王都への道③終〜復讐の灯〜
「良かったんですか? アキヤマさん。この幼女とこいつを客席の方にのせても」
アイラは小声で俺にそう聞いてきた。
「いいんだよ。こいつらには話を聞かなきゃいかねぇし。一応縛ってるし。大丈夫だろ」
俺とアイラとシンシアが座る客席にミスリアとゴンドも一緒に載せることにしたのは俺の判断だった。道中に話を聞きたかったからそうした。おそらく、ミスリアだけに話を聞いても埒が明かない。
「で、ゴンドって言ったか? この状況、どう言うことか、説明してもらおうか。何でこんな幼い子に頭領なんてやらせてんだ。返答次第じゃタダじゃおかねぇぞ」
俺はできるだけ威圧感を出してゴンドに脅しをかけた。本当に威圧感が出ているかはわからなかったが。
「ゴンドおじちゃんをいじめないで!!」
ミスリアは這うようにして俺とゴンドの間に割って入ってきた。そこまでして何でこんな奴のことをかばうんだ。
「ミスリアちゃんは黙っておいて。俺はゴンドに質問をしているだけだから」
やや冷たい俺の対応にミスリアは泣きそうになり、それを見てゴンドは少し顔をしかめた。
「わかったですぜ。事情は全部話すから。とりあえずミスリアの拘束を解いてやってくだせぇ。その子は逃げたりなんかしない。何ならその分、俺らの拘束をきつくしたっていいですぜ」
ゴンドのその殊勝な申し出に、しょうがなくその要求を飲んでやることにした。ミスリアの拘束をとき、その代わりにアイラに抱っこしてもらうことにした。
「これでいいか」
「ああ。ありがとうごぜぇます」
ゴンドは一安心したようにホッと一息ついてそう言った。
「で? 事情ってのは?」
俺の問いに、ゴンドはゆっくりと言葉を選んで話し始めた。
「あれは……、五年前のことでしたぜ……。
ミスリアがとある町で捨てられていたのを見た兄貴、アックス・レイヴという男が拾って育てると言ったんでやす。アックス盗賊団はもともと身寄りのない魔法の使えない子供達を育てながら何とか生きていた集団でやした。だからミスリアを引き取ることに反対する者などいなかったんですぜ……。
それでミスリアを引き取って育てていたんですが……。
一年前……兄貴が……アックス兄貴が、アレスとかいう炎の魔法を使う魔法教会の男に殺されたんですぜ。それでミスリアは自分が兄貴の代わりにならなきゃって言い出して……。俺たちがとある旅団から盗んだ魔法陣で、姿を変えるものがあったもんで、魔法の素養があったミスリアは兄貴の姿に変化するようになったんでやす。もちろん、そんなことさせずに、俺たちとは違う日向で生きてもらうほうがいいっていうことは、わかってたんでやすが……。ミスリアも頑固で聞かなくって。それでこんなことになってしまったんですぜ」
「ふむ。……そうか」
予想通りに酷い話だった。そもそも盗賊としてしかやっていけない者たちがいるのは、完全にはこいつらの責任とも言い切れなかった。それでつい言葉に詰まってしまった。
「アキヤマさんの力を見込んで、お願いがありやす……ミスリアを……ミスリアを引き取ってやってくださりはしねぇですか?」
ゴンドは突然そんなことを言い出した。当然俺の反応も決まっていて。
「はぁ!?」
「お願いしやす!むちゃくちゃできる魔法使いだと聞いておりやす。どうか……どうか……」
ゴンドは拘束された状態で頭を床に擦り付けて頼み出した。
「おい! やめろって」
「ミスリアは本当に素直に育ったいい子なんすよ。俺たちみたいな半端者と一緒にいていいような子じゃないんですぜ……」
ゴンドはその姿勢を維持したまま言った。それに対し反論したのは、ミスリアその人だった。
「ゴンド! 何を言ってるの!? 私は大丈夫だよ!? みんなと一緒にいるよ!?」
ミスリアは目に涙をためながらも必死にそう言った。よっぽど彼らと離れたくないのだろう。親代わりにして育ったのなら当たり前だ。でも、ゴンドの言う通り、彼らとい続けることはミスリアのためにはならない。
「……わかった。俺が何とかする」
「ちょっと!? 何を!? 私は行かないもん!!」
暴れるミスリアをアイラが抱きしめて抑え込む。
「暴れないでなのです!!」
その様子を、シンシアはただ見ていた。シンシアの目は、恐ろしいぐらいに冷たかった。いや、温かさがないと言った方が正しかったかもしれない。シンシアはこの集団に対し、一切の感情を持っていないように見えた。
「ありがとうございやす。もうすぐ王都につきますから、あっしは積荷の方に載せてくだせえ。罪人の輸送というふうに運ぶなら、あっしはここにいない方がいい」
「ああ……」
ゴンドの提案通り、ゴンドを積荷に載せるのに、ミスリアは泣いて猛反発したが、アイラの抑制の甲斐もあって、泣き疲れたミスリアは眠ってしまった。
「ようやく静かになってくれたのです。ミスリアちゃん」
