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警察官と、銃を構えたSPU隊員がバスを囲む。
すると今度は、物陰の四方八方から覆面を被った者達が現れ、自動小銃を乱射してきた。
「攻撃を受けた! 反撃しろ! 外部への被害を最小限。情報を操作しながら反撃しろ!」
銃声と無線、民間人の悲鳴を聞いて物陰から銃を構える黒井。
敵一人を捉えるも、手が震えて引き金を引けない。
相手はこちらに気付いていない。こちらが飛び出せば気付かれるだろうという程の距離しかなく、撃てば確実に当たる。が、引けない。
人を殺した事がないから。
殺せば、相手の人生が終わってしまう。でも、誰も関係なく無差別攻撃を出してきた……恐らくテロリストだ。周りの隊員は反撃し、何人か殺している。殺されて当然の相手だ。殺れ。
自分自身、した事ない事に恐怖を抱いて戦えない。
暗示を掛けるように一歩を踏み出そうとした途端、相手が隊員一人の肩を撃って地べたに倒し、彼に近付いた。
仲間が殺られる。撃て、助けろ!
仲間が死ぬのを目にする訳にいかなく、唇を噛み締め、目を閉じて引き金を引いた。
決死の思いで放った一発……直ぐ目先の目標を捉えていたが、完全に迷いがなくなる事はなく、外してしまう。
そして、相手は仲間の頭部から多量の血を流させた。
「はっ!」
その光景に目を見開く。自分が撃てていれば、撃てていれば……と後悔する。
次に相手が自分を狙う。この距離から自動小銃を向け、確実に始末すると鋭い目を見せた。
「ああっ……」
高い銃声が鳴り響く。
新たに血を飛ばすのは黒井……ではなく、相手だった。
「何してる! 死ぬぞ!」
其処に鈴木が駆け付け、黒井を連れて他の物陰に隠れた。
「撃て! こいつらはテロリストだ!」
動けずに息を荒くする黒井に、そう言いながらテロリスト達を攻撃する。
黒井の視線の先に、敵でも人の姿をした奴を迷いなく殺す鈴木、田中、高橋、山田を含んだ隊員達の姿。隊員達とテロリストは其々、銃の他、手から炎やレーザーを繰り出す。
こんな非現実な光景が写り、ショックを受ける。
と、腰の手錠に手を触れた。
戦えないなら逮捕という方法も思い付いたが、この弾丸の中では難しい。
何も出来ず、テロリストを殲滅するまで呆然としていた。
周りは、テロリストの死体と血の山。
其処に倒れた仲間一人の所に全員集まり、敬礼する。
黒井の横に田中が来る。
「民間人やSPU以外には、こんな光景は出来るだけなかったと、記憶を操作するように情報を動かす。心配ないから戦いなさい。でなければ貴方が死ぬ。誰かを死なす」
彼女の言葉は暫く頭に残った。情報操作でなかった事になるなら、批判される事はないから戦えと? そう、解釈した。
戦えるなら既に戦っている。苦労しない。
帰って来た本部のトイレで顔を洗って見た自分の顔色は青白くなっている。当然だ。普通の人間なのだから。
腰のホルスターから銃を抜き、手を震わせる。
そして叫び声を上げ、銃を地面に強く叩き付けた。