第二章 14話 鈴木さんは36歳のおじさんなんだけどな。
少し早く書けたので更新します。
今回のエピソードを1話で終わらせたかったので少しだけ長いです。
寝ぼけてる京を起こして、顔洗ったり歯を磨いたりしてから朝食に向かう。
王城で蟻人の王族たちと一緒に朝食をとることになってる。
向田さんのパーティーメンバーとか俺が連れてきた騎士団もいるはずだ。
「京さ、昨日なんであんな寝方だったんだ?」
「んん?ああ、昨日久しぶりに体を動かしてな。その時ちょっと鈍ってるなと感じたんだ」
「鈍ってるなと感じたら、お前さんはあぐらかいて用心棒みたいに寝んのかい?」
意味がわからんすぎて江戸っ子口調になってしまった。
「うむ、自分を研ぎ澄ませていたのだ」
「いや思いっきり寝ぼけてたよ」
全然研ぎ澄ませてなかったよ。すごいなまくらだったよ。
しかし蟻人の朝食って何が出るんだろうか?
蟻が食べるものって何?砂糖とかか?
甘いやつかな?
「京昨日パーティーで食べ物何出た?やっぱ甘いやつ?」
「いや、普通に日本食だったな」
おお、そうなのか、残念。
ていうかこの世界の食べ物は日本人が何万年も前から文化の根幹に入り込んでるから基本全部日本食なのよな。
しかもすき焼きとか唐揚げとかラーメンみたいな、現代の日本食なのよな。
口に合いすぎるんだよな。
たまにはこれぞ異世界ってものを食ってみたい。
「おはようございます安田さん、唯川さん」
お、曲がり角から東くんと東くんパーティーが現れた。
「おはよう」
「うむ、おはよう」
「いやあ、自分ぐっすり寝ちゃいました」
んん?なにやら東くんの感じが変わった気がする。
ん~、何が変わった?と聞かれたら全くわからん。
でもなんか一皮むけたような気がする。
気がするだけかもしれない。
まあなんでもいいや。
あ、今度は向こうから鈴木さんが来る。
鈴木さんがこっちに軽く手をふってる。
鈴木さんの後ろには向田さんもいるな。
なんか向田さんにやたら気に入られてるよなあ、鈴木さん。
「いやマジでマジで、ハチマキしたタコだったの足5本しかなかったけど」
「タコだったんですか?……タコ?」
東くんが二回聞き返してくる。
合流後に朝食を皆で食べながらみんなで雑談をしてる最中だ。
ちなみに食卓には勇者勢しかいない。
神様関連の話が出そうだったからだ。
今は昨日の俺の中の闇が具現化したラスボスの話をしている最中だ。
「私の場合はアホ剣豪だったが、龍臣がスキル発動した瞬間にふわっと消えたな。ああ、なぜかこの刀だけ残ってたが」
え、その刀偽柳生十兵衛が残した刀なの?
おい大丈夫なのかそれ。あとで入念に鑑定しよう。
「あの黒いモヤは本人が絶対に越えられない壁として心の中の闇を具現化したものが現れるらしいんだけど、俺の場合5本足でヤカン持ってるハチマキしたタコだった。しかも絶対に越えられない壁のくせに普通に横通れたんだよ」
みんな何言ってんのって顔してるわ。
そうでしょうね。
あれマジでなんだったんだろうね。
「向田さんこの玉子焼き美味しいですね」
おうふ、東くんにあからさまに会話を流された。
あれだよ?君らのリーダーが心に抱えた闇とどう向き合うかっていう大事な話してんだけどな。
「そうだろう。専用の牧場で餌とかにこだわって作ってる玉子なんだよ。ほら、義くんもいっぱい食べなさい」
しかし向田さんは鈴木さんにやたら甘いな。
やっぱし向かいに住んでて子供の頃から知ってるからだろうか。
二万年も生きてるだけあってレベルも高いしな。
まあなぜかうちの吸血鬼の女王様より少し低いんだけど。
名前 ムコウダ(地球名、向田千豊)♂
年齢 23623
職業 超おじいちゃん
称号 無し
レベル 52
HP 553/553
MP 0/0
STR●●●●
AGI●●●●
VIT●●●●
INT●●●●●
MND●●●●
DEX●●●●●
装備
なし
所持スキル
領地改革
剣術レベル4
神明流剣術皆伝
柔術レベル4
神明流無手術皆伝
探知
推理
工作
パーティーメンバーステータス確認
余談1
勇者スズキの実の父親です。
余談2
神としての壁を一つ越えたので情報量が増えました。
「うええ!?」
「ど、どうしたんですか安田さん」
やべ、思わず声が出ちまった。
みんなこっち見てるわ。
「あ、な、なんでもない。ちょっと奇声をあげたくなっただけ」
「……奇声を?ああ、そうですか。急に奇声をあげるのはやめてください」
なんか東くんに安田さんは奇声あげるのが当たり前だよね、みたいな変な納得の仕方された。
……いや、ていうか、ええ~、久しぶりに知りたくないネタバレ地雷踏んだな。
前鑑定した時にはこんな記述は無かったのに。
くそ、安易に鑑定を使うなよ俺。
ええ~と、つまりこれは鈴木さんの母ちゃんとその向かいに住んでるじいさんができてたってことか?
