王都騒乱
翌日、俺たちは紅蓮の牙の計画に参加はしないものの、レイア・ロマネスクの婚礼の儀を見に行くことにした。この街で何が起こるのか、それを目をそらさずに見届けようと思ったのだ。
レイア・ロマネスクの婚礼の儀は、王城で行われるが、王城の外壁に魔法道具によってその様子が投影されるため、国民はリアルタイムで婚礼の儀を見ることができるらしい。俺とアイラとシンシアとミスリアは(シンシアは興味なさげだったのだが無理やり連れてきた)、王都の民に紛れて王城に投影される婚礼の儀を眺めていた。
「いやぁ。まさか、こんなに人がいっぱいいるなんてな」
俺は周りを見渡して言った。
言葉通り、周りは王都の民で溢れかえっている。これはさぞかし、王城からこの様子を見下ろしたら、人がゴミのように見えることだろう。
「レイア王子の婚礼なのです。それはもう注目の的なはずなのですよ」
アイラは複雑そうな顔で言った。
「なんだ? アイラ、お前……」
アイラを見つめると、彼女はぎょっとした顔で見返した。
「いや――」
「さてはレイア王子のファンだな? 王都に何かと詳しかったし、だからそんな暗い顔で見てたんだろ」
「違・う・の・で・す! 私はただ……この婚礼の儀が何をもたらすのかを考えると不安になるだけで……」
「まぁ……それが必要なことなんだったら……しょうがないんじゃないか?」
俺たちがそんな会話をしていると、ずっとアイラの手を握っていたミスリアが逆側の手で俺の手を握ってきた。
「ん? どうした? ミスリア」
「見えない。肩車して。おじちゃん」
「ああ。そうだよな。はいはい」
ミスリアを肩車してやると、彼女は喜んでいる様子だった。それをアイラはまたまた複雑そうな目で見ていた。
「なんだ? ミスリアが俺に懐くのが気にくわないのか?」
「違うのです!」
そういうとアイラはプイと顔をそらしてしまった。
一方シンシアはというと……読書を始めていた。もはや全く興味なしといったところだろうか。
『これより! レイア・ロマネスク王子の婚礼の儀を始める!!』
俺たちがしょうもない会話をしている間に、拡声された牧師の宣言で王子の婚礼の儀は始まった。俺たちは王城の壁に魔法で映し出される映像に集中した。
先に新郎であるレイア王子が入場してきた。レイア王子は目鼻立ちのくっきりとした青年である。しかし、どこかオドオドとした態度。あんな様子で大丈夫なのだろうか。
そして次に、新婦である魔法教会の女が入場した。隣にも同じく魔法教会の五芒星のローブを着た男が腕を組んで一緒に歩いてきた。その男は髪は黒色、普通の長さで、年は40代後半といったところだろう。深く刻まれた皺とともに動く表情には、自信が感じられた。この男はおそらく神父の父親がわりの立ち位置なのだろう。そして、魔法教会と王家の交友の証でもあるのかもしれない。
国民はみんな新婦に注目していた。一体どんな美人が現れるのかと。しかし、俺はその隣を歩く男に注目していた。今から起こることは俺の口出しできる領域を超えていると自負していたが、それが本当に必要なことなのか、判断することからは逃げないでいようと思っていた。新婦が歩いていき、皆は神父に注目する。俺は隣の男に注目しながら、その時はやってきた。
パァン! と大きな音が鳴り響き、新婦はその場で倒れた。それはまごうことなき銃声だった。紅蓮の牙が魔法教会に王都が乗っ取られることを恐れて撃った銃弾だろう。現場も国民もうろたえ、ガヤガヤとその場がやかましくなる中、俺はただただ倒れた新婦の隣に立つ男の姿を捉えていた。
その男は、新婦が倒れた瞬間、確かに笑った。口元の端が少し上がる程度だったが。俺はその瞬間、この国に迫る危機を実感した。
おそらく、あの反応。紅蓮の牙の計画は見透かされていたのだ。それでいて見逃した。奴らはこれを利用する気だ。
予想通り、あの男はすぐに動いた。すぐに駆けつけた取り巻きに指示を伝えると、取り巻きたちは一斉に各々魔法を使ってその場から動いた。そして10分もしないうちに1人の男が取り押さえられてその場に連行されてきた。
国民たちは訳も分からずその場で騒いだり、呆然としていたりしていたがあの男が誰かを捕まえてきたとわかると皆再び映像に注目し出した。
『嘆かわしいことに、ここにいる一人の男のせいで、新婦は殺されてしまった!』
映像の中で、あの男はそう語り始めた。
『この男は、紅蓮の牙という組織の一員である! 紅蓮の牙は国家に反逆する組織である! 今から! この男を処刑する! これは見せしめである! 私たちは尊い犠牲を出してしまったが! テロリズムには断固として立ち向かう! 紅蓮の牙を許してはならない!』
その男は高いカリスマ性を持っていた。男がそう皆をかきたてると、国民もそうだそうだと賛同するようになった。そして、連れてこられた男は、魔法教会の魔導士の風魔法によって、首を落とされ処刑された。
それで放送は終了し、その場は再び騒乱に包まれた。俺たちはその騒乱に飲まれないうちにその場を離れた。
その騒ぎが収まる前、一人の男が王城の外壁の上に立っていた。
その男は一人、騒ぎに包まれる国民たちを凝視していた。
その男は、「やっと見つけた」と独り言つと、国民たちに背を向けて走り出した。




