水面下。
水面下。
ヒロカ「おかえりー」
『ただいまー、ちゃう!!ヒロチン準備できたー?』
ヒロカ「うん、いこいこ」
『飛ばすで〜!!』
春が近いとは言え、まだまだ夜は寒い。
店から借りたコートをなびかせ寒川→平塚間を走り抜ける!!
途中、明らかに異音を奏でている数台のバイクを前方に確認!!
『やば、ゾッキー※やん!!』
※暴走族の方々。
ヒロカ「かっこいいー!!」
族「何煽ってんだぉぉお?」
ほら、やっぱり絡まれた。
原付が400ccの単車を煽りませんよ…
ヒロカ「終チン、1番前行ってー!!」
『なんでやねん!』
ヒロカ「いいからいいからいいから!」
ビィーーーンッ
ヒロカ「やっぱオッチョだ!オッチョー!!」
さすがヒロチン、もしやと思っていたが知り合いってやつや!!
オッチョ「ヒロカじゃん、何そのキンパ?」
オッチョは高校中退の18歳、平塚ではわりと有名なチームの親衛隊という部類のゾッキー。
そういえば後ろのいかつい方が持っている旗に、◯◯親衛隊と書かれている。
親衛隊って、何すんの?
ヒロカ「あははは!彼氏彼氏!」
オッチョ「まじっすか!!」
『アハ、アハ』
オッチョ「どこいくんすか?」
『ひらつ…』
ヒロカ「平塚ー!!」
オッチョ「一緒に走るべ!」
ヒロカ「やったー!走るべ走るべ!」
『走るべ…』
異常なほどの蛇行!!
本職の蛇さんもびっくりの蛇行運転!!
これ、普通に走った方が早く着くんちゃう?
ところがどっこい。
信号止まらねェェェエエ!!
信号、意味ねェェェエエ!!
蛇行のロスを信号でカバー!!
いや、蛇行せんかったらもっと早いやろ!!
親衛隊の一員となり、一般車両の方々に白い目で見られながら…
平塚到着!!
飛ばすでー!!とか言ったわりには案外時間がかかったけど到着は到着や!!
オッチョ「またね!バイバイ!」
何が悪で何が正義なのか…
わからなくなるな、オッチョ見てると。
ええやつやー!!
ヒロカ、俺「またねー!!」
『おし、ヒロチンいこいこ』
ヒロカ「お花すごいねー!!」
ギィィィ
『お客様ご来店でーす!!』
従業員「いらっしゃいませー!!」
X「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」(bass)
Xはヘルプには着かない。
Xはメジャーを目指すビジュアル系のバンドマンで髪の毛が赤と黒に分かれていて腰まである。
Xは俺に命令され、自宅から持ってきたLUNA SEAのJモデルのベースを常にぶら下げながら決してぶつけないようにお客様のエスコートをするのだ。
Xには、日給5000とは別に1エスコートにつき200円のバックがつく。
ただしカウントするのはカトリーヌWクリスティーナなので、見てない時にエスコートしてもカウントされない。
Xはそれを快く承諾し、好きで働いている。
Xがテーブルに座る時、それは何かしらの形で指名が入った時以外許されない。
ちなみに、これで8回目らしい。
実際にはもっとエスコートしているのだろう。
Xはそれでもキャラを崩さない。
Xは俺に、Dirの京くんの歌声のような声で接客しろと命令されているからだ。
LUNA SEAやらXやらDirやらで頭が混乱しないことだけを祈る。
カウンターには山本 剛史。
彼は0時の開店からずっとカウンターで青いカクテルを飲んでいる。
カクテルが思いのほか強いのか、序盤の寡黙なキャラは完全に崩壊し饒舌へと変貌を遂げ、バーテンの遊くんに絡みながら時々カクテルを頼んでいる。
何しにきたのだろう。
カクテルに指名された男、山本剛史。
そんな彼らを応援しながら、ヒロチンと流川ヘルプの待つ卓につく。
ヒロカ「終チン、何飲みたいー?」
バッ
ヒロチンが財布を開き見せてくる。
!?
『え?なんで?』
どう見ても、どう少なく見ても20万。
なんで?なんで?なんで?
さっきから座りたいのかなんなのか、Xがこっちを凝視しているがそれどころちゃう。
『ヒロチンなんでこんなあるん?』
ヒロカ「ヒロチン頑張って貯めといた〜、ホスト行ってる子がイベント前にお金貯めてたし」
いや、けなげ!!
