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第5曲

しつこい刑事だったわね。

静流は二人の刑事を返した後、一人椅子に座り毎月購入している雑誌を読み始めた。しかし、その雑誌はもう三回も読んでいて記事を見ると内容が頭の中に思い浮かばれた。

ヒマね。

静流はリモコンを持ち、テレビの電源を入れた。今の時間はどのチャンネルもワイドショーばかりだが、面白い話題は何一つない。次はハードディスクの電源を入れ、録画していた番組を観る。しかし、それも既に観ていた。

ふぅ……。

静流は心の中でため息をついた。

あの刑事、また来ないかしら?

静流は頭の中で仲西の顔を思い浮かべた。核心をついた質問に、ハラハラドキドキしている自分がいた。一つ墓穴を掘れば、あの刑事はそこを納得のいくまで追求する。それを誤魔化すために、さらにボロが出る。そうしないために、話す前に頭の中で自問する。『本当にこの返事で大丈夫なのだろうか?』と。それを何手も会話の先を読み、異常がない事を確認して会話を進めた。今まではこんな事した事はなく、全てが新鮮だった。

あいつは、あの時どう感じたかしら? 痛みは一瞬だったのかな? それとも、全身が火傷して燃えるような痛みを感じながら焼死したのかしら? これがあなたの罪。罪を犯した者は必ず罰を受けなければならない。

百樹……見ていた? これが私のあなたに送る鎮魂歌レクイエムよ。

––––ピンポーン。

再びチャイムが鳴り、静流は押した主を確認する。あの刑事だった。

「あら、あなたは先ほどの」

『はい、仲西多喜です。少しお話したい事がありまして』

何の事かしら? 百樹の部屋の床の事? 剣道の道着には埃がついていなかった事? 公園に落としたクッキーの事? 死亡推定時刻のアリバイの事?

他には––––と、静流は脳内でシミュレーションする。色々他にも浮かんだが、全て微々たるものだ。問題ないと確認し、静流は招いた。仲西は先ほどと同じ位置に座り、手を組み顔の前に持って行った。

「で? 話って?」

「実は被害者の部屋に仕掛けられていた爆弾に指紋が付着しており、鑑識が調べた結果神原直忠という男がヒットし、先ほど逮捕しました。神原に話を聞いたところ、これまた偶然彼も百樹君をイジメていた人間の一人だったのです」

なるほどね。それを話しに来た訳? ふふふ。全て完璧に答えてあげるわ。そもそもそれからは犯人が私に繋がる証拠は何も出て来ないはず。

「あら、偶然って恐ろしいわね」

「これであなたが恨んでいる人間を一気に葬れたわけだ」

「その言い草、まるで私が犯人みたいじゃない。何度も言ってるけど、疑いたいなら––––」

「証拠をもってこい。ですか? 確かに今までのは全て推測です。裏付けできるものは何もない」

「でしょ? だって私はやってないもの」

静流は仲西にニッコリと微笑んだ。

これで問題ないわね。私は間違えた解答はしていないはずよ。他には何かあるのかしら?

「最後です。百樹君の部屋には面、胴、垂れ、竹刀、防具袋が掛けられていました。しかし、剣道をする者にとっては一つ、そこになくてはならないものがあるのですよ。小手です」

きた!

静流は目を見開く。

「ふふふ。それはね、あの子、剣道を嫌いになって腹いせに小手を思いっきり踏みつけたりして壊したのよ」

「ほう。壊した?」

「そう。もういいかしら? 私そろそろパートに行かなければならないので」

「フム、まあ、いいでしょう。では、私はこれで。相棒と合流しなければならないので」

「相棒って、一緒にいた少し頭が悪そうなあの人?」

「頭が悪い……ですか。なかなか的を射ています。そうなんですよ。彼はよく注意が疎かになる。今日も現場に着くなり何で正月からって口を言い始める始末です。しかし、彼は人一倍正義感が強い。私たちは必ず、真実を明らかにしてみせますよ」

頭を下げ、仲西は去った。姿が完全に見えなくなると、ドアを閉め声を出して笑った。

あれが脅しのつもり?

それで私が折れると思ったの?

私が冷静さを失って何か墓穴を掘るとでも?


成果は得られず––––か。

帰り際、歩きながら仲西は頭の中で一人で会話を始めた。

彼女は何も話さない。そう簡単に証拠など見つける事は難しいだろう。

しかし、どんな人間でも完璧な人間はいない。

しっかりと捜査を続けたら、必ず光が照らされる。


長谷川は仲西に聞いた総合病院に着いた。受付嬢に手帳を見せ、神原という名前の患者の病室を聞いた。三階らしかった。エレベーターに乗り、三階のボタンを押す。病室には神原美代かんばらみよと書かれたネームプレートが貼られているのが見つかった。その周りには、刑事らしき姿の男たちが囲んでいた。刑事たちを避けながら長谷川は神原の病室に入る。

「失礼しま––––」

中に入ると、ベットに横たわっていて、鼻にチューブを付けている中年の女性とその横で椅子に座っている若い女性がいた。そして病室にはテレビが付いていて、神原直忠が逮捕されたというニュースが流れている。

「あっ……」

話を聞こうと思っていた長谷川は絶句した。ニュースを聞きながら、女性の目には涙が溢れ、その涙の珠が頬を流れていた。

「誰ですか?」

椅子に座っている若い女性が長谷川に挑戦的な視線を向けた。

「いや、あの、私は捜査一課の刑事で……」

「母は今精神的に不安定なんです。出直して下さい」

「あ……それは……いや……えっと……」と、長谷川は言葉に詰まる。

「刑事さん……?」

「薄目を開け美代は長谷川を見る。

「あ、はい……」

「この度は、息子の直ちゃんがご迷惑を掛けてしまい、本当に申し訳ありませんでした……。申し訳ありませんでした……。申し訳ありませんでした……。申し訳ありませんでした……」

美代は何度も何度も……無限に思える時間頭を下げ、「申し訳ありませんでした」と言葉を綴った。その様子に、長谷川は憤りを感じる。

「私は、そういう事を言いにきた訳ではありません。真犯人が他にいるという事を伝えに……」

「刑事さん……お気遣い、ありがとうございます。本当に申し訳ありませんでした」

またこの連鎖の繰り返しだった。オフレコだが、真犯人は本当に別にいる。それを信じてもらえるわけがない事はわかっている。だが、このままではあまりにも惨すぎる。息子が犯人だと思いながら死ぬなんて––––。

「キミ、ちょっと」

と、長谷川は若い女性の腕を掴み、病室から離れた廊下に連れ出す。

「お母さんの容体は?」

「先生が言うには、もってあと四日だって……」

「四日……それまでに真犯人を」

「犯人……本当に別にいるんですか? お兄ちゃんはこれまで何度も警察に捕まって、何度も悪い事をしてました。妹の私でもお兄ちゃんが犯人だって––––」

「クッソォ!」

怒りが頂点に達し、長谷川は近くの壁を思いっきり蹴った。こんな事をしてもなにも解決しない。ただの八つ当たりだ。本当に真犯人を捕まえ、彼を釈放させなければ何も解決しない。

「本当に兄は無実なんですか?」

「それは確かだ。俺と俺の上司は既に真犯人に目星を付けている。俺の上司の仲西警部は凄いんだ! 絶対に証拠を見つけ、逮捕する」

「ありがとうございます……」

涙ながらに女性は言い、美代がいる病室に戻って行った。

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