王都の現状④ 〜作戦会議〜
「その、第1種危険生命体っていうのは……?」
もうやばい案件なことは確信していたのだが、恐る恐る聞いてみる。
「魔法教会の一般の魔道士が50人かかっても倒せないとされるレベルだ。遭遇したらすぐ逃げるように忠告されてンだ」
「はぁ!? なんでそんなやばいのを倒さないといけないんだよ!? そんでそいつは今どこにいるんだよ!?」
俺は思わずそう騒ぎ立てた。
アランは冷静に答える。
「それが、ギルバート家の当主にふさわしいと認められるための試練だからだ。ペガススは今……王城の地下に住み着いている。王城とはいえ、誰も勝てないもんだから今はみんな近づかないようにだけしてて、迷惑してんだってよ」
「なんだってそんなところに?」
俺の問いに、アランは顔を険しくした。どんな事情があるというのだろうか。
「それが、俺も直接見たわけじゃないんだが、どうやら、5年前、急に地下に現れたらしいんだよ」
「急に?」
「ああ。意味のわからねぇ話だが、本当にある日突然現れたらしい。それが王城の地下だってんだから、ほっとくわけにもいかねぇし、討伐隊が何度も編成されたが全て全滅。魔法教会にも頼れずに今の今までほっておかれたってわけさ」
「魔法教会に頼っちゃいけないのか?」
俺の問いは都合の悪いものだったのか、アランはバツが悪そうに答えた。
「王都は魔法教会からは独立した存在だ。魔法教会はまだ王都ロマネを完全には掌握できていない。それもガリア王の人徳と政治のなせる技だったんだが……。とにかく、魔法教会に頼って王都支配の糸口を掴ませたくないてわけだよ。だから貴族であるギルバート家がなんとかしようって話らしい」
「なるほどなぁ……」
プライドとかそういった問題だけかと思っていたが、どうやらそう簡単なものでもないらしい。しかし、王城の地下……? 最近どこかで聞いたような……。
「俺たち三兄弟は一週間後、そのペガススに挑むことになっている。できればお前ら二人も協力してほしい」
アランはそういうと頭を下げた。普段の口調が荒くてもアランはこういう時に頭をきちんと下げられる男だ。しかし……。アランをこのままほっておくわけにもいかないが、正直手に余りそうな案件ではあった。
受けるか受けまいか迷っていると、予想外の方向から言葉が飛んで来た。
「受ける……。アランをこのままほっておけるわけ……ないよね……アキヤマ……?」
シンシアは期待の目で俺を見たが、明らかにアランのことを思っているような目ではない、どう見ても、ウキウキして何かに心躍らせている目だ。どうせ、戦闘になれば俺の魔法が見られるとでも思っているのだろう。
しかし、乗り気でないとはいえ、アランには魔導学園時代に何回か助けてもらった恩がある。断るという選択肢なんて、もともとなかったのも事実。
「はぁ〜。また命懸けか。まぁいいや。わかってるよ。アラン、お前には散々助けてもらったからな。もちろん協力するよ」
俺はため息をつきながら返事をした。それを聞いてアランはホッとしたようだった。
「ありがとな。シンシアもそれでいいか?」
「……もちろん」
シンシアには命の危険とかいうものは一切感じていないみたいだった。頼もしい限りだったが。アイラたちにはどう説明しようか。
「俺の家に着いたら、俺の兄弟と幻獣の情報を伝える。そこから作戦会議だ」
「了解」
俺たちはそのまま馬車に揺られ、アランの実家――ギルバート家の本邸に運ばれていった。
ギルバート家本邸は王都の中心部にあった。中心にあるのは王城だが、それを取り囲うように高い身分の者たちが住む家々が並んでいた。ギルバート家の本邸はその中でもかなり大きく、豪華な金属製の装飾が所々に施された立派なお屋敷だった。
俺たちは馬車から降ろされると、アランによって部屋に案内された。アランの部屋は、学校の教室ぐらいの大きさで、家具も本革や上質な木でできていて、高級そうなものばかりだった。俺たちは案内されるまま、アランの部屋のソファに座らされた。シンシアは俺の隣に座り、アランは俺の向かいに座った。
「それじゃあ、作戦会議と行こうぜ」
アランはにやりと笑った。
