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第二章 13話 向田さんの家。

「……んん?」


 あら?どこだここ。

 ……ベッドだな。

 なんで俺ベッドで寝てんだ?

 なにやらやたら広くてきらびやかな部屋にいるし。


「起きたか龍臣」


「安田さん大丈夫ですか?」


「先生っ、大丈夫ですか!?」


 んん?京と東くんとピンタさんがベッドの近くにいる。


「俺なんでベッドで寝てんの?そもそもどこここ?」


 最後の記憶は向田さんを殴ってるとこで途切れてる。


「城の客間だ。龍臣はなにやら向田のじい様を治した途端に気絶したらしいぞ。蟻人の王族がそう言っていた」


「まあ、すごいスキルでしたからね。なんか反動みたいのがあったんじゃないですか?自分の居たとこにも光ってるの見えましたもん」


「私達も中庭から光が見えましたよ」


 まじでか、そんな反動とかあるスキルだったっけか?

 あ、ベッドの横にある机に鑑定眼鏡あるな。

 ていうか眼鏡の横に見慣れた白い宝箱あるわ。

 ぐうぐう寝てるな。今日のMVPのまんじゅう選手。



鑑定結果


疲れてたところにすごい光がチカチカしてたので気絶しただけです。

スキルの反動でもなんでもありません。



 まじかよ……。

 チカチカしてて気絶するってなに?

 我ながら軟弱過ぎないかい?


 ……この秘密は墓場まで持っていこう。


「スキルの反動はすごかったようだ。ところで向田さんはどうなった?」


 さっさと話題を切り替えよう。


「……ん?ああ、きっちり元気になってたぞ。私が見た限りホントに若返ったのか疑問に思うレベルのじい様だったが」


「確かにおじいちゃんでしたねえ。でも元気でしたよ」


 ああそう、元気になったんならよかった。


「怪我人とか、まさか死人は出てないよな?」


「大丈夫です。パーティーメンバー達はみんな無事で、この国の騎士達に何人か怪我人が出ましたがすでに治療も終わっています」


 あ、怪我人出ちゃったか、まあ、しょうがないな。


 ていうか、これ何時間経ってんだ?


「俺どれくらい寝てた?」


「だいたい6時間位か」


 んーと、朝ダンジョンにいて、それから半日、約六時間かけて向田さんを殴りに来たんだから……。

 今はもう夜か、ああ本当だ。

 夜の八時半。高そうな柱時計で確認した。

 部屋のカーテン閉まってるからよくわからんかったわ。

 あ、ていうか。

 京、ピンタさん、東くん……。

 おいおい俺のお気に入りの太ったおじさんが居ないじゃねえか。


「鈴木さんは?」


「鈴木は向田のじい様とパーティ会場にいるぞ、復活祭だかなんだかだそうだ。義くんとか呼ばれてたな」


 ああ、鈴木さんと向田さん知り合いらしいからな。

 さて、じゃあ俺は……。


「よし」


「もう大丈夫なんですか?安田さんもパーティー会場行きます?」


 東くんがパーティーに誘ってくる。


「いや、寝る」


 もう、元気でピンピンしてるけどもう一回寝るわ。


「え?寝ますか?」


「寝ます。俺睡眠のサイクルが狂うの一番嫌いだから」


「ああ、サイクルがね……そういえば前に徹夜したときもずっとぶつくさ言ってましたね」


 今無理矢理寝て、ちゃんと朝起きる生活を維持したいの。

 今もし起きたら、多分朝方に寝ることになるから嫌なのよ。

 朝方に寝て昼に起きる生活だと頭ボーッとするんだよ安田さんは。


「うん。そうか、世界樹のある国を救ってこの国の神様みたいな存在を救って、今もパーティー会場でみんな龍臣を今か今かと待ってると思うが、寝るんだな」


「寝る」


 京が嫌な言い方をしてくるが、俺の断固たる意志は揺らがない。


「……ふふふ、そうか、ではゆっくり寝ろ。いくぞ東、ピンタ」


「え?いいんですか?」


「無理だ。龍臣は食い物と睡眠に関しては滅多に妥協しないのだ。無理矢理邪魔をするとものすごい怒る。龍臣は欲望に超忠実なのだ」


 俺のことをよく知ってるヤツがいる。


「……まあ、安田さんらしいと思いますよ」


「ええ、先生らしい」


 東くんとピンタさんが変な感じで納得している。


「じゃあ、私たちはパーティーに行くぞ、私はすぐ戻って来るからな龍臣」


 ……なんで?


