underground waltz⑤
「ペガスス!! いいぞ!! そいつらを食い殺してしまえ!!」
ダニーの号令が飛ぶと,ペガススは突如再び動き出した。
その硬い鱗に覆われた翼をはためかせ、再び俺たちに牙を剥かんと咆哮で威嚇してくる。シンシアはそろそろ俺が魔法を使うだろうと様子を見ていて魔法で攻撃するそぶりを見せない。こんな時までなんて奴だと思いながら仕方なく自分で片付けるために魔法陣を取り出す。
が、魔法を展開するより先にペガススの雷魔法が発動する。角が光ると放射状に雷が離散していった。しかしそれをシンシアの魔法が防ぐ。氷の壁が雷と俺たちとの間を区切り、雷はこちらに届かない。
どうやら俺が魔法を使うためのサポートはしてくれるらしい。俺はそれをありがたいと思いつつ、用意して来た魔法陣を手に握りしめた。
「ラン!!」
俺が実行した魔法はなんてことはない、土の構造物の形成魔法だった。地面のそこらじゅうから長い針状の構造物が突出して来た。
「ギャオオオオオオオ!!!」
舐めるなとでも言いたげなペガススは角を光らせ天に向けた。そして角を中心として広範囲の攻撃が降り注ぐ。
しかし、それは全て針状の構造物に吸い込まれていく。
「避雷針って知ってるか、獣。お前の広範囲攻撃はこれで封じた」
「ギャオオオオオオオ」
それを理解してか理解せずかはわからないがペガススは怒り狂い、周りにある土の針を破壊した。その隙に俺は再び同じ魔法を実行する。
「ラン!!」
今度はペガススの周辺と、ペガススのいるまさにその中心を狙って土の針を発生させた。ペガススに土の針が突き刺さる……までにはいかないが、針はペガススを直撃。しかしすこし打撃を加えたぐらいで、ダメージには至っていない。さらにペガススを怒らせただけだった。
次にペガススは学習して広範囲攻撃を行わず、雷をまとった突進をしてくるようになった。
「そうくると思ってたよ。ラン」
正直対策は万全だった。威力こそ高く、直撃すれば一発で死ぬレベルではあるが、ペガススの攻撃パターンは予想していたよりよっぽど短絡的だった。基本は広範囲に雷を降らす攻撃、雷をまとって突進、直線的な雷の放出。どれも対策をして来た。
猛スピードでペガススが俺に向かって突っ込んでくる中、俺は目の前に弾丸型の土の塊を形成した。命令文は、こうだ。
[1.charge MP, to 2]
命令文1、魔力を貯める、命令文2へ
[2.convert earth front me, to 3]
命令文2、自分の前で土の魔素を生成、命令文3へ
[3.form ballet from earth, to 4]
命令文3、土の魔素を弾丸の形に形成、命令文4へ
[4.raise hardness of the object, to 5]
命令文4、そのオブジェクトの硬度を上げる、命令文5へ
[5.rotate the object here, end]
命令文5、その場でそのオブジェクトを回転させる、終了
命令文通り、魔法は発動し俺の目の前に弾丸状の土塊が形成され、硬度が上がり塊は本物の弾丸へと姿を変える。そしてそれは目の前で高速回転を始める。
一方ペガススの方も俺に向かって突進してくる。シンシアはこの魔法の意味がわからず心配そうにこちらを見ていた。しかし俺は余裕たっぷりにペガススに語りかける。
「そんなにスピード出していいのか? お前が早ければ早いほど、これの威力は跳ね上がるんだぜ?」
しかしペガススが俺の言葉を理解できるはずもなく、ペガススは一心不乱に俺に突っ込んで来た。そしてペガススは俺の目の前の弾丸に突撃した。弾丸を壊すべく角を突き出し迫るペガススだが、角は弾丸に突き刺さることはなかった。なんせこちとら特別製。その場を一切動かない銃。それがこの魔法の正体。
ペガススがスピードに乗って突っ込んでくることによって、通常の銃の弾丸を飛ばすという過程がいらなくなった。むしろ待っているだけで敵が弾丸に当たってくれるのだ。
ガキィンと大きな音を立ててペガススの大きな角が……割れた。さっきまで光っていた角の先っぽが砕けてそこら中に散らばる。ペガススはそれに動揺して一旦身を引いた。俺はその間にその角のかけらをかき集めてポケットにしまった。おそらくこれがサラのご所望の品だ。これで王都に来た1つの目的は果たした。が、まだ目的はいろいろ残っている。まずはこいつを倒さないと話にならない。
ペガススは身を引いてから、様子がおかしくなった。角がなくなると急に馬の姿を保っていられなくなったみたいで、形がぐにゃりぐにゃりと変わっていく。やがてその姿は巨大になっていき、ペガススとは比べものにならないほど巨大になった。その姿は、今まで一度だけ見たことのある存在。ドラゴンだった。そしてその姿は、かつて見たその姿とは違い、所々がドロドロに溶けている。