しかし、そもそも俺たちはまるで事情を知らない。
「んじゃ、とりあえず、今の状況とやらをお聞かせ願おうか」
俺はギルバート家の執事が出してくれたコーヒーを啜った。えらく余裕だなと思われそうだったが、それはむしろ逆。気持ちを落ち着かせるために飲み物を飲んでいただけである。
「ああ。まず幻獣の話だが、ペガススというのは俗称だ。合成魔獣だからな、正式な名称というのはない。目撃者の話からすると、この元の魔物がおそらく幻獣種、一本角のユニコーン、それと幻獣種のドラゴンを組み合わせたキメラらしい。あくまで見た目からの判断らしいがな」
「ちょっと待ってくれ。その幻獣種っていうのは?」
俺は初っ端から話についていけず、訊ねた。
「ああ、アキヤマは知らねぇのか? 幻獣種は第1級危険生物の一種で、50年に1度現れるか現れないかのレベルの災害ミテェな魔物さ」
「50年に1度……そんな魔物を二体も合成したキメラが……!?」
「ああ。魔法の系統は雷。しかも厄介なことにユニコーンもドラゴンも雷の魔法攻撃をしてくる魔物だ。ドラゴンは炎の種もいるミテェだが」
「すまん。その厄介っていうのは?」
俺はいちいち話を中断してしまって悪いと思いながらも、堂々と聞き返した。
「んぁ!? お前何もしらねぇんだな……まぁいい。……要するにだな、例えば炎と雷の魔物が合成されれば、炎と雷の魔法を使う魔物が誕生する。それはそれで厄介なんだが、それぞれの魔法は合成される前の魔物のほうが強力なンだ。だがな、今回みたいにどちらも雷の魔法を使う魔物同士のキメラの場合、キメラの使う雷の魔法は、強化される。それが厄介ってことだよ」
俺は説明されて納得した。そういえば、雷の魔法というのは、なんだかんだ魔導学園でも相手にする機会がなかった。今回が初の戦闘になる。
……初の戦闘がそれが幻獣同士のキメラかぁ。それも、恐ろしく強い相手なのかぁ。何かに呪われてるとしか思えないよなぁ。
ちゃんと雷の魔法を見たのは……サラの魔法を最初に見たぶりか。そういえばドラゴンもサラが使い魔として使役しているのを見たか。あれそんなにやばい魔物だったのか。それを使役するサラって一体……。
「と、いうわけで。今回はその雷の魔法の対策、それに俺の兄弟の妨害についても考慮に入れたいと思ってる」
アランはそう続けた。
「兄弟の……妨害?」
「ああ。後で会ったらどんなやつかはわかるかもしれねぇが、説明しておく。俺の兄、長男のグランは勝手な性格でな。魔法教会が嫌いで、ギルバート家に不利になるような言動を繰り返した挙句、縁を切られる寸前で家を出ていった。あれは確か五年前だったっけな。それが今になって家督を継ぐと言い出して、今回の試練にも参戦することになった。とにかく自分勝手なやつだぜ。対して、俺の弟、ダニーは気が弱くて魔法もてんでダメなやつだ。家系が若干異なるからかもしれねぇがな。……あいつは親父の妾の子なんだ。今回の家督相続のための試練には一応参加するらしいが、死んでくれないようにだけは気をつけてほしいもんだぜ」
アランは一息に説明した。
「それじゃ、とりあえずは、そのグランってやつの妨害を気にしとけばいいってことか?」
「ま、そういうこった」
ふと横を見ると、シンシアは無言で俺たちの会話を見守っていた。彼女は今、何を思っているのだろうか。
「グランはどんな魔法を使うんだ?」
「おそらく、土魔法だろうな。ギルバート家は五属性でいうと、基本的に土系統の魔力変換の効率が段違いでいい代わりに、他の魔法はそこまでだ。……とはいっても、あんまり舐めてると痛い目を見るからな」
「舐めないって」
だいたい、そんなことはアランの魔導学園時代の授業の時に散々知っている。アランは基本的な魔法はきちんと使いこなしていた。土魔法が得意というのは、それ以上のレベルを意味しているのだろう。
「ってことは、アランと同じく、グランも硬化の魔法を使うのか?」
「いや、それはわからねェ。グランとはもう長い間会っていないからな」
「そっか……。それじゃ、土魔法対策と雷魔法対策を考えればいいんだな」
「ま、そういうこったな」
そこから俺たちの本格的な作戦会議は始まった。




