第二章 10話 ダンジョンの中でマッサージ屋か、儲かるビジョンが見えないな。いや、ワンチャンあるかな?……いやないな。
ストックが切れたので、次回からゆっくり更新になります。
うーん。
俺は鑑定結果で向田マッサージ店の入り口だという穴を見つめている。
「安田くん、どうしたの?」
一つの穴を見つめ続ける俺を鈴木さんが不審に思ったのか話しかけてきた。
「うん。どうやらね。この穴は向田マッサージ店の入り口らしいよ」
「…………………………は?」
三点リーダー10個分くらい沈黙してしまった鈴木さんに俺は鑑定結果を説明する。
といっても、向田マッサージ店の入り口です。としか結果がでないんだが。
パーティーメンバーやら騎士団のみんなもなんだなんだと集まってきた。
「……向田マッサージ店というのは結局なんなんですか?」
騎士団の隊長が根源的な質問をしてきた。
まあ、マッサージ店とか言われてもな。
説明していいんだろうか?
そもそもあの世界樹が向田さん家のいちじくの木だってことも知ってるんだろうか?
いや知らねえだろうな。二万年前の話だからな。
うーん。まあいいか。
「向田さんっていうのは二万年前にこの世界に来たおじいちゃん勇者だよ。ちなみにあの世界樹はその向田さん家の庭に植えてあったいちじくの木」
「え!?」
「なんだって」
「勇者、二万年前だって……」
騎士団の人達がみんな絶句している。
まあそりゃな。二万年とかスケールでかすぎよね。
ん?隊長はなんかリアクション違うな。
「……昔父に聞いたことがあります。我々の祖先は大陸より追われ海を漂流し、この辺りの海域のなにもない島々に散り散りになったと、飢えと渇きに苦しむ我々の祖先は一人の救い主により世界樹を与えられ、豊かな実りと住む場所を得たと。世界が一度滅んだと言われる悪の巨人が出す破滅の光からも世界樹は我々の祖先を守ってくださったと、その話は簡略化されて今もこの国に残っています」
「悪の巨人、あれはただの昔話じゃ」
「神話だ」
「嘘だろ、じゃああれ本当の話だったのか?」
ああ、そういや世界樹信仰だかなんだかとして残ってるとかって前に見たな。
八十過ぎのおじいちゃんらしいが、向田さん結構なことしてるな。
はっちゃけたじいちゃんだったんだろうか。
「なんか鈴木さんの知り合い、結構大したことしてるようだね」
「う、うん。僕は人当たりのいいおじいさんって印象しかないけど……」
「して、先生いかがしますか?私あの穴に入ってみましょうか?私たちカワウソなら狭い穴のなかでもある程度動けますし」
ピンタさんがなにやら穴に入ろうとする。
そんなんされたらもう巣に帰るカワウソにしか見えなくなるわ。
「いや俺が行くよ。せっかくだしどんなんだか見たいわ」
「おい龍臣、危なくないのか?私が行ってもいいぞ」
急に京がでばってきた。
あの穴の狭さじゃお前じゃ無理だろ。
正直勇者勢であの穴に入れる体型なの多分ひょろい俺だけだろう。
ふくよかなオジサン丸出しの鈴木さんはもちろんガチムチ筋肉の東くんも無理だし、体の一部が素敵に出っ張ってる京も無理だろう。
「俺が行く。入り口とやら見たいし、まんじゅうも一緒だから大丈夫」
リンリンリン。
え?僕も行くの?のリンリンリンだ。
行ってもらわないと困る。
俺のスタンドことまんじゅう。
というわけで、穴に入ることになった。
体にロープを結んで命綱にしようって案も出たが、まんじゅういるから大丈夫って断った。
まんじゅうのマジックハンドは伸びるし、まんじゅうは浮いてるから大概のことは大丈夫だ。
穴に入ってほふく前進でずりずりと進む。
ずりずりずりずりずりずり進む。
ずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずり。
ずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずり。
ずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずりずり……。
「長いわっ!!馬鹿じゃねえの!!」
「……なんか……言ったかー……」
すごい遠くから京の声が聞こえる。
ええー、なにこれ、数百メートル位進んでんじゃねえの?
もう嫌だこれ、閉所恐怖症になりそう。
はあ、もう、どうするべ。
あ、奥が見えてきた。
あれ?行き止まりなんだけど。
ん?なんかある。
あ、宝箱だわ。
「まんじゅう、宝箱あるぞ」
リンリンリン。
ほんとだっ。早く救出しないとっ。
のリンリンリンだ。
うん。意味わからん。
まんじゅうの宝箱に対する仲間意識はさておき鑑定しよう。
ダンジョンの宝箱に罠とか定番だしな。
鑑定結果
特に罠等はありません。
中身はミンミン玉です。
アイテム名 ミンミン玉
分類 アクセサリー
レア度 C+
価額相場 600000G~700000G
効果及び説明
このダンジョンの最下層にいる魔物、魔水巨大蝉のスキルである超音波を無効化できるアイテム。
やったっ。
ここのダンジョンのボスに有効なアイテム手に入れたぜっ。
……うん。
要らん。
そんな予定ないからね。
時々あるけどね。ダンジョンの中でそこのボスに有効なアイテム拾えるみたいなね。
じゃあまあ、魔法の袋に宝箱ごと入れてと。
ていうかなんだこれ、向田マッサージ店の入り口なんてないやんけ。
損したわ。
おいおいウルトラ鑑定とうとう嘘までつきはじめたのか?