アイラはミスリアの髪を撫でながらそう言った。ミスリアの髪は銀髪のアイラやサラと違ってキラキラと黄金色に輝いていた。
「この髪の色……」
シンシアはミスリアの髪を見て何かを考えているようだったが、それ以降何も言わなくなった。それからしばらく竜車に乗っていると、再び馬車が止められた。もうついたのかと思ったが、外の様子を見るとどうやらそうでもないらしい。王都はすぐそこにまで迫ってはきていたのだが。
竜車を止めたのは、魔法教会の魔導士、アレスだった。
「おうおう、何だか高級そうな竜車が来たと思ったら、お前らだったのか。アキヤマぁ。ここであったが百年目だぜ」
王都に着く前にもう一悶着あるのかと思い、俺は身構えた。
「ってぇのは冗談だ。魔法教会はアキヤマに魔導学園の不正を暴いてもらった借りがあるからなぁ。こんなところでおっぱじめたりはしねぇよ。さすがになぁ。……ん? こりゃあ何載せてんだ?」
アレスはそういうと積荷の方へと歩いていった。まずいと本能的におもったがもはやどうにもならない。
「あー、あー。そういうことか。お勤めご苦労さんだよ。アキヤマ。お前案外役に立つな。盗賊捕まえてくるなんて」
アレスは竜車に乗り込んで、俺の肩をポンポンと叩いた。前よりはだいぶ好意的な態度のように見える。
「しっかしまぁ。こんなにゴミがぞろぞろと。あ、そーだ。アキヤマもこんなゴミ運ぶの面倒だろ? 俺が、処分して点数つけといてやるよ。ああ、俺って仕事人間だなぁ♩」
ご機嫌な様子のアレスは再び積荷の方に歩いていった。ミスリアは騒ぎを聞きつけてか、ぱちりと目を覚まし、何事かと周りを寝ぼけ眼で伺った。俺はまずいと思ったが、アイラが先に手を出してくれていた。アイラはミスリアを抱えて、声を出させないようにしてくれた。ミスリアはアレスに気づくと、目を見開き、憎しみを持ってアレスを見つめた。
親代わりのアックス・レイヴを殺したアレス本人がすぐそこにいるのだ。そんな表情になるのもいたしかたなかった。
「ちょっと待って!!」
俺はついそう叫んでいた。彼らを庇う訳じゃないが、ミスリアの目の前でひどいことが行われるのは避けたかった。
「あぁ? いま、俺に指図したかぁ?」
アレスはほとんど首だけこちらに向き直ると、恐ろしい目つきで俺を見てそう言った。
「もしこいつらを庇うって言うなら、それは重罪だぞ? もしそうなら……ここに新しい死体が一つ増えることになるだけだがなぁ?」
アレスの目は本気だった。全然友好的なんかじゃない。あいつはいつだって俺を殺そうと思ってる。そんな目だ。しかし……ミスリアもここにいる今、王都の目の前でアレスとことを構えるわけにはいかなかった。
しょうがなく、俺はその場をごまかした。シンシアがいれば勝負はわからなかったが、ここは王都の目と鼻の先だ。もし援軍が来たら太刀打ちは出来ないだろう。
「い、いや。違う。その、点数っていうのは、何だ?」
俺が聞くと、しばらくアレスは俺を睨んで、急ににこりと笑みを浮かべる。
「何だそういうことか。アキヤマお前ゴミ掃除初めてかぁ。魔法教会が指定する非魔法徒、つまりゴミは一点処分あるいは捕縛することで点数がつくんだよ。本来は録画機能やら何やら使って記録しなきゃならんとこなんだが……俺級の幹部となりゃあ話は別だ。俺が処分しといてやるから、安心しな。そうだな。この量なら20点ぐらいだな。初めてにしちゃ上出来だよ。そんじゃ、よっと。ボアドラゴニア」
アレスは優しげに俺に解説をしたかと思えば、そのついでのように魔法を彼らに向けて放った。
「ぎ、ぎゃああああああああああああ!!」
断末魔が響く。
「あ、熱いでやす!! ぐおぉぉぉぉ!!」
もはや俺たちにはそれをどうすることもできず、ゴンドとその仲間たちはアレスの炎魔法によって、焼き尽くされた。
しかし、ゴンドは。
苦しみの向こうで、ただ目の前に広がる死を許容し、悲鳴を止め、苦しそうな顔もせず、笑顔で。確かに俺のほうを見た。
口の形だけで「た・の・み・や・す」と言っているのがわかった。俺はゆっくりとそれに頷く。
アイラはミスリアの目を手で覆おうとしたが、ミスリアはそれを首で振り払った。そして彼女は一心に焼かれていく同胞たちをその目に収め続けた。その瞳には、確かな憎しみが宿っていた。
「よし。じゃあ、帰るとするか。門番に話は通しといてやるから、早く王都に入りな」
アレスは人を殺したにも関わらず、何事もなかったかのように竜車から降りようとした。しかし。
「ん? 何だそのガキは」
アレスがミスリアに気づいた。俺はまずいと思ったが、アイラが口を押さえていてくれているため、アレスの機嫌を損ねることはなかった。
「ま、いいか。んじゃな」
颯爽とアレスは去っていき、俺たちは再出発した。
旅路はほぼ終わりとなっていたときの出来事だった。俺たちは、無事、王都に辿り着くことができたのである。
……アックス盗賊団の壊滅という小さくない犠牲を残して。