え~、昼ドラじゃん……。
うちの近所でとんだ昼ドラが繰り広げられてたな。
ええ~、あ~、そういえば鈴木さんの家族構成とか聞いたこと無かったな。
母ちゃんと妹がいるのは知ってたが。
え?じゃあ、妹の父親は誰だべ。
うわ~、ていうか、そうか~。
微妙な疑問が全部氷解したわ。
この二人話し方とか雰囲気が似てるもんな~。
向田さんのステータスが目盛り表記で鈴木さんと似てるし。
元町二丁目の神童とかもおかしいもんな。
向かいに住んでるだけの近所の子供の自慢話を二万年も語り継ぐかって話だよな。
そりゃ近所の子供じゃなくて実の息子なら語り継ぐわな。
完全復活した理由も二万年ぶりに実の息子と再会できたなら折れた心もバッチリ治ってやる気も出るわな。
……ええ~、鈴木さん、あなたとんだ昼ドラに巻き込まれてるぜ~。
「……?どうしたの安田くん」
「……いや、なんでもないよ。鈴木さんのお腹丸いなあと思って」
「ええ~、また太っちゃったかな」
「いいんだよ義くん、男はね少しガッチリしてる方がいいんだ」
くう、この向田さんと鈴木さんのやり取りも二万年越しの親子のやり取りだとすると、なんか変な感慨深さが……。
……はあ、どうするべ。
鈴木さんに教えた方がいいんだろうか。
ていうか鈴木さんと向田さんの家族構成ってどうなってんだ?
もうダブル不倫とかだと重たすぎて俺の貧弱な足腰では支えきれないよ。
鑑定結果
鈴木の母親はシングルマザーです。
ちなみに妹の父親も向田です。
鈴木の母親である鈴木千代(本当の名は有栖川佐鳥)は内閣調査室火種脅威対策課に所属する工作員でした。
ちなみに向田は同じ課の上司でした。
彼女らの所属するチームは様々な国家の危機を解決に導きましたが、ある事件で多くの人命を救う為に法を破って課を追われました。
そしてチーム全員が姿を消して身分を偽装し新たな人生を歩むことになりました。
その時奇跡的な偶然で同じ町の向かい同士に潜伏したのが鈴木の母と向田です。
鈴木の母は様々な伝説を持つ工作員である向田に憧れていたのであの手この手でパヤパヤしようとアタックをかけまくって、ある日念願かない勇者鈴木を身ごもりました。
しかし鈴木の母と向田は組織に追われる身の元スパイなので結婚などはできません。
そして向田も実の息子を可愛がりたいのは山々でしたが、いつ消されるかもわからない身の上です。父親がある日突然息子の前から姿を消すようなことはあってはならない。それなら最初から父親などいない方がいい。と自身の経験から勝手に結論づけ、自分が父親だとも言い出すことなく影から見守ることにしたのです。
鈴木の向田に関する印象が薄いのはその為です。
ちなみに地球に帰れる資格あり。
昼ドラじゃねえじゃんっ!!
スパイアクションじゃんっ!!
