王都の現状① 〜必然の再会〜
無事、王都ロマネの城門をくぐり抜けることができたが、俺たちの雰囲気は最悪だった。特にミスリアは目も当てられない。ゴンドたちが殺されてからも、街に入ってからも、ひたすらに涙を流し続けた。それからも、声を噛み殺しながら、静かに泣いていた。
今は泣き止み、目を真っ赤に腫らしている。
ミスリアと会ってからそう時間は経っていなかったが、すでに俺たちは感情移入をしてしまっていた。それに、ゴンド――盗賊とはいえ自分の身を投げ打ってまで大切な人を守ろうとした男に、命の間際に頼まれてしまっては面倒をみるしかない。
「アキヤマさん。とりあえずどこへ向かうのです? 王都ロマネはとてつもなく広いのですよ?」
最初に沈黙を打ち破ったのはアイラだった。普段と同じように話しかけて来てくれた。こういうときアイラは頼りになる。しかし、なぜかアイラはフードを深くかぶっていた。日焼けでも気にしているんだろうか。
「そうなのか? まるでよく知ってるみたいな言い草だけど」
「はぁっ!? こ、これぐらい常識なだけなのですよ!? ねぇ!? シンシアさん!?」
俺の何気ない一言にアイラは随分と焦っているようだった。
俺は何かまずいことをいったのだろうか。
「・・・?」
シンシアはシンシアでぽかんとした顔でアイラを見返した。シンシアが町の様子に詳しいとも思えない。この中で役に立ちそうなのはアイラだけだった。
「はぁ。シンシアさんもアキヤマさんもだめだめなんですから。やはりここはお師匠様の一番弟子である私が活躍するしかないようなのです」
アイラはフードの中でぴょこんと猫耳を跳ねさせた。そういえば、この感じは久々だ、と懐かしく感じた。サラ、しばらく登場してないけど元気にしているだろうか。
「まずは情報を集めるべきだろうな。酒場かな。とりあえずは。紅蓮の牙の誰かもいるだろうし」
「そうですね。それが妥当な選択肢なのです」
俺の意見をアイラは肯定した。そして、シンシアはといえば。
「……私はどうでもいい。アキヤマについていければ」
相変わらずだった。
ミスリアは意見を言わなかったので、最初は俺の意見に従い、酒場に行って情報を集めることになった。
酒場といっても、王都ロマネはとてつもなく広い街のため、いくつも店舗があった。アキヤマはその中でも、「赤い羽根」という酒場に最初に入ることにした。
城門の中に入って、わかったことがある。まず、ここ、王都の構造についてだ。ここは中央に大きな城を構える大きな城下町だ。
どこの酒場に紅蓮の牙がいるかもわからなかったので、大通りの近くにあり、名前に赤の入っている『赤い羽根』という酒場を選んだ。
酒場に入ると、昼間にもかかわらず何人かの中年が呑んだくれていた。それでも、悪い飲み方という感じはしなかった。昼間っから酒を呑んでいられる身分は羨ましい限りである。
幼女と女の子とを引き連れて酒場に入って来た俺を店員は不審な目で見て来た。それはそうだろう。怪しいのは間違いない。
「なぁ、あんたがこの店のマスターか?」
俺はカウンターの向こうでカクテルを調合していた男に話しかけた。
「ああ。そうだが、お前は何モンだ? こんな昼間から女の子を引き連れて酒場に来るなんて」
彼は口髭をなぞった。
「たいしたやつじゃないさ。それより、ならあんたに聞きたいことがある。ジャックという男を知っているか?」
俺がその名前を出した途端、その店のマスターの表情は一変した。どうやら1店舗目から当たりらしい。マスターは警戒して俺の顔をじっと見つめた。
「お前の名前は?」
マスターはそう言いながら俺以外のメンバーの顔もじっくりと眺めた。
「アキヤマ」
「アキヤマ!? アキヤマと言ったか?」
店のマスターはかなり動揺した様子で目を丸くして俺の方を見た。
「ああ……そうだが」
「ジャックから話は聞いてる。が……しかし、噂のアキヤマがまさかこんな冴えない男だとは・・・」
マスターは超失礼なことを言ったが、それよりも気になる一言があった。
「おいおい、失礼なやつだな。だが、その俺の噂っていうのは気になるね」
「ああ、すまんすまん。そうか。そうだな……それなら、王都三番街の外れにある『ルージェ』という古物商へ向かうといい。あんたの噂も含めて、ジャックが話してくれるさ。地図を渡しておこう」
マスターはそう言うと俺の方をポンポンと叩いた。
「ありがとう。……よし。それじゃあとりあえずその『ルージェ』に向かうとするか」
