第二章 6話 のりと勢いでやっても上手くいく時はいくのかもしれない。
内戦を止める為の付け焼き刃の俺の思いつきにより、恐らく地球でも異世界でも最初で最後であろう第一回次期王様決定ジャンケン大会が始まった。
まずパーティー開場にいる王様以外のこの国の貴族全員に、美少年派チームとぶーちゃん派チームに別れて貰う。
この国の貴族は全員で204人いるらしく。
美少年派チーム135人。
ぶーちゃん派チーム49人。
中立の人、棄権20人。
ぶっちゃけ美少年派圧倒的有利である。
「不公平ざますっ」
「しょうがないよザマスオバサン、ぶっちゃけ投票式で決めるよりは確率上がったんだし。我慢してくれよ」
しょうがない。だってこのままなら内戦になるんだから。
「マドリーヌ殿、息子を信じよ」
「唯川様……わかりましたざます」
なんでこの人京の言うことは全部鵜呑みにすんの?
「え~、内戦を避けるために行われる大会なのでね。このジャンケンで決まった次期王様に文句つけることは許しません。勇者ヤスダパーティーにいる公爵相当の権力を持ったレベル30オーバーの我々勇者四人が新しい次期王様の後ろ楯になります。決まった後で文句つけたり、それこそ反乱起こして次期王様をすげ替えようとすれば、この鬼の勇者こと東秀千代君がそいつの首を引きちぎりにいきますので悪しからず」
「……え!?」
よし、権力と暴力で雁字がらめにして東君のそんなことしませんよ風味の表情をそえた所で始めるとしよう。
「では第一回次期王様決定ジャンケン大会始めーっ」
俺の号令でジャンケン大会の始まりである。
「まず、私が先鋒でいくざますよっ」
「マドリーヌ様っ頑張ってくださいっ」
「マドリーヌ様っ」
ぶーちゃん派チームから声援が飛ぶ。
なんでぶーちゃんに3割も支持があるのかと思ってたら、どうやらこのザマスオバサンのおかげらしい。
この人なにやら色々やり手でぶーちゃんを支持する貴族は主にザマスオバサンを支持しているようだ。
「次期王にはジェット様を据えるべきなのだ。私が先鋒でいく。そして全てが終わったら私はミヨちゃんの後を追うのだ」
美少年派の先鋒はヒゲ宰相が出てきた。
ミヨちゃんて誰なんだよ。
「……鈴木殿、ピンタ殿、誠に大丈夫だろうか?」
「……うーん、まあ、多分、ああ見えて安田くんは意外とちゃんと考えてる?と思うので、多分大丈夫ですよ。多分」
「先生に任せておけば大丈夫です」
いつの間にやら親睦を深めたらしい王様と鈴木さんとピンタさんのやり取りの中ジャンケンが始まった。
そして鈴木さんのセリフに多分が多い。
鈴木さんも不安なようだ。
一番不安なの多分俺だけどなっ。
「最初はグーっ」
「ジャン、ケンっ」
「ポンっっっっ」
………………………えー、そしてジャンケン大会が終わったわけであるが。
なんと勝者はぶーちゃん派である。
みんな心底びっくり顔である。
ヤスダパーティーもみんなびっくりだ。
何せ眼鏡オバサンの135連勝である。
先鋒で出たザマスオバサンは一回も負けなかった。
信じられない。
「マドリーヌ殿、息子を信じてみてよかったであろう?」
「はいっ唯川様っ、ありがとう存じるざますっ」
いや違う。
なにやら京とザマスオバサンがいい笑顔で頷きあってるが息子全然関係ない。
ザマスオバサンがすごいだけだから。
肝心の太った息子は遠くでなんかお菓子食ってっから。
あれ?側に美少年弟も居て一緒に食ってんな。
あの二人仲良いの?
ていうかこのザマスなんかイカサマしてんじゃねえか?
ジャンケン135連勝なんて聞いたことねえよ。
ウルトラ鑑定。
名前 マドリーヌ・ナピーナップ ♀
年齢 44才
職業 王妃
種族 人族
称号 ざますって何?
