告白して振られた俺は振られた女の子から逆に⋯⋯
「好きです。付き合ってください!」
「……ごめんなさい。友達じゃダメかな?」
これが中学二年生の時の最初の告白だった。この頃の俺は、眼鏡を掛けていて、髪も目が隠れそうなくらい長く、セットもなにもしてないボサボサの黒髪だった。それに加えて身長も低かった。今思えば、この時の俺が告白しても失敗して当然だった。
「好きです。僕と付き合ってくれませんか?」
「あたしと? ちょっと無理かな~。化変のことはそういう風に見られないな~。そういうことだから!」
これが二度目の告白だった。俺の名前は化変学だ。俺はこの他にもあと二回告白した。
この頃の俺は恋に恋していたのと、一人でいる時間が多いことが相まって恋というものにすがっていたんだ。
要するに人恋しくて、勘違いな好きを連発してた痛いやつだったんだ。高校進学した今なら、あれも一種の思春期だったのだろうと思える。
俺が今達観しているように見えるのは、俺自身が変化したからだ。俺は中学で計四回告白してやっと目が覚めた。……俺のこれは恋でもなんでもないことに。
そして俺は自分を変える努力を中学三年生から始めたんだ。手始めに毎日十キロのランニングと勉強をした。最初は大変だったが、月日が過ぎるごとに少しずつ進歩を感じられた。
次にコミュニケーション能力が上がる本を読み込んだり、学校外で人と話す努力をした。このとき一人称も変化させた。
最後に高校入学までに髪を切ってミディアムヘアの茶髪で、セットの仕方も覚えた。眼鏡も外して、コンタクトにもした。
親と妹は俺の変わりようを困惑しつつも喜んでいた。身内贔屓じゃなくてもカッコいいと言われた。今の俺は、身長も伸びて男子生徒の平均より高く、トレーニングのおかげか筋肉も細いがついている。
このような積み重ねで俺は進学先の私立南波高校に首席合格。新入生代表挨拶は面倒で辞退した。俺は高校では中学と違って平穏に過ごせればそれで良いのだから……。
だが、平穏は長くは続かない。入学して数日がたった放課後、ある女子生徒に高校では、初めて声を掛けられた。
「あんた、あの化変なの?」
俺にそう聞いてきたのは中学で二人目に告白をした神原瞳子だった。彼女は、茶髪のセミロングで、平均的な身長だが、露出が多い。スカートは短めで胸元も少し開けている制服の着こなし方をしている。顔も整っており、明るい性格で、友人グループをまとめたりもしていた。
今更動揺することもないので、素直に返答した。
「そうですが。なにか?」
「あんた変わりすぎでしょ。それはヤバいよ。ビフォーアフターだよね」
そんなことをわざわざ話に来たのか。
「そうですかね? 普通ですよ。少しイメージチェンジしただけのことです」
「なんで敬語? 中学の頃からの知り合いなんだから普通に話しなよ!」
「いえ、これは癖みたいなものなので」
まぁ、それは嘘だけどな。ただ単に中学での黒歴史相手と仲良くなりたいと思ってないだけだ。平穏に高校生活を過ごしたい俺には地雷でしかないからな。
「そうだっけ? ならいいけどさ。そうだ化変この後遊びに行こうよ!」
突然なにを言い出すのやら……。中学二年の頃の俺なら舞い上がっていたんだろうが、今の俺にはそんな感情は一切ない。
「なぜですか? 俺たちそこまで親しくないですよね?」
「いいじゃん! 理由なんかいらないでしょ。親しくないなら遊んで親しくなればいいよ。それに今の化変カッコいいから……」
肝心の俺にその気持ちがないことに問題があるんだろうけど。まぁ、でも無理に断って面倒になるなら一度遊んで飽きてもらえばそれでいいか。それと最後の「それに」のあと、なんて言ったんだよ。小声でわからんかった。
「わかりましたよ。じゃあ行きましょうか」
「やったー!」
俺たちは校内から出て、歩いていた。
「どこ行こうか。ゲーセンとかにする?」
「どこでもいいですよ。誘ったのはそちらですから、神原さんが決めてください」
特に楽しみでもなんでもない俺は適当に返答して神原さんに任せた。上手くいけば、そのうち俺に飽きるだろう。
「じゃあ、ゲーセン行こう!」
こうして俺たちはゲーセンに向かうことになった。ゲーセンまでは歩いて十分くらいで、それまで適当な雑談をして歩いていた。
ゲーセンの中には、入ってすぐに、UFOキャッチャーがあり、奥の方に、メダルゲームや、カート系、アクション系、格闘系などのゲームがあるようだ。
「まず、UFOキャッチャーでもしようか?」
「それでいいですよ。特にやりたいと思うものもありませんからね」
「また、そんなこと言って~。せっかくなんだから、テンション上げて楽しまなきゃ!」
確かにゲーセンは楽しむものだが、それでも、それが勘違いで好きになった相手であれ、振られた相手と楽しむって発想が俺にはなくて微妙なんだよ。
