瞬き。
新宿、東口から少し歩けば、そう。
泣く子も黙る、歌舞伎町!!
地元も、西成も、遊び場としてはガラも治安も悪かったけど。
歌舞伎町ほんまにエグいわ。
もう夜やで?
子供はもうとっくに寝てる。
いやぁ、眠らない街すごいわ!!
この時の衝撃は一生忘れられないなぁ。
1番好きな街聞かれたら即答でココ。
ほんで、歌舞伎町にわりと大きな病院があるんですね。
その病院の横でせぶんすたーに火をつけて、買ったばっかの携帯電話のリダイヤルからマミを探す。
あったあった、発信、と。
この時の俺の格好がadidas◯の白ジャージ上下に黄色いスニーカー。
頭は中2からずっとマイカラーの金色!
ガラ悪いですねー。
ただ、夜のショーウィンドウに映った自分を見て思ったのは、
俺、歌舞伎町に溶け込んでるやん!!
だった。ホント、溶け込んでたの。
憧れでもあった歌舞伎町に。
電話に出ない。
また、たばこに火をつける。
…ジリリリリリリリン
設定してた黒電話の音が鳴る。
着信画面には、マミ。
『はい、新宿警察です』
「あ〜、間違えましたすいません」
『あー!待って待って嘘!今日泊めて。』
「は?今日とか…友達おんねんけど?」
『何友達?終電とかで行くから駅着いたらまた電話するわ〜あはは』
「はー?ほんまに言ってるん?」
『うん、今新宿やから後でなヨロシク〜』
ガチャ
うん、なんとかなった。
めちゃくちゃやな、自分。
でも、こんな生き方っていいな、とか思っちゃった。
マミは八王子に住む大学生で19歳。
ダンスをやってて、身長は小さいけど気が強い。たまに弱い。読んでてわかるように、押しにはめっぽう弱い。
大阪出身で、ゆくゆくは地元に帰ってダンスしながらのんびり暮らしたい。
そんな事を言っていた気がする。
さて、終電まであと2時間くらいか。
歌舞伎町探索でもするか。
今はなくなった、コマ劇前。
ゴジラがおるとこな、今。
「ハァイお兄さん、元気ー?」
ん、風俗とかキャバクラのキャッチか?
俺に声かけてもガード下のホームレスに声かけたのと同じ結果やぞ。
自慢じゃないが金もない。
『なんすかー?』
ここで舐められてはいけない。
さっきおじさんのを舐めてきたくせに。
「元気だねー、気合い入ってんねー!俺、唯って言うんだけど今スカウトしてんのねー、ホストホスト!」
なんなんこいつ、馴れ馴れしいな。
ゆい、って。なんちゅう女々しい名前つけとんねん。
でも、ホストか。
こいつの顔面でホスト出来るなら俺もイケるやろ。
『マジっすか、寮あるんすか?』
「あるよー、まだプレオープンもしてなくてスタッフ集めるために俺がスカウト出てんだよねー。興味ある?」
なるほど、下っ端か。
『うん、ある。稼げるの?』
「それはキミ次第」(真顔)
?
錯覚?
なんか今一瞬すげぇビリビリした。
なにこいつ、気色わる。
兎にも角にもホストやろうと思った時に声かけられたのはアレやろ。
幸運。運も実力のうちや、行ったろ。
ガチャガチャ
キィーーーィィィイイィィ
ドアを開けるとあらびっくり!!
シャンデリアでかぁぁぁぁああ!
わけわからん絵すごぉぉぉおお!
トイレぴっかぴかぁ!!
グレート!!
『ここにする、ここでやる!!』
「いやまだ面接してないから」
『今は唯しかおらんの?他の人たちは?』
「まだ営業時間まで3時間あるから、ははは」
午前0時を過ぎてからの営業!!
かっけぇぇぇえええ!!
眠らない街の住人やん俺!!
無事面接も終わり、早速準備や!
