王都の現状② 〜突然の通信〜
「アキヤマがスクオラでダンテ校長を打倒し、不正を明らかにしたのはすでに王都に伝わって来ている。魔法教会は、アキヤマにうわべでは感謝している風に取り繕っているが、アキヤマは要注意人物としてマークされている」
「本当か!? 俺は美味しいところを持って行っただけなんだが……」
「そうなのか? 俺は実際のところは知らないが、すでに魔法教会はアキヤマをブラックリストに入れ、そして魔女の教えを受けたものではないかとの疑惑も出て来ている。その影響か知らないが、最近魔法教会の幹部たちの使う魔法が変化したとの報告を受けている」
「魔法が変化?」
俺が聞き返すとジャックは頭を掻きながら答えた。
「……ああ。単純にパワーアップしているものもいれば、より複雑な挙動の魔法が増えて来ているみたいだ。別に魔道士の総魔力量は変わらないのに、魔法効率がよくなってるみたいにな」
「魔法教会の魔法陣が変化している? それと俺に何の関係が?」
「アキヤマが見たこともない魔法を使うと魔法教会が報告を受けているらしくてな。その影響があるんじゃないかと踏んでいるんだが」
「そうなのか……」
心辺りは大アリだった。アリス。あいつが魔法教会に報告したに違いない。もしかしたらまた俺たちの前に現れるかも。できることなら戦いたくはないものだが。
「アキヤマの話はそんなもんだな。次は……この街の状況についてだっけか?」
ジャックは真剣な表情を崩さずに喋り続けた。
「王都ロマネ。その名の通りこの街はこの国イタリカの王ガリア・ロマネスクの住む城の城下町だ。王は魔法教会をこの街に極力いれないようにしてこれまで独自の治安を保って来た。しかし、今、そのガリア王が崩御なされようとしている」
ジャックがそこまで言ったところで、後ろから「ええっ!?」とアイラの驚く声が聞こえた。ジャックの話に集中するために気にせず話を聞く。
「そして今、この国最大の危機が訪れようとしている。ガリア・ロマネスクの息子である、レイア・ロマネスクが即位し、またそのレイアが魔法教会の手のかかった女と結婚することになっているんだ。挙式は明日。俺たちは魔法教会側の女を暗殺し、この国が魔法教会の手に落ちることを阻止しようとしている」
「は、はぁ!?」
完全に頭が追いついていなかった。予想外の動きがすでにこの街で起こっているようだ。
「ガリア王の病態は年々悪化している。もう、長くないだろう。じき亡くなる。娘のアイリーン姫君も行方不明。だめ息子のレイアしか王を継ぐものはいないのが現状でな。レイアが即位するのは良くても、奴が魔法教会の手に落ちることは避けたい……。この国は未曾有の危機なんだよ。アキヤマも手伝ってくれると嬉しいんだがな」
「……すいません。急には」
「ガハハ! まぁそういうだろうと思っていたよ! まぁいい。暗殺などという悪事に手を染めたくはないだろう。ただ。俺たちが本当に困っている時が来たら、借りを返してくれると嬉しいがな」
「そのときが来たら。必ず」
「ガハハ! そうかそうか。なら、俺は作戦会議に戻る。そうそう、アキヤマくんたち、泊まるところがなかったら、赤い羽根の二階を使わせてもらいなさい。話は通しておくから」
ジャックはそういうとテーブルに戻って行った。邪魔しては悪いので、俺たちも部屋から出て行った。
「ありがとう。ジャック」
と最後に一言だけ残して。
古物店ルージェを出ると俺はアイラたちと話しながら、とりあえず王都を見て回ることにした。
「それにしても、今この街がそんな状況にあるなんてな。驚きだらけだ」
俺がそう言うと、アイラはうなづいた。
「確かに、驚きだったのです。まさか……ガリア王の崩御が近いなんて。それに魔法教会が……」
「ああ。しっかし、どうするかね。これから」
俺は正直まだこの街での行動を決めかねていた。あと何か忘れている気がする。
「私はアキヤマについていく……」
シンシアは無表情で呟いた。相変わらず感情が読めん。
そこでアイラの持つ魔法通信道具が鳴った。というか光った。そして震えた。アイラは貝型の魔法道具を取り出すと通信を開始した。
「……聞こえるか。サラだ」
