王都の現状⑤終〜兄と弟〜
魔法の話になると、突然シンシアは生き生きと話し出した。
「雷魔法の対策なら……土魔法。風→土→雷→水→火→風というふうに魔法にはじゃんけんのように強弱が存在する。今回は、土と風の魔法に力を入れて対策をしていけばいい……っていうこと」
「お、おう。そうだな。とは言っても魔導学園も卒業しちまったし、ギルバート家に伝わる土魔法である程度ペガススの雷魔法対策はできるが、他のはどうするかねぇ。金ならあるからとりあえず魔法道具屋にでも行くか?」
「それはお勧めできない。魔法道具屋に売っている魔法陣は基本的に魔法教会公認の魔法陣だからそこまでの威力は認められない」
「だが、最近は少しは変わったみたいだぜ? そこのアキヤマのおかげでよ?」
「ちょっと待ってくれ。何の話だ?」
「知らねぇのか? アキヤマ」アランはくすくすと笑った。「お前が使う魔法は魔女の魔法だってんで、魔法教会は恐れを感じたのか、公認する魔法陣を更新したンだ。幹部クラスの使う魔法もだが、普通に街で買える魔法陣も強くなったんだぜ? まぁそんなバカな話はねぇだろうがな。噂だよ。噂」
そういえばジャックが似たようなことを言っていたような。
「そう……だから……。私たちはここで魔法陣を開発してから戦いに行くべき」
「そうだシンシアのいう通りだここで……って、ハァァァァ!?」
アランは何に驚いたのか、大きな声を出した。
「何を驚いているの……アラン」
「いや、お前ら、魔法文がわかるのか?!」
そういえば、アランにはちゃんと言ったことはなかったか。
「ああ。そうだが」
俺の返答により一層アランの顎は限界近くまで開き、かなり面白いことになった。こんなに驚いているアランは初めて見た。
「私は完全に解読はできていない……やはりアキヤマ。わかっていたのね。とうとうその秘密をこの目で見られるときが……」
シンシアは別の事情で興奮していた。散々付いてきたのはやっぱり魔法について知りたいからだったのか。なんて好奇心の塊なんだ。
「お前ら……魔導学園にいた頃は何も言ってなかったじゃねぇか……」
「だって聞かれなかったし。それにアラン、俺のこと嫌ってそうだったし」
「私は聞かれても答えるつもりはなかったけど……」
俺たちの返答を聞いてアランはがくっと崩れ落ちた。……が、すぐに体を起こすと、すぐに話を進めた。
「まぁわかった。俺の驚きはひとまず置いておこう。それじゃあ、頼むな。魔法文は俺にとってはさっぱりだからな。あ、ちなみにギルバート家の魔法陣は見せるわけにはいかねぇからな」
「わかってるよ。ただどんな魔法を使えるのかは教えといてくれよ」
「ああ。それはな――」
そこからほぼ俺とシンシアで魔法の開発が行われようとした……が。そうすぐに決着のつくものではなかったので、想定される魔法などを予想しただけに終わり、そして俺とシンシアは一旦帰ることになった。
帰り際、エントランスにて、偶然アランの兄弟たちと遭遇した。
アランの兄、グラン・ギルバートは長髪のいけ好かない男だった。服装は高貴な者の服とは思えない、黒い皮の上着にカジュアルなズボンだった。アランや、グランの隣にいるダニーとはすごい違いだ。グランの隣にいた、ダニーは、アランが言っていた通り気の弱そうな男だった。金の装飾があしらわれたつるつるした服も着せられている感が拭えない。
「よぉ。アラン。お友達か?」
グランはアランに訊ねた。
「ちげぇよ。こいつらは……今度の試練で一緒に戦ってくれる仲間だよ」
「そーかそーか! お前にも仲間ができたか! そいつぁいい。だがな、アラン。お前は無理に試練を受けなくてもいいんだぜ。家督は俺がつぐんだからな!」
「言っとけ」
グランの言葉をアランは一蹴したが、俺はグランのアランを見る目つきが気になった。あれは、敵を見る目ではなかった。愛するものを心配するような、そんな目だった。
一方ダニーは、ここで喧嘩が起こるのではないかとオドオドしていたが、アランが牙を剥かないとわかると安心したようだった。ダニーはアランに何も言わなかった。
一触即発の気配を乗り越え、俺たちはアランの部下の運転する馬車で、赤い羽根まで送ってもらえることになったので、それに甘えた。
赤い羽根に帰ると、アイラがすでに話を通してくれていたために店のマスターは俺たちをすんなりと二階に通してくれた。二階の部屋を二部屋使ってもいいとのことだったので、当然男子と女子に分かれるのだと思っていたのだが……。
「アキヤマさん。シンシアさん。おかえりなのです。お疲れでしょう。アキヤマさんはこの隣の部屋を使ってください。シンシアさんは、少々手狭にはなりますが、私とミスリアと同部屋でお願いします」
「ああ。わかったよ」
「その必要はない……私はアキヤマの部屋に泊まるから……」
部屋でそんな会話が繰り広げられたとき、女同士の戦いが勃発した。
「はぁ!? あなたみたいな綺麗な人が、そんなどこの馬の骨とも知らないような男の人と一緒に泊まるなんてダメなのです!?」
アイラは開口一番そう否定したが、ひどい上にこれまでのアイラはどうだったんだ? という疑問が頭に浮かんだ。これまで何回も同じ部屋で寝てきたのに。
「問題ない。アキヤマなら何をされてもいい」
シンシアはそういうと、問題が解決したかのように俺を押して部屋から出ようとした。しかし。そんなことが許されるはずもなく。
「何をバカなことを言っているのですかぁぁぁぁぁ!!!???」
「バカなことなんてない……私はいつアキヤマに××されようとも、××されようとも構わない……」
お前が興味あるのは俺の知識なくせに……と思いながら、その戦いが休まるのを待とうと、影を薄くしながらベッドに座っていたミスリアの隣に座った。
するとミスリアは、俺の膝の上に座ってきた。
「おじちゃんも苦労してるんだね」
ミスリアは上を向いて背中越しに俺の顔を見て言った。碧色の瞳に吸い込まれるような気がした。俺は、柔らかい金の髪が生えるミスリアの頭をなでながら、「そうなんだよ……」と力ない声で答えた。
アイラとシンシアの女の戦いは、シンシアの一歩も引かない姿勢が勝利することになった。アイラは悔しがりながらも、俺に向かって「シンシアさんに手を出したら殺すのです」と見たこともないような恐ろしい目つきで言ってきた。
そんな成り行きでシンシアと相部屋になったのだが、俺が手を出すはずもなく……結局夜遅くまで魔法の話をすることになった。先にシンシアが眠ってしまったので、俺はシンシアをベッドまで運んだ後に自分のベッドに横になった。
そして夜は耽けていく。




