王都への道② 〜剥がれる化けの皮〜
俺が発動したのは単なる火の魔法だった。シンシアの氷魔法に対抗しようと思うと、かつてのソレイユ先生のような膨大な魔力を消費する火の魔法を使わないといけない。しかし自分のいる一点を温めるだけならそんなに魔力を消費しなくても温められる。俺が使った魔方陣の内容は、ただただ貯めた魔力をドーム全体でじわじわと火の魔素に変え続けるだけだった。
周りが常温の空気なら単に熱量を移動させることによって氷を溶かすこともできたかもしれなかったが、今回はすでに周りは氷の山になっていることが予想できたから、それはやらなかった。アースドームで作った土の壁で火の魔素をじわじわ発生させて温め続けると、その熱はドームの中にこもって行くので冷えにくいのだ。
「名付けて! コターツ! 最強の魔法だ! ただし密封していると空気が長くは持たないから気をつけような! お兄さんとの約束だ!」
「アキヤマさん……一体誰と話しているんですか……あれ? でもあったかい……。すごいです!アキヤマさん!」
アイラが褒めてくれた通り、アースドームの中はこたつ効果によってポカポカになっていた。これなら何とかしのげそうだ。そう思いながら氷魔法が終わるのを待っていると、突然ドームに穴が空いた。どうやら外からシンシアが魔法で穴を開けたらしい。
「大丈夫だった……?」
穴から顔を出してシンシアは覗き込んできた。
「大丈夫な訳あるかーー!! 殺す気かーーー!」
「だって……あいつら……私の睡眠を邪魔したから……」
「だからって本気の魔法使う奴があるかーーー!」
「いや……プログラムだし……」
シンシアは気になることを言ったが、それよりも気になることがありすぎるので、とりあえず穴の外に出た。外は竜車を含め、シンシアのいた位置を中心に丸い円を描くように氷漬けにされていた。
もちろん小物ーずも氷漬けにされているわけで。兄貴もゴンドもその他も丸々凍らされていた。
「どうすんの……これ」
俺はシンシアを責めるような目で見た。
「大丈夫……生きてはいる。皮膚で止めてあるから」
シンシアが言うには生きているらしい……が。さすがに気の毒だ。
「後先考えずに魔法を使うからこうなるのですよ!」
プンスカと怒りながら穴からアイラが出てきたが、アイラもさっき魔法使おうとしてなかったか? と言うツッコミは心の中にしまっておく。
「しょうがない……。そう言う風にプログラムしたから……」
シンシアはまた気になることを言った。プログラムしたってことはやっぱりシンシアも魔法文を自由に操れるのか。
「どんな魔法にしたんだ?」
俺はシンシアにそう問いかけた。とりあえず小物ーずは置いといて、気になることを先に聞いておく作戦だ。
「私の負の感情が一定以上の数値になると自動的に発動する。発動する魔法はさっきの魔法で、感情の大きさによって威力も変わってくる」
ははぁ。そんなことまで魔法陣で指定できるのか、と感心していると後ろからアイラがこほんと咳をして俺にこの状況を何とかするように急かしてきた。
「それじゃあとりあえず、あの兄貴ってやつの顔だけ溶かすことってできるか?」
俺がそう言うとシンシアはこくりとうなづいて魔法を展開した。兄貴の顔の部分にあった氷が溶けていき、兄貴の顔が露出した。
「ああ!!! つめてぇ!! ってアァン!? 何だこの状況は!? お前ら、大丈夫か……ってえ……嘘だろ……」
兄貴は余すことなく氷漬けにされた部下たちをみて絶句した。いやすまんて。
「悪いな、俺らに襲いかかってきたのが運の尽きだと思ってくれ。ただ質問に答えてくれたら命は保証してやる」
俺はできるだけ凄んで言ってみた。言ってもこいつらは悪党に変わりはない。別にちょっと脅すぐらいかまやしないだろうと思ったのだ。
「さっき前の俺たちとは違うって言ってたのはどう言うことだ? それに俺はどんな噂を広められているんだ? この二つを答えたら悪いようにはしないさ」