ドタンっ。
「龍臣っ、どうしたっ」
思わぬ衝撃の事実に大の字で床に倒れ込んだ俺を見て京が心配してくれる。
「急に床に寝転がりたくなっただけだ」
「そうか、床は汚いぞ龍臣」
「そうだよ安田くん、寝るならせめてソファーとかにしよう」
「そうですよ安田さん、床で寝てはいけませんよ。汚れますよ」
食事の最中に急に床に寝転んだのにこいつならそんなこともあるな。みたいな対応すんじゃねえよっ。
さすがに飯食ってる途中に意味もなく突然奇声あげて床に大の字で寝転がるほどいかれぽんちではねえわっ。
……はあ、どうするべこの衝撃の事実。
扱いきれなーい。
……はあ。
家の近所に潜伏中の元スパイ二人も住んでたの?
何それ、クウェートかどっかの話?
ていうか鈴木さんって36歳のおじさんだよ?
なにこの設定、こんなん少年漫画の主人公の設定だろ。
鈴木さん36歳の太ったおじさんだからね。
主人公オーラ無いどころか昨日はなんか膝の関節が痛いとかぼやいてた人だからね。
少年漫画の主人公はなっ、体重のせいで膝の関節痛めたりしないんだよっ。
「それで、今日の午後にはダンジョンのある島に戻らないと行けないんですよね」
「そうなのかい?もう少し居てもいいんじゃないか?」
「いやあ、急に飛び出して来たので飛行船がそのままになってるんですよ。さすがにこれ以上放置するのはまずいです」
「そうかあ」
未だ寝転んでる俺の耳に鈴木さんと向田さんのやり取りが聞こえてくる。
あからさまにガッカリした向田さんの声色が響く。
「……もう一日居よう」
もう一日ここに居ようぜ。
「龍臣、もう一日この国に居るのか?」
「ええ?でも安田さん、飛行船そのままなんですよ」
「そうだよ安田くん、せっかくもらった飛行船なんだから大事にしないと」
京以外のみんなが反対だよ的な空気を醸し出した意見をぶつけてくる。
まあ、確かに飛行船大事だからな。
「じゃあ、鈴木さん以外で出発するか、みんなで残るかの二択」
「なんで!?なんでどっち選んでも僕は残されるの!?」
なんでもだよ。
「……安田くんがこう言ってくれているんだから、もう一日位居てはどうだろうか?」
向田さんがこっちを見ながらもう一日の滞在を進めてくる。
向田さんの視線から何かを感じるな。
この短時間で俺が向田さんの秘密知ってることバレた気がする。
やっぱ元敏腕スパイは違うな。
「もう一日滞在します。安田くんはこの国が気に入りました。パーティーメンバーみんなにそう伝えてきなさい。そこのムキムキのティーンエイジャーよ」
「ムキムキのティーンエイジャー!?自分ですか?……はあ、わかりました。伝えてきます」
東くんが何かを諦めるように部屋から出ていく。
ピンタさんとかに伝えに行ったんだな。
「……龍臣」
「んん?何かね京くん」
あれ?なんか精神がいっぱいいっぱいで博士みたいな感じになっちまった。
「……いや、まあいい」
京にも何か気づかれましたとさ。
というわけで、午後からは蟻人の国を観光することになった。
城下町をみんなでうろうろして、色んな物を見てまわる。
「こ、これは魔金糸で作られた服だわ。魔金糸はもう作れる者が居ないと言われているのに」
「む、この槍は日光十文字槍、レシピはとうに失われているはず」
城下町を見てまわり、店に入る度にカワウソの生産組が騒ぎ出している。
失われたレシピとか作れる物が居ないとかいうセリフが飛びかってる。
ああ、そういえばここは一万五千年前の悪の巨人襲来での文明崩壊から免れてるから、色々文化とかが残ってるのかもしんないな。
「さあ義くん。ここのまんじゅうは美味しいから食べなさい」
「は、はあ、ありがとうございます」
カワウソ達が騒ぐ一方、向田さんと鈴木さんはなにやらまんじゅうを食ってる。
いっぱい食べなさい。親子の団らんをしなさい。
太ったおじさんよ、もっと太りなさい。
「いやあ、安田様、すごいですよこの町は、珍しい魔法薬や、珍しい装備品がたくさんあります」
騎士団の隊長がテンション上がって話しかけてくる。
そうか、俺の鈴木さんと向田さんに対する要らないであろうおせっかいがいい方に転がったらしいな。
