underground waltz②
ペガススが一番初めに標的としたのは、俺だった。その大きな角から放たれた雷撃が俺に向かって来ていた。ほんのコンマ数秒前には。
「また、お前に助けられちまったな」
俺は目の前で土魔法の盾を展開しているアランに向かってそう言った。
しかし、そんな会話を悠長にしている暇はなかった。ペガススはすぐに次の攻撃を仕掛けてきたからだ。角が光り、雷の剣が俺の方に向かって飛んでくる。今度は余裕を持って避けることができた。ただし、おそらくこれらの攻撃はただ良ければいいものでもない。全ての攻撃に雷の属性、すなわち麻痺属性が付与される。かすれば硬直時間が生まれ、次の攻撃をまともに受けかねない。
それにしても。
攻撃の際に必ず光るあの角。サラの言っていた鍵なんじゃないか?
「とろとろしてるなら、俺が先にやっちまうぜ?」
グランはそういうと単身俺たちより前に出た。
「ラン!!」
グランが魔法陣を取り出し、実行すると魔力が土の魔素へと変わり、そしてグランの体の周りを覆っていく。それは鎧の形を形取っていき、いずれグランは完全防備な姿へと変身を遂げていた。
「あれは?」
俺はシンシアにグランの魔法について尋ねた。
「あれは……自分の魔力を土の魔素に変換、そしてそれを体を覆うように鎧の形に整形する、さらに硬化をかけるという4段階の命令文を用いた魔法陣」
「そんな便利なもんが。雷相手にはもってこいじゃないか」
「それは……どうかな」
シンシアの言っている意味はわからなかったが、グランはペガススと一人で互角に戦っている。そんな心配は無用のように思えたが。
「おい! グランにいいようにやられてちゃダメだろうが! 俺らもいくぞ!」
アランが吠えたので、しょうがなく俺たちも参戦する。
一方、ダニーは部屋の端で怯えて縮こまっていた。
「さっさとやっつけちゃってよぉ! 兄さんたち!」
しかし、俺たちはそんなことを気にしている場合ではない。ペガススはグランに雷魔法を放っては、それをグランが鎧で殴ってかき消すと言うなんとも物理的な戦いが繰り広げられていた。
「オラァ!! ラン!!」
アランが実行したのは、一度見たことがある凶悪なドリルの形をした魔法だった。ドリルが回転しながらペガススに向かって飛んでいく。が。
その魔法はペガススには当たらなかった。ペガススは一瞬角を再び光らせると雷を身体中にまとってその大きな体を浮かし、一直線にグランの方へと直進した。グランは反応はしたのだが、鎧が邪魔で素早く動けず、その攻撃を直撃した。
グランの体は吹っ飛び、壁際まで移動した。鎧は粉々に砕け散っていた。
「なんだ……あの威力?」
「土の魔法は雷属性には確かに強い。でも、物理的な力に対して土の硬化の信頼性は低い」
シンシアは冷静に分析した。グランの方を見ると、ダメージはあるが、命には問題ないようだった。アランはグランに攻撃が行かないようにか、ペガススに向かって攻撃を繰り返し、奮闘していた。しかし、それもペガススに有効なダメージを与えるには至っていなかった。アランのドリルの魔法を直撃させることができたなら、おそらく倒すまではいかないにしろ、有効なダメージを与えることができるだろう。
しかし今はそれを当てる方法さえ考えられなかった。
アランが奮闘している間にグランも復活したようで、二人はペガススに向かって攻撃を繰り返した。
「そろそろ。私たちも役に立たないと……」
シンシアはそう言うと右手と左手に5枚ずつの魔法陣を取り出した。
「ラン」
シンシアが両手で握っている一番上の魔法陣が光りだし、一つ一つ、光が下の魔法陣へと連鎖していく。
「今回の魔法は、少々荒いけど……」
シンシアがそう説明すると同時に、魔法陣は実行の段階へと移った。シンシアはペガススに右手を向け、誰もいない方向に左手を向けた。
次の瞬間、シンシアの左手から、ペガススとは関係ない方向へ巨大な氷が析出した。と、同時にペガススが苦しみだした。
「ギャウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
何事かと思っていると、ペガススはシンシアから逃げるようにして翼をはためかせて逃げた。
「今のは?」と尋ねる。
「……この前のアキヤマの魔法と一緒のことをしただけ。左手の魔法陣の方向から右手の魔法陣の方向に熱量を移動した」
「魔法文が読めるようになったのか!?」
「違う……アキヤマの魔法陣をこっそり見て文章を写したあと、組み合わせを試行錯誤してなんとか形にした」
シンシアは悔しそうにそう返したが、大したものだった。先の魔法で多少はペガススを弱らすことができたかもしれない。そう思ってペガススに視線を移したが、なんてことない、とでも言いたげな顔でペガススは俺たちを睨んだ。むしろ、怒らせただけのようにも見える。
しかし、よく見ると、鱗は少し溶け、ダメージは受けているはずだ。あれほどの氷を生み出すほどの熱量が移動したのだ。ペガススの方は相当熱かっただろう。
ペガススは一瞬動きを止めた。
それがチャンスとばかりにアランはドリル魔法を発動させようとする、が。
「やめろ!!! アラン!!!」
俺は嫌な予感がしてアランにそう声をかけた。アランは俺の声に応じて魔法を実行するのをやめてペガススから距離をとった。
……すると。
ペガススが天井の方に向かって角を突き出すと、角から天井近くに雷の塊が生まれ、そしてその塊から無数の雷が地面に降下してきた。
「「「ラン!」」」
「クリスタルパレス」
それぞれが魔法によってその攻撃を防いだ。アラン、グラン、俺は土の盾を自分の真上に出現させ、シンシアはなんと氷の城で自分を包むことで攻撃をしのいでいた。インストールした魔法陣なのだろう。いや、それにしてもあまりに魔力を消費してないだろうか。
俺はふとダニーの存在を思い出しダニーの方を見たが、ダニーは相変わらず泣き顔で、部屋の隅でブルブル震えていた。悪運は強いようで何よりである。
ペガススの方はというと、再び次の攻撃をしようと身構えていた。
そんな中、グランが一歩俺たちの前に出た。
「遊びはこれぐらいにして、そろそろ終わりにしてしまおうか。悪いな。家督は俺が継がしてもらう……ラン!!」
グランの魔法が、実行された。