だが、どうやって…
ふとマミの言葉を思い出す。
(そんなんええねん)
…野暮か。
俺はホストや。
フォローは店の外で。
店内では、嘘でも演じきらなあかん。
ほんまは薄々勘付いてた。
で、調子良いのもわかってるし。
たぶん俺はホストっていう仕事のせいにして全部を正当化してるのもわかってる。
そして少しの間しか一緒におらんけど、ヒロチンの性格はわかってるつもり。
余裕ある。
人に喜んでもらいたい一心。
ほんまはしんどい。
人に喜んでもらいたい一心。
わかってるつもり。
なら、その一心を。
どうせなら報われる一心にしたろ。
俺はまぎれもなく、今この瞬間は誰がなんと言おうとホストや。
『記念ドンペリ、いっとく?』
流川「ひゅっ」
ヒロカ「あはは、いっとくー!」
…
遊くん「マイクどうするー?」
チラッ
流川「俺やりましょうかぁ!?」
よし、いるな。さすがイケメン。
根性ある。
『瞬で』
即答。
こん時、なんとなくやけど、全部計算出来た。
このドンペリから、店内の流れはどうなるか。
どう、動けばいいのか。
どう、喋ればいいのか。
ドンドンドンドン
瞬「なんとなんとぉぉお!!C卓C卓、幹部補佐、終くんのテーブルより!!待ってました!ドーンペリ!ドーンペリ1発、い、た、だ、き、ま、し、たぁぁぁあ!!従業員、しゅーごー!!」
従業員「ありがとうございまーす!!」
瞬、従業員「ワーン、ツー、ワンツースリーフォー!!今夜の!今夜の!グロウ!グロウ!待ってました!待ってました!終くん!終くん!ヒロカちゃん!ヒロカちゃん!ドンペリ!ドンペリ!ありがと!ありがと!それでは!それでは!ヒロカちゃん!ヒロカちゃん!ひと言!ひと言!3.2.1.キュ!」
ヒロカ「記念ドンペリです、みんなおめでとうー!」
従業員「ワッショォォォイ!!」
瞬、従業員「さすがだ!さすがだ!それでは!それでは!となりの!となりの!男前!男前!終くん!終くん!ひと言!ひと言!3.2.1.キュ!」
『無事にプレオープン迎えてみんなと一緒にドンペリ飲めることを…
瞬「長いよ!終くん!従業員!待ってる!従業員一同!準備は!オッケーですかぁぁぁあ?」
従業員「よっしゃぁぁああああ!!」
瞬、従業員「ありがと!ありがと!ドンペリ!ドンペリ!オープン!オープン!3.2.1.」
ポンッ
瞬、ナイスプレイ、ナイス「長いよ」
君が良い入りをしなければ、店内のこの笑顔はなかったで。
従業員「いっただっきまーす!!」
全員グラスの中身を飲み干す。
山本剛史がかなり辛そうだ。
飲むなよ!カクテル!!
瞬「それでは!従業員一同心を込めて!ごちそうさまでしたッ!!」
従業員「ワッショォォォイ!!」
『瞬ありがと!』
瞬「いえいえ、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
ヒロカ、俺「どーぞー」
瞬「俺頑張りますわ、終くん抜きます」
『逃げます』
ニコッ
ニコッ
ヒロカ「ホストー!!」
うん、俺たち、ホスト。
カトリーヌ「終くん、挨拶で」
挨拶の順番がやっと回ってきた!
俺、好きなんです。
いろんな卓のいろんなホストとかお客様と話すんが。
まず、自分のもう1つの指名卓ユッコちゃんテーブルに戻る。
ヘルプには赤い車のとメロンと勉。
メロンと勉は赤い車のを慕っているようだ。
ユッコ「おかえりー!ヤバい、この3人めちゃウケる!!」
『ツボった?あはははっ!ちょっとだけ挨拶回りしてくるよ〜』
ユッコ「忙しいねー、いってらっしゃい!あははっ」
1つの卓につき約30秒くらいやな。
来てくれたお礼と、少しの会話。
唯と琴ちゃん。
金子とあすかちゃん。
喜一部長とコウちゃん。
そして、まだ着けていないキャッチ初回卓。
2人ともキャバ嬢らしい。
瞬とXはいつ着くのか、と聞かれた。
やっぱイケメンは得やな!!
Xは、たぶん違う意味かもしれない。
みんな笑顔で答えてくれる。
一応Xにも声をかける。
山本剛史は…涙を流して笑っていたのでオンリーにしといた。
ちょい時間オーバーしたけど、最後マナトとエリちゃん卓。
『いらっしゃいませエリちゃん、ほんまにありがとうなー。マナトかっこええやん!』
マナト「終ー、ドンペリ入れたやつに言われても!!あ、今のはアゴが勝手に」
エリ「あGO!!あはは!」
楽しそうやな。
エリ「ねえ終くん、」
『ん?』
耳打ち、確実に1回で聞こえた。
エリ「ドンペリいくら?」
ナンバーワン、幹部補佐、有名ホスト、内勤、バーテン、キャスト、お客様、エスコート、カウンター、そして、真奈斗。
それぞれの夜が、
その空間に溶け込むように形を変えて。
始まった気がした。
街は今日も輝いている。




