第二章 8話 そして、彼は転生を遂げた。
王子二人のパワーレベリングと、おかしな被り物をした女性の被り物をはずす為に、俺たちは世界樹にある街から飛行船で出発した。
まずはレベリングするためにダンジョンに向かうことになった。
ユニコーンの森は世界樹の枝の上にある。対してレベリングするためのダンジョンは世界樹から少し離れた島にあるそうだ。
まあ遠回りになるが、なんにしてもまずはレベルを上げてからの方がいいということで最初はダンジョンに向かう。
飛行船で二日の旅だ。
ちなみに今ダンジョンに向かっている飛行船は2隻ある。
一つは俺たちの空飛ぶカワウソ村。
もう1つはナピーナップ国の第三騎士団だかが乗る飛行船だ。
さすがにこの国に来たばかりの俺達だけで王子二人を預かる訳にはいかんということで、まあ彼ら騎士団は二人の護衛だ。
なんかカワウソ達と騎士団の演習?みたいなこともするらしい。
飛行船はこの世界だと貴重らしいが、さすがに一国の王となれば持ってるようだ。
王子二人は護衛だか執事だかみたいな人たちと共にカワウソ村の方にいる。
一応存在がばれたら泥棒とかめんどくさそうな魔法の部屋は、おじさん勇者鈴木さんの能力ってことにしてる。
王子二人も護衛だか執事だかの人達もびっくりしていた。
そしてカワウソ達の昼食に舌鼓をうち、今は王子二人のプレゼントボックスタイムだ。
まずはイケメンボーイな弟のジェットからひくことになった。
今日はイケボーイ弟で明日はぶーちゃんだな。
「……先生、僕は父上達みたいに化け物にならないよね?」
「いや別にお前の親も化け物になったわけじゃないからね」
両親がおかしな装備で新進気鋭のサーカス団みたいになったのをいまだに引きずっているようだ。
ちっちゃいトラウマになってしまったか。
「大丈夫だからひいてみ?」
「う、うん」
ジェットが怖々とまんじゅうの口に手を突っ込んだ。
アイテム名 ミスリルの片手剣(緑)
分類 武具
攻撃力 68
レア度 B
価額相場 4000000G~4500000G
効果及び説明
希少な金属ミスリルで作られた剣。
しかもこのミスリルは、風が強い山脈で採掘された風の属性を宿した普通のミスリルより遥かに貴重な緑色のミスリル。
装備すると、ステータスのスキル欄に風魔法、エアカッタートリプルのスキルが追加される。
スキルは剣から出る。
あ、ピンタさんの剣の色違いが出た。
「剣だっ、やったーっ」
剣に憧れる年頃なのかイケボーイは大喜びだ。
ていうか俺は弟のジェットに対しての脳内の呼び名が安定しないな。
「よし、じゃあもう一回いけ」
「うんっ」
アイテム名 光の杖
分類 武具
攻撃力 18
レア度 B+
価額相場 7000000G~7500000G
効果及び説明
ミスリルで作られた杖。
熟練の魔術師が魔力機関を仕込んでおり、装備するとスキル欄に光魔法、光の盾、癒しの光源のスキルが追加される。
ステータスのINTに+12の効果もある。
お、今度は杖だ。
「杖、僕魔法使えないのに」
まんじゅうのプレゼントボックスは出した本人が使えないアイテムは出てこない。
まあ、つまり多分そのうち魔法使えるようになるんでしょうね。
つくづく将来安泰なイケメンボーイですこと。
じゃあ、次で最後だな。
アイテム名 無限練りごまチューブ
分類 調味料
レア度 B+
価額相場 6800000G~7000000G
効果及び説明
無限に練りごまが出てくるチューブ。
ただしチューブが破れたり破損すると出てこなくなる。
普通のチューブを買った方がリスクが少ないかもしれない。
この世界にチューブ入りの調味料は無いのですが。
……練りごま?
なんで練りごま?