「別に戻って来てもいいけど、俺が起きないように細心の注意を払って戻ってきて」


「わかった。細心の注意を払おう」


「……なんなんですかこのやり取り。もう行きましょうよ」



 そして、部屋に一人になった。

 よし、寝るぞ。

 八時間寝たあとにもう一度寝るのは中々の苦行だが頑張ろう。


 羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が……。


「……すー、ぴー、すー」


 わりとすぐに寝れた。














 ……はい、起きました。


「無理くり寝たんだがけっこう寝れたな」


 柱時計の短針は四時、早朝の四時半だ。

 まんじゅうはまだ寝てるな。

 ……うん。鑑定しても異常は無し。まんじゅうホントに疲れたんだな。


 しかし俺六時間寝て、その後八時間寝たわけか。

 ……十四時間寝ちったか。へへへ。


 なんだかよくわからないへへへが出たところで布団から出る。

 ……んん、でもどうするべ。

 蟻人の城見てみたいけど朝の四時にうろうろするわけにもなあ。


「……ええ?」


 部屋のドアを見て止まってしまった。



挿絵(By みてみん)



 ………………あ、寝てんなこれ。

 いや確かに起きないように細心の注意を払ってとは言ったが、なんでこんな時代劇の用心棒みたいな寝方してんのこの子?


 ……どっから持ってきたのこの刀。


「……ええ?」


 あまりに訳がわからず思わず二回目の、ええ?が出てしまった。

 いや少年漫画のラブコメみたいに「こいつなんで俺の布団で寝てんだよ?」みたいなお約束は要らんが、こんな用心棒も要らんよ。

 なんだこの威圧感、すごい頼もしいわ。


 見た限りこの部屋には豪華なベッドが3つとでかいソファーが4つ位ある。

 いやだからこそなんでこんなところで寝てんの?って話なんだけどさ。

 うーん、ベッドに運んでやった方がいいかな?


 ……あ、ダメだわ。

 なんか間合いに入ったらぶった斬られそうだわ。

 変なオーラを感じる。


「……どうすっかな?」


 ……あ、ベランダがあるわこの部屋、ベランダ出よう。

 ゆっくり音をたてないように窓を開けて外に出る。

 お、サンダルがある。どっかのホテルみたいだ。

 うん、少し肌寒いがいい空気だ。

 広いベランダだなあ。

 王城の高いとこにある部屋らしく町を一望できる。

 まあ、まだ薄暗くて景色としては微妙だが。


 そういや薄暗いとか言ってっけど、ここなんで太陽あんだ?

 異空間だと思ったけど。



鑑定結果


向田さんが作りました。



 まじでか、すごいな向田さん。


 そとをボーッと眺めてると、城の上の方になんか見えた。

 なんだあれ?なんか飛んでるわ。

 あ、あれは向田さんだな。変な雲みたいのに乗って飛んでる。

 ヨボヨボのおじいちゃんが雲に乗ってると仙人にしか見えないな。

 あ、こっちに気づいたのか向かってくる。


「おはようございます。君が安田くんかな?」


 雲に乗ってる仙人にナチュラルに朝の挨拶をされてしまった。


「おはようございます。一応始めまして、安田龍臣です」


「うん。始めまして、向田千豊です。助けてもらったそうで、本当にありがとうございます」


「いいえ、元気になれたようでよかったです」


「義くんやメダカ達から色々聞いたんだよ。本当に迷惑をかけたようで申し訳ない」


 義くん……ああ、鈴木さんか。


「まあ、困った時はお互い様ってことで」


「うん、ありがとう。起きてしまってね。散歩にいこうと思うんだが一緒に行くかね?」


 老人が朝早いのは異世界でも不変の法則らしい。

 ああ、向田さん日本人か。

 ていうか散歩って、どうすればいいの?


