underground waltz④
「それと、そこの。なんて言ったっけ?」
ダニーは俺のことを指差すと言った。俺に対する態度も明らかに偉そうになっている。
「アキヤマだよ」
俺は渋々返事をした。
「そうだ。アキヤマだ。お前の連れ。名前は確かアイラ、だったか? 猫耳の娘だよ」
「アイラをなぜ知っている」
「知りたい? それなら、今の状況を見せてあげるよ。ラン!!」
ダニーは魔法陣を実行すると、俺たちの目の前に霧のようなものが現れ、それに大きな映像が投射された。そこには赤い羽根の店構えが写っていた。
「ここにアイラとかいう女は泊まっているんだろう? 今、ちょうど魔法教会の者が迎えにあがっているようだよ」
「は? どういうことだ?」
ダニーの言う通り、映像は店の中に移り、反抗するマスターを魔法教会のローブを着た魔道士が魔法で倒し、二階へとあがって行く様子が映し出された。
「アイラ、くそっ! やめろ! 何をするつもりだ!!」
「本当に君は何にも知らないんだね。どうせ君は今から死ぬから冥土の土産に教えておいてあげるよ。君がアイラと呼んでいる女の子はこの王都ロマネに君臨するガリア・ロマネスクの娘だよ」
ダニーはバカを見るような目で俺を見ながら言った。しかし、そんな態度のことなどより、言葉の内容のほうが衝撃的である。
「は……? 今……なんて?」
「だから、何度も言わせるなよ。お前の仲間のアイラって猫の獣人は人間の王、ガリア・ロマネスクが獣人の召使いとの間に作った娘なんだよ。アイリーン・ロマネスク。それがあの女の本名だよ」
ダニーは丁寧に説明してくれる。どうやら、本気で生かして帰す気は無いらしい。
「そんなこと……一度だって聞いたこと……」
「ははははは! バカだなぁ、お前! 仲間にさえそんなに重要なことを隠されていたなんてなぁ」
「違う!!」
「違わないだろ。お前は希望もなく死ぬんだ。絶望を噛み締めて死ね。それに、今から死ぬお前には関係ないが、アイリーン王女は我らがロザリオ様と婚約なさり、ロザリオ様がこの国の実権を握ることになる。ロザリオ様なら安心して国を任せられるだろう?」
ダニーは無駄なことまでペラペラと喋ってくれる。同時に、俺の中の怒りのボルテージはだんだんとあがって行く。
「……最初からその予定だったのか?」
「いや、完全にラッキーだよ。アキヤマ、お前がレイア王子の婚礼の儀を見に来てくれたおかげでロザリオ様は数年間行方知らずだったアイリーン皇女を見つけることができた。いやはや、こんな身近なところにいるとはな。灯台下暗しってやつだ」
ぺらぺらぺらぺらと、よくしゃべる奴だ。
「そのロザリオって野郎は魔法教会の幹部なのか?」
「ロザリオ様のことを気安く呼ぶな!! ロザリオ様は普通の幹部とは比べものにならないほど高貴なお方なのだ。お前のような汚いドブネズミのような男に名前を呼ばれることでさえ汚らわしい」
「……でも、レイア王子がいるならそのロザリオ様とやらが実権を握ることはないだろ」
「そうだとおもうか?」
ダニーはニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。俺はその表情を見て自分の過ちに気付いた。そもそも魔法教会は紅蓮の牙の婚礼相手暗殺計画を放っておいたり、アイラをさらって結婚するなどという強行手段に出るような奴らなのだ。レイア王子が今後も平和という確証はない。
「まさか……殺す気か? 一国の皇子を……」
俺の問いにダニーはにやついて答える。
「それが魔法教会の意思なんだから、仕方ないだろう?」
「ふーん。なるほどな。ペラペラと喋ってくれてありがとうよ。それじゃあ、時間もないようだし。ちゃっちゃと倒してアイラを助けに行きますか」
俺はシンシアとアランに視線をやる。アランはさっきのショックを引きずってはいなかった。ただ倒すべき相手であるダニーのことを黙って睨みつけている。俺が視線を送ると、彼は静かに頷いた。
「アキヤマがそうすると言うのなら……私も……ついて行く……」
シンシアがそう返事をした後、アランと俺は同時に声をかけ、それで戦闘は再開した。
「アキヤマ! ペガススは任せた!」
「アラン! ダニーは任せた!」
そして次の瞬間、俺たちはほぼ逆方向に。アランはダニーのほうへ、俺とシンシアはペガススのほうへと走り出した。
ダニーはアランが決着をつけるべき問題だったから。戦力的にシンシアをあちらに回すのも不安だったし、このチーム分けは必然だった。
負けられない戦いが、始まる。




