王都の現状③ 〜面倒な事情〜
赤い羽根に向かっている途中、仰々しい馬車の行列が前からやってくるのが目に入った。何台も何台も馬車が通り過ぎて行く。
「はー。こんな街中をこんな大勢で。一体なんの軍団だ?」
俺は一緒に馬車を見ていたアイラに聞いた。これまでアイラはこの街のことを多少なりとは知っていたからだ。
「これは……貴族ですね。馬車に書いてある紋章でどこの貴族かわかるのです。この紋章は……」
アイラが言い終わる前に、一台の馬車が俺たちの前で止まった。俺は思わず何か失礼に当たることをやらかして早速揉め事に巻き込まれてしまったのかと思ったが、そうではないようだった。
馬車が俺たちの前に止まった後、中から見覚えのある顔が出てきた。
「アラン!?」
「おお! アキヤマじゃねェか! 着いてたのか! 連絡しやがれよ!」
アランは俺に近づいてくると肩をバシバシと叩いてきたが、後ろに控えている部下のような者たちはヒヤヒヤとした目でそれを見つめていた。
「すまんな。今来たばっかりなんだよ」
「そうかそうか。今から何か予定はあるのか?」
アランは俺の後ろに続く三人には目もくれずに俺にそう聞いた。いや、シンシアの方はちらりとだけ見たのは確認できたが。
「いや、とりあえずこの街の様子を見て回ろうと思ってたんだが……」
俺がそう歯切れの悪い返事をすると、アランは待ってましたとばかりに食いついて来た。
「そうかそうか! よし! なら乗れ! な!」
アランはバシバシと俺の肩をたたくと強引に俺を馬車に連れ込んでいった。しょうがなくそれに三人も付いてくる流れだと思って、彼女たちの方を助けを求めるような目で見たのだが。
「私は……今日はやめておくのです。先に赤い羽根に行って話を通しておくのです」
「ええ!? んじゃあ俺はどうすれば!?」
珍しくアイラは乗り気でなく、俺が連れ去られようとしているのにもかかわらずスルーだった。それに付随して、ミスリアもアイラにひっついて行ってしまったのでそこに残されたのは結局シンシアと俺だけになってしまった。
しかし、シンシアだけは俺に付いて来てくれるようで、「私は行くから……安心して……」と言い、感情のこもっていない目で俺を見返した。ため息をつき諦めて俺はアランの乗っていた豪華な馬車に乗せてもらうことになった。アランの部下たちは、なんだこいつらは、といった目で俺を見ていた。
馬車は俺たちを乗せると再出発した。アランの馬車が停まっていたせいで後ろに控えていた馬車たちは待ちぼうけを食らっていたのでなんだか申し訳ない気分だった。
「んで? これはどういうことだよ?」
俺はアランに問いかけた。あのアランが俺を単に観光させてやるためだけに強引に馬車に乗せるとは思えなかった。
「あぁん!? 俺がお前を誘っちゃ悪いってのか!?」
「そうはいってねぇけどさ……気持ち悪ぃ……」
アランは自分の言葉を思い返したのか、顔を真っ赤にしてチッと大きな舌打ちをした。
「バレバレだったか。ならちょうどいいや。馬車に乗りながら聞いてくれ。お前らに頼みがあるんだよ」
アランは気まずそうに頭を掻きながら言った。よく見ると、切り揃えられていた髪は伸び、少し雰囲気が垢抜けている。
「頼み?」
嫌な予感がしたが、シンシアの方を見てもなんの応答もなかった。
「ああ。実は今、実家が困ったことになっててな……」
アランは珍しく弱気なようだった。いつもなら俺一人でなんとかしてやるぜ、ぐらいの気概を見せそうなのに。
「アランが素直に頼み事をしてくるなんてな」
「……それだけ困ってるってことだよ」
アランは真剣に俺たちの方を見て頭を下げた。
「おい! アラン! やめろって! お前仮にも貴族なんだろ!?」
「その貴族に向かって仮にもとはなんだァ!? 喧嘩売ってんのか!?」
アランはバシバシと俺の背中を叩いた後、俺を見た。俺たちは目を合わせた後、大いに笑った。なんだか青春を共に過ごした魔導学園時代に戻った気がした。――いや、そんな時代はなかったか。
「それで……頼みって……」
話を聞いているのかさえ分からなかったシンシアがそう口を挟んで来た。何を目的に俺について来ているのかは分からなかったが、シンシアは進まない話というのは嫌いらしい。
「ああ。それのことなんだが……アキヤマ。俺のフルネームを知っているか?」
「アランの? ……えっと、確か、ギルバートだっけか?」
「そうだ。俺の名は、アラン・ギルバート。ギルバート家は王都に本邸を構える貴族で、王家にも関わりのある名のある家柄だ」
アランは偉そうに腕を組んで言った。そんなに偉いやつだとは全く知らなかった。
「おお。それで?」
反応が薄い俺の様子を少し残念がりながら、アランは説明を続けた。
「ギルバート家には、現在三人の跡取り候補がいる。長男のグラン・ギルバート、次男の俺様、アラン・ギルバート。そして三男のダニー・ギルバート。四女にローラ・ギルバートもいるがローラは女だから跡取り争いには関係ない」
面倒臭そうな事情が絡んでいそうだし、早く帰って寝たいとでも思っていたのだが、それを表に出すわけにも行かないので、続きに耳をすませた。
「今年、親父は隠居して、俺たちのうちの誰かにギルバート家を継がせようと考えてるらしい。そして、ギルバート家の跡取りとなる者は、毎年試練を受けてそれを乗り越えなければならないという決まりがある。それをクリアできないものは跡取りには絶対になれないってやつだ」
「ああ。そうなのか。……それで? 今年の試練っていうのは一体なんなんだ?」
俺は嫌なことに巻き込まれていっている感じしかしなかったが、恐る恐るそう聞いた。そして帰って来た言葉は……。
「幻獣と呼ばれる第1種危険生命体である……ペガススと呼ばれる魔物の討伐だ」
おいおい、勘弁してくれよ。
死の気配が忍び寄ってきているような気がした。




