第二章 9話 王子二人はすくすくと成長しているようだ。変な方向に伸びていってても成長は成長だ。
「ほいっ」
ぶーちゃんの掛け声が飛び、ぶーちゃんと相対していた騎士団の精鋭が飛んだ。
「おお、見事な押し出し」
騎士のオッサンはすごい吹っ飛んでった。
大丈夫か?
「ほいっ」
今度は違うオッサンが見事に投げられた。
「うん、綺麗な上手投げだ」
重心が安定してるし、腰が入ってる。
「ほいっ」
また別なオッサンが投げられた。
ゴツいオッサン達がぽんぽこ空を飛び、地面に叩きつけられるというむさ苦しい成分が濃縮された光景が繰り広げられている。
「今のはまさかの大逆手じゃねえか、ぶーちゃんやるな」
珍しい技を使いこなすようになったな。
「……安田くん、相撲くわしいね」
「うん、うちのじいちゃん相撲部屋の後援会入ってたんだよ」
時々相撲見に行かされてた。
金太郎に進化したぶーちゃんがダンジョン探索で上がったレベルとスキルを披露しているこの場所はダンジョンの外の飛行船が置いてあるキャンプ場だ。
騎士団の人達もいるので、魔法の部屋を使わずにダンジョンの外に飛行船を着陸させてキャンプを張り日帰りでダンジョン探索をしている。
朝になったらダンジョンに入り探索をして夕方に出てくるってサイクルだ。
ちなみにダンジョンは海に囲まれた島にあるダンジョンで中は水場が多い感じで、岩がごろごろしてるらしい。
なんか半魚人みたいな魔物が沢山でるらしい。
俺は行ってないから知らない。
今日でダンジョン探索生活十日目、王子兄弟のレベル上げも順調に進み今二人のステータスはこんな感じだ。
名前 ジェット・ナピーナップ ♂
年齢 8才
職業 王子
種族 人族
称号 賢い子
レベル 7
HP 33/33
MP 35/35
STR 18
AGI 22
VIT 15
INT 28
MND 20
DEX 25
装備
ミスリルの片手剣(緑)
所持スキル
綺麗な字
間違わない掛け算
早い暗算
読解力
片手剣レベル1
縦斬り、横斬り
土魔法レベル2
ストーンショット、ストーンウォール、土槍、土人形
イケメン弟はカワウソ達の指南により剣術と土魔法を覚えた。
もうスペックが高い。天才丸出しだ。
そして兄のぶーちゃんはこうだ。
名前 バイサク・ナピーナップ ♂
年齢 10才
職業 王子(小結)
種族 人族
称号 太った王子
レベル 16
HP 135/135
MP 15/15
相撲力(小結)
装備
力こぶの斧
火熊の腕輪
ヤル気満々前掛け
所持スキル
斧レベル3
縦割り、横割り、豪快斬り、剛力岩盤割り
相撲レベル4
上手投げ、ぶちかまし、大逆手、居反り、百烈突っ張り、豊穣の土俵
ぶーちゃんの成長が半端ない。
何やら明らかにレベル上がるのが早い上に、ステータスがワケわかんないことになった。
俺達地球人と同じ、こっちの世界でも時々あるらしいもう数値とかなくなる特殊なステータスだ。
現地のヤツでは始めて遭遇した。
ていうか、相撲力(小結)ってなんだよ。
うん。いやまあ相撲力(小結)はまだ百歩譲って何となく意味がわかるが、職業の王子(小結)ってのはなんだよ。
王子の小結って何?
大関の王子とかもいんの?