「まんじゅう一回戻ろう。出口まで引っ張ってくれ」
リンリンリン。
了解のリンリンリンだ。
まんじゅうつれてきた甲斐があったな。
この狭い穴の中でも謎の力で浮いてるまんじゅうなら俺のこと一気に引っ張って出ていける。
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザっ!!
「あいだだだだだだっ」
しまったっ。
強引に引きずられて行く痛みを計算してなかった。
穴のなかひっくり返ったりしながら引きずられる。
ああ、服ボロボロだわ。
ああー、今度は仰向けになったー、後頭部いたーい。
あ、明かりが見える。
出口だわ。
……ん?……あっ。
「だ、大丈夫か龍臣」
ボロボロになった俺を京が心配してくれる。
「大丈夫、ボロボロだけども」
ちょっと、もう一回穴に入らねば。
「ちょちょ、安田さんなにしてるんです?もう一度入るの?」
穴に入ろうとする俺を東くんが止めてくる。
「うん、ていうかね引きずられて仰向けになったから気づいたんだけどね。穴に入ってすぐのところにちょっと見つけたのよね」
「……何を見つけたんだ?」
ちょっとそれを確かめたい。
今度は仰向けになりながらもう一度穴に入る。
あ、やっぱあったわ。
穴に入って50センチ位のとこにあった。
やっぱインターホンだわ。
ご丁寧にご用の方は押してくださいシールまで貼ってある。
「安田くん、なにかあるの?」
鈴木さんが心配そうな口調で話しかけてくる。
「インターホンある」
「……ほんとか龍臣」
「うそでしょ?洞窟の狭い穴の中に?」
入ってすぐのちょっと窪んだ天井にあるから見えないんだな。
誰も魔物がいる穴に入ろうとなんてしないだろうし、入るとしても間違いなくほふく前進して入るから気づきにくいんだろう。
よし。とりあえずウルトラ鑑定。
鑑定結果
別に押してもいいですよ。
あと嘘なんてつきません。
ざっくりした鑑定結果出たな。
ていうかへそ曲げたな。
「よし、じゃあ押すから」
「まてまてまてまて龍臣、押すな押すなよ」
「そ、そうだよ安田くん、ノータイムで押すって選択肢は一番無いからね」
「そうです。やめてください安田さん。ちょっとは考えて生きていきましょうよ。あなたの生き方行き当たりばったりすぎる」
勇者勢からの反対がすごい。
東くんなんて俺の人生をだだそうとしてきている。
えー、すごい押したいんだけど、絶対おかしなことになんてならねえって。
「大丈夫、鑑定結果で押してもいいって出てるから」
「ええ!?なにそのざっくりした鑑定結果」
ちょっとへそ曲げちってさ。
「ダメですよ安田さんっ。あなたのその能力不思議なこと起きすぎですよ」
東くんがさとしてくる。
でも間違ってたことなかったろ。
もうね。こっちは数百メートルほふく前進させられた上に服ボロボロになってっからね。
もう、これからみんなで話し合いしてとかそんなんめんどくさいんだよ。
「でもインターホンって押すもんだよ。押す以外の機能ないでしょ」
「その機能しかないからこそ押すなと言ってるんだ。押すなよ龍臣絶対押すなよ」
押すなよ押すなよ言うなよ。
フリかと思っちゃうだろ。
「安田くん押したらダメだよ。とりあえず出てこようか」
「そうです。インターホンについては後からみんなで話し合って色々考えましょう」
「……もうわかったよ。今出てくから」
ポチっとな。
ピンポーンっ。
あ、音鳴ったわ。
「押したなっ!!龍臣お前今押したろっ」
「安田くんっ、なんで押しちゃうの!?」
「安田さんっ、いい加減ひっぱたきますよっ」
勇者勢のブーイングがすごいな。
いやぶっちゃけみんなでどんなに話し合いしても、早いか遅いかだけで多分普通に押すことになってたって。
安田くんにはそういう妙な確信があります。
時間無駄にして他の誰かが押すくらいなら一番レベル高い俺が今押した方がいいって。
「大丈夫だって、ほら、特になにも」
ガシャコンッ。
あら?今背中の方で嫌な音しながら、背中に感じてる地面の感触が消えたな。
「!?、龍臣っ」
ガッ。
急にできた落とし穴に背中から落っこちそうになった俺を京がキャッチしてくれた。
おお、セーフ。
「だから言っただろう。そんな意味不明なインターホン何があるかわからん」
俺の足を掴みながら京がほっとした口調で話しかけてくる。
ん?