レベル 4
HP 23/23
MP 14/14
STR 7
AGI 5
VIT 2
INT 14
MND 28
DEX 8
装備
絵本に出てきそうなドレス
所持スキル
光魔法レベル1
闇魔法レベル1
正しい計算
綺麗な刺繍
勇ある心
輝ける根性
説明
ナピーナップ国の王妃。
生まれながらに賢く、純真な心を持っている女性。
元侯爵令嬢で家族に愛されて育てられた。
ただし話し方と見た目は少し残念な感じ。
補足
現地産勇者の卵、地球産の神の幼子と違って英雄という意味でのある意味真の勇者。
生まれながらに学ばずとも光魔法、闇魔法を使える素質があるが、呪文を知らないので行使はできない。
行使できる呪文がないので通常の鑑定では見れない。
勇者らしく剣術の素質もあるが蝶よ花よと育てられてきており、本人も興味がないので本来運動神経抜群のはずだが、ろくに運動もしたことなく剣を握ったこともないので本人はそんな天賦の才があることに気づいていない。
おそらく剣を握るだけでスキルが発現する。
ぶーちゃん王子派はみんな彼女に心酔しているからぶーちゃん派になった。
勇者だから何かしらの謎の力が働いた可能性はあるがジャンケン大会においてイカサマはしていない。
ぶーちゃんが次期王になるべきだと確信しており、その確信は正解。
なぜならぶーちゃんは英雄の遺伝子を持っていることになるから。
話し方が変で見た目が胡散臭くなければおそらく満場一致でぶーちゃんが次期王様だった。
つくづく見た目って大事である。
とんでもねえザマスじゃねえかっ!!
このおばちゃん英雄の卵なのかよっ。
四十過ぎてまだ卵ならそれもう無精卵だよっ。
ザマス界に超新星あらわるだよっ。
ええー、もうどうしようかな。
現地産勇者居たわ。
マジかよ、そんなんもいるの?
ええーどうしようかな。
……ああ、そうかどうしようも糞もねえや。
ぶーちゃん次期王様になったんだから特に問題なしだわ。
知らず知らずの間になにやら万事いい方に転がってたらしい。
うん、まあ、これでいいんだろう。
「えー、では次期王様はぶーちゃん改めバイサク・ナピーナップ君に相成りました。えー、拍手をお願いします」
みんな衝撃の展開に呆然としてるから拍手がまばらだ。
「お待ちくださいっ、いくらなんでもあり得ませんっ135連勝ですよ!?」
あ、宰相がまた突っかかってきた。
まあそりゃ突っかかるわな。135連勝だしな。
「イカサマはないですよ。ちゃんと俺の能力で確かめたんで」
「そ、それは本当ですか?信じられません」
宰相が信じてくれない。
まあ俺が宰相でも信じないだろう。
あ、なんか美少年派チームもそうだそうだとちょっと騒ぎ始めたな。
さて、どうするかな。
「それが王というものだ」
あ、またなんか吸血鬼の女王様が入ってきたぞ。
なんなんだこいつ。なぜちょいちょい入ってくんだ。
ちょっと前までこの国中を大騒ぎにした元凶の癖になぜこんなに威風堂々としてんの?
京が話し出すとなにやら場が静まった。
なにこれ?謎のカリスマオーラでも放ってんの?
「唯川様とおっしゃいましたな、それはどういう意味ですか?」
「真の王というものは時に運命さえ味方につけるものだ」
「う、運命ですと……」
いやいや、宰相さん雷にうたれたみたいな顔になってるよ。
騙されてっからね。……ああ騙されてねえや。
「弟君は確かに賢そうだ、器量も良い。王たるもの頭脳も器量もあるに越したことはない。だが真に王に必要のなのはそんなものではない」
「ひ、必要なものとは?」
「正道を見極める目、王道を歩むに足る器」
「正道、王道ですと」
「うむ、我々がこの国に来た時、誰もが東を見ていた。あらゆる国に東の武勇が伝わっているのだから当然だがな。だがこの国でただ一人、あのぶーちゃんだけは我々の頭である龍臣を見ていた。王すら召し使い呼ばわりし、誰も龍臣になど注目していないのにな。ぶーちゃんだけが正解を見定めていた」
……お前もぶーちゃんって呼ぶのかよ。
ああ、そういやぶーちゃんだけなぜか真っ先に俺に話しかけて来たな。
偉そうに国民を助けろっつってたわ。
あれ?じゃあ京の言ってること正解なのか?