誰も反論はなく、そのまま俺たちは『赤い羽根』を出て『ルージェ』へと向かった。『ルージェ』は地図を渡してもらわなかったらわからないほど入り組んだ路地の中にあった。大通りと比べると人通りは少なく、日が出ているにもかかわらず薄暗い。
『ルージェ』は路地の中にポツンと存在していた。俺は先頭に立って、古い木製扉を恐る恐る開いた。扉の先には、骨董品などアンティークな品々が並んでいる。魔法とは関係なさそうな品物ばかりだ。
「いらっしゃい。ここはルージェ。しがない老人が趣味でやってる古物商の店さ。何の用だい? 坊主。骨董品に興味があるようには見えないけどねぇ」
奥のカウンターの席に座って声をかけて来たのは、丸い眼鏡をかけ少しはげかけた頭に深くシワの刻まれた顔をした老人だった。彼は読んでいた新聞を置くと俺たちの方を見た。
「ああ。あんたの言う通り俺は骨董品を買いに来たわけじゃない。ジャックに用があるんだが。いるか?」
俺がそう声をかけると老人はピクリと眉を動かした。
「あんた、名前は?」
「アキヤマだ」
俺が答えると老人は片方の眉だけを上げ、物珍しそうに俺を眺めた。
「ほう、坊主がアキヤマか。いいぞ。二階にいきな。階段を上がって右の部屋だ」
老人はカウンターの奥にある階段を後ろ手に指差すと再び新聞を読み始めた。
俺たちは老人の言う通り、階段を上がった。アイラもシンシアも黙って俺の後ろについて来た。ミスリアも相変わらず元気が無く、ただただアイラの後ろにひっついて歩いて来た。右の部屋に入ると、見覚えのある男が待ち受けていた。紅蓮の牙のリーダー。ジャックである。筋骨隆々な体に、堀の深い顔つき。忘れようとしても忘れられないインパクトの強い男だ。ジャックは紅蓮の牙の仲間とみられる何人かとテーブルを囲んで話し合っていた。
「取り込み中悪い。久しぶり。ジャック」
構わず声をかけると、ジャックはすぐにこちらを振り返ったと思うと近づいて来た。
俺の肩に手を回すと、相変わらずの気軽さでガハハと笑いながら話しかけて来た。
「おお、アキヤマじゃないか! また女の子を増やして来ちゃって、まぁ! ガハハ」
「いやそれについてはおいおい説明するとして……」
「初めまして! お嬢さん方。アイラちゃんはもうあっていたが残りの二人はお初にお目にかかる。紅蓮の牙のリーダーをやってるジャックという。以後よろしくな! ガハハ」
俺のいうことを聞かずにジャックはシンシアとミスリアに話しかけた。俺は早く話を進めたいのに。
「……シンシア」
「ミスリアです」
二人が名前を言うとジャックはまたガハハと笑いながらふたりと握手を交わした。しかしジャック、少し見ないうちにヒゲが随分と伸びてよりワイルドになっている。
「ジャック! そんな無駄話をするだけなら作戦会議に戻ってちょうだい」
きつい口調でジャックを叱ったのは、テーブルを囲んでいるうちの一人、アイラと同じ猫耳の獣人のお姉様だった。スーツのようなきっちりとした服装にメガネというなんともOLチックな服装をしている。
「ガハハ、すまんすまんグレイシー。でもまぁいいじゃないか。ちょっとぐらい」
「ジャック! この作戦がどれほど重要か! あなたもよくわかっているはずでしょう!」
叱られてもガハハと笑うジャックをきつい言い方でグレイシーはたしなめた。
「悪いな。本当に取り込み中だったみたいで」
「ガハハ。いいんだよ。それで何か話したいことがあるんだろ? アキヤマ。話の内容にも寄るが少しならグレイシーも許してくれるはずだ」
本当に大丈夫か? と思いながらグレイシーの方を見たが、案外優しそうな表情でグレイシーは俺を見ると、静かに頷いた。
「じゃあ、お言葉にあまえて。今の俺の状況、というか、どういう風に噂が伝わってるのか、この町での今の魔法教会の動きとか、できれば教えてくれないか?」
「……なるほどな! いいだろう! ただし、それを説明するには俺たちが行おうとしていることも説明した方がいいだろうな」
「ちょっとジャック!? 勝手に何を」
「大丈夫だ! アキヤマは信用できる男さ!」
ジャックはグレイシーの方をひと睨みするとグレイシーは静かになった。ジャックがふざけていないと分かれば、ジャックの決定を尊重するのだろう。
「じゃあ、教えてくれるか?」
「ガハハ! いいとも! ただし、話は長くなる。お嬢さん方は椅子に座りな!」
ジャックは椅子を三つ出すとアイラとシンシアとミスリアを座らせた。いや俺の分も出せよ。
「まずは、アキヤマの評判だな。聞いて驚くなよ。こっちではな……」
ジャックは語り始めた。