あれ?なんか、体がちょっとずつ落とし穴に落ちてってるような。
「なんだ?龍臣、早く出ろっ」
異変を察知した京が焦って訴えてくる。
あ、無理だわ。なんか吸い込まれてるわこれ。
「あ、京なんか吸い込まれてるから手離せ」
「なに言ってるっ、早く出てこいっ」
あ、足を掴んでる京も上半身が穴に入ってきてる。
「イダダダダっ、おっぱいがひっかかるっ」
ああっ、素敵な出っ張りがっ。
素敵な出っ張りが穴の出口にひっかかってるっ。
「京っ、早く離せって」
その素敵な出っ張りは大事にしなさいっ。
「嫌だっ絶対離さんっ、お前とは二度と離れないっ」
「このタイミングで妙な告白するなよっ、それ絶対今じゃないからっ、インターホン落とし穴の場面で言うセリフではないだろっ、もっとシリアスな時にやってくれっ」
スポッ。
あ、京の体がとうとう穴に全部入ったっ。
「危ないっ、イダダダダっお腹が、お腹がひっかかるっ」
ああっ、今度は鈴木さんのお腹がっ、お腹の脂肪がっ。
スポンッ。
「イダダダダっ肩が肩が引っ掛かるっ、肩持ってかれるっ」
ああっ東くんの肩がっ。
「イダダダダっ」
スポンッ。
「イダダダダっ」
スポンッ。
「イダダダダっ」
「イダダダダっ」
「イダダダダっ」
スポポポポポポポポポポポポポポポンっ。
ああっ、結局カワウソ達も騎士団もみんな穴に吸い込まれた。
やべ、思ったより大惨事になってしまった。
これめっちゃ怒られるわ。
どうしようかな。
ホントに後でめっちゃ怒られるなこれ。
京が助けてくれようとしたからこの連鎖事故に繋がったわけだから、「誰も助けてなんて言ってねえだろっ」っていうツンデレ主人公っぽいセリフ吐いたらどうにかなるだろうか?
……思いきりぶっ飛ばされるな。
これは土下座かな。
ザーーーーーーーーーーーっ。
俺が変な思考に陥っている間に落とし穴は角度が段々上がってきて、アドベンチャー物にありがちな滑り台になってたらしい。
落ちたときのポーズのまま仰向けに滑らってるから他のみんなが後から滑って来てるのがよく見える。
鈴木さんと東くんのひきつった顔に、女性しかいない東くんパーティーの女性特有のキャー的な悲鳴、騎士団の人達のこれもう死ぬわ的な諦めの顔、カワウソ大人達はみんな肝が座ってるのかフラットな顔してる。
そして最後方にいる子供達のキャッキャッした楽しそうな顔が見える。
ほぼ一緒に落ちた京はやたら力強く抱きついてくる。
ちょっとやめてくんない?
押し付けてくる出っ張りが素敵でなんかパヤパヤしちゃうだろ。
「安田さんっ、後でげんこつですからっ絶対げんこつですからねっ」
滑りながらも東くんの叫びが木霊してる。
後でげんこつされるらしい。
甘んじてされましょう。
ドザーーッ。
なにやら滑り台の終着点に着いたようだ。
……明るいな。
薄暗いダンジョンにいたから目が馴れない。
「……おお、これは」
「なんだここは」
「外か?」
だんだんと目が慣れたみんなが周り見てビックリしている。
ふむ、なんだろうなここは……。
なんか草が生い茂ってる山ん中みたいな。
なんだろうなこれ?
変な木?がたくさん生えてる。
どこだべここ、ああ、マッサージ屋か。
いやマッサージ屋か?
どこにマッサージ要素ある?
「お客人かな?」
ん?なんか声が聞こえたぞ。
え?どこ?
周りのみんなも辺りを見渡してキョロキョロしている。
「ここじゃよ、ここ」
ん?……?
あっ、なんか目のはしにチカチカするものが、……え?
あ、メダカだわ。
メダカが俺の目線位のとこ飛んでるわ。
ちっちゃ。
え?今こいつが喋ったの?
名前 ササダンゴ ♀
年齢 23541才
職業 メダカを超えた何か
種族 アオメダカ族
レベル 47
HP 308/308
MP 412/412
STR 128
AGI 150
VIT 102
INT 183
MND 150
DEX 203
装備
無し
所持スキル
念動力レベル5
隙間空間
環境管理
説明
おじいちゃん勇者向田が仕事場で飼っていたメダカ。
一匹103円。
名前は向田の好きな和菓子からとられている。
その辺に似たようなのがあと20匹位居ます。
二万年生きてるメダカ発見したわ。
103円で買ったメダカでも二万年も生きてると飛べるようになんの?
「……あ、そういえば向田のおじいさんのマッサージ屋に水槽置いてあった気がする」
鈴木さんが日本に居たときの向かいにあったマッサージ屋の内装を思い出したらしい。
……あっ、そっか水槽だわ。
ここにある変な木みたいなの、金魚とかの水槽とかに入ってる水草だわ。
……あれ?確か地球の植物って異世界くると、鈴木さんのサボテン、トゲ蔵一号みたいに……。
つうことは、これ全部世界樹か?
「1000年近くぶりのお客だねえ。歓迎しよう」
おっと二万年生きてる103円のメダカに歓迎されたわ。




