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ステラ・システム  作者: オオトリ
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4.政府懐刀【笹森】

これは瀬竜が家に帰ってきたのと同時刻、午後9時ごろのお話。




「はぁ〜…やってらんない…」

パソコンの前で事務処理に追われている少女がいた。



ディスプレイの光に照らされる顔は不健康そうながら、整った顔立ちをしており、ボサボサの髪や目の下にくっきりとみえるクマをどうにかして街中を歩けば男の1人や2人は勝手に寄って来るだろう。


部屋の中は暗く、カーテンは全て閉め切られており、光源は少女の目の前にあるパソコンだけ。


カタカタと無機質なキーボードを叩く音が響くだけで、それ以外の音が殆どない暗い部屋。


正常な人間なら動き回りたくて仕方が無くなるような空間だろう。


そんななか、少女はひたすらパソコンのディスプレイを睨み続ける。


時々、身体を伸ばしたり指の関節を鳴らしたりしては唸っている。



時間にして19時間、一歩も外に出る事なくパソコンに噛り付いていた少女は、一方的に送られてくる政府からの仕事の数に溜息をついていた。


まぁ、それも過去の話。

全ての仕事をやってのけた少女は、達成感に浸る事などせず、睡魔に身を委ねようとした。


しかし、その直後。


「ったく、何なのよ…仕事が終わってようやく寝られると思ったら、その直後に街中の廃病院からいきなり高次元生命体の反応がでるなんて…」



少女は自分以外、誰もいない部屋の中で暗闇に向かって愚痴る。



そうしてキーボードを叩いていると、


ピーーンポーーーン


インターホンが鳴った。

しかし、少女は動かない。


なぜなら、少女の家に来る人間は宅配便などを除けばかなり絞られているからだ。


そして、そろそろ時計の長針が10時を回るこの時間帯に来る人間は1人しかいない。


しばらくすると、

ガチャガチャっと鍵を開ける音がする。


ガタッ


「お〜い、因幡〜。勝手に入るぞ〜」

声だけでもチャラいと分かるような男が少女ーーーー因幡の返事を待たずに入ってきた。


靴を脱ぎ捨てるような音が聞こえ、ビニールが擦れる音と一緒にどすどすと


フローリングを踏む足音はだんだんと近づいてきて、


「よっ、相変わらず幸薄そうな顔してるな」


襖を開けて第一声、因幡の顔を見るなり呆れるたような笑う。


「…余計なお世話だよっ。こちとら未成年なのに仕事させられてしかも、サービス残業させられてるんだよ!?

こっちの身にもなって欲しいね…」


因幡は男に「春休みなのに…」と愚痴り始める。



「へっ、流石は日本政府お抱えの笹森家の次期当主、笹森因幡様だ。多忙なこって」


男が因幡に言う。




ーー笹森家ーー


笹森とは日本政府に代々支えてきた武家の一つで、俗に言う政府の懐刀の一つだ。


第一次異世界大戦の立役者でもあり、他の武家を率いて敵を倒し、戦線を維持し続けた家の一つ。


因幡はその次期当主だ。







「ふんっ、同情するなら手伝ってよ。

京造ならすぐ終わるでしょ!」


因幡が男ーー京造に指差しながらピシャリと言う。



因幡と京造は幼い頃からの付き合いで、いわゆる幼馴染だ。



「別に手伝っても良いが、貸し一つだぞ?」


京造がニヤリと笑いながら、手に下げていたビニール袋から缶コーヒーを因幡に渡す。


因幡は少し考える。

確かに、先に言った通り京造に手伝って貰えばこんな仕事ぱぱっと終わるだろう。



だがしかし、京造の言う「貸し一つ」の意味は重い。


具体的にいうと「何でも一つ言う事を聞く」のと同じくらいの強制力がある。


ぶっちゃけ悪魔に魂を売るのと大差ない。


1番酷かったのは

昔、そのことを軽くみて、目の前でその時流行っていた魔法少女の格好させられた時だ。

あの時は羞恥心で頭がどうにかなりそうだった。



そのことを踏まえて因幡はしばらく悩んだ末に…


「…わかった、手伝って」


缶コーヒーを手に取った。

後のことは不安だが、目の前の仕事の量を考えるとなりふり構っていられなかった。


「オーケー。ほんじゃあ、ぼちぼちやるか」


京造は因幡に缶コーヒーを渡すと手に下げていたビニール袋を部屋の隅に置き、背負っていたリュックからノートパソコンを取り出す。


何だかんだで始めから手伝う準備をしてくるあたりは京造らしい。


「ほら、まずはなにからやりゃー良いんだ?」


京造が何でも御座れといった感じで因幡に聞いてくる。

頼もしい男である。


「じゃあ、まずは……」


そうして、2人はパソコンに向かい始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「わり、ちょっと電話だわ」