せめてカラシとかワサビ、ギリギリで生姜かニンニクのチューブならそこそこ使い道あるだろうに、まさかの練りごま。
しかも無駄に高い。
「……どうしようかな?母上にあげようかな」
まあ八才児の少年は絶対要らないよねー。
あの母ちゃんが貰っても困るだろうが。
「先生、余は引けないの?」
剣とか出てきたのを見て羨ましくなったぶーちゃんが期待に満ちた眼差しで聞いてくる。
「これ一日三回しか引けないからぶーちゃんは明日な」
「明日?明日になったら引けるの?」
「そう、明日」
「よしよし、余は今から精神を統一しておくよ」
うん、精神統一でもなんでもすればいいよ。
完全にただの運まかせだけどさ。
そしてカワウソ子供組やら王子二人やらみんなでトランプなんかに興じて時間を潰した。
「先生、今日の目的地に着いたようです」
俺がジジ抜きで驚異の8連敗を喫したところでピンタさんが呼びに来た。
「相変わらず龍臣は運が絡むゲームは弱いな」
「うん、安田くんある意味すごいね」
混ざってトランプをしていた鈴木さんと京がなんかどうでもいいこといってるが聞こえない。
ダンジョンまで飛行船で二日かかるから日が暮れる前に無人島に停泊して、明日の朝改めて出発ってスケジュールだ。
その無人島についたらしい。
ふむふむ、無人島ね。
何あるかわからんから、一応。
場所名 ナピーナップ諸島 カイヤラン島
説明
面積約2平方キロメートルの無人島。
世界樹に近いため魔物なども出ない島。
ただし触ると肌がかぶれる植物や、毒のある虫等はいる。
ちなみに島の中央にある小高い丘に先見勇者田中のどうでもいい物が入った宝箱が埋まっている。
中身はなんでだか知らないが消しゴムがたくさん入っている。
……なんでだか知らないが消しゴム入っている宝箱あるわ。
田中くんよ、なんでだ?
なんでこんなおかしな負の遺物を各地に残すんだ?
うん、スルーでいいかな。
俺は辟易しながら飛行船の搭乗口から降りる。
お、向こうの飛行船の近くでは騎士団の人らが何やらテントみたいのを作ってるわ。
30人位いるな。
国の第三騎士団とかが30人だけのわけないから騎士団の中でも精鋭だけ連れてきたとかなんだろうな。
みんなレベル10は越えてるようだ。
隊長らしきおっさんはレベル19だから結構すごいはずだ。
ふむ、おっさんやら兄ちゃん達が汗水流して働いてる光景が繰り広げられている。
うん、男達の汗臭そうな仕事場にこれ以上興味が湧かない。
家のパーティーメンバーはバーベキューの準備中だ。
うん、肉やら魚やらが山盛りで実に美味しそうですな。
「先生、こちら第三騎士団団長のシャボン・ナピーナル殿です」
「はじめまして安田様、シャボン・ナピーナルです」
「ああ、どうも」
第三騎士団の団長さんがピンタさんに連れられて挨拶に来たようだ。
騎士団との打ち合わせとかはカワウソ達に任せてたからこれが初対面だ。
ムキムキな厳つい顔をしたおっさんだ。
すごい抑揚のない声でしゃべってるからものすごく怒ってるみたいに見える人だな。
……んん、あ、違うなこれ。
なにもしなくても怒ってるように見えるタイプの人かと思ったけど、これ普通に怒ってるね。
あれ、なんでだべ。なんかしたべかな。
名前 シャボン・ナピーナル ♂
年齢 35才
職業 豪傑騎士
種族 人族
称号 大剣一体
レベル 19
HP 137/137
MP 15/15
STR 63
AGI 45
VIT 42
INT 30
MND 35
DEX 57
装備
空鉄の軽鎧
空鉄の小手
鯨牙の大剣
所持スキル
両手剣レベル3
縦斬り、叩き割り、岩斬り、大両断
体術レベル2
正拳、受け流し
剣の声
精密動作
説明
ナピーナップ国の宰相の次男、賢い弟を次期王にしようとしていた宰相の派閥にいた。
自分の父親が安田の一言で何かおかしなことを言い出した上に次期王をジャンケンで決めた安田にすごく怒っている。
しかもぶーちゃんが次期王になったためにものすごく怒っている。
ちなみに彼の連れてきた部下も弟派がたくさんいるので、彼の部下も怒っています。
すげえもっともな理由で怒ってる人達居たわ。
たはー、これは安田さんなんにも言えねえ。
だって王様ジャンケンで決めるって言い出したのもこの人の親父おかしなことにしたのも完全に俺だもの。
たはー、弁解の余地無しとはまさにこの事だな。
……たはー。
「……演習頑張ってください」
「ありがとうございます」
「……」
「……」
うん、沈黙が痛い。
「ではワタクシ安田は、バーベキューの準備があるのでこれで失礼します」
安田さん離脱っ。
謝っても許してもらえそうに無いのですぐ離脱します。
いやあ、肉焼こうぜ。
なにもかも忘れて肉焼こう。
「ねえ、安田くん、なんかあの団長さんすごい安田くんのこと見てない?」
鈴木さんが何やら不穏なことを口にしてる。
そうか、すごい背中に視線を感じる気がしたけど、これ気のせいじゃないのね。
「いやー怒ってましたなー」
団長と話終わったピンタさんが俺の横に来て言う。
「怒ってる?安田くんあの団長さんに何かしたの?」
なにも知らない鈴木さんが呑気に聞いてくる。
「鈴木様、彼は宰相殿のご子息なのですよ」
「……ああ、なるほど」
鈴木さんも理解したようだ。
理解が早いな。
「まあ、一国の王をジャンケンで決めればそんなこともあるだろうよ。正直私もジャンケン大会とか言い出した時になに言ってんだこいつ?と思ったぞ。頑張ってフォローしたんだ。吸血鬼の王様オーラフル稼働して」
吸血鬼の女王様が話に入ってきた。
そのオーラフル稼働するとジャンケン大会の時みたいに民衆操れるの?