「ほら、後ろに乗りなさい」


「これ乗れます?」


 恐る恐る向田さんの雲に乗る。

 お、ふわふわ。


「うん、では行くよ」


 向田さんと俺を乗せた雲が城下町の方に飛んでいく。

 結構早い。


「この雲は昔とある森で見つけたんだよ」


 森で?これアイテムなのか。


「これからメダカ達が居た仕事場と松のある庭を回収しようと思うんだよ」


 ああ、一万五千年前にバラバラになったとかって言うあれな。

 ていうか回収ってどうやってやんの?

 ていうか回収できるとして一万五千年の間にできなかったんか?


「できなくなったんだよ。一万五千年前から」


 顔に出てたかな?

 俺が心に浮かべた疑問に向田さんが答えてくる。


「世界を守ろうとしていたんだか、失敗してしまって、それからスキルがあまり言うことを聞かなくなってしまった」


「言うことを聞かなくなったんですか?」


「うむ、ワシが思うにね。勇者のスキルは気持ちが大事なのだと思うんだ。気持ちが折れてしまうとまともに使えなくなる」


 マジでか。


「ワシは世界を救えず気持ちが折れてしまった」


「今はできるんですか?」


「できる。君達に元気を貰ったからね」


 そんなのあげました?

 鉄拳あげたのは記憶に新しいけども。


「よし。目的地だ」


 目的地?あ、昨日の外の世界に繋がる扉ある砦じゃん。


「主様っ」

「主様っ」

「よくぞ、お戻りくださいましたっ」


「うん、みんな元気だったかな」


 砦からたくさんの蟻人と人間の兵士が出てくる。

 向田さんが砦の人々を労ってる。

 みんな泣いてる……のかどうかわからんが蟻人の触角がすごい回ってる。クルクルしてる。

 こういう感動の仕方?

 ちなみに人間の兵士は普通に泣いてる。


 そしてかしこまった兵士達に扉の部屋に案内された。

 俺たちが外の世界から入ってきた扉がある部屋だ。

 向田さんが扉に手をついてなにやら目を瞑った。


「ぬぬぬ、ぬぬぬぬ、きえいっ……ふう。よし終わり」


 ……マジで?

 きえいっつっただけで?