となりに座っていた京造がスマホを持ちパソコンの前から離れる。



あれから2時間…、因幡はまだパソコンのディスプレイの前にいた。


なぜかと言うとーーー


「何で…やっと終わったのに…」


少し間を溜めて因幡は吐き出す。


「京造に魂売って、それでやっっと!捜査員の派遣とか異世界間の観測とか終わって眠れると思ってたら!?、さらにその直後にどっかの不届き者が政府のファイヤーオール潜り抜けて重要機密覗かれてるとか!?、バカじゃないの!?」


そう、これが理由だった。

廃病院の件は京造の助けもあり、割と早く終わった。

しかし、直後にまた別の仕事が舞い込んで来たのだ。


しかもそれはハッカーの特定という、かなり根のいる内容だった。


少女は慟哭する

下は何をやっているのか、と。



「ったく、しかもそのハッカーの特定とか何で私にやらせるのよぉ…」


いい加減寝たい、と。


そもそも、何故自分が事務処理などに駆り出されているのか、と因幡が気づく事は無いだろう。


そんな考えは20時間前に捨てた。


深夜テンションは遠に過ぎて最早、真っ白に燃え尽きる寸前の少女の海馬は正常に機能していない。


しかし、少女はそんな極限状態の中でも仕事をこなす。


「ん?、何よこいつ…セキュリティがガバガバじゃない…本当にこいつがハッキングしてきたの?…」


政府のサーバーをハッキングしたユーザーの特定を急ぐこと30分。


少女はその異常性に気づく。

まぁ、ただでさえハッキングした輩見つけるのが難しいなか、30分でユーザーを特定する彼女もまた異常なのだが。


「…何よこいつ。…何のアシストツールも無しにハッキングしてきたの?…」


そう、なんと行き着いたのはごく普通の一般家庭のデスクトップのパソコンだ。


発信源は確かにそこなのだが、しかしどうにも不気味さを拭えない。


何故ならアシストツールの類を扱った痕跡が一切ないのだ。

ツール無しでハッキングなんて出来るわけがない。


因幡はしばらく考えた結果ーーー


「……デコイね」


そう結論付けた。

というかそういう事にした。


まぁ、ハッカーがそう簡単に見つかる訳ないし妥当な判断だろう、と因幡は勝手に納得して



因幡は政府の司令部に

「特定不能」と、大雑把にオブラートに包んで「寝せろ」という意味合いのメールを打ち、送信すると助走をつけてベットに飛び込んだ。




「ぁあ…やっと…寝れる…」

因幡は意識を放り投げた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「わり、長引いた。よし続きを…」

用事が済んだのか、京造が戻ってきた。


しかし、因幡の返事がない。



「あり、寝ちまったのか」

部屋を覗いてみると、ベットの中で幸せそうに眠る因幡の姿があった。



京造は因幡の横をとおりぬけ、

電源の付いたままのパソコンのディスプレイを除く。


内容としては政府のサーバーに一般人が介入してきたというものだった。


「ははっ…これって…瀬竜だよなぁ…」


京造は見なかった事にするかのように苦笑いしながら、パソコンをシャットダウンした。




そして、踵を返してベットに近寄る。



「ったく、少しぐらい限度を覚える必要があるな…」



因幡の顔を見てそう言うと、京造は寝返りの時に蹴ったのか体の横に来ていた掛け布団を因幡に掛ける。


「まぁ、ゆっくり休みな」


京造は缶コーヒーを渡した時とは違う笑みを浮かべた後、自分のノートパソコンをリュックサックの中にしまい、部屋を出る。





「さて、明日は軽く祭りの準備だな」


しかし、部屋を出ると一変して京造の笑顔が反転する。



京造は瀬竜との通話の内容を思い出し、口角を上げる。



「春休み中の軽い準備運動だな。まぁ、今回は瀬竜がいるからヌルゲーだろうけど」


帰り道の闇の中、京造の顔はラスボスのそれに近かった。



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