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第2曲

井上の事情聴取からの帰り道––––。

「それにしても、今回の事件どう思います?」

運転しながら助手席に座っている仲西に問う。

「多分爆弾を使っての殺人という方法から恐らく、いや、確実にイジメの事件が関与しているとみて間違いない」

「ですね」と相槌を打つ。

爆弾はリモートによる操作。なら、一キロ以内に犯人は確実にいた。証拠は何かあるはずだ。

長谷川は考え事をする。犯人はイジメの被害者の両親のどちらか……ないしどちらもだろう。父親の次は母親だ。役所で聞いた住所はもうすぐだ。

仲西はスマートフォンをずっといじっている。

「その前に、少し行きたい所があるんだが」

「どこでしょう?」

「リモコンの電波は半径一キロ。俺が犯人なら爆発する瞬間を絶対に見物したい。一キロ以内であの家がよく見える場所に連れて行ってくれるか? もう調べはついている」

「その場所は?」

「公園だ」

というわけで、二人は公園に向かった。

公園に着き、二人は車を降りる。

「ところで、どうしてこの公園に?」

「スマホの地図アプリで現場から半径一キロを絞り、そこから見渡しのいい場所をピックアップした。俺なら高いところで見てみたいと思って色々調べてみたんだが、ビルの屋上とかは閉鎖されている。比較的現場から高く、よく見える場所は公園だけってね」

得意げに仲西は言った。長谷川は仲西の推理に納得し、数回頷いた。

「ここに、何か証拠があるかも」

と、仲西は地面に這い蹲り、文字通り隅から隅まで探していた。ブランコの近くに行き、探しているとクッキーのかけらが落ちていた。

「これは……」

ハンカチをクッキーの上に落とし、ゆっくりと拾った。湿気っているがまだ新しい。今日昨日落とされた物の様だ。それを袋に入れる。

「よし、そろそろ行こう」

胸ポケットの中に入れ、仲西は踵を返した。その背中から、証拠が手に入ったという気配が漂っている。

井上静流––––。現名南山静流の家に着く。南山の家はごく普通の一軒家だ。家族が住んでいた家を、今は南山が一人で住んでいるという。


南山静流は自宅でお茶を飲みながらお気に入りのクッキーをかじっていた。お茶を飲みながらのこれは美味しかった。特に憎っくき相手をこの手で葬った後の茶は。

––––ピンポーン。

気分よく過ごしていたのに……。誰よ。

静流は心の中で来訪者に悪態をついた。

インターホンに映っている人物は知らない男二人だった。

「はい」

『ああ、私たち、警視庁捜査一課の刑事なんですが、井上……いや、南山静流さんに少々お話が』

あら、思ったより早いじゃない。

静流は二人の仕事の速さに驚いた。普通の顔を装い、二人を中に招き入れた。証拠は全て処分している。自分が犯人だと指名されるような証拠は何もない。椅子を引き、二人をかけさせた。

「単刀直入にお伺いします。今日の爆破事件の事はご存知ですか?」


長谷川は静流に聞く。静流は少し考え、「わかりますよ」と答える。

「なら、被害者も?」

「ええ。私の百樹を殺した犯人ですもの。忘れるわけありませんわ」

「では、あなたは被害者を恨んでいた?」

「ねぇ、刑事さん……死後の世界ってあると思う?」

突然の静流の質問に、意味がわからず長谷川は「は?」と返した。

「私はね、死後の世界ってあると思うの。だから、息子が本当にやりたかった事をしてあげたかったの」

「して、それは?」

「爆殺」

静流の告白に、長谷川は少々驚いたがそれは自分が犯人だと証言したようなものだった。

「では、認めるんですね?」

「は? 何をでしょう?」

「何をって––––今あなたが」

「ええ。私はたしかにあいつを爆殺してあげたかったです。けど、私みたいなオバさんにそんな特殊技術なんか、あるわけないでしょう? おほほほ」

静流は口元を隠し、上品に笑う。しかし、怪しい雰囲気がプンプン香ばしい匂いを立てている。

「まあ、お茶でも一杯どうです?」

と、静流が聞き、長谷川と仲西は「そうですね、では一杯」と返す。お湯を入れ、急須に茶葉を入れお湯を急須の中に注ぐ。その間に戸棚からクッキーを渡した。

「粗茶ですが」

「このクッキーは?」

と、仲西は静流に聞いた。

「私の大好物のチョコクッキーなの。とっても美味しいのよ?」

「では、一口」

と、仲西はクッキーをつまんだ。

「なるほど、確かに美味しい」

「でしょー?」

「で、話を戻しますが、あなたは自分は犯人ではないと?」

「ほほほほ。もし仮に私が犯人だとしてもやったの? って聞かれてすんなりはいやりましたなんて言えるわけないでしょ? 私ならこういうわよ。逮捕したいなら証拠持ってこい……‼︎ ってね? おほほほほほ」