ワケわかんないんですけど。
これは明らかにザマスオバサンの英雄の遺伝子が覚醒してるんだろうな。
リアル坂田金時スペックになった。
「さすが王子ですなっ」
「よっ、お見事っ」
「いよっ」
パチパチパチパチ。
なにやらぶーちゃんに向けて歓声と拍手が聞こえる。
第三騎士団の人達からだ。
「お疲れさまです。バイサク様、こちらタオルでございます」
「うむ、ご苦労」
例の第三騎士団の団長、宰相の息子がぶーちゃんに汗を拭くタオルを渡している。
彼ら騎士団は始めはぶーちゃんに対して仕事だと割りきった遊びがまったくない冷たい態度だったが、ぶーちゃんの異様なスピードでのレベルの上がり方とスキルの増え方を見て、だんだん態度が変化してきた。
今は完全にぶーちゃんにへりくだっている。
ぶーちゃんを次期王だと認めて忠義を尽くそうとしているのだろう。
……うん、まあそれは半分嘘だ。
あれは上司の息子をやけに可愛がるサラリーマンの構図そのものだ。
ぶーちゃんの成長ぶりを見て、もはや次期王は完全にぶーちゃんになると確信を得たからごますりに必死なんだろう。
宰相の息子がデヘヘみたいな表情になってる。
あれは、課長今度飲みにつれってくださいよーデヘヘ。
のデヘヘだ。
僕あなたのこと慕ってます感を出しながら上司に取り入ろうするごますりテクニックの時の顔だ。
筋骨隆々のゴツいオッサンのデヘヘはキツいな。
見てると微妙に可哀想になるし。
異世界でも社会の世知辛さは変わらんようだ。
ちなみに弟は弟で、なんかおかしな感じになってしまった。
今もカワウソ族の魔法使いであるクレープさんに魔法の指南を受けているのだが、なにやらござの上に座禅を組んでおでこに変な目みたいなマークを書いて目を瞑って微動だにしない。
なにこれ?なんの儀式?
「そうです。ジェット様、集中を切らさず大気中の魔力の流れを感じ取るのです」
クレープさんの謎の指南の言葉が聞こえる。
「………………」
八歳の子供が顔に模様を書いて座禅を組んでる。
これだけでもすごい光景だ。
「………………」
すごい、ひとっつも動く気配がない。
まさに無、八歳児のくせしてこの子は無の境地に行ってしまった。
「……………………きえーーーーっ!!」
うわっ、弟くんが急に目を見開いて、きえーっとか言い出した。
あ!?おでこに書いた目がなぜか光ってる!?
怖っ。
「そうですっ、いい調子ですよジェット様っ、第三の目から魔力を感じて己の意のままに操るのですっ」
いい調子なのこれ?
第三の目はただの落書きにしか見えないけど!?
魔力を己の意のままに操るにはこれが必要なのっ!?
「はいっ、クレープ師匠っ、僕は大魔法使いになりますっ」
はい、大魔法使いになります宣言が出ちゃいました。
もう彼はここ最近毎日これを言っている。
魔法が使えるようになり、彼は魔法にドはまりしたらしい。
大魔法使いになるとかたくなに言い続けてる。
いやお前王子だろ。
昨日も変なポーズをとりながら魔力がうんたらかんたら言っていた。
まあ、いいか。
じゃあ俺は暇だから部屋でDVDでも見るかな。
ダンジョン探索をして十日目だが、俺は一切ダンジョンに入ってない。
あんなおっかないとこには二度と入らないと心に誓っているのだ。
「安田くん、今日もダンジョン行かないのかい?」
あ、鈴木さんが嫌なことを聞いてくる。
みんなダンジョン行ってる中俺だけ留守番してるから、みんながなんでこの人行かないの?的なちょっと変な空気になってるのは知ってる。
その空気はびんびん感じてる。
でも俺はそんな空気の中でも胸を張って行かないと宣言できる度胸を持っている。
俺の何かをやらないことにかける信念をなめるなよ。
やらずに後悔するよりやって後悔する方がましだってありがちな台詞を宣言する主人公がいたとしたら、「やらないままの方ができない自分に失望しなくてすむじゃないか」と堂々とダメな台詞を吐いてやる自信がある。
「安田さん、何かあった時の為にも訓練としてダンジョンには行った方がいいですよ」
