underground waltz③
グランの実行した魔法陣は光るとともに地面へと移動していき、そして埋まっていった。すると次の瞬間、地面からわらわらと人形のような土の塊が現れた。
「なんだぁ!?」
アランは大声で反応した。
これと似たような魔法を俺は知っている。と言うか俺が使った魔法に部分的にはそっくりだった。魔導学園で一度、壊れてはまた生まれる木偶人形を作り出したことがあった。あれは魔法の起爆地点としての役割しかなかったが、これはどのような役割があるのだろうかと期待して見守った。あれだけ大きいことを言うのだから、グランはこの魔法に相当な自信があるのだろう。
グランの発生させた土人形は実に100体を超えていた。それだけでも俺と比べれば比較にならないほどすごい魔法なのだが、土の人形があのペガススに傷をつけられるとは思えなかった。
「ギィィィィィィ!!!」
ペガススが鳴き声をあげて体に雷をまといながら突進してくる。もちろん土の人形がそれに耐えられるはずもなく。何体も何体も次々と人形は破壊されていく。
しかし、人形はただ壊されていくだけではなかった。
壊された人形は、土の塊へと戻り、ペガススにまとわりついていた。
それを見たグランは背中越しに言った。
「粘土だよ」
「粘土……ですか?」
親切にも説明してくれるらしいグランは、俺が聞き直すと嬉しそうに説明してくれた。
「ああ。そうさ。アランは土を硬化するのが得意だが、俺は土の粘度を上昇させるのが得意ってわけさ。あとは企業秘密だけどな♩ ……みろ。ペガススは徐々に動きを遅くしている。時期にまとわりついた土は多くなり、ペガススは息もできなくなるさ」
グランの言う通り、人形は次々と壊されてはいくものの、着実にペガススの体の自由を奪って言っていた。そして宙を舞うこともできなくなったペガススは無残に地に落ちた。人形たちはさらにペガススに向かっていき、ペガススは完全に人形たちに囲まれて姿が見えなくなった。
「これで一件落着だ。家督は宣言通り俺が貰い受けるぜ」
アランは少し伸びた髪の間から、悔しそうにグランを睨んだ。
「くそっ!! なんで勝手なグランが俺よりも……!」
「アラン。お前はギルバート家に縛られて生きる必要なんかないのさ」
グランは優しい目でアランを見て言った。
「あぁ!?」
「俺は魔法教会が嫌いだった」
アランの咆哮にも弄せずにグランは突然語り始めた。
「魔法教会と良好な中を築こうとするギルバート家も嫌いだった。だから俺は散々家の意向に逆らった結果、縁切り寸前まで追い込まれた。でもな、俺は気づいたんだ。世界を旅してな。オヤジたちがどんな苦労をしてきたのかを。魔法教会はとてつもなく巨大な組織だ。好きとか嫌いとかじゃなく、ギルバート家を守るためには、良好な関係を気づかなければならない。……そんなことは全く思わない。でも、いざ魔法教会がギルバート家に牙をむいた時、俺はギルバート家を守りたい。だから俺は家督を継ぐ」
グランはそう言うと強い意志を込めた目でアランを見た。アランもその意志を感じ取ったのか、「おう……」とだけ返事をすると渋々その結果に納得したようだった。
「これで一件落着だね!兄さんたち! ……ラン」
その予想外の声と魔法は、俺たちの後方からやってきた。
一番初めに反応したのはグランだった。しかし、完全に油断していたところに突然の魔法。魔法で対処もできないまま。
「アラン! 危ないッ!!!」
ザシュ!!!
アランの方へ飛んできた土の剣をグランは体を張って守った。グランは背中で剣を受け、その剣はグランの体を貫通していた。目の前で自分の兄が剣で突き刺されているのを見たアランは、目を丸くして目の前の状況を疑った。
「ごめんな。にいちゃん、どじ踏んじまったみたいだ。まさか、自分の弟に裏切られるなんて。それも……、俺を狙えばいいものを……うッ!!」
グランは口から多量の血を吐き出した。内臓に傷を受けたのだろう。
「だって、グラン兄さん、いや、グランを直接狙っても防がれちゃうでしょ? だからアランを狙ったんだよ〜。わざとだよ、わ・ざ・と」
ダニーはまるで別人のように堂々と話しながら、壁際から俺たちのほうに歩いてきた。
「ダニー……? お前……なんで?」
アランはダニーを見て相当動揺していたようだった。
「わからないだろうね! 兄さんには!! いや、兄さんなんて呼ぶのも汚らわしい!! 血が繋がっていると言うだけでも吐き気がする!! ラン!!!」
ダニーはアランに向かってそう吐き捨てた。そしてさらに魔法を実行し、土の剣は再びグランを貫いた。
「やめろ!!」
アランは叫んだが、グランはその瞬間に機に倒れ、そして動かなくなった。
同時にペガススを拘束していた土の魔法が解け、土の粘度が元に戻る。動けるようになったペガススは、土の中から悠々と姿を現した。
「ペガスス。少し待て」
ダニーが手のひらをペガススの方に向け、命じると、飼い犬のようにペガススはぴたりと動きを止めた。
「はぁ!? これは……これはどう言うことだ!! 説明しろ!! ダニー!!!」
アランは魔法陣を取り出し、ダニーに向かって構えた。
「ははは!! 兄さん、いい顔だよ!! その顔が見たかったんだよ。僕はずっとさァ!!」
怒りと悲しみがごちゃ混ぜになったような表情でダニーを睨むアランに対し、ダニーはそう叫び返した。
「僕は、今日、この瞬間から魔法教会の幹部になる。ダニー・ギルバート。ギルバート家を継ぐのは僕だ」
「はぁ!? 気の弱いお前がか!? 笑わせる!!」
「僕のことを何も知らないくせに。よく言うね。兄さん」
ダニーは満面の笑みでアランを見た。そして言葉を続けた。
「僕は妾の子だ。母さんは本邸に足を踏み入れることも許されず、ただただ父さんが来るのを待っているだけの悲しい女だった。身分を認められることもなく、ほとんど気もしない父親を待ち続けた。そして最後には病気になって死んだ。父親はそれを見舞いにすら来なかった。僕は決してギルバート家を許さない。それに……お前らはなんだ。自分勝手に振舞って、何をやっても許されて。僕がいくら努力したところで、お前らがいる限り僕に日の目は当たらない。だから僕はお前たちを殺すことにしたんだ。魔法教会も僕がギルバート家を継ぐのなら幹部にしてくれると言ってくれた。……気の弱いのなんて演技に決まっているだろう?お前たちを騙せるなら、お前たちを殺して僕が主役になれるのなら、僕はなんだってするのさ!!」
ダニーの言葉にアランは絶句していた。ダニーの事情は詳しく知らなかったのだろうか。
「僕は今日、ここにいる人間をすべて殺して、魔法教会の幹部としての地位とギルバート家当主の地位、両方を手にいれる。そこの二人には悪いけどね」
ダニーは俺とシンシアを見ながら言った。
ダニーはせせら笑いながら、さらに言葉を続けた。




