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怪異探究行

ディープ・インフルエンス  シンクロニティと霊視

作者: 藤代京


 シンクロニティ。


 まったく関連のない場所で同じような出来事が同じような時間で起こることによって、これってなんか関係あるんじゃない、と勘違いしてしまう現象だ。


 では、俺が経験したシンクロニティの事例をば。


 何年か前、日曜で俺は昼間から酒を飲んでいた。

 いい感じに酔った俺はつまみでも作るかと、台所に立った。

 でもって、酔ってたもんでまな板を盛大に床に落とす。

 おお、危ない危ない、足の上に落ちてたら大変なことになってたぜ。

 そこで、いま俺は酔っていて料理をできる状態ではないと判断しないのが酔っぱらいで、大丈夫大丈夫気をつけるからと言ってる間に、今度は包丁を落とした。

 しかも、包丁はヘンケルの切れる奴!

 見事に足の甲に刺さりましたがな。

 上手く骨に当たってくれたから、傷は浅くすんだがそうでなかったら足を貫通してたなあれは。

 酔っ血行良くなってもんだから、浅い傷でも血が出るわ出るわ。

 スプラッタである。

 血は自分の血でも平気なもんだから、手当てする前に携帯でスプラッタな写真を取って、当時付き合いがあった女、そうだな仮にN女とでもしておくか、にメールで送るし。

 とりあえず消毒してるとN女から返信が。

 見ると、私も足に包丁落とした、と似たようなスプラッタ写真が添付されている。


 日曜の昼下がりに、アホが二人である。


 時系列を整理すると俺が包丁落として五分後くらいにN女が包丁落としたと。


 勝ったぜ!


 そう思ったね、俺は。


 シンクロニティはそれだけなのだが、N女には続きがある。


 N女は昼は普通に働いてるのだが、夜はデリヘルでバイトしていた。

 面倒な客が来ると出るリリーフエースのような役割だったらしい。

 くわえたXXXは一万本と豪語していたな。

 更には昔アダルトビデオにも出ていたと。

 是非、見たい、見せてくれと頼んでもそのうちとはぐらかされてしまったが。


 それだけはなくN女は見える人だった。


 ある時、N女が二回目の癌で入院してたのが退院したので、退院祝い持って遊びにいった。

 とりとめなく雑談していると、N女が俺の背後を見て、

「女の生き霊がついてる」

 そう言い出した。

 女に対しては素行が悪かった頃なので、女に恨まれる覚えなんか山ほどある。

 心当たりはありすぎるのだが、直近で揉めた女の特徴を出してみる。

「髪は短い?」

「そう」

「目は細くて、貧乳な感じ?」

「うん、そう」

 N女は俺の背後をじっと見つめている。

 俺の後ろにいるなにかを凝視している感じだった。

 

 その後、会話にどういう落ちがついたかは、まったく覚えていない。


 お祓いとかそういう話にならなかったのは確かだ。

 N女はそういうことを言い出さなかったし、俺も生き霊なら俺と貧乳女の関係性から生まれたものだからそれをパブリックなものに解体してしまえばそれで終わりだよな、と変な確信を持っていた。


 貧乳女と揉めたのは、冗談のつもりで面とむかって妖怪乳なしと呼んだら本気で怒られたのだったが、妖怪乳なしが生き霊になるほど嫌だったかと思いながら家に帰った。


 夏場であったが、夜遅くまでN女の家の庭に座り込んで話こんでいたせいで体はすっかり冷えていた。

 風呂でゆっくり温まっている時に、ふと気づいた。


 あれ? さっきの霊視で最初の生き霊以外、全部俺が情報ゲロってないかい?


 霊視のトリックの一つだねえ。

 なんでもいいから最初の一発目だけ当てれば、あとは驚いて相手が自分で情報を出してしまう。

 しかも、普通の雑談からシームレスに以降するせいで、警戒のしようがないんだわ。

 お互いの認識を雑談で一致させた上で、よいしょっと認識ずらされるんだもの。

 これは詐欺でも有効な手法なので、詐欺師を目指す人はぜひ真似して頂きたい。


 だからと言って、俺はそれを問い詰めるでもなくN女との関係は変わらなかった。

 エロを探求している時期だったので、オカルティックなことはどうでもよかったんである。

 SMの女王さまから引退するから道具一式譲るわ、という約束を反故にされかけた時のがよほど怒った。


 色ボケしてる相手に、オカルトは効かないんである。


 その後もN女からは20万払って、気功を習いに行かないかとお誘いが来たりした。

 もちろん丁寧に断ったが。


 N女からのオカルティックな被害はまったくなかった。


 しかし、いま思うとこれはシンクロニティで出たように影響力の矢印が

 俺→N女だったからであって、

 もしそれが、

 N女→俺であったら、

 霊視のからくりに気づくこともなく、今ごろとても澄んだ目で気功の練習に励んでいたかも知れない。


 N女が探求していたオカルトに俺はまったく興味がなく、俺が探求していたエロにはN女はデリヘルの仕事でやりつくしてしまってまったく興味がなく、噛み合っているようでまったく噛み合っていない関係だったから、お互いに被害を及ぼしようもなったのだろう。


 そんなN女も癌が再発し、お亡くなりになってしまった。


 N女が出演していたアダルドビデオはとうとう見せてもらえずじまいだった。



 それだけが、本当に心残りだ。



  


 

    

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