underground waltz①
レイア王子の婚礼相手が暗殺された事件から一週間後。俺は一週間缶詰になってまでシンシアと魔法の対策をした後に、(案の定アイラには反対されたものの)俺とシンシアとアランは王城の地下の幻獣ペガススに挑むことになった。
アイラには、ミスリアを任せるという名目で、留守番を頼むことになった。
むしろ、ミスリアの方が「私がアイラおねいちゃんを守る」といっていたぐらいだから、アイラが追ってくる可能性も少ないだろう。
アラン、グラン、ダニーは王城の真下へと続く、地下道を並んで歩いていた。王都の排水溝から入って、どぶくさい巨大な排水管の中を進む。俺とシンシアは、アランの後ろを歩いて着いていく。
「まさか、お前が仲間を連れてくるなんてな。予想外だったよ」
グランは笑いながらアランに言った。
アランはその言葉にムッとして答えた。
「悪かったな。でもルールには乗っ取ってるはずだぜ。お前らこそ、仲間を連れてこなくてよかったのかよ」
「悪い悪い。でも俺はお前を褒めているんだぜ。あれだけ自分の力しか信じていなかったお前が仲間に頼るという選択肢を取るようになるなんてな。にいちゃんは感無量だよ」
グランの表情は明らかにアランを思いやっている表情だった。なぜこんなお兄さんが家を出て行くなんてことになっていたのだろう。
「今更兄貴ヅラすんなよ」
グランの言葉にアランは拒否の視線で返した。その眼光はこれまでのものとは違い、恨みといった感情をはらんでいるように見受けられた。グランはおーこわ、と茶化してごまかした。
「ダニーはよかったのか? 味方を連れてこなくても?」
アランはダニーに優しく聞いたが、ダニーは話しかけられるとビクッと体を震わせた。
「ぼ、僕は……戦わないから……。本当はこんなとこにもきたくなかったんだ。でも、しきたりだから。僕は戦わないから仲間なんていらないんだ」
えらくおどおどとした喋り方だった。その後もブツブツと文句を言っていた。
「そうか……。なら、戦いが始まったら離れてるこったな」
アランは言い残すと、何事もなかったかのように歩き続けた。
王都のマンホールから地下道に入り、王城の地下に当たる部分まで歩くのは、案外時間がかからなかった。地下道はひどい臭いがしたが、仕方ないので我慢して歩いた。これまでの経験からして、どうせ地下道にも魔物が出るんだろうと思っていたが、それは杞憂だったようで、地下道は意外と快適に歩くことができた。匂い以外は。
これまでの流れからいくと確実に邪魔が入るはずなんだけど……そう思いながら歩いていくと、目的の場所に着いたようだった。そこは、地下道の行き止まりだった。しかし、壁には見覚えのある魔法陣のマークがあった。それは実行すると扉が開く魔法陣だった。魔力がある程度あるものにしか開けられないようになっているのだろう。間違いない。これは魔法教会の仕業なのだ。
「お前ら、覚悟はいいか?」
アランは振り向き、皆に問いかけた。
「誰にものを言ってるんだ? 家督は俺が継ぐ。お前らは俺の戦いを見とけばいいだけだよ」
グランは鼻で笑って言った。
ダニーは相変わらずおびえた様子でブルブルと震えている。顔色も真っ青だ。アランはグランのその言葉に奮起したようで、ギロリとグランをにらんだ。それに対しグランはニヤリと笑うと言った。
「さぁ、いくとしますかね。ラン!」
グランが壁に描かれた魔法陣を実行すると、扉は開いた。グランは真っ先に部屋の中に入って言った。俺たち皆もそれに続いて部屋に入っていったのだった。
部屋は、広い、丸い空間だった。レンガのような材料で作られたその空間は、明らかにこれまでの地下の構造とは違っていた。そして、その中央には、情報通りの幻獣が佇んでいた。頭に一本生えるその立派な角、馬のような体。それでいて体の表面は鱗で覆われていて、そして特徴的だったのはその大きな翼だった。鱗に覆われたその大きな翼は伸ばしたら体を覆い隠してしまうぐらいの大きさがあった。
――あれは三日ほど前のこと。
「何ぃぃぃぃぃ!? 王城の地下のキメラと戦うことになっただぁぁぁぁ??」
通信で話していたサラはそんな大声を出した。
「ああ。都合が悪かったか?」
「とんでもない! 願ったりかなったりだ! この前私の封印を解く鍵になるものが王城の地下にあると言ったろ? おそらくそれはそのキメラが持っているのだろうから! パッと倒して来てくれ給え!」
サラは軽い口調で言った。
「軽いなぁ」
「いやいや、これでも実は心配してはいるのだよ? 何しろ相手は幻獣同士のキメラだというのだろう?私も過去に数体倒したことがあるだけだからな。そのキメラともなれば強さは計り知れん」
「それって、あのドラゴンのことか?」
「ん? ああ、最初に君たちを迎えに言ったドラゴンか? あれも、まあそうだな。正確にはドラゴンではないのだけれど、あれは強いぞ? 今度戦ってみるか?」
「……遠慮しときます。それで? そのキメラがどう鍵ってやつを持ってるんだ?」
「……そんなの知るわけがないだろう?」
「……は?」
「だいたい私はそこからとんでもなく離れたところにいるんだぞ! そんなのはっきりわかるわけがないだろう!」
それは完全に逆ギレだった。無慈悲な。
「はぁ!?」
「ああ、でもあれはそうか。何やら……円錐型のエネルギー体のようだ。それが鍵だ」
「円錐?」
「ああ。円錐だ。まぁ倒したらなんとかなるだろ。それじゃ、頼んだぞ! アキヤマくん!」
――そんな会話を思い出した。というのも、幻獣キメラ、ペガススの一本角が神々しく光っていたからだ。ペガススは俺たちの方を見ると、微動だにせずに角を光らせた。綺麗だ、なんて思っていると、アランは叫んだ。
「バカ! お前、狙われてるぞ! 早く逃げろ! アキヤマ!」
アランの声が俺に届くや否や、ペガススの角から雷が放たれた。




