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【2】
ベットの上で目を覚まして、真っ白の天井を見上げる黒井仁。電気の明かりが眩しく、腕で明かりを防いだ。
酸素ボンベを着けた口から息をして周りを見渡せば、花瓶が乗った机。心電図を図っている機会を見付ける。
いつの間に病室にいて、どのくらい眠っていた?
そんな事を考え始めた途端、部屋に男が一人入って来た。
黒縁の眼鏡にダークスーツに身を包んだ男が、一礼して話し掛けてくる。
「お目覚めかな?」と。
黒井は数秒間を空けて「はい」と、返事した。
「良かった。私は中村。SPUの指揮官だ」
そう言って警察手帳を見せる中村に、黒井は驚く。
「ど、どうしてSPUが?」
「担当直入に言おう。スカウトに来た」
中村は、フフと笑う。
「君は二週間前、中田原研究所の立て篭り事件にいた。研究所が爆発して其処で意識を失った」
武装集団による立て篭り事件の現場に、警官制服に身を包んだ黒井がいた。その日彼は、周辺にいた民間人を安全な場所に誘導していた。
「立て篭ったグループの狙いは、その爆発物である新エネルギーだった。金属やガスなどに利用すれば、爆発的な性能を出せる新エネルギーだが……人がそのエネルギーを受けると、特殊な能力になる」
「特殊な能力?」
「逮捕した犯人の一人と、人質に取られていた研究員二人から能力が発見された。信じられない話しだが、手から炎を出せたり、傷を一瞬で治せたり出来る。人間の細胞に触れると能力を得るんだ。研究員も誰も知らなかった。漏れたエネルギーは、透明な波で見えない。それが街全体に広がり、君も受けた」
「じゃあ、現場と周辺近くの人間全員に……」
「全員じゃない。他の犯人、研究員も調べたが、三人以外からは検出されなかった」
「三人以外……じゃあ、どうして僕は」
「立て篭りグループと研究員を除けば、現場にいた人間からも何人かいる。現場にいた人間一人一人を調べた。君も、寝てる内に調べた」
「僕の細胞にエネルギーがあったと」
「ああ、エネルギーによる神経細胞の活性化が見られた」
黒井、不安な気持ちになって顔を手で覆った。これは本当の話なのかどうか、半信半疑になる。もし本当なら、自分は信じられない力を持ってしまった。
それが何になる?
「特殊能力の詳しい詳細、どれだけの人間に広がったのか明らかになっていない。そんな能力者を放っておけない。其処で、能力を持つ警察官をSPUに配属させる事にした」
「交番勤務の巡査が、SPUですか?」
「大丈夫だ。君のような警察官も沢山いる。今までは、高い成績を残した人間がSPUに選ばれたが、これからは能力者も配属させる。能力者も有能だ。今のところ特殊能力は、警察と政府の両方の上層部……それと、SPUしか知らない。詳細不明の能力者に対する警戒が強いんだ。私として、能力者の警察官は、皆んな保護したい」
一瞬、沈黙して。
「少し、考えてもいいですか?」
「いいよ」
不安が大きく、いきなりの話に戸惑う。息が上がる程、恐怖した。
「もし、断ればどうなります?」
「上層部とSPUから監視される。交番勤務のまま、ずっと」
いい話か悪い話かも、特殊能力が良いものなのかも分からない。不安だけが残る。
退院するまで、何度も考えた。考えたが、答えは分からない。当然だ。能力は、詳細自体明らかになっていない。SPUに入った後の事なんて、自分次第だろう。断れば……それも。
結果、進むしかなかった。