「はい。聞こえるのです! お師匠様!」
アイラは待ってましたとばかりに通信を開始した。街中だけど。行き交う人々は好奇の目で俺たちを見ている。そういえばこの街は魔法道具を使っている人が少ない。
「……そこにアキヤマくんもいるようだな。……それに。なんだか無駄な女を二人も増やしているようで。いやはや元気にやっているようだな。アキヤマくん?」
サラに冷たい声で言われたが、いわれのない罪だ。って言うか別に罪でもないでしょ。
「元気だよ」と俺は返した。「それで、どうした? サラから連絡なんて珍しいじゃないか」
「……ああ。そのことだが。今、君たちはどこにいる?」
「どこって。今は王都だけど」
「王都ぉ!? それを早く言わんか!?」
なんだか向こう側で、サラが激しいリアクションしている気がした。主にドタドタする足音が聞こえたので。
「……お師匠様。御免なさいなのです。通信が遅れてしまい。何か用があったのですよね?」
「……こほん。その通り。君たちのスクオラでの活躍は耳に届いている。相当無理をしたようだね。お疲れ様」
珍しく労をねぎらうサラに嫌な予感がする。こう言う時はだいたい難題をふっかけてくるんだ。
「そこで! 君たちの実力を見込んで頼みがある。これは君たちの旅の目的にも関わってくる、重要なことなんだがね……」
「もったいぶってないで、早く言ったらどうだ?」
なかなか本題を切り出さないサラを急かす。アイラに睨まれたが知るものか。
「……王都でも、これまでと同様、キメラが合成されていると聞いている。そして、そこにはおそらく私の心臓に関わる鍵が隠されている」
「……鍵? 心臓? なんでそんなことがわかるんだ?」
「それは……そのキメラが、これまでにないほど高魔力で合成されたものだからだ。遠く離れた私でさえ感知できるほどにな。そして心臓に関わる鍵も同じ場所にあるようだ。同様に高魔力で生成されたものゆえ私が感知できている。もし、そのキメラを倒すことができるほど君たちが強くなったのなら……。いや、それはまたの機会でいいか。くれぐれも無理はしないでくれ給え」
「無茶振りをしといてよく言うよ」
「ふふ。頼りにしているとも。……ところで、その二人の女の説明を私は求めるぞ」
通信越しにサラの不機嫌な声が伝わってくる。
「ああ。こいつら? この無愛想なのがシンシア。魔導学園で知り合った。なんか俺の魔法が気になるって言って付いてきてるんだよ。そんでこっちのちっこいのはミスリア。話せば長くなるんだが、成り行きで同行することになった」
「……ふん。成り行きでどんどん女の子を仲間にしていくとは、んだスケコマシ野郎だな」
「話ないんだったら切るぞー」
長くなりそうなサラの話を適当に切り上げようとする。
「あ! ちょっと待て! 私の久々の登場をこんなちょっとで終わら――」
通信を切った。アイラには悪いが。
「もう! アキヤマさん! お師匠様に向かって! 失礼な切り方なのです!」
アイラはプンプンしながら言った。耳がぴこぴこ小刻みに動いている。こういったやり取りもなんだか久しぶりな気がする。
「すまんな。長引きそうだったからな」
「もう……。そういえば、ジャックさんにミスリアを預けないで良かったんですか?」
アイラはミスリアを見て言った。ミスリアは相変わらず元気なさげにアイラの後をくっついてきている。
「ミスリアは……多分、紅蓮の牙に預けちゃいけない気がするんだ」
それは初めて他の人に言う意見だった。ミスリアの行く先の話。
「……どういうこと? 子供なんて足手まとい……預けた方がいいに決まってる」
シンシアは腕を組み、冷たい目で言い放った。
「そりゃ、戦いには連れて行くわけにはいかないが。ミスリアはこのまま紅蓮の牙に預けたら……間違いなくアレスを……魔法教会を恨む。恨んで復讐しようとするだろう。それは、避けたいんだ。ゴンドの死に際に頼まれちまったしな」
俺の言葉を聞いて、アイラは目を丸くした。
「意外とちゃんと考えていたのです。少し……見直したのです」
「……ったく。意外とは余計だよ」
俺たちはそのまま人通りの多い大通りを歩いて、赤い羽根へと向かった。