お酒あんま飲めないことは伝えた、喋りは大好きなのも伝えた、スーツないのも言った、すぐ働けることも言った。
年齢は…時効だから言うけど嘘ついて入った(当時はザラにおった、ほんまに)
「スーツは裏にレンタルあるから好きなの着ていいよ、掃除手伝って」
脳裏をよぎる、ホットパンツ。
頭に焼きつく、シースルー。
どれどれ…
おー!!
ちゃんとスーツやん!!
ちょっとブカブカやけどスーツ!!
「フンフンフーン♩」
「終です、指名して」
「かわいいねー、好きだ」
こんな事を1人で喋ってた。
ガチャ
「着替えた?他の従業員も来たからトイレ掃除から教わってねー」
は?
無理無理。
なんやねんトイレとか。
無理無理無理無理。
『え、ホストって掃除するの?唯はしないの?だったら俺もしなくていいじゃん』
「じゃあ俺がしたらするの?」
『しないよ、嫌なもんは嫌だもん』
「そうやって生きてきた?なら1回帰りな。」
帰りなって言われてもやー、帰るとこないから来たんやけど。
帰るとこ、な…
あ!!
マミのこと忘れてた!!
『1回帰るわ』
飛んだ※。
※いきなり辞める事。
バックレに似た言葉。
ちなみに基本的にホスト界ではご法度で、見つかったらボコボコ。
スーツからadidas◯に着替え、駅へ直行、八王子に向かう電車に乗る。
…
京王線に揺られ、40分?50分くらいか。
八王子にとうちゃーく!!
完全に浮かれてて忘れてたけど。
無事、到着。
マミに電話だ。
プルルルル…
ガチャ
「八王子市役所です」
『こんな夜中にすみません、住所変更したいんですけど。』
「誠に申し訳ございません。本日の営業時間は終了して…
『待って待って待って、着いた』
「ほんまに来たし」
マミから聞いた住所に大奮発のタクシーにて向かう。
駅から遠いなおい。
大学は近いな〜。
友達って男かなー、女かなー。
着いた。
「ありがとうございます〜、1800円です〜」
運転手さん、いい人。
?
!?
パジャマのマミたんがおる。
手には1万円。
運転手さんに払う。
ブロロロロ…
…
『えー、なに?』
「なにってあんた、お金ないやろ?」
『あと1万ちょい』
「私にちょうだい」
『どないやねん、家どこー?』
「あそこ、明かりついてる端っこんとこ」
いたって普通のアパートの2階。
でも、東京に来てはじめての普通の家。
『友達はー?』
「帰ったよー」
『マジ?なんかごめんなー』
「思ってないやろ」
『うん、信じてた』
「アホや、あははは」
時間はもう0時を過ぎてた。
変にテンション上がって、その日はずーっとお互いのことを話して、笑って、何にもエッチなことなんてなく、俺は用意された隣の部屋の布団に寝た。
時間はもう、楽しすぎて忘れてた。
今はなんでか、はっきり全部覚えてる。
それから1週間くらいして、特に付き合ってるわけでもないのに合鍵を作りに街に出た。
1週間の間にマミのダンサーの友達とか音楽マニアの友達とかが遊びに来てて。
みんなでお酒飲みながら騒いでた。
おかげで、ロックダンスとか、ブレイキンとか、ポップダンスの筋肉の使い方とか覚えてめっちゃ楽しかった。
合鍵も作り、東京の友達も出来て1ヶ月くらいかなー。
「ホストは?」
あ、忘れてた。
『なぁなぁ、マミさー、ホスト行ったことあるなら連れてってよ』
「良いよ〜、どこ行く?」
唯…唯!!
この時、スーパーマリオのスター状態なので怖いものなし。
ていうか知らなかった、ご法度とか。
『グレート行きたい』
「どこそれ?」
『俺がわかる、今日行こう、男安いやろ』
「店によるやろ、まいいや行こ。ブサばっかやったらすぐ帰るで」
こんな流れで、まさかの飛んだ店へと向かった俺とマミ。
街は今日も輝いている。