東くんがワガママな子供を諭すような優しい口調で語りかけてくる。
諭されないっ。俺はそんなんで諭されないっ。
「龍臣は今日もダンジョンに行かないようだぞ。ぶーちゃんなんとか言ってやれ」
あっ、京が嫌な搦め手を使いだしやがった。
「先生、今日はダンジョンに行こう。強くなった余をもっと見てほしいのだ」
ぶーちゃんが嫌な誘いをしてくる。
ぐぬぬ、生徒を使うって言う一番嫌な搦め手にでやがったなおっぱい吸血鬼め。
「行きません。安田先生はダンジョンとか大嫌いなのです」
ぶっちゃけ怖いのです。
「ええー、先生行こうよ。一緒に行こう」
おでこに変な落書きしてる弟くんも誘ってくる。
ええー、嫌なんですけどー。まだおでこの目光ったままなんですけどー。
「先生ー、先生ー」
「行こうよ行こうよ」
「先生ー先生ー」
カワウソ子供組まで言い始めた。
ああー始まっちまったじゃねえか、一人が言い出すとみんなが言い出す子供大合唱。
こうなったらもう無理だわ。
ここで子供らを前に行かない宣言とかしたらゴミ野郎になってしまう。
ダメ野郎な自分は許せるがゴミ野郎の自分は俺の中ではアウトだ。
「……しょうがねえ、行くか」
「「「やったー」」」
くそう。
「相変わらず龍臣は子供の頼みには弱いな」
ニヤニヤしながら京が何か言ってる……悪徳吸血鬼め。
「じゃあ隊長と騎士団諸君、俺のことめっちゃ守ってね」
「はっ、お任せください安田様っ」
「「「お任せくださいっ」」」
騎士団の人々がめっちゃ従順に返事してくる。
俺のこと嫌いな彼らが態度を軟化させたのは、いや軟化通り越してしゃばしゃばのほぼ水化させたのは、この十日間で騎士団の人々にプレゼントボックスを一回づつ引かせてやったからだ。
つまり超分かりやすいワイロ作戦だ。
そしてそのワイロで騎士団の俺に対する好感度が上がり、装備が充実した騎士団により俺の安全も一層確保されるわけだ。
うん。一石二鳥とはまさにこの事なり。
というわけでダンジョンに来ましたとさ。
海に囲まれてる島にあるダンジョンだからか、水場が多い超広い洞窟って感じのようだ。
水が流れる音が洞窟中に響いてる。
水が澄んでて地球だったらマイナスイオンがどうだこうだ言われてそうな感じだ。
結局マイナスイオンってなんだったんだべ。
ダンジョン内をカワウソ達を先頭に俺にはよくわからん陣形らしきものを組んでみんな進んでる。
俺は陣形の真ん中だ。
よくわからんが俺が一番守られるポジションっぽいことはわかる。
ホントはこの中で一番レベルが高くて、それこそまんじゅう込みなら一番戦闘能力も高いはずなのだが一番守られてる。
騎士団の人達なんか尋常じゃない位俺を守ってくれてる。
俺の前後左右にきっちり四人が陣取って両手を広げて周りを注意深く警戒してくれてる。
大統領もかくやという守られ具合だ。
もうあれだもん、守られすぎてもはや動きづらいもん。
すごいマークされてるバスケの選手みたいになってるもん。
「魔物発見っ、シーマンだっ戦闘態勢っ」
「「「おうっ」」」
ピンタさんが魔物を見つけたらしい。
あ、なんか緑のが川の中にいるわ。
魔物名 ベンチシーマン
危険度 C-
レベル 6
HP 36/36
MP 12/12
STR 11
AGI 13
VIT 18
INT 8
MND 8
DEX 7
装備
無し
所持スキル
爪レベル1
毒爪
毒ブレス
ドロップ
固い鱗
レアドロップ
水石
説明
半魚人的な魔物。
進化するとレギュラーシーマンさらに進化するとキャプテンシーマンになる。
水の中から急に襲って来るので注意が必要。
お、レベル6の半魚人らしい。
あ、カワウソ達によってあっという間に煙になってしまった。
ああ、そう言えば魔物は倒すと煙になるのよな。
ほとんど戦わないからそれすら忘れてたわ。
「あ、ピンタ、余が倒したかったのに」
「おお、申し訳ありませんバイサク様、つい癖で」
ぶーちゃんがブー垂れてる。
ぶーちゃんは好戦的な王子になってしまったな。
まあ金太郎だからな、しょうがねえべ。
うーん、じゃあ俺はすること無いからな、どうするかな?
