4. 14→264
国を出てから10分ほど歩いたところで周りを見回す。人間も魔物もいない。ここなら誰にも見られないだろう。
俺はおもむろにスマホを取り出しステータスのページを開いた。装備を変えたことによるステータスの変化の具合が気になったのだ。
HP 24/24
MP 15/15
攻 14+250
防 10+50
早 11
これはつまり、通常の攻撃力が14で、武器によって更に250の攻撃力がぷらすされたということか…。…250!?思わず目を疑う数値だ。原作では最強クラスの武器を装備しても+150程度だったはず。それを遥かに上回っている。素の攻撃力と合わせて、計264。これだけの攻撃力があれば、チュートリアルの時のように、LV.1のスライムに負けるようなことはないだろう。
なんてことを考えていると、丁度茂みの動く音が。茂みからはスライムがぴょこっと飛び出してきた。
敵のレベルは5。チュートリアルで戦った奴より、4もレベルが高い。初日にこいつと遭遇していたら、やられるほかなかっただろう。だが今はこいつがある。
俺はスマホをポケットに再度しまった後、マリルから受け取ったミスリルの大剣を抜き…瞬時にスライムの体を切り裂いた。
…手応えさえ感じなかった。この剣を前に、スライムは為す術もなく地面に崩れ落ちた。
流石は攻撃力250。LV.5程度の雑魚なら、相手にならないか。
『テンテレテレテテーン!』
「うわっ!?」
やたら大きな電子音が鳴り響く。同時に、ポケットのスマホが激しく振動していたので、急いでスマホをポケットから取り出した。
『ミッションクリア!:敵を一体倒す +100ポイント』
画面にはこのように表示されていた。敵を倒した数によって達成されるミッションの一つが、今達成されたのだ。まあ、それはいいとして…。
(通知音うるさ!)
ヘルプには、『ミッションを達成したり、レベルが上がったりすると通知音が鳴る』といったことが書かれていたのは知っていたが、こんな無駄に音が大きいとは思わなかった。とりあえず通知音は切っておくことにしよう。
「ん…?」
通知音を切り終えると、獰猛な、猛獣のような唸り声が耳に入ってきた。嫌な予感を感じながら顔を上げると、魔物、魔物、魔物…。魔物の大群に囲まれていた。
さっきの馬鹿でかい通知音に反応して集まってきたのか。熊などに遭遇した時には、大きい音を出すと効果的だといったことを聞いたことがあったが、こいつらは逆に寄ってきた。なんて血の気が多い奴らなんだ。
でも、丁度いいかもしれない。こいつら全部倒せば、SCOREも増えて、レベルも一気に上がるかもしれない。さっきのスライムはLV.5だった。従って、こいつらも大したレベルじゃない可能性が高い。
俺は剣を構え、魔物の軍勢へと切り込んでいった。
◇
予想どおり、大したことない奴らだった。
「さてと…」
レベルとSCOREを確認してみるか。
『LV.3』
3か…。もう少し上がっていてほしかったが。原作なら10ぐらいにはなっていたと気がする。多分、原作よりもレベルは上がりにくく設定されているのだろう。
では次にSCOREだ。
『現在のSCORE:602』
途中、魔物を10体倒すミッションによって、500ポイントはプラスされていた。最初のミッションで得た100ポイントと、次に得た500ポイントで、計600ポイント。実際のSCOREから、ミッションで得たポイントを引くと…。2ポイントだ。
魔物を討伐すればSCOREは増えていく…といったことが書かれていた気がするが、結果的にあれだけの数を倒しても2ポイントしか増えていない。レベルの高い魔物ならまた違うのかもしれないが…。これではひたすら魔物を倒してSCOREを貯めるのは難しい気がする。積極的にミッションに取り組んでいく必要がありそうだ。
