underground waltz⑦終―side Allan―
ダニーはすぐに攻撃には移ってこなかった。それはチャンスだったのか、ただの気まぐれだったのかは判断できなかった。しかし結果として、俺は様子を見ることになってしまった。
「ダニー!! それは……なんだ!?」
俺はダニーの肌に現れた模様を指差して言った。
「この模様か? これは……なんだろうな。わからないよ。ただ俺は魔法教会から進化の秘宝を託されただけさ!! それがこの結果さ!!!」
ダニーは楽しそうに言った。しかしダニー本人もその魔法について知らないとは……噂でも聞いたことがない。根本的に魔力を上げる、それも短時間で上げるなど、別の魔力と混ぜ合わせるしか方法は……。
そこまで考えて俺は恐ろしい考えに思い至ってしまった。
一つ、こんな話を聞いたことがある。魔石に魔物を封印する方法があると。魔石は魔力を多分に含んだ石で、鉱山で稀に採掘される。そして魔石は魔法陣に、魔法道具に様々な用途に使われる。
その中でも、魔物の封印というのが興味深かったことを今でも覚えている。
大きさ、込められた魔力によって異なるが、魔物の魔力と魂を一旦魔石に封じ込められるのだ。
今俺はまさにそれについて思い出していた。
もしかして……魔石に封印した魔物の魂と魔力をダニーは自身に合成したのか!?
「ダニー! お前その魔法がどういうものなのか理解しているのか!?」
「はぁ? なんだアラン嫉妬か? この溢れ出るような魔力。徐々に魔力が増大していっているのがわかるか!? お前にはわかるまいなぁ!! ラン!!」
ダニーは俺の問いに答えようとはしないで攻撃してきた。
おそらくダニー自身も自分をキメラ化していることなど気づいていないのだろう。しかし、まだダニーは自分の意識を保っている。キメラ合成は徐々に進行していっているのだろう。この間まではまずい。なんとかしてあの魔法を中断させないとダニーが完全にキメラになってしまう。
ダニーが放った魔法によって大量の土の弓が作られ、矢が放たれる。
「ラン!!」
俺は魔法陣を三枚重ねにして実行した。土の壁が目の前に三枚現れ、矢から身を守ってくれた。しかし、驚くべきはダニーの魔法の威力であり、硬化をかけた壁にも関わらず二枚目まで貫通していた。
「ふん。小賢しい。その拳で防ぐつもりなら貫通してやったものを」
ダニーは唾を地面にはいた。
俺は自分の拳にかけた魔法を解除し、考えをまとめた。アキヤマたちは俺がチンタラとダニーと戦っている間にペガススを倒し、上に上がっていった。
「アラン!! こっちは終わった!! 絶対負けるなよ!!」
アキヤマが俺にそう声をかけたのはもう過去の記憶だ。
「誰が負けるかよ!! お前はさっさと嬢ちゃんを助けに行け!!」
「言われなくても!!」
こんなやりとりをしたのはどれぐらい前のことだったろうか。
こんなこと、思い出してる場合じゃねぇわな。
ダニーは今にもキメラに飲み込まれるかもしれない。時間は圧倒的に足りない。もはや短期決戦しか道はなかった。
「おい、ダニー。その魔法は、やめとけ。お前自身がキメラになっていってるのがわかンねぇのか?」
「はぁ? アラン。僻みはよしてくれ。魔法教会が俺にそんな魔法を渡すはずがないだろ?」
ダニーはすっかり魔法教会に陶酔しているようだった。もはや話し合いでの解決は無理だ。そんなことはわかっていたはずなのに。
「やっぱ最後は自分の力で止めてやらなきゃなぁ」
俺は独り言のようにポツリとつぶやいた。
「はぁ? なんて言った? アラン!! ついに負けを認めたかぁ?」
「その逆だよ!! 行くぞ!! ダニー!!!」
「「ラン」」
俺とダニーは同時に魔法を実行した。
二人とも自分にあらん限りの魔力を尽くした魔法陣を実行した。ダニーが実行した魔法は、土の剣を全方向に生成させ、その剣は俺を狙っている。そしてダニー自身は土の殻に閉じこもって身を守った。こういうところは結局のところダニーらしい。自分は外に出ずに攻撃を当てる。それがあいつのスタイルか。
俺のほうはというと、バカの一つ覚えのように、土のドリルを作り出していた。それも特大の。身を守ることなど考えていない。剣が俺に当たる前にダニーを倒す。それしか考えていなかった。土の剣たちが俺に向かって発射され、俺の方も回転した土のドリルがダニーを覆う土のドームを削り出す。両方が硬化魔法を追加でかけているため、そう簡単に突き破ることはできなかった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ! 届けぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
俺はあらん限りの力を振り絞ってドリルを土のドームに向かって押し出す。ドリルも俺の魔力に呼応して回転数を増した。徐々にドームは削られていく。
「この殻に引きこもったバカ弟の目を覚まさせてやるんだよぉぉぉ! 届けぇぇぇぇ!!」
何時間という間そうしていた気がした。でも実際はほんの数秒の出来事だった。俺の魔法はダニーの土の殻を破り、ダニーを吹き飛ばした。そう、俺は勝ったんだ。
数十メートル先でダニーが気を失っているのが見える。俺のドリルの魔法の影響で身が所々削れてしまっているが、あいつのことだ。きっと命には別状はないだろう。そう思いながら自分の体を見る。
「畜生……あと少しだったってわけかよ……」
ダニーの放った幾本もの土の剣は俺の体に深々と突き刺さっていた。それを意識した途端に俺の意識は遠のきそうになった。ダニーのほうを見ると、キメラ化は止まっているようだった。魔法の実行者であるダニーが気絶したことによって、最後まで魔力が供給されず、魔法が最後まで実行されなかったのだろう。
俺は安心して、目を閉じた。なんだか、急激に眠くなってきた。体も暖かい。バカ弟に文句をもっと言ってやりたかったのは山々だが。俺もここまでのようだ。
そして俺はそのまま意識を失った。