ちなみに金ないのにどうすんだべと思ったがみんな蟻人にお礼としていくらか貰ってたらしい。
後は外の装備品やアイテムとの物々交換とかもしてるようだ。
ここには文明崩壊前の技術はあっても、外の世界に残って発展した技術は無いだろうからな。
物々交換してる人の方が多い気がする。
「はい、どうぞ」
「うわー、ありがとうっ」
「おじさん、ありがとう」
ん?ああ、鈴木さんが蟻人やら人間の子供に甘い系の缶詰配り出したな。
おうおう、群がる群がる。
砂糖に群がる蟻のように鈴木さんのミカンの缶詰に群がってるわ。
「安田くん、義くんは外でも、ああやって食べ物を配ったりしてるのかい?」
鈴木さんを見ながら向田さんが話しかけてくる。
「……ああ、やってますねえ、新しい町につく度に缶詰ばらまいてますねえ。とあるスラム街は鈴木さんの缶詰のおかげで救われてますね」
「そうかあ」
おじいちゃんすげえ笑ってるわ。
「……安田くん、ありがとう。色々と」
「どういたしまして」
うん、もうこれ向田さん俺が色々知ってることに完全に気づいてるよね。
なんかすごい悟った目線だもの。
そして昼食、夕食をみんなで町のレストランだかで食べて、お土産盛りだくさんで城に帰る。
向田さんはずっと鈴木さんに構ってた。
鈴木さんはずっと、あ、はい、ありがとうございます。の感じだった。
近所に住んでるおじいさんにやたら構われたら大概の人は、あ、はい、ありがとうございます。になるだろうけどな。
今はカワウソの魔法の部屋の鈴木さんの部屋に俺一人でお菓子を持ってお邪魔してる。
さて、言うべきか、言わざるべきか。
うーん、鈴木さんも30半ばで今さら複雑な家族のドラマとか要らないよなあ。
どうしたもんだか。
「安田くんこのどら焼き美味しいねえ」
「うん、うまいわ、あんこがいいのかな?」
「そうだねえ、小豆から違うのかもしれないね」
確かにあんこがうまい。砂糖もいい砂糖使ってるのかもしれないが、そんな話をしに来たわけではない。
「そういえば鈴木さんさあ、妹さんいるのは聞いたけど家族構成とかあんま聞いたことないよね」
「ん?ああ、そうだねえ、そういえばあんまり話したことなかったねえ」
鈴木さんが口にあんこつけた顔でニコニコして話してくる。
「うちはあれだね、シングルマザーってやつだねえ」
うん。知ってるけどね。
「へえ、そうなんだ」
「うん、ちょっと奔放な母親でねえ、僕父親が誰かも知らないんだよねえ」
「ほえー」
あ、驚きのリアクションしようとしたら、わざとらしく、ほえー、とか言っちまった。
「んー、時々仕事で居なくなったりしてたね。まあ、総じて、一応は、いい母親?だったのかなあって思う。多分」
なんだろうな。ボーダーラインぎりぎりのいい母親だったんだろうか。
あと時々居なくなったりしてたのか。
多分それ任務じゃね?
「あのー、よろしければなんですが。ワタクシにはですね、あのー大概の疑問に答えが出せる能力がありましてね。よろしければー、あのー」
「何その言い方、僕の父親探してくれるってこと?いいよ今さら~、30半ばで家族ドラマみたいの辛いよ~。第一お酒飲んだ勢いとかでどっかの馬の骨との間に僕ができてたらすごい嫌だよ。微妙~な気持ちになるよ」
そうですよねー。
でも今日あなたその実の父親とずっと話しっぱなしだったけどね。
ほぼ、あ、はい、ありがとうございます。てしか言ってなかったけど。
「じゃあ、知りたくないのね?」
「うん」
「絶対?」
「う、うん。まあ、絶対ってほどではないけど」
「ああー、そう、そうですかー」
「さっきからなんか安田くん変だよね。いやいつも変だけど、昨日からなんか……」
お、やべ。
「いや、変ではないよ。いつも通りだよ」
「いやー、いつも変だけど、昨日から一際……なんか僕だけ残れとか言ってたよね……。……んん?」
「……」
「……」
「……」
「……」
あれれれ?
なにやら沈黙が続いてしまったよ。
「……」
おっとっとっとっと。
鈴木さんがこっちを超見てますよ~。
これはまずいかもしれないなあ。
気づかれたのかな?
気づいちゃったのかな?