……とか思ってるとガラの悪そうな連中五人がゲーセンに入ってきて、神原さんに話し掛けた。
「よう、神原なにやってんの?」
「あ……雅也」
雅也と呼ばれた男は、ドクロのTシャツの上からパーカーを着ており、タバコを口に加えていて第一印象最悪だ。
なんだ? こんな連中と知り合いだったのか。全然知らなかった。まぁ今じゃ興味すらないけど……俺に害さえなければな。
「そこの男と遊んでたのか?」
「うん。そうだけど」
「よかったら、この後少しファミレスで話さないか?」
断れよ。面倒だ。こんなことなら神原さんなんかと遊ばなければよかった。
「うーん。化変はどうする? 一緒に行かない?」
なんで、行くこと前提で聞いてくるんだよ。Noと言える俺には関係ないがな。
「神原さんだけで行ってきたらどうですか。つもる話もあるんでしょ?」
「それは、そうだけどさ……」
不穏な空気を察した、雅也と言うやつが睨みを聞かせるように見てきた。面倒すぎるだろ。
「はぁ~。少しだけなら……」
「本当に? なら決まりだね」
こうして俺が結局折れて、ファミレスに行くことになった。
到着した俺は、場違いな雰囲気を感じている。これは昔の俺ならかなりビビってただろうな。
「神原さん、結局この人たちなんなんですか?」
「ちょっと、たまに授業サボってた時に遊んでたんだよね!」
だから、たまに教室にいなかったのか。
「お前も神原と同じ高校だろ? 頭良さそうだな」
不良の一人が、いかにも不良が聞きそうなことを聞いてきた。無難に礼でも返しておく。
「ありがとうございます」
「化変、知らない人ばかりだろうけど、緊張しないで話そうよ!」
「別に緊張してませんよ」
「そっか、ならいいけど」
ただ、そう思うなら。俺がいないときに好きなだけ交流しとけとは思うけどな。
少し視線をはずしたあとに、もう一度神原さんを見るとタバコを吸っていた。ライターの音で振り向いたけど、本当に吸ってんのかよ。幻滅だ……。何歳から吸ってたんだよ。この不健康女はよ。
「神原さん、それ……」
「あはは、別にいつもじゃないよ? この連中と一緒の時はもういいかなって」
……言い訳ねえだろ。馬鹿かよ。ああ、まじであの時俺を振ってくれてありがとう。感謝しかない。つうか「もういいかな」とか完全に毒されてるじゃねえかよ。
「吸い方、様になってますね……」
「そうかな? あはは」
あはは、じゃねえよ。ドン引きしてるんだよ。
「おい! お前も吸うか? 一本やるよ」
不良の一人がそう言って、俺にタバコを見せてきた。吸うわけねえだろ。寝言は寝て言え。
「結構です」
「そんな、マジになるなよ。冗談だって!」
笑いながらそう言ってきた。断らなかったら吸わせたくせに、なにが冗談だよ。
というか神原さん、また吸おうとしてるし。これ以上俺の近くで吸うなよ。副流煙をしらないのか?
「神原さん。それ以上は吸いすぎです。やめとけよ……。大人になってから後悔しても知りませんよ」
おっと、副流煙にイラついて少し素が出ちまったよ。
「……化変だっけ? そんなの俺らの自由じゃんか。お前に関係ねーだろうがよ」
今まで黙ってた、不良のボスらしき雅也が俺にそう言った。バリバリ関係あるだろうが。舐めてんのか?
「あるに決まってんだろうが? ふざけてんのか! 副流煙でガンになる可能性があること知らねえほど、お前は馬鹿なのかよ? 俺の迷惑になってんだよ! 土下座して謝れ」
俺が怒気を含めてそう言うと逆ギレしてきた。
「だったら出ていけよ!」
お前らが、絡んできてこうなったんだろうがよ。自己中集団が。いつまでも猿山の大将気取ってろよ。
「……もう帰るから。お前らには二度と会いたくねえよ。じゃあな」
俺はそう言って、ファミレスを立ち去った。
俺が外に出ると、神原さんが追い掛けてきた。
「ご、ごめんね。化変のこと何も考えてなかった。嫌だったよね? 敬語崩して怒るくらいだったんだから」
「ああ。かなり不愉快だったですよ。あんな連中と付き合いがあったことにも、タバコを平気で吸ってることにもドン引きしました。中学の頃の俺はあなたのなにを見て好きになったのでしょうね。これ以上失望させないでください」
神原さんは申し訳なさそうにしているが、まったく心に響いてこないな。
「やっぱり、タバコやめた方がいいのかな?」
「そりゃそうですよ。このまま吸い続けたら、将来結婚して子供を作るとき、後悔しますよ? どんな悪影響を及ぼすかわかりません。子供を作らないと言うのならなにも言いませんがね。それでは、さようなら」
俺はそのまま帰宅した。
まさかこんなに早く平穏が乱されるとはね。まぁ、あんなに言えば、もうこちらにも絡んでくることはないだろうよ。