なにそれおっかねえ。
「安田さん、あれなんでジャンケンだったんですか?ジャンケンじゃなくても、こう、何か他に無かったんですか?」
東くんも話に入ってきた。
「……わかんない。なんでだろう」
「……頭おかしいんじゃないですか?」
東くんがひどいな。
……いやひどくないな。
なんでジャンケンだったんだ俺。
頭おかしくない?俺。
「まあ、俺の大好きな言葉の一つに結果オーライって言葉があるんだよ。結果がオーライしてるならそれでいいじゃまいか」
カワウソ子供組と仲良くバーベキューを食ってる王子二人を見てごらんよ。
ほら見てみ、ぶーちゃんは変な踊り踊って弟笑わせてるよ。
「まあ、確かに結果はオーライしてるけどさ」
「まあ、そうですね。……今ジャマイカって言いました?」
鈴木さんと東君が納得してるようなしてないような微妙な顔で王子二人を眺めてる。
ちなみにジャマイカって言ったよ。
俺は騎士団方面から飛んでくる視線の矢で背中穴だらけでバーベキューどころじゃないからスルーしようと思ってた田中くんの負の遺産の箱を取りに行ってた。
いい匂いのする消しゴムが一杯入ってたよ。
全く意味がわからない。
そして次の日の朝、また飛行船に乗って出発だ。
今日はぶーちゃんの装備を整える予定だ。
「ぶーちゃん、プレゼントボックスひく準備は万端か?」
「万端だとも、余は万端だとも」
二回言ったな。
よっぽど万端なんだな。よしじゃあ一回目。
アイテム名 力こぶの斧
分類 武具
攻撃力 56
レア度 B-
価額相場 1000000G~1800000G
効果及び説明
鋼で出来た斧、世界中の木こりの思いによりステータスのSTRに+15の効果。
「せ、先生、斧が出たけど」
そうね。斧が出たわね。
ぶーちゃんの武器はまさかの斧か。
なんか木の持ち手に鉄の固まりついたザ・斧て感じの斧だな。
世界中の木こりの思いでステータスが上がるらしい。
ええ?木こりの思い?
意味がわからんし、世界中の木こりの思いをのせてるわりには上がり幅が微妙だな。
よし、二回目。
アイテム名 火熊リング
分類 アクセサリー
レア度 A-
価額相場 20000000G~30000000G
効果及び説明
火属性の魔法を使えるレベル20の熊を召還できるようになる腕輪。
魔法を使える上に熊なので肉弾戦も強い。
中々早いので騎獣としても使えます。
お、当たりだわ。
今度は紛れもなく当たりだわ。
「おお、すごい、やったよ先生、余はやったよ。精神統一させてお祈りしながらひいた甲斐があったよ」
そんなことしてたの?
お祈りしてもこの世界の神様はげたおっさんとかだよ。
まあ、よかったな。
じゃあ次でラストの三回目だ。
アイテム名 ヤル気満々前掛け
分類 防具
防御力 48
レア度 B
価額相場 6000000G~7500000G
効果及び説明
一流の布職人がヤル気満々で作り上げた赤い前掛け、職人のヤル気が宿っており、装備するとスキル欄に金剛のスキルが増える。
「先生、これは何だ?ヒモがついてるハンカチ?」
「いや、これはあれだな。この紐のとこを首に結んで……もう一つの紐を腰のとこで結んで……んん?……あれ?……ちょっとぶーちゃんこれ全部着けてみ?」
出てきた装備をぶーちゃんに装備させてみた。
「……ほう、中々の男前だぞぶーちゃん」
「……ぶーちゃんくん、似合ってるね」
「……驚くほど似合ってますね。まあ、似合ってると言うか、まあなんと言うか」
京と鈴木さんと東くんがアイテム装備したぶーちゃんを見て感想を口にする。
うん。
絵本の意地悪王子から主人公格に進化できたようだ。
昨日は騎士団の人達に嫌われてるのが発覚するし、今日は教え子の一人が金太郎に転生するし、なんだか色々あるな~。