個人的には、まず一回分。ガチャをできるポイントを用意したい。そうすれば、どんな窮地に陥っても、なんとか助かることができるはずだ。
確か、ボス的な奴を倒せば、ボス撃破ボーナスとして多量のポイントが手に入るんだったな。なら、まずはそいつを探しにいくか。ボスといえば、洞窟や地下の最深部に構えているイメージがあるが…。
とか考えていたら見つけた。見るからに何かいそうな巨大な洞窟を。
「……」
それっぽい場所ができるだけ早くに見つかればいいなーとは思っていたが、こんな直ぐに見つかるとは。実際に目の当たりにすると、緊張し、不安を覚えてしまう。最強装備を持っていても、このレベルでボスに勝てるのかと。
でもまず一回だけ入ってみるか。洞窟内の雑魚のレベルを見れば、ボスの強さも大体把握できるだろう。この洞窟に挑むのはまだ早いと思ったら、直ぐに外に出ればいい。
とまあ、甘い考えかもしれないが。入るだけ入ってみよう。時には思い切った行動も必要だ。
「……」
暗い。が、何も見えないほどではない。とはいってもこの暗さだと段差などで躓きかねない。慎重に進もう。
というか、ただ進むだけなら大して苦もないが、ここで魔物と対峙することになってしまうと、かなり厄介じゃ…。
「シャー…」
とか考えていた矢先だった。でかい蛇のような魔物が躍り出たのは。
まず、何と言ってもその大きさ。下手したら丸呑みにされてしまいかねないほどだ。全長にしてみれば、軽く10メートルは超えてそうだ。
蛇とかただでさえ怖いのに、こんなサイズのやつが現れるなんて…。
異世界ツールを起動させる。
『ポイズン・モンスター:LV.30』
直訳すると、毒の怪物…。異常にシンプルな名前だが、そのシンプルさに逆に恐怖を煽られる。
しかも、相手のレベルは30だ。対してこちらのレベルは3。10分の1のレベルしかない。やはりこのダンジョンは後回しにするのが得策か。
と判断したはいいが、足が動かない。恐怖ですくんでいたわけではない。物理的に足に何かが絡み付いていたからだ。
それは蛇の尻尾のようだった。気づかぬ間に、背後から、尻尾を足に巻きつかせていたのだ。
逃げられない。つまり、戦うしかなくなった。
背負った剣に手をかける。それとほぼ同時に、蛇の頭がこちらに迫ってきた。
間に合うか…!?俺はそのまま剣を勢いよく振り下ろした。
「……」
一瞬、何が起きたかわからなかった。俺の服についていたのは大量の血。顔にも飛び散っていたようで、所々生暖かい感触がする。
おそるおそる下を見下ろすと、あったのは血塗られた蛇の頭だった。口を開いたまま、ピクピクと痙攣している。
勝ったのは俺だった。
ドサッと体が後ろに倒れる。正直怖かった。が、なんとか事なきを得た。この剣本当にすごい。改めて感心する。
とりあえず休みたい。いや、こんないつ襲われるともわからない場所で休めるのか…?一旦外に出た方がいいか…。
そう考え、重い腰をゆっくりと持ち上げたその時。
『…けて…』
「ん…?」
『…すけて…。助けてください…!』
それは助けを求める女性の声だった。耳に残ってしまうほどの、麗しい声であった。
が、直接耳に聞こえているというよりかは…。なんだか妙な感覚だ。これもテレパシーというのかもしれない。
とにかくわかることは、誰かが、助けを懇願してしまうような窮地に陥っているということだけだ。
さて…どうしよう。はっきり言ってレベル的に、ここは後回しにした方がいいような気もする。でも…放置したらまたいつ訪れることになるかもわからないし。場所を覚えておけるかもわからないし。何より…困っている人がいることがわかっているのに『レベルが上がるまで待ってくれ』なんて言えなかった。
これがまだ、手も足も出ないほどのレベル差なら大人しく手を引いただろう。だが、今回はそうでもない。従って、俺が出した結論は…。
「…行くか」
俺は『助けを求める何者か』の元に駆けつけることを決めた。