兄貴は俺の言葉を聞いているのか、聞いていないのか、俺の顔を見るとビクビクと震えた。
そして次の瞬間。
ボフン! と言う音とともに、兄貴を包んでいた氷はわれ、また兄貴の姿が一変した。兄貴と呼ばれていた奴は、金髪碧眼の幼女に姿を変えた……。
「やっぱり無理だよぉぉぉぉ、私に頭領なんて無理だよぉぉぉぉ。このおじちゃんに殺されるぅぅぅ」
さっきまで威厳たっぷりだったはずの兄貴は、幼女になっていた。何を言っているかわからないかと思うが、それは目の前で起こった真実だった。
「うぇぇぇぇぇぇん」
わけもわからず立ち尽くしていると、シンシアが近づいてきた。何を言うのかと思えば、その幼女に向かってトドメの一言を放った。
「早くアキヤマの質問に答えて……さもないとあなたたち……皆殺しよ」
シンシアの一言で、幼女が質問に答えれるはずもなく。響いたのはさらに大きな幼女の泣き声だけだった。仕方なく、その幼女に優しく語りかける。
「わかった。おじさん、いや、お兄さんは君を傷つけないから、ゆっくり答えてみてくれるかな?」
「うん……」
兄貴が、幼女だった。何を言ってるかわからねぇような、わけのわからない状況だったが、とにかく彼女は落ち着いたようだった。
「君の名前は?」
「ミスリア」
「わかったミスリアちゃんだね? 何で君はあのゴロツキと一緒にいたの?」
「頭領だから」
「ミスリアちゃんは何で頭領をやっているの?」
「それは……う。うぁぁぁぁぁぁん」
普通に質問したはずだったのだが、ミスリアは急に泣き出してしまった。
「あ、あれ? 泣かないで、ミスリアちゃん?」
「う……。わかった……」
ミスリアは必死に涙をこらえた。唇が横一文字にきっと結ばれ、目は必死に涙を抑えようとこらえているのがわかる。とりあえず最初に聞いた情報だけを聞き出してみようと思う。後ろを見るとアイラもシンシアも黙って俺の様子を伺っていた。状況が状況だけに口を出せないのだろう。
俺だって今も混乱している。
「前の君たちと違うって言うのはどう言うこと?」
「私たち……アックス盗賊団は……これまで盗んだ金で王都で魔法武器を買ったから……今度は負けないって……ゴンドが言ってたから……」
ミスリアは必死に泣くのをこらえながら言った。もはや拘束はされていないのだが、逃げる様子は一切ない。
それにしても魔法武器か。王都ではそんなものを横流しする連中がいるらしい。また問題が山積みになってそうな街なことよ。
「じゃあ、俺についての噂は?」
「あなた……アキヤマでしょ?……アキヤマは魔導学園で大暴れして魔導学園を半壊させて魔法教会から目をつけられてるって……噂なら」
予想以上に酷い噂だな。実際はシンシアに片付けてもらった感は否めないんだけど。俺がやったことといえば力の限り、あくどい爺さんをぶん殴っただけだ。
「ありがとう。それじゃあ……」
俺が小物ーずを見渡すと、ミスリアはビクッと体を強張らせた。それでも必死に、涙をこらえて言った。
「お願い……殺さないであげて。みんな悪い子じゃないの……人の命も奪ったことないって言ってた……だからお願い……」
幼女が涙を我慢してそう頼んできたら、違えるわけにはいかなかったが、悪党は悪党だ。情けをかけすぎるわけにもいかない。
「わかった。ただし。条件がある。あいつらは、拘束して王都に連れていく。そして、紅蓮の牙に引き渡す」
「ぐれんのきば?」
「ああ。一応信用できそうな連中だよ。一緒にはいられないかもしれないが、多分仕事とかも与えてくれるはずだ。こんなところで盗賊をやっているよりはマシだろう」
一回あっただけのジャックを全面的に信頼しているわけではなかったが、少なくとも今思いつく限りはそれが最善策だった。
そして、それからその条件通り、ゴロツキたちを縛って竜車の積荷入れのところに放り込むと、再び王都までの道を歩んだ。運転手の使い魔は力尽きて消えたにもかかわらず、もう一度シンシアに召喚されていた。
……何気に酷いな。




