王都への道① 〜小物ーず、アゲイン〜
豪華な竜車の乗り心地はなかなかのものだったが、それよりも大きな問題があった。というのを説明しようと思うのには、少し時間を巻き戻さねばなるまい。
あれは何日か前、スクオラを出発するときのことだった。ダンテの悪行を暴いた報酬として、竜車をもらった俺たちだが、竜車に乗ることになったのは、俺ことアキヤマとアイラとシンシアの三人だった。それは良かったのだが……。
「ちょっと! シンシアさん! ちょっとアキヤマさんに近づきすぎなのです!!」
アイラはそうシンシアに忠告した。しかし一方のシンシアは……。
「そんなことはない……これは正常な位置間隔……」
と言いながら俺の膝の上に座っていた。
「ちーかーいーのーでーすー!」
そう言っているのはアイラ。シンシアを必死に引き剥がそうとしている。
そう。俺の膝の上を巡って、アイラとシンシアの熾烈な争いが繰り広げられていた。シンシアはスクオラを出てからなぜか俺にべったりとくっついている。そしてそれをひっぺがそうとアイラは四苦八苦しているのであった。
え? 対した問題じゃないだろって? 本当にそうだと思うか。
「あんまり舐めてると痛い目見るのですよ……そろそろ本気で離れるのです」
「舐めているのはそっち。……私に命令できるのは私より強い者だけ」
まさに今、魔法戦争が勃発しようとしているではないか。アイラもシンシアも魔方陣を取り出して攻撃を仕掛けようとしている。
「ヤメローーーーーー!」
王都に着くまでに俺の命が持つかどうか、不安になりながら俺たちは竜車に揺られるのであった。
「だから! 何回言ったらわかるんだって! こんなとこで魔法なんか使ったら竜車がめちゃくちゃになるだろって!」
俺は二人に向かって説教をしていた。
「でも……シンシアさんがアキヤマさんから離れないから悪いのです」
アイラが言い訳というのは珍しい。きちっとした子だとずっと思っていたのに。いつから言い訳なんてする子になってしまったんだろう。完全に親目線になりながらも、言い訳をするアイラを叱る。
「悪いからって魔法で攻撃しちゃダメだろ! シンシアもシンシアだからな!」
シンシアの方にも叱って見るが、シンシアに至っては全く反省する態度は見られず。
「……魔法で攻撃するのは、やめる」
そういうものの、言葉を発しているのは相変わらず俺の膝の上だった。可愛いからなんとも否定し難い気持ちになってしまう俺にも非はあるのかもしれないが、反省は絶対してないな、こいつ。
「はいはい。膝からのこうね。ってほんとお前は子供か!」
俺が無理やり膝の上からどかせようとすると、案外素直にそれに従ってくれた。……かと思いきや。隣に座って俺にもたれかかってきた。なんだか知らんがずっとシンシアはベタベタとしてくる。
「一体何でお前はそんなに俺にベタついてくるんだ?」
「アキヤマの秘密を解明する……ため……」
シンシアは今度は俺の膝を枕がわりにして寝始めた。
「シーンーシーアーさーんー!!! いい加減離れてくださーい!!」
アイラがそういうが、シンシアはもうぐっすり寝始めてしまった。これはどかすの大変だぞ、と俺は人ごとのように思った。
そんなとき。急に竜車が停まった。
「あれ? もう着きました? 運転手さん」
竜の手綱を取ってくれていたのは、シンシアが召喚した使い魔だった。猿のような見た目だが、竜や馬といった動物の扱いには長けているようで、これまで心地よい運転をしてくれていた。
「キ、キキーーー!!」
何かを訴えるように猿の使い魔は叫んだ。
はて。この感じ。何だかデジャヴだぞ。
そう思いながら、竜車を囲う布を少しめくって外の様子を確かめて見ると。案の定、いつの日か見た馴染みの顔ぶれが並んでいた。
「兄貴! この竜車! 高そうですぜ! 持ち主はさぞ金持ちに決まってますぜ! やりましたね! 兄貴」
そう言ったのは、何だか見覚えのある猿のように笑う男。
あー。なんか安心するわ。逆に。この小物感。最近対峙してきた敵は、化け物クラスしかいなかったから。こういうのが出てくると丁度いいというか。いや、舐めてたらダメなのはわかってるんだけど。
「おう、ゴンド。こいつぁ上物が乗ってるにちげぇねぇ! せいぜいいたぶってやんな!」
兄貴(敬称略)がそう言うと同時にゴロツキどもは襲いかかりにきそうな感じを出したのだが、アイラが外にでたことで、ゴロツキどもの態度は一変した。
「やめるのです! 悪党ども!」
普通なら、この時点でゴロツキどもがウヒャウヒャと笑い馬鹿にするところだったが、前回の遭遇が相当印象的だったのだろう。ゴロツキたちは緊張に包まれた。
「あいつは……兄貴! あいつはこの前おいらたちをめちゃくちゃにしてくれた小娘ですぜ!」
ゴンドは相変わらずの小物口調で兄貴にそう言った。もう名前までもろわかりって、どうなんだお前ら。
「な! ビビんじゃねぇ! お前ら! 俺らも前の俺らじゃねぇだろ! 頼りになる相棒も手に入れたんだ。あんな小娘の一人や二人、やれるだろ!」
兄貴はそう子分たちを鼓舞した。アイラもその様子に警戒し、緊張が走る。さすがにアイラ一人に任せておくわけにも行かないので、俺も出て行くことにする。シンシアの頭を退け、俺も竜車から降りた。
「おい、アイラ。危ないだろ。俺がやるからいいよ」
俺がそう言うと、アイラは「アキヤマさん……別に気を使ってくれなくても……」と返事をした。それを聞いた小物ゴロツキ軍団は、ざわざわとし始めた。
「ヤベェぞ。あの男。アキヤマだってよ」
「ほんとだ。ヤベェ。あの魔導学園を一人で破滅に追い込んだっていうあのアキヤマかよ」
何だか尾ひれがついて噂がもうこんなところにまで届いているようで何よりです。しかしこんな小物相手に強い魔法を使うのもな、と手加減について考えていたところで、異常に気づく。何だか、背筋が薄ら寒い。
「ん? なんか寒くね?」