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【3】
特殊捜査部隊SPU(Special Police Unit)は、警視庁と警察庁の間に本部を建てて存在している組織。現在、凶悪化する犯罪に対抗する為、隊員を増員しているところである。
入隊希望者は、数十人同時に最初に迷彩服を着せられ、砂地の上で見張りに怒鳴られながら筋トレや格闘、射撃訓練を行わされ、適正を見られる。
黒井も訓練を受け、まるで軍隊のようだと感じた。これから戦争にでも行くのかと。
その訓練後、本部を訪れると、田中美咲という人物に接触して彼女から話を聞く事になった。
「では、詳しく説明するわ。SPUは、凶悪事件の犯罪者の他、テロリストも担当する」
「テロリスト?」
「二年前、政治に不満を持った日本人によるテロ組織が誕生した。存在は我々と、警察、政府両方の上層部しかしらない。資金源や武器は、海外の犯罪組織を通している。日常で起こっている事件や事故の一部が、彼等による犯行の可能性がある程強い組織よ」
「目的は、政治?」
「そうよ。目的以外、潜伏先も組織名も不明。あと、奴等の中にも能力者がいるわ。今まで戦ったテロリストにいた」
黒井、下を向いて唇を噛み合わせる。
日本にテロリストがいたなんて知る筈もなく、そんな奴等にも能力者いるなんて意味が分からない。
だから、軍人を育てるような訓練をしていたのか。
田中から、断るのは今、本当に良いのかと聞かれて逃げ道を作られたが、断れば監視されるという事が引っかかる。
此処に所属すれば、死ぬリスクはあるかもしれないが、生き残ればまだ、ましか。
黒井は賭けに出て、「はい」と返事した。
そして、通路先の扉を開けて奥へ進む。
その先は、此処の中心部となっているオフィス。いくつか班に分かれていて、隊員達がコンピューターを使って仕事をしている。全員を見渡せる位置に、中村の席があった。
中村以外、全員シャツの上に黒いジャケットを羽織っている姿から、一見してオフィスカジュアルの普通の会社のような雰囲気をしている。
その中、一つ班へ招待される。
「皆んな、注目!」
田中の声に反応して、三人の隊員が手を止めて振り向く。
「今日からこの班に入った黒井君です」
紹介された黒井、頭を下げる。
「黒井仁です。宜しくお願いします!」
三人も自己紹介する。黒髪の男が鈴木真一、ポニーテールの女が高橋愛子、白い眼鏡の太いのが山田学。全員若く、二十代だ。
続けて田中が話す。
「改めて……私はこの班のリーダー、田中美咲。宜しく! 早速だけど、やってほしい仕事がある」
机の上から資料を取り、黒井に渡す。
「一週間後に都知事の選挙があるの。その立候補者の一人、森田氏の選挙活動中の警備を任されたわ。当日、貴方も行動してもらうから、選挙区間を確認していてほしい。テロリストが狙っている可能性がある」
「田中班だけで警護するんですか?」
「いや、他の班も待機する 」
都知事選立候補者の警備。その区間は、交通量が多く、人通りも多い街中になった。
選挙前から当日まで、区間周辺の安全確認が徹底された。
店や観光地等の人気がある場所、路地や小さな公園まで至る所を探索。電柱の陰や、ゴミ捨て場にあるゴミまで一つ一つ調べた。
不審者、危険物が見付かる事はなく、選挙当日を迎える。
現場周辺の警察関係者は、SPUの他にも警察官が複数動員。選挙カーに登る森田氏の直ぐ近くには、動く壁とされるSPも勿論配置されていて、緊張を高めていた。
森田氏は当然、一般人の命も守らなければならない。
田中は、テロが起こったら直ぐに反撃しなさいと、黒井に何度も言っておいた。
黒井は人混みに紛れて警戒中、問題なく早く終わってほしいと何度も思う。
誰もが同じ事を思うだろうが……
「本部から全隊員へ、本部から全隊員へ。選挙区間を走行中の市街バスが、バスジャックされた。繰り返す……」
次の無線機が入り、そうはいかなくなる。
市街バスが、数台のパトカーに接触して交通規制エリアを強引に突破し、そのまま森田氏の方へ向かって来た!
バスが猛スピードを上げて近付く中、田中班の隊員が一般人を避難させる。それと同時に、SPが森田氏を避難させる。
と、間一髪バスは選挙カーに衝突して停止した。