適当に鑑定してよう。
鑑定結果
ぶーちゃんの足元二メートルに魔水結晶が埋まっています。
お、なんだこれ?
「ぶーちゃんの足元に魔水結晶が埋まってるらしいよ」
「え!?」
「なんですって!?」
「魔水結晶!?」
カワウソも騎士団も騒ぎだした。
お、大騒ぎだ。そんな大した物なの?
アイテム名 魔水結晶
分類 材料
レア度 A
価額相場 45000000G~50000000G
説明
水属性の魔力がこもった鉱石、様々な魔法アイテムの材料になる。
こもる魔力の量によって水石→水玉→水結晶→魔水結晶と名称が変わり希少になる。
今見つけた魔水結晶はサイズが大きい為にかなり高価。
おおう。
わりとあっさり五千万の石見つけたわ。
相変わらずすごい能力だわウルトラ鑑定。
名前はアホみたいだけど。
俺が考え事してる中みんな一生懸命地面を掘ってる。
「うおおぉっ、本当に魔水結晶だっ」
「すげえ、はじめて見た」
騎士団の人達が騒いでる。
まあ貴重らしいからな。そりゃ騒ぐかもな。
「いかがいたしますか?先生」
騎士団の人から渡されたらしくピンタさんが青く光る石を持ってきた。
結構でかい。ソフトボールの球位ある。
「いかがするって?なにこれ?見つけた人のもんになんの?」
「そうですね。普通ならパーティーで分けるのですが。今回は完全に先生お一人の力で見つけてますからね。先生が貰っても誰も文句言えません」
そうなのか。うーん、売ったりした方がいいのかな?
ていうか確かに俺が見つけたが、棚ぼたもいいとこだしな。
「モンブランさん、これ使い道ある?」
クレープさんの旦那のカワウソ族の鍛冶師モンブランさんに聞いてみる。
「うーん、うちのパーティーは装備も生活環境も整ってますからね。それに水魔法つかえるヤツが多いので、多分倉庫の肥やしになると思います」
そもそもこの石の主な使い道は水場つくりなんだそうだ。
このでかさなら砂漠にオアシス作れるレベルらしい。なにそれすげえ。
うん、でもまあぶっちゃけ使い道はないな。
「じゃあ、売っちまってみんなで山分けにしよう」
ヒゲ王様あたりに売ってどっか遠い国ででの緑化にでも使ってもらおう。
「おお、やったっ」
「さすが安田様だっ」
「よおっ大尽様っ」
騎士団の現金な歓声がすげえ、こんなに現金な歓声ははじめて聞いたわ。
それからダンジョンの探索を再開した。
もう俺の騎士団の警護が前後左右どころか8方向になった。
もうろくに動けないよ。
そして細い通路や浅い水場を越えたりしながらしばらく歩いていると、なにやら洞窟の壁に穴がたくさんある場所に出た。
穴は子供が入れる位のでかさだ。
細身の大人でも入れるかな?俺くらいなら行けそうな大きさだ。
「ピンタさんここは何?なんか穴だらけだけど」
「ここは洞窟海老の巣がある場所です。安全にレベル上げしやすいのですよ」
なんでもあの穴にでっかい海老が入ってるらしい。
穴の近くに寄るとでっかい海老がハサミで襲って来るらしいがスルメをつけた紐を穴の前に置いといてもなぜか出てくるらしい。
ザリガニじゃん。
スルメに引き寄せられで穴から出てきたでっかいザリガニをみんなで袋叩きにするらしい。
なにその微妙に心が痛むレベル上げ。
みんなスルメを置き出した。
鎧のおっさんとか着ぐるみ着たカワウソ達が真面目な顔してスルメでザリガニ釣りしてる。
うん。シュールすぎて頭おかしくなりそうな光景だわ。
シュールすぎる光景からは目を背けて俺は別なことやってよう。
することない俺はその辺をチョロチョロ鑑定する。
またお宝見つかるかもしれんしね。
鑑定結果
安田から見て右に13メートル行ったとこにある穴は向田マッサージ店の入り口です。
シュールすぎて頭おかしくなりそうな鑑定結果出たわ。