったらしい。
で、その店に俺も幹部補佐としてこないかという内容。
プレオープンが3月10日から。
歌舞伎町は金子いるし、正直めんどかったし…まだ子供やった俺は二つ返事でオッケーした。
新しい環境が欲しい。
いや、ほんまは寂しかっただけやなー、たぶん。
寮もあるらしい。
この時はすでにそんなんは関係なくて、部屋借りたろ18やし、って思ってた。
寮、3LDKに10人雑魚寝やし。ないわ。
駅のホーム、新幹線にマミが乗りこむ。
「またな〜終。ありがとうな」
『おう、またな〜』
「電話してな〜あはははっ」
『しつこいくらいするわ』
嘘ついた。
MSに関しては、触れんやった。
この選択が正しいと思ったから。
「待ってるわ〜、ほなな」
『うん、東京ドームまた行こうな』
「バックバンドな」
『おう、バックバンドな』
「あはははっ、否定しないんや!
…ほなまた」
『うん、身体大事にな』
「じゃあな、ホスト」
…
こんな感じか。
一瞬の出来事やった気がするな。
今までの全部が。
頑張らなあかんな。
マミも頑張るやろし。
雑誌に載ったら教えたろ。
びっくりするやろなー。
いきなり大阪行ったろかな。
びっくりするやろなー。
なんやろなー、この感じ。
伝えたら、びっくりするやろな。
びっくりするやろな…
わけわからんわ。
俺は正直新幹線が見えなくなる前に泣いてたで。
あんま覚えてないけど。
いつから泣いてたんかな。
見えてなかったならそれで良いけど。
たすかるけど。あはは。
ジリリリリリン!
あ、唯からの電話忘れてた。
ポチッ
『もしもしごめん、出れんやった』
唯「いいよ〜、マミちゃん大丈夫だった?」
『うん、全然大丈夫ちゃうな』
街は今日も輝いている。