序曲
南山静流は公園のブランコに揺られていた。今日は十二月三十一日。時間は午後十二時五十三分だ。新年まで残り七分を切っている。ブランコに揺られながら静流は片手に手製の爆弾のリモコンを持ち、スイッチに指が触れていた。少し強く押すと瞬時に爆発してしまうだろう。ここからなら爆弾を仕掛けた場所が良く見える。 キィ……キィ……とブランコの鎖を持ち前後に動かしている。お気に入りのチョコクッキーをポケットから出し、一口かじりつく。その時クッキーのかけらを地面に落とした。わざとだった。
盗聴器で聞いていた話によると、そろそろ帰宅のはずだ。
と、思うと爆弾を仕掛けている家の光が点いた。その光はまだリビングだけで、寝室の電気は暗いままだった。イヤホンを付け盗聴器の音を拾うが、盗聴器からも何も入ってこなかった。周波数を変え、リビングに仕掛けている盗聴器の音を拾うと、どうやら一服しているようだった。早く寝室に入れと静流の額には青筋が立つ。リモコンを持つ手が小刻みに震えた。
『さて、少し寝るか』
リビングの光が消え、遂に寝室の光が点灯した。上唇が上がり、笑みを浮かべる。男はベッドに横になる。
『ん? なんかかてぇな』
ようやく爆弾の存在に気づいたようだ。時間は午後十二時五十九分二十七秒。
『なんだ? これ』
そろそろね……。
「あけましておめでとう」
静流は持っていたリモコンのボタンを押すと、一軒家が強い輝きを発し、轟音が夜の街を侵食した。黒煙が立ち上り、天まで上がる。
爆発した瞬間、時間は零時を示した。