royal battle royal④
アレスの背中の魔法陣が輝くと同時に、アレスの背中から巨大な鳥の形をした燃え盛る生物が出現した。
「な!?」
グレイシーはその目を疑った。だって、彼女の目の前にいたのは、幻獣種、フェニックス。ペガススを構成した生物と同等のレベルの魔物だったからだ。それをアレスは使い魔にしているのだ。
「こいつに頼るのは久々だがな。こいつは魔物だ。お前でも変換できねぇだろ」
アレスが言うことは正しかった。
現にグレイシーは次の策を必死に考えていた。基本的に彼女は戦闘向きのタイプではない。どちらかというと魔法を吸収して味方を回復すると言うエンドレス回復型のサポートタイプだ。
それゆえに彼女は攻撃手段というものをあまり持っていなかった。武道の心得はあったが、そんなもので太刀打ちできるほど幻獣種は甘くない。
「くそ……どうすれば」
「来ないからこっちからいくぜぇ!」
アレスはフェニックスをグレイシーに向けて攻撃させた……。
一方、ジュリオンが王水でシンシアを攻撃している間、シンシアはアレスたちの様子を伺っていた。基本的に彼女は気が早い。相手とか関係ないのだ。
隙があれば両者ともに封殺する。それが彼女のスタンスだ。
そんなシンシアでも、王水は厄介だと思っているのも確かで、抵抗策を考えていた。そんな時にちょうどアレスが幻獣種、フェニックスを召喚したのだ。大変な魔力を消費するだろうに。
「なら、利用してしまうか……」
シンシアは「アイス」とショートカット魔法を展開した。彼女の目の前でみるみるうちに水が生成され凍っていく。そして出来上がったのは、スプーン型の氷だった。
「そんなものでどうする気かしら!?」
ジュリオンは王水をシンシアに向けて移動させた。王水はみるみるうちにシンシアに迫っていき。そして。
シンシアはスプーン型の氷で王水をキャッチした。いや、それは一瞬だったのでキャッチとは言いづらい。もしキャッチしていたなら当然氷のスプーンは溶けてしまっていただろう。
しかしシンシアは氷のスプーンで一瞬王水を受けたかと思うと、遠心力を利用してそれをフェニックスの方に放った。
「何!? 危ない!」
ジュリオンは王水を制止させた。
「遅い……ラン!」
シンシアは王水の周りに水を生成しすぐさま凍らした。かと思えばその氷をフェニックスに向けて放った。
氷はフェニックスの纏う炎で溶かされ、王水がフェニックスにかかった。
「ギャオオオオオ!」
フェニックスは悲鳴をあげながら溶けてゆく。シンシアはそのうちにグレイシーの手をとり、出口側へと移動した。
「無駄よ。シンシアさん。あれはすぐに蘇る。それがあの幻獣の特徴なの」
グレイシーは忠告したが、シンシアは無視してそのまま走り続けた。
フェニックスは再生し、ジュリオンもアレスも体制を立て直す。
「逃がすかよぉ!」
とアレスはフェニックスを追撃させた。
フェニックスはシンシアとグレイシーめがけて爪を剥き、襲いかからんとする。
――その刹那。
シンシアは確かに。
「面倒だな」と。
そう言った。
「ダイヤモンドダスト」
それはグレイシーもアレスもジュリオンも聞いたことのないショートカット名だった。
それもそのはず。これはシンシアがアキヤマの話を聞いて思いついた魔法だからだ。
大気が凍りついていく。
空気に含まれる水分から熱が奪われ、みるみるうちにその場は凍りついた。アレスも、ジュリオンも。グレイシーさえも凍りついて身動きが取れなくなる。手加減なしだ。フェニックスだけがその場で動くことができた。
「フェ……二……クス……やれ……」
アレスはなんとか口を動かした。
しかし、シンシアの反応は通常とは違った。彼女は微かに笑みを浮かべた。この状況でさえも。
「ちょうど……一度試してみたかったことがある」
シンシアは真新しい紙を取り出すとサラサラと筆を走らせた。
そして言う。
「ラン」と。
一見何も起こらなかった。フェニックスでさえも、なんだ? と言う顔をしてシンシアを見た。だが時期に様子がおかしくなってくる。フェニックスの周りの炎が球場に収束している。
何が起こっているのかわからない一同にシンシア自らが説明し始めた。
「空気の滞留。熱の流れを作った。今、あの魔物の周りには空気の層ができて、熱は圧縮され続けている。それに少し衝撃を与えてしまえば」
シンシアは小さな氷の破片を発生させて、フェニックスに向けて放った。氷がフェニックスの周りの空気の層に達した瞬間。熱されたのに、圧縮された空気は爆発した。
爆風でアレスもジュリオンも吹っ飛び、グレイシーとシンシアだけがシンシアの氷のドームによって守られることになった。
「あなた、それ。万能ね」
「そんなこと……ない。魔法にはまだ上がある」
相変わらず無表情でシンシアは返した。
アレスとジュリオンは衝撃で気を失っているようだった。シンシアは彼女たちを凍らせて動けないようにした上で、アキヤマたちの後を追おうとした。
その時。
下の階から、一人の幼女が走ってきた。
その手には刃物。
幼女はアレスの方に一直線に走っていくと、気を失ったアレスに刃物を突き刺そうとした。もちろん、グレイシーは力づくでそれを止めようとした。
その幼女とは、ミスリアだった。
ミスリアは仲間を殺された恨みを果たそうとこんなところまで追ってきたのだ。
ミスリアは血走った目で「殺す。殺す」と連呼して刃物を離さない。
「この子……放っておくわけには行かなそうですね。はぁ。しょうがない。敵を拘束後、私はこの子を連れて一旦戻ります。シンシア、あなたはどうする?」
グレイシーはそう聞いたが、シンシアは返事もせず、一直線にアキヤマが向かったほうを見ていた。
「聞くまでも、ないですか」
グレイシーは独り言つと、アレスとジュリオンを拘束した後、暴れるミスリアを引き連れて、下の階へと降りて行った。
「ダイヤモンドダストのせいで残り魔力が少ない……やっぱりペース配分は大切……」
シンシアはそう呟くと上の階へ登って行った。