いやまあ鑑定結果でも王様に向いてるらしいけどね。
ええ~、とうのぶーちゃんは変な顔して弟笑わせてるけど……。
もう王子二人とも飽きちゃって全くこっち見てないわ。
「お、おお。バイサク様が……」
なにやら宰相が床に膝をついて俯いてしまった。
「真の王の誕生に幸あれっ!!」
うお!?急に京がでっかい声出した。
急になんやねん。
「「「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」」」
うわ!?
パーティー開場にいる貴族達も雄叫びあげ出した。
「安田龍臣万歳っ」
え、なにこの女、急に人の名前叫ぶなよ。
「「「「「安田龍臣万歳っ!!!!」」」」」
おいやめろ、なぜ貴族達は俺の名前叫ぶんだ。
「ナピーナップ国に幸あれっ」
「「「「ナピーナップ国に幸あれっ!!!!」」」」
もう、怖いわ。
なんだよこの熱狂ぶり。
「ぶーちゃん王子に栄光あれっ」
「「「「「栄光あれっ!!!!」」」」」
「次期王の未来に祝福をっ」
「「「「「祝福をっ!!!!」」」」」
「犬はかわいいっ」
「「「「「犬はかわいいっ!!!!!!」」」」」
「私はハマグリとかが好きだっ」
「「「「「ハマグリをお持ちしろっ!!!!」」」」」
「もう特に言うことないからとりあえず万歳っ」
「「「「「ばんざーいっ」」」」」
おおう、ハマグリの辺りから貴族達の目がなんかぐるぐるしてた。
これが吸血鬼の女王として二千年君臨した女の洗脳紛いの人心掌握能力か。
なんて恐ろしい女だ。
すごいハマグリ食べてる。たまにホタテを食べてる。
なんて恐ろしい女だ。
「……何はともあれまとまってよかった」
ヒゲの王様が話しかけてくる。
「召し使い呼ばわりして申し訳なかった安田殿」
「いいえー、こちらこそ王様をジャンケンで決めてしまって申し訳ないです」
我ながらなぜジャンケンだったのか全くわからん。
思いつきって恐ろしい。
「私も、どちらかと言えばバイサクに王になってもらいたかったのだ。人前では言えんかったが」
え、そうなの?
「まあ、唯川様のようにバイサクになにかを見出だしたわけではないのだ。ただ、わが息子ながらジェットは賢く顔も良いでな。次期王にならずともイケメン、賢い、王子、の三種の神器で生涯幸せであろう」
まあ、弟は賢い上に将来イケメンになるだろうしな。
ていうか意見が生々しいよ。
……あとなんで京は様づけなんだ。
「それに比べてバイサクは賢いわけでもなくわが息子ながらなぜあんな子憎たらしい顔になったのかわからんのだ。しかも太っているからな。次期王になれなければ賢い弟に次期王座を取られ、しかも顔も悪く賢いわけでもなく太っている訳だからな。むしろ王子という肩書きが諸刃の剣となってバイサクを傷つけていたであろう。弟に次期王座を取られたできの悪い子憎たらしい顔した太った王子だ。ダメな意味で歴史に名を残してしまうかもと心配だった。あれは母親と並ぶと特に絵本の悪役のようであろう?」
おいヒゲ、少しはオブラートに包め。
たしかにあの母子は絵本の悪役感がすごいが。
「それでも可愛いわが子なのだ。私は本当に感謝している。ありがとう安田殿」
このヒゲ親父、ホントに可愛いと思ってんのか?
まあ、思ってんのか。
「いいえー、どういたしまして」
「……聞けば安田殿は教師だとか、どうだろうこの国にいる間私の息子二人に指導して貰えないだろうか?」
ええー、王子に勉強教えんの?
どこにでもいる系教師の代表としては荷が勝ちすぎるんですけど~。
まあでも暇だしいいか。
「大したことなにも教えられないですけど、それでもいいなら」
「おお、そうか。引き受けていただけるか。うむ、善きかな善きかな」
なんで急に昔ばなしみたいに善きかなとか言い出したのかはわからなかったが、どうやら俺は王子様二人の家庭教師になったらしい。