静流の迫力に気圧され、長谷川の顔は引きつりたじろいでいた。

「では、息子さんのお部屋を拝見させていただいても?」

と、仲西。

静流は了承し、階段を登りつきあたりのドアを開けた。

「ここが百樹の部屋よ。あの時のまんまにしてるの」

息子の部屋は、少しカビの匂いがした。竹刀、面、胴、垂れ、防具袋が置いてあり、剣道をしていたというのが窺える。竹刀などには埃は見当たらない。

「掃除などは?」

「え? そんなのしないわよ。百樹が嫌がるじゃない」

静流の話を聞き、仲西は勉強机らしき所に人差し指を当て、一直線に動かした。人差し指には埃がこびりついている。

「なるほど、確かにあまり手入れはしていないようですね。とすると妙ですねぇ。なぜ、床は埃が溜まっていないのでしょう」

仲西は床を見ながら聞いた。長谷川も釣られて床を見るが、確かに床は他のものと違い綺麗だった。

「そりゃあ床なら掃除機くらいかけるわよ」

「本当に掃除機ですか?」

「何が言いたいの?」

「なんだかこの部屋、少々火薬の匂いが……」

仲西は言うが、長谷川にはそんな匂いはしなかった。

「ほほほ、火薬だなんて、私が爆弾を製造したとでも?」

「私は爆弾とは言ってませんが……作ったんですか?」

「だから言ってるじゃない、疑うんなら証拠持ってこいって」

「なるほど、それを抜きにしても、この部屋はミョーですねぇ」

「妙って、何がですか?」

と、長谷川。

「長谷川、お前にはわからないのか?」

「ええ。全く……」

「まあ、些細な疑問だからあえて口にするのはやめましょう。では、私たちはこれで……っと言いたい所ですが、実はここに来る前に被害者の家の近くの施設に行ってきたのですが、そこでこの様な物を発見しました」

仲西は胸ポケットから公園のブランコの近くに落ちていたクッキーを出す。

「あなたが落としたんじゃないですか?」

「そんなクッキー、スーパーで大量に売られてるわよ。誰かが落としたんじゃないの?」

「湿り気具合から考えるに今日昨日落とされた物なんですよ。そして、今日被害者は殺害された」

「はぁ……」

と、静流はため息がちに答えた。

「まあ、考えすぎだと思いますがね」

と、仲西は一言添えた。

「では、我々はこれで」

「はい。いつでも来てください。一人で暮らしていると何かとヒマなものですから。こんなオバさんで良ければ」

「多分これから何度かお会いすると思いますよ」

と、長谷川と仲西両名は玄関を出て車に乗った。

「しかし、オバさんにしては凄い迫力でしたよね? 『証拠持ってこい』なんてドスが効いてて俺ビビっちゃいましたよ」

帰りの車中、長谷川は仲西に言う。

「あの部屋妙だったよな?」

「さっきもそんな事言ってましたけど、何が妙なんですか?」

「お前……本当にわからないのか?」

「失礼ながら」

仲西ははぁとため息をついた。

「あの亡くなった息子の部屋を思い出してみろ。竹刀、面、胴、垂れ、ときて無ければならないモンがねぇだろう」

「無ければならないもの?」

「お前……剣道は警官の必須科目だろうが。なんでわかんねぇんだよ。剣道やるときに付ける防具思い出してみろよ」

と言われ、長谷川は剣道の練習の風景を思い出す。まず垂れを結び、胴を着て面を被り、小手を嵌めて竹刀を握りお辞儀をして試合開始––––。ん?

「小手……?」

と、長谷川は呟いた。

「やっとわかったのかよ。小手が無いのはおかしいだろう?」

「今違和感を覚えました」

「とにかくだ、小手が事件解決のカギを––––何だ?」

仲西の胸ポケットが小刻みにバイブする。スマートフォンを出し、通話ボタンを押した。相手は捜査一課の別の刑事だった。

「どうした?」

『それが、仲西警部、被害者の妻と娘が来ました。警視庁で保護してますが』

「そうか……。俺たちもすぐに向かう」

と、言葉を交わし仲西は通話を終了する。

「何かあったんですか?」

「どうやら被害者の家族が戻ってきたようだ。今は警視庁にいるらしい。すぐ戻ってくれ」

長谷川は頷き、車を大きく回転しドリフトさせ警視庁に戻った。

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