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第1曲

全く、なんで元旦の、しかもこんな時間に呼び出されなければならないんだ。正月気分もおせちも食べられないじゃないか。世の中ではブラック企業ブラック企業って騒いでるけど警察以上にブラックな所はないよ。犯人もなんでこんな時間に殺したんだよ。

現場に着くなり長谷川篤はせがわあつしは心の中で悪態を吐く。緊急の報告によると、午前零時頃突然爆発音が響き住宅が火災にあっているようだ。明かりがついていて、中に人がいるので殺人事件の可能性もあり、火災班だけでなく捜査一課の刑事も駆り出されたのである。

「あっ、仲西警部、お早いですね」

覆面パトカーから降りると、既に長谷川の上司である仲西多喜なかにしたきが到着していた。

「事件があればすぐに駆けつける。刑事としての基本だろうが」

到着して早々仲西に叱られ、長谷川は少し落ち込んだ。

「警部は正月にも呼び出されてイライラしないんですか?」

「俺だってヤだけどよ、事件なんだから仕方ねぇだろ?」

「そうですね」と、長谷川は納得がいかなかったが、確かに事件だから仕方ないと思い捜査をする事にした。どんな事情でも人が一人死んでいるのだ。なら、真剣に捜査をしなければ亡くなった人に失礼だ。

長谷川と仲西の二人は黒焦げになった家に入る。

ちょうど鑑識の捜査が終わり、馴染みの顔の鑑識が捜査をしていた。種子島譲治たねがしまじょうじだ。

「おう、タネさん、どうだい? 調査は」

と、警部は気さくに話しかけた。

「どうやら爆発の影響から考えるに仕掛けられていたのは寝室の様です。中に人間の遺体が発見されました。調べてみる事には断言できませんが恐らくこの家の住民でしょう」

「寝室という事は、事故では起きにくいですよね?」

長谷川は種子島に聞いた。

「ええ、中に四方型の黒焦げの固形物がありました。恐らく爆発物でしょうな」

「という事は、殺人?」

「恐らく。それにしても、面白い爆弾ですよ」

種子島は爆弾について語っていた。長谷川は爆弾の事はよくわからず、「ふーん」と相槌を打っていた。爆弾について語り出し、止まらなくなっている。面倒になり二人は種子島から離れた。

「しかし、殺人となると厄介ですね」

「ああ。だけど犯人は爆弾を使っている。タネさんの語りを聞く感じかなり知識を持ってるみたいだ。殺人の場合の主な動機は怨恨と金銭トラブル。爆弾を使って殺してる所をみるに多分前者だな。被害者の交友関係を洗ってそういう知識に詳しい奴を片っ端から話を聞いていく–––––。ってことになりそうだけど、そんな簡単にはいかなさそうだな」

「ですね」と長谷川は言う。

「被害者の名前がわかりました」

種子島は息を切らしながら階段を降り、下にいた二人を呼び止める。

「名前は?」

「名前は金剛久こんごうひさし。現在は営業系の仕事をしているサラリーマンです。妻子がいて、正月はハワイで過ごす予定だったらしいですがどうしても抜け出せない仕事があり、被害者だけは別便でハワイに向かう予定だったらしいです」

「ありがとう、タネさん」と言い警部は警察手帳を出し今の情報をメモしていった。小説などに出てくる名探偵などは大抵自分の頭の中で推理を展開するが、警部は必ず手帳に逐一書いていくというアナログな形式だった。爆弾での攻撃という事で初めはテロかと騒がれていたが、被害者の経歴を聞くにそれはないだろうと長谷川は思った。二人は早速被害者の交友関係を洗い始める。

「はぇ〜高校の時は特別指導六回補導八回停学二回……ものすごい経歴ですね……よく仕事が見つかったなぁ……うわっ、うち一つは裁判沙汰になってるのもあるじゃないスか」

被害者の事を調べていると、長谷川は一人盛り上がりブツブツと独り言を言う。気に留めず、仲西はファイルを読み進めた。生活安全課に聞くと、被害者は少年時代から警察でも手を焼いていた人物だった様だ。これなら何人でも恨みを買っていそうだ。と、仲西はため息を吐く。その中で、イジメが原因で自殺をした詳細がある。それを警察のデータベースで検索すると、一件がヒットした。それをクリックすると、細かい文字が続いていた。何となく気になり内容を読み始める。要点をまとめると、イジメをしていた被害者が、ある日学校で爆発物を自製して学校に立て篭もられるという事件があったらしい。イジメをされていた被害者の名前は井上百樹いのうえももき。今回殺害された被害者が率先してイジメをしていて、爆弾を巻きつけた井上が被害者の前で火を点けようとしたらしい。しかし、教師の説得により失敗、その後イジメは更に激しくなり、学校の屋上から飛び降りた様だ。この事件の内容より、爆弾という単語が妙に今の事件とタイムリーで気になった。

