断罪者、冒険に出る
冷たい風が吹き抜け冷えた体をさらに冷やしていった。あたりは静寂が包み込み俺の仲間以外の気配は一切ない。ここ、“クロノスの森”はまるでその名の通り時間が止まったかのように物音がない。
「寒いな… なぁボス。本当にここにターゲットは来るのかい?」
「見張りを続けろ。集めた情報だと今夜には必ずここを通るはずだ」
「ボスのミスじゃないといんですがねぇ」
「滅多なことを言うんじゃないよ。大体、シンが今まで間違った情報を持ってきたことあったかい?」
「わかってるってばエルヘスの姉御。ただ言っただけじゃないすか」
この2人は俺のレギオンの初期メンバーである。
黒髪で小さな耳とやや長い尾を持つ彼女がエルヘス=ロナンシア。黒猫族屈指の狙撃のプロフェッショナルである。視力は約4.5と高く、狙った相手は見つからう前に必ず仕留める暗殺者である。その戦い方よりつけられた2つ名は百里の狙撃手。
一方、もう一人の紫髪のやや小柄な男がフェルグス=クローニン。精霊族ノームの末裔でその体に不釣り合いな二振りのエストックを巧みに操る高速の双刺剣士である。もともとは傭兵をやっていたがスカウトを受け子のギルドに入ったメンバーである。得意の土魔法で敵を拘束し地形を変え、敵の急所を的確に貫く戦闘スタイルからついた2つ名は鮮血の黒薔薇となり、恐れられていた。
そんな2人とともに今仕事をしているのがこの物語の主人公、シン=オルレアン。
普段の生活からは想像もつかないような作戦指揮の高さと戦闘能力により部下からの信頼も厚く、依頼達成度に至っては失敗の二文字はない。
これより語られる物語は罪の名を冠する男が如何にしてギルド管理史上最高ランクのレギオンのマスターになる物語。そして、彼の壮絶なる人生の物語である。
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キャメロット王国王都アバリシア
シンは一人ギルドの依頼掲示板の前で突っ立ていた。傍から見ればどの依頼を受けようか悩んでいるように見えるが、一部の人間は彼が立っている本当の目的を知っていた。彼はかれこれ約20分ほど立ち尽くしている。いったい何をしているかというと、
(一昨日何食べったっけな… 駄目だ全然思い出せない。酒場まで行ったのは覚えているんだが何を頼んだかわからん…)
そう、彼は一定量のアルコールが体内に入るとその時の記憶がすっぽり抜けてしまうのだ。彼とともに依頼を受けたことがある人にしかわからないのだ。
なぜこんなに悩んでいるかというと彼の財布にはほとんど中身が残っていなかったのだ。故に今日の依頼によって彼の生死が決まるといっても過言ではない。
(マズい… どうにかしないと今晩は草を食う羽目になる。何かいい依頼はないものか)
そんなことで顔をしかめ悩んでいると1人のギルド職員が歩み寄り、声をかけてきた。
「いつものアレですか? 高額報酬の依頼でしたら、今日はドラゴンの狩猟依頼が来てましたよ。どうします?受けますか?」
「ぜひ! 誰かドラゴン相手に前立てる奴いないか?素材はそちら優先で構わない」
するとギルド内にいた人たちがざわつき金属鎧に身を包んだ男たちが我こそはと参加を志願した。ドラゴンの素材は高値で取引される。鱗や甲殻は鎧などの材料に使われ、爪や牙はナイフや装飾品に、肉や内臓は肉屋などでおいしく調理、翼膜は壁掛けなどのインテリアに使われる。要するに捨てるところがないのだ。
そんな金に目のくらんだむさ苦しい男たちの声の中からこんな中でもよく通る女性の声がした。
「その依頼に私も参加させていただけないかしら? 私も今懐が寂しくて手軽に稼ぎたいの。それに、飛んでいる竜を落とすには腕利きの狙撃手が必要でしょ? だから私が手を貸すわ」
「誰かと思ったら“百里の狙撃手”か。あんたが金欠なんて珍しいじゃないか。どこかでぼられたのか?」
「あまりふざけたこと言ってるとその頭吹き飛ばすわよ。新しい装備に変えたからそれで手持ちが今薄いのよ。だから参加させてもらえないかしら?」
そういいながらエルヘスはわざとらしく上目遣いで迫った。
しかし、
「上目遣いでうまく丸め込もうたってそうはいかない。が、腕のいい狙撃手は欲しいところだったからな。こちらからも頼むよ」
ドラゴンを狩るときに必要なクラスは最低で3種類といわれている。
まずは、ドラゴンはブレスを吐く。さらに物理攻撃に関してもトップランクと言われている。それらを受け止め、攻撃チャンスを作るために活躍するのが重騎士である。
このクラスは前衛防御職の中でもトップランクの防御力を有しているが、上位職ため人数が少ないのが難点である。なお、最上位職には重騎士と同じぐらいの防御力を持っていながらも前衛攻撃職の中でも上位職である重剣士と同じぐらいの筋力・攻撃力も持ち合わせている聖騎士という職もある。
次にドラゴンは地上ではいうほど素早いわけではない。しかし、愚鈍ではないためいかに素早く足の腱や、神経を断ち切るかによって戦況は大きく変わる。そのため、高い攻撃力を持つ前衛攻撃職か、素早い中衛攻撃職が必要となる。今回の狩りはシンが中衛攻撃職を務める。シンのクラスは中衛攻撃職の中でも最上位職である暗殺者のクラスである。
速度や攻撃力はトップクラスで、唯一の弱点といえば防御力が低く攻撃を受けると大変であるというところである。
最後に、ドラゴンは地龍などの一部を除いて空を舞う種類が多い。なので、空に舞うと地面からはなかなか攻撃が届かない。そこで活躍するのが後衛攻撃職・後衛魔法職である。
今回ではエルヘスが務める役回りだ。銃や弓などで翼を狙い撃ち落としたり、魔法で攻撃して撃ち落としたりといろいろな場面で活躍するクラスである。
しかし、魔法職に関しては広範囲かつ高威力のものが多いため森林や村などが近いとそれらを巻き込む恐れがあるため、基本的には森林内で戦うときにはアーチャーやスナイパーを誘う場合が多い。
環境に配慮するのも冒険者としての当然のマナーである。というか、もはや暗黙の了解といっても過言ではない。
「さて、前衛メンバーも集め終わったことだし、そんじゃあ出発しますか」
シンが後ろを振り返った瞬間、ギルド内の空気は急に冷たくなり皆一様に静まり返り息をのんだ。
「おまえら。気合い入れろよ」
シンの中で何かのスイッチが切り替わった瞬間だった。今まであったどこか漬け込みやすそうな雰囲気は一瞬にして消え去り、代わりに彼を覆うのは黒い何かだった。それはどこか狂気じみていたが狂戦士のようなものではなく、まるで今から狩りに行くドラゴンが親の仇だとでもいうようなものだった。
これが彼の2つ名漆黒の抹殺者の所以である。
ヘタクソな文章を最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
今回初の投稿でとても不安ですが、これからも頑張って書きますのでよければこれからも読んでいただけると嬉しいです。
皆様の感想や意見も参考にしていきますのでレビューのほうもよければ書き込みお願いします。