「小さきものよ。よく我が片割れの力の源を壊してくれた。おかげで私はこの姿に戻ることができた。ドラゴンが人間風情に捕まり実験台にされるなど恥にもほどがあるが、せめて死ぬときはこの姿でありたかった」
そのドラゴンは確かに俺に語りかけて来た。魔物って話せるのか。
「魔獣が話せるのかと言った顔だな。本来高次元の魔獣は人の言葉を話すのは造作もない。ただ合成されると知能が落ちるからキメラは喋ることができないものがほとんどだ。私も今こうやって話せているのは片割れの意識が消えかかったからだ。そして……本来なら魔法教会の人間どもに一矢報いてやりたいところだが……私がこうやって話せているのももうじき不可能になる。だから……そこの人間よ。頼みがある」
あまりにも突然の事態に驚きながらも、俺はドラゴンに返事をする。
「……なんだ? その頼みっていうのは」
「私を、この姿のまま殺してくれ」
ドラゴンは首を垂れて言った。この種が人間に頭を下げるというのはどれほどのことなのか、話を聞くだけで想像は容易だった。
「は?」
「私はもうじき意識を失うと言ったろ。だから、お前は……私を殺してくれ。この姿になってはもう元の姿には戻れん。お前も見たらわかるだろう。片割れの力が失われたことでキメラとしての力のバランスを失い、体の所々が溶けてしまっている。だから、せめてこの姿のままで、尊厳のある死を与えてくれ」
俺はそのとき、キメラ合成の罪深さを再確認した。魔物の尊厳を奪う非道な魔法だ。そして俺はドラゴンの願いを叶えることにした。いや、叶えはしない。殺しはしない。俺はこのドラゴンを助けたい。そう思った。それは直感的な思いでしかなかったが、この威厳のあるドラゴンをこんな形で死なせてはいけないと思った。
「わかった。後のことは任せて、眠れ。ドラゴン」
「ありがとう……小さきものよ……」
その言葉を境にドラゴンの意識は失われ、ドラゴンはただの獣に戻った。
「グァァァァァァァオ」
ドラゴンの置き土産なのか、まだうまく動けないようで、ペガススだったキメラは叫び声だけを上げた。
「これだけは主義的に使いたくはなかったんだがな……でもしょうがない。俺はあのドラゴンを……いつか助けたいって、そう思ってしまったんだから……。ラン!!」
俺は取り出した魔法陣を実行した。オブジェクトを指定し、ドラゴンを選択する。そしてドラゴンを取り囲むようにして氷が地面を伝っていく。そしてドラゴンは足元から徐々に凍りついていき、最終的にその大きな体を包み込み、巨大な氷の塊になった。
「あとは……シンシア!! この部屋の天井付近の壁に穴をたくさん開けられるか!?」
「お安い御用……ニードルバレット」
シンシアがインストールした魔法を実行すると、シンシアの周りに20本ほどの氷の突起物が現れ、そしてそれは壁に向かって発射された。氷は壁を貫通して大きな穴をたくさん開けた。
「これでよし……と」
氷漬けのドラゴンは相変わらず凍ったままだった。
「アキヤマ……何をしたの……?」
シンシアは興味津々で俺に問いかけて来た。目を輝かせてやがる。
「ただのバグ魔法さ。こんなの。本当は使いたくなかったんだけどな」
「???」
「この魔法は命令文がループしているんだよ。最初の俺の魔法はきっかけに過ぎない。熱量を永遠にドラゴンから奪い続ける魔法。だからその熱量の逃げる先を作る必要があったのさ。この狭い空間では熱量がたまって氷が溶けちまうことがあるかもしれねぇからな」
「なんで……そんなことを?」
「助けたいと思っちまったんだよ。この誇り高いドラゴンをさ。この氷は一生溶けないバグだ。だから俺がキメラの分離の方法を知るまで、このドラゴンにはここで眠っておいてもらうんだよ 」
「……変なアキヤマ。でも、魔法は面白い。やっぱりついてきてよかった」
シンシアは満足げに俺をうっとりと眺めていた。この女は知識欲が他のすべての欲を上回っているのだろう。アランの方を見ると、アランはまだ戦っているようだった。しかし、俺はそれに加担している場合ではない。
「アラン!! こっちは終わった!! 絶対負けるなよ!!」
俺はアランにそう声をかけた。
「誰が負けるかよ!!お前はさっさと嬢ちゃんを助けに行け!!」
「言われなくても!!」
数年来の友人のようにその声だけで心が通じた俺は、アイラを助けるために地下から王城に向かった。
……はずだったのだが、地下から王城につながる道はない。どうしようかと迷っていると、シンシアがそれを察したのか、声をかけてくれた。
「上に行きたいの?」
「ああ。そうなんだが……道がなくってよ」
「変なところで真面目なのね……アキヤマ。散々壁に穴を開けたりしてたのに。……ラン」
シンシアの言葉を理解する前に、シンシアの魔法が実行された。地面から氷でできた螺旋階段が現れそして氷は天井を破壊し穴を開けた。あっという間に王城に通じる階段の出来上がりだ。
俺は驚きを隠せないまま、シンシアに礼を言って、その階段を駆け上がり始めた。