「……このどら焼美味しいねえ」
「うん、うまいねえ~」
「……ずるいよねえ」
「な、何が?」
「例えばさ、自分の人生に満足したり幸せだったりする人はさ、生まれたことに感謝せざるを得ないじゃん」
「うん」
「そうしたら両親にも産んでくれたことに感謝せざるを得ないもんね」
「うん」
「僕がもう少し若ければ、感謝なんて絶対しないし、顔も見たくないとかって言い切れたと思うけどさ。僕もうオッサンだからねえ。しかも人生にそこそこ満足しちゃってるオッサンなんだよねえ……」
「うん」
「……はあーあ、このどら焼きほんとに美味しいねえ」
「うん」
鈴木さんは結局いつもの優しい顔で困りながら笑いながらどら焼き食ってた。
それから当たり障りのない会話をしてから自分の部屋に戻ってきた。
「失敗したかな~。絶対気づかれたよな」
んん?部屋の扉の横にまた用心棒がいる。
なんやねんこいつ、いつまでこの寝方すんのこの子。
「戻ってきたのか?」
お、用心棒が喋ったわ。
「んん、もう歯磨いて寝るわ」
「そうか」
そして俺は魔法の部屋に自分の歯ブラシを取りに行こうとドアノブに手をかける。
「龍臣」
「なんじゃい?」
「お前のやることは大概間違ってない。女王歴二千年の私が保証してやる。安心しろ」
うるせ。
「……寝る、おやすみ」
「んん、おやすみ」
そして朝が来て、向田さんの国から帰る時間になった。
扉がある砦に向かうのに、蟻人達が馬車みたいのを用意してくれた。
また向田さんは鈴木さんに構ってた。
鈴木さんも昨日とおんなじ対応だ。
基本あ、はい、ありがとうございます。って言うだけの近所のおじいさん対応のままだった。
もしかして気づいてなかったのかな?
そんなこんなで砦に着いた。
うちのパーティーメンバーが親睦を深めた蟻人の王族や騎士達との別れを惜しんでいる。
じゃあ、俺も向田さんにさよならしよう。
「それじゃあ、また来ますね」
「うん。扉の場所を少し下げておいたから、外は成層圏ではなくなっているからね。近々また会おう」
悪の巨人の封印された毒電波だかは封印されたまま残ってるからな。
今回のはあくまで向田さんの寿命を伸ばして封印の効果を持続させただけで溜まってる毒電波が消えたわけではないのだ。
近々ナピーナップの王族も含めてその話し合いでまた会うことになってる。
ふむ、扉の場所を移動してくれたらしい。
今は無花果の世界樹の天辺の少し上にあるそうだ。
昔は世界樹の幹のど真ん中に扉があったらしい。
そこに町があったんだそうだ。
今のナピーナップの王城があるところだろうな。
蟻人の騎士の手によって扉が開く。
まだ大分高い上空のはずなんだが、そんなに風がごうごういってないな。
ああ、蟻人の魔法使いの人が扉の横にいるわ。
なんかしてくれてるのか?
「義くん、またね」
「はい、ありがとうございます」
向田さんがニコニコしながら鈴木さんを見てる。
「……あのー、これどうぞ」
鈴木さんがなにやら紙袋を向田さんに渡す。
「んん?なにかな?」
「パイナップルの缶詰です。昔母が向田さんのマッサージ屋に持って行ってたのを思い出しました」
「おお、ありがとう。うん、好きなんだよパイナップルの缶詰」
「……よかったです」
「うん、ありがとう」
おじいちゃんがめっちゃ嬉しそうに笑ってる。
「……お身体に気をつけて下さい。また来ます」
「うん、うん。いつでも来なさい」
「では、また」
「うん、また会おう義くん」
まんじゅうに抱えられながら扉から出る。
向田さんが俺の方を見てる。
めっちゃ頭下げてきた。
「龍臣、大概間違ってないって言ったろ」
京がなんか言ってるわ。
うるさい。こっぱずかしい。
「さよならーっ」
「余は王様になるからーっ」
「ばいばーい」
子供組の別れの言葉が響く中で、鈴木さんはずっと向田さんを見てた。
さて、後は鈴木さんの複雑な家庭環境は鈴木さんの想像してるであろう昔の家族ドラマみたいな絡み合った人間関係的な事情じゃなくて、蹴ったり殴ったりのスパイアクションの秘密工作員的な事情で複雑だってことをどうやって伝えるかだな。
まあ、小出しにしておいおい伝えようかな。