 ん?部屋の外が騒がしい。

 なにやら砦の兵隊達がなんか言ってる。


 部屋から出て窓から外を覗くと、砦の周りが緑色になってた。

 砦の周りに生えた草に見覚えがある。

 これメダカ達のとこの水草の森だわ。

 本当にきえいっ、つっただけで回収したんだな。


 向田さんと一緒に外に出ると、砦の右側が水草の森で反対側が砂漠みたいになってた。

 砂漠をよく見ると、木が一本生えてる。

 ああ、あれがもう一つの世界樹の松の木か。

 バラバラになったらしい家の部品?を全部回収したことで向田さんの家がまた一つになったのか。

 いやまあ、そもそも地球にあった家の形ではないんだろうが。


「ワシの能力は自分の領土内なら好きにできる力なんだよ。家の土地を広げたり、太陽作れたりね」


「マジで?」


 思わずマジでが出ちゃったよ。


「でもやっぱり色々制限があるんだ。気分次第でできることの幅が変わってくるんだよ」


 なるほどな。なんでもできるような気持ちならなんでもできるけど、気持ち折れると思いきり制限かかるみたいな感じか。

 まあ、そうじゃなかったら一万五千年も成層圏にいないわな。


「よし、安田くん、帰る前に少し松の木にあいさつしたいんだがいいかな?」


 向田さんは松の木に挨拶したいらしい。


「どうぞどうぞ」


 また雲に乗って向田さんと砂漠まで飛ぶ。


「じゃあ、ちょっと行ってくるから」


「どうぞー」


 向田さんが砂漠に降りて松の木に近づいていく。

 一緒に来るかと聞かれたが遠慮した。

 一万五千年ぶりの感動の再会を邪魔するのは野暮だし、なにより見た感じただの松の木に興味がないのでね。




「……ごめんごめん長くなってしまった」


「いいえー、お構い無くー」


 お土産もらったおばちゃんみたいな返しになってしまった。

 向田さんは松の木に手をついてじっとしてるだけだったが、あれでよかったんだろうか?

 あれでよかったのならなおのことついていかなくてよかった。

 松の木に手をついているおじいちゃんをずっと凝視してるだけの謎の時間になるところだった。


「じゃあ、城に帰ろう」


 もう、完全に日が上ってる。まあまだ大分早いからみんな寝てるかな。


 向田さんの雲に乗って景色を眺める時間再開だ。

 あ、そうだ。向田さん地球人神様進化のこと知ってんのかな?


「向田さん、地球の人間全部異世界に飛ばされて神様になったって知ってます?」


「ええ!?神様?、ワシらは神様になってたの?勇者は死なないってことは知ってたけど」


「あ、それは知ってるんですね」


「うん、うちの裏に住んでた田辺さんがね。一度この世界で会って、まあ死んじゃったんだけどね。なんか他の世界で生まれ変わったとかって連絡がきてさ、その後も生まれ変わる度にずっと連絡来てる」


 まじかよ。

 生まれ変わる度に連絡来るってなに?

 新盆の度に連絡入れるからよろしくね。みたいなこと?

 聞けばその田辺さんは電話みたいな能力を持ってたらしい。

 このての話は毎回壮大なんだか、何なんだか微妙になるね。


「じゃあ向田さんは若返ったりできることも知ってるのにわざとおじいちゃんのままでいるんですか?三万年も」


「そうだねえ」


「ヨボヨボなのに?」


「そうだねえ」


「ハゲてんのに?」


「そうだねえ」


「楽しいことなにもないのに?」


「うん、あるからね。おじいちゃんはおじいちゃんなりに楽しいこと結構あるからね」


 そうかあ、俺おじいちゃんになったらボーッとしたまま朽ちていくんだと思ってたなあ。


「安田くん、君は老人に謎の偏見を持ってないかい?」





 そして向田さんの雲に乗って城に帰ってきた。

 あ、俺の寝てた部屋のベランダに下ろしてくれるようだ。


「では安田くん、朝食でまた会おう」


「はいはい、朝食で」


 雲で上に昇ってく向田さんを見送ってから部屋に入ると、時計は7時を回ったところだった。


 まんじゅうは起きたようだ。

 俺ん家の魔法の部屋の扉が壁に設置されてるのが見える。

 多分部屋の中で顔洗ったりしてるはずだ。

 俺もそうしよう。

 頭に手を当てて始めて気づいたけど寝癖とかすげえわ。

 えー、俺これで人前出ちゃったのかよ、はずかしすっ。


 ……まあ別にいいか。

 あ、あとあの吸血鬼用心棒は……。

 まだ寝てんな。

 ずっと扉の前に座り込む用心棒ポーズで寝てるわ。

 さすがにもう起こそう。


「京、京起きろ」


「……むにゃむにゃ、もう龍臣、ホヤばっかり食べるなよ、もっとピータンを食べろ、むにゃむにゃ……」


 ええ!?

 嘘だろ……こんな臨戦態勢の達人みたいな寝方してる癖に思いきり寝ぼけてやがる。

 信じられない。

 あと食べ物のチョイスにエッジが効きすぎてる。

 ホヤはあんま好きじゃないし、ピータンも食ったことない。

 ……なんだろう、昨日のパーティーに出たのかな。

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