第二章 21話 人ん家の母親が子供に説教してると、みんな変な空気の中で苦笑いになるしかない。
「……うっ、ぐひっ、……ぐふっ……ぐっふ、うう……」
何やら呼吸困難みたいな声が背中から聞こえてくる。
ブーちゃん失踪事件は無事解決し、誘拐海賊事件も解決して今は王城に帰るところだ。
誘拐されかけた子供らは無事親元に返してブーちゃんは感謝されまくった。
町の町長やら有志やらに感謝されて、誉められまくってブーちゃんは調子にのって、のり過ぎたあげく変な踊りまで披露しまったのだ。
踊ってるすぐ後ろにカンカンに怒ってる母親がいることを忘れて。
そして尋常じゃないほどの雷がブーちゃんに落ちた。
ずっと説教されてた。
ザマスおばさんは見た目が意地悪王妃なので説教しだすと恐ろしく怖い。
一応町の町長やら騎士団の隊長やらが、まあまあ、的に仲裁に入ったのだが、ザマスおばさんの燃え上がる怒りの炎は全然消えなかった。
ギャンギャン泣いて、最後はメッチャ怒られた子供が時々なる呼吸困難みたいな最終段階の泣き方にまでなってた。
もうブーちゃんは心がポキポキに折られてまともに歩けないほどやられてしまった。
今は俺がおんぶして帰ってるところだ。
もう俺のTシャツの背中はブーちゃんの涙と鼻水だらけだろうな……。
「マドレーヌ様、バイサク様の活躍で子供達も救われたのですから、そんなに怒らなくてもよいではないですか」
騎士団の隊長がまたブーちゃんをフォローしてあげてる。
「甘やかしたらダメざますっ、誘拐と夜中に居なくなるのは別の話ざますっ、だいたい今回のことで子供達を助けたから夜中に失踪したのを許したら、このバカは間違いなくまた同じことするざますっ!!!!城中の人間みんなで夜中の四時に大騒ぎだったんざますよっ!!!!普通の子供でも怒られるのにこのバカは王族なんざますよっ!!!!」
もうブーちゃんをバカって呼んじゃったよ。
まあ、でもさすが母親。
確かにブーちゃんは調子のりな上に感覚で動くタイプだ。
今回の失踪を不問にしたら十中八九またやるだろうな。
「……う、うぐっ、ふぎゃーっ」
ブーちゃんは母親の怒号でまたギャン泣きだ。
みんなで苦笑しながら王城に歩いてくことになった。
あー、そういえばブーちゃんの体から出てたなんかすごいオーラみたいのは新しいスキルだろうか。
なんか凄かったが。
名前 バイサク・ナピーナップ ♂
年齢 10才
職業 王子(小結)
種族 人族
称号 太った王子
レベル 16
HP 135/135
MP 15/15
相撲力(小結)
装備
ヤル気満々前掛け
所持スキル
斧レベル3
縦割り、横割り、豪快斬り、剛力岩盤割り
相撲レベル4
上手投げ、ぶちかまし、大逆手、居反り、百烈突っ張り、豊穣の土俵
神降ろし(横綱)
お、この神降ろしってやつかな?
すごい名前だな。神降ろしって。
スキル名 神降ろし(横綱)
発動条件及び説明
なんか凄いエネルギーの塊の巨大な力士を作り出して戦えるスキル。
使用者は力士がバリア的に働くので守られている。
そして力士はとんでもなく強いです。
余談
このスキルを使えば世界樹地下にいる魔物問題を被害なく解決出来ます。
力士はエネルギーの塊なので、エネルギーを吸収する性質を持った地下の魔物を引き寄せられます。
魔物を一ヶ所に集めて拡散を防ぎ王城の戦力と安田パーティー、向田さんの国の戦力で一網打尽にすれば被害が出ません。
……ええ……。
うーん。
こりゃみんなに相談だな。
「やらせてみるべきじゃよ」
城に戻ってきてから勇者陣で朝ご飯を食べてる時に例のブーちゃん大活躍作戦をみんなに話してみた。
向田さんはやらせてみるべきだと言ってる。
「そもそも日本人が同時期にこんなに集まっていることはないからね。今できるならやるべきじゃよ」
ていう意見らしい。
「……ふむ、龍臣は乗り気ではなさそうだな」
京が無駄に鋭い観察眼を発揮している。
「ブーちゃんはまだ子供だしな。あんまり矢面にたたせたくないのよね」
ブーちゃんまだ十才だぜ?
「でも安田くん、ブーちゃんも弟くんもダンジョンで戦わせてたし、前にもダンジョン都市で子供達を戦わせてたでしょ?向田さんの国にも一緒に乗り込んで行ってたし」
鈴木さんが少し前の思い出を語る。
「いや、あれはアイツらのレベル上げだもの。生きるための手段を学ばせる課外授業みたいなもんでしょ?それに向田さんの場合は緊急も緊急な上に近くに居てくんないと死んじゃってたからだしょ?」
「……だしょ?……安田さん、この世界だと魔物と戦うのは当たり前なんですよ。王族とか騎士は一般市民守る為に戦うのも仕事の一環みたいなものなんです」
東くんが嫌な異世界常識を淡々と語りやがってくれる。
「……うーん」
「そんなに嫌なのか龍臣」
「……嫌だなあ、なんにしても子供に責任背負わせるのは」
作戦にちょっと混ざるとかじゃなくて、思いきり作戦の中心だからね。
「……王達にも相談してみたらどうじゃね?」
向田さんが提案を出しながら、なんか老人らしい微笑みを浮かべてこっちを見てくる。
なんだろうあの妙に柔らかい目線は。
……いよいよ寿命が近いんだろうか?
王様の部屋に行く途中に一緒にダンジョンやら向田さんの国やらに乗り込んで行った第三騎士団の面々に出くわした。
隊長もいるようだ。
「これは安田様、どうしたのです?」
そういやこの人、宰相の次男坊だったな。
よし、有力者を味方につけよう。
俺は隊長にブーちゃん大活躍の話をして俺は超反対の立場に居るってことを説明する。
こいつらは賄賂に弱いからな。
ふふふ、またまんじゅうのプレゼントボックスひかせて俺側についてもらおう。
「ほう、バイサク様が、……安田様は教え子が心配なのですな」
そうですよ。腐っても先生なのでね。
「うん、だからね。俺はブーちゃん戦わせたくないのよ」
「……心配はいらんでしょう。我々はダンジョンで、そして救い主様の国でバイサク様と共に戦いました。あの方なら出来ますよ」
「うむ、そうだ」
「バイサク様なら大丈夫です」
「あの方は強いです」
騎士達も何やら隊長に賛同している。
いや強いのは知ってるよ。
十才児のくせに体一つで世界樹の根本まで降りていった強靭な肉体の持ち主なんだから。
そういう問題じゃないの。
俺の矜持の問題なのっ。
「いや、俺は断固戦わせたくないっ」
「……安田様は良き教師ですな」
なにしみじみした顔してやがんだ。
「……この国は安田様方が来てからは本当に大変でした。本来我々はジェット様に次期王になっていただきたかった」
ああ、そういや宰相の派閥だったものな。
「しかし、ダンジョンで、救い主様の国で、我々はバイサク様の器と強さをいやと言うほど心に刻みつけられました」
あ、ヤバイ流れだ。
こいつら全然俺の味方してくれる気がしない。
「……あなた方と過ごした日々は、騎士を志すものにとってのまさしく夢。物語の中に居るような素晴らしい体験でした。だからこそバイサク様はやってくれるでしょう。この物語はハッピーエンドになる確信がある」
ごついおっさんが似合わないファンシーな台詞吐くなや。
後ろの騎士達も微笑みながらうなずいてやがる。
くそう、ダメだこいつら。
やはり王様を説得しよう。
「うむ、バイサクがか、……よし、やらせてみよう」
話したらヒゲ王は二つ返事でブーちゃんにやらせてみようとか言い出した。
このヒゲめ。
「バイサクがそんな大役を、立派になったざますね」
子煩悩なザマスおばさんまで乗り気だ。
なんか感動してるし。
「……俺はできるだけやらせたく無いんですけどねえ」
「安田殿の能力で、できると出たんだろう?、もしや危険なのか?」
王様が不安な顔で聞き返してくる。
「いえ、なんの被害もなく解決できるらしいですよ」
「じゃあなんの問題もないざましょ?」
まあ、確かに問題は無いんだがね。
「……子供に責任背負わせるのが嫌なんですよ。子供なんてアホな顔してヘラヘラ遊んでればいいんだよ。アホみたいにヘラヘラ遊べる場所を作って守ってやんのが大人の仕事でしょうよ。これは守る側の大人の仕事だ」
ブーちゃんはアホみたいにヘラヘラさせとくのが一番似合うよ。
「……安田殿、確かにバイサクは子供だが、同時に、いや子供である前に王族なのだ。生まれながらに責務がある」
ヒゲが嫌な論調でさとしてきやがる。
「……バイサクを思ってくれる気持ちはとても嬉しいですよ。でも安田様、次期王たるもののつとめがあるのです。親の贔屓目ですがあの子ならやれると思うのです。信じてやってはいただけませんでしょうか?」
くそう、ザマスおばさんがザマス口調封印してまでさとしてきやがる。
「チッ」
「あ、安田殿、舌打ちしたな。王に舌打ちしたな」
「……バイサクは、本当に良き師に巡り会えたざますねえ」
なに二人して微笑んでやがんだ。
こうなったらブーちゃんをびびらせて本人に辞退させようか。
本人の成長を促す為には本末転倒の気が凄いするが、もう斜め上の意地だな。
いや、教え子を死地に向かわせる教師なんて最悪だものな。
いやいや別に死地でもないんだけどもさ、むしろ約束された勝利の剣もといマサカリな訳だけれどもさ。
「やるよっ、余はやるよっ」
「あぶねえから止めれっつってんのっ」
「止めれってなんだっ、やるっつうのっ、余はやるっつうのっ」
ダメだわ、なんか変な言い合いに発展してブーちゃんをむきにさせてしまったようだ。
これ以上ないほど逆効果だ。
なんてこった。
ブーちゃんの横にはおでこに目の落書きして瞑想してる弟も居るしよう。
また目が光ってるし、いい加減にしろよこれ。
「余がやらねば誰がやるのっ、いつやるの!?今でしょっ」
くそう、一昔前の流行り文句みたいなこと言いやがって。
「だいたい、余は王族なのっ、余が民を守らないで誰が守るの!?」
くそう、無駄にいっぱしのこと言いやがって。
「……ぎぎぎっ、覚えてろよっ」
バタンっ。
俺の口からなぜか飛び出た悪役の捨て台詞を残して、ブーちゃんの部屋の扉を勢いよく閉めてから出てきた。
結局国をあげて魔物と戦うことになってしまった。
くそう、なんてこった。