「よし、話を聞きにいくぞ」

突然立ち上がり、仲西は椅子にかけていたコートを着込んだ。

「え? 何処にですか?」

「今お前が裁判沙汰になったって言ってた事件の被害者の所だ」

「わっかりました!」

車のキーを引き出しから出すと、早足で長谷川は進んでいった。運転するのはいつも長谷川がしている。以前仲西が運転していたが、乱暴だという事で長谷川が以降は運転する事になった。役所に行き、住所を聞いた。既に離婚していて、二人とも違う住居にいた。初めは父親に話を聞きにいく。

マンションに着き、下の郵便受けを見る。605に井上と書かれている。長谷川は605と書き、呼び鈴を鳴らす。

『はい』

「すいません、私、警視庁の捜査一課の刑事なんですけど、井上さんですか? 井上真いのうえまことさんですか?」

『たしかに私は井上だが……』

「少しお話をお伺いしたいので、開けてもらえます?」

というと、マンションのドアが静かに開き、その間に二人は中に入る。エレベーターに乗り、六階を押す。身体が上昇する感じがする。数秒でエレベーターは六階に着き、呼び鈴を鳴らす。中からは男性が出てきた。

「刑事……さん?」

「はい。刑事です」

「捜査一課っていうと、あの捜査一課?」

「どの捜査一課かわかりませんが多分その捜査一課です」

「どの様な話で?」

「立ち話もナンですので、中に入れさせてもらえます?」

井上は横に避け暗に中に入る様に促した。頭を下げ、靴を脱いで中に入る。男性の一人暮らしとは思えないほど家の中は整理が行き届いていた。

「飲み物は紅茶にしますか? コーヒーにしますか? コーヒーはインスタントですが」

長谷川はコーヒー、仲西は紅茶をそれぞれ注文する。水を入れ、お湯を沸騰させる。ブクブクと音が立ち、ポットからお湯が沸いたという音が鳴る。ティーカップにお湯を注ぎ、ティーバックを入れ受け皿を乗せ一分間蒸させた。受け皿を取り、ティーバックを二、三回上下に動かし色をつけさせる。コーヒーと紅茶を渡し、井上と相対する。

「さて、早速ですが、深夜の爆破事件ご存知ですか?」

コーヒーを一口啜り、長谷川は本題に入る。

「そういえばニュースでそんな内容をみました」

「という事は被害者もわかりますね?」

「ええ。息子を死に追いやったアイツでしょ? 正直ザマァミロって言いたいですよ」

「あなたは被害者を今でも恨んでいた?」

「当たり前ですよ。それに、息子はアイツを爆殺させようとしてたんだ。息子の思いが晴らされてセイセイしてますよ。新年早々ね」

「あなたは今日の深夜零時頃はどちらに?」

「そんな時間、寝てたに決まってるでしょうが。まさか刑事さん、私を疑ってるんですか?」

「いえいえ、そんな事は……これはあくまで形式的な質問なので」

と、長谷川は萎縮しながら言う。

「では、私からも一つ」

と、仲西は人差し指を立てた。

「あなたは、被害者が誰に殺害されたと思いますか?」

「誰にって……私は名探偵じゃないんだからわかりませんよ」

「まあまあ、参考程度ですので」

「私じゃない事は確かだから……一つ聞くんですけど、アイツは爆殺されたんですよね?」

「ええ」

「うーん……なんだか息子と関係がある様な気がしてならないんですよね」

「私もそう思います。失礼ですが、今回の件は息子さんの件と密接な関係があると思います」

「妻……?」

と、井上は小声で呟いた。

「ほう。元奥さんですか。それはなぜ?」

「こういう事は言いたくないんですが、息子はイジメの影響で親しい友人など一人もいませんでした。だから、仇討ちという事なら妻が……と、何となく」

たしかに理にかなっていた。というより、長谷川自身も怪しいのではないか? と感じていた。

「息子さんが作った爆弾はどのような爆弾で?」

「百樹は昔から手先が器用でして、爆発物のそういう本を読んで作ったんです。その作成過程で、大きい爆弾と小さい爆弾を作り、小さいのを身体に身につけて立て籠もったようです」

「大きい爆弾は今どこに?」

「処分したに決まってるでしょう」

「因みに息子さんが作った爆弾はリモコン式ですか?」

「ええ」

「そのリモコンは半径何メートルまで届きます?」

「確か一キロくらいだったと」

「わかりました。ありがとうございます」と、仲西は井上に頭を下げ、残っている紅茶を飲み干し井上家を後にした。

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