underground waltz⑥ ―side Allan―
時はダニーとアランが対面し、アキヤマとシンシアがペガススと戦い始めた頃に戻る。
「なんで、こんなことを? なぁ、ダニー!!」
俺は怒りを込めてダニーに向けてそう言い放った。グランはこいつのせいで死んだ。ダニーの変化に一切気付いていなかった俺にも腹が立つがそいつは後回しだ。
「いったろ? 兄さん、いや。アラン。もう僕はこれまでの僕じゃない。というか、アランの前で演技してた僕は僕じゃない。僕はこれまで、このためだけに生きてきた。報われない母さんの魂に報い、僕がギルバート家の当主になる」
「なんで正当な方法で俺たちに挑まなかった……今のお前が本当のお前なら、ちゃんと正々堂々と当主を争うことができただろう!!」
「正々堂々? ハハハハハ!! それは笑えるね、アラン!! これまで散々僕を蔑んできたお前たちに正々堂々?? ふざけるな!! 僕はもうこうするしかなかったんだ。僕が当主になるにはこうするしか」
ダニーは後半ブツブツと聞き取りにくい声でそう言った。すこし様子がおかしい。だが、今はそれを気にしている暇はない。とりあえずこの野郎をぶっ飛ばしてから考えればいい。
「わかったよ。お前が言うことを聞かなそうってことだけは。話はあとだ。俺がダニーをぶっ飛ばした後で話を聞かせてもらうことにするさ」
「ハハハハハ!! 面白いよ!! アラン!! やれるものならやってみろ。僕はアラン、お前を殺すだけだ」
ダニーは殺意を込めた目で俺を睨んだ。
しかし、なぜダニーはそこまで俺たちを憎んでいたのだろうか。確かにダニーは妾の子だが、そこまで俺たちと待遇に差はなかったはずだ。
俺は考えるのをやめにして、戦闘に集中した。
「ラン」
ジャブがわりの土魔法をダニーに向けて放つ。いつしかアリスがシンシアに向かって使って見せた魔法だ。爆発する土の塊をいくつもダニーに向けて放った。それに対応するようにダニーも魔法陣を取り出した。
「ラン!!」
ダニーの掛け声に続いて魔法は展開され、土の剣がいくつもダニーを取り囲うように放射状に生成される。かと思えば、ダニーが生成したその剣たちは俺が放った土塊を貫き、そして土塊は爆発した。
「おいおい、アラン。本気で来いよ。じゃなきゃとっとと殺してしまうぞ?」
まるで別人のように語りかけてくるダニーは、別人のような嫌な笑みを浮かべていた。こんな奴に。誇り高きギルバート家の家督を譲ってたまるか。自然とそのような思いが心に沸いた。
「抜かせ。本性を隠し続けてきた臆病者が」
煽るように軽く挑発する。が、思っていたよりその言葉には効果があったようで、ダニーはその言葉を聞くと顔を歪ませた。
「俺は待っていたんだ。お前らが調子に乗っているのを心の中でバカにしながらな。いつかお前たちを引き摺り下ろし、俺が当主になると心に決めていた」
「それを臆病者って言ってンだよ!! 正々堂々と勝負しりゃ良かったんだ! こんな回りくどい真似をせずになア!!」
「うるさい!! 黙れ!! ラン!!」
ダニーは俺の問答に耐えかねてか、魔法陣を実行した。
ダニーの手に一本の剣が現れる。もちろん土でできた剣であり、硬化によって硬度は上がっている。手に持った剣と宙に浮いたいくつもの剣を携え、ダニーは俺の方へ突進してきた。
「俺はお前たちを超える!! 俺の力で!!!」
「グランをやったのは不意打ちだろうが!! 超えさせねぇよ、ばか弟が!!」
俺はとっさに懐からミニチュアの剣を取り出した。
「ラン!!」
ミニチュアの剣に描かれたさらに小さな魔法陣が光りだし、魔法が実行される。ミニチュアだったはずの剣は通常の剣ぐらいのサイズになり、さらに硬化の魔法によって強度が増す。
「アラン!!!!」
「ダニー!!!!」
ダニーの振りかぶった剣を自分の剣で受け流しつつ、宙に浮いている方の剣に注意を向ける。宙に浮いた剣は次から次へと俺に向かって飛んでくるが、弾くのにはそこまでの力はいらない。剣を支える力がないから、ただの飛び道具と一緒だ。
幼少期から散々仕込まれた剣技で多数の剣をさばき、ダニーの隙を伺った。
確かに複数の剣を生成し、それを別々に操るというのは大した魔法だ。でも、ダニー自体の剣技はどうってことはない。俺はダニーが直接振るう剣をいなしつつ、四方八方から飛んでくる剣をも打ち払い続けた。
「さすがにそろそろ疲れてきたな……でも!! 負けるわけにはいかねぇよなぁ!! ラン!!」
さすがにこのままこの手数を捌き続けるのは部が悪い。俺はその現場を打破すべく、新たな魔法陣を取り出し、実行した。それは、ギルバート家に伝わる魔法陣ではなく、魔導学園で学んだ魔法陣の一つだった。
土の魔素が生成され、俺の手の周りに覆いかぶさってくる。そして土はあっという間に巨大な拳となった。さらに硬化魔法を上書きし、巨大な拳を武器として行使する。
「オラァ!!」
ダニーを、ダニーが操る剣を、ダニーが宙に浮かべ操る剣を、殴り飛ばす。剣はコントロールを失い、地面に落ちて金属音を立てた。
もう一発。
俺は、ダニー自身も、殴り飛ばした。
「ちったぁ目ぇ冷めたか!!」
俺はダニーに向かって叫んだが、あいつはまだ反抗的な目で俺を睨みつけた。
「相変わらず。大味な魔法だ。しかも忌々しいことに強力だ。確かに今までの僕なら、兄さんたちには敵わなかったのかもしれない。でも、今の僕は、違う。覚悟が違う。魔法教会から授かった魔法があれば!! ラン!!」
ダニーは右手に妙な石を持ち、左手に見たことのない模様の魔法陣を握りしめていた。そしてその魔法は実行され……
ダニーは異質な人間へと変わった。魔法は確かに実行された。魔法が実行されると、右手に持った石から不気味な魔力がダニーへと流れ込み、ダニーの肌には奇妙な模様が浮かび上がった。そしてダニーの魔力容量が段違いに上がった。
「ははははは!! すごいや!! これが魔法教会の力だよ!! アラン!! 力がみなぎってくる!!」
「くそッ!! 一体何が起こってるってんだよ!!!」
ダニーは明らかに違う雰囲気を纏っている。どこがどう変わったかはわからないが、明らかに、魔力の質がさっきまでとは大きく異なっているのを感じる。
「さぁ。遊びの続きと行こうか」
ダニーはニヤッと笑うと俺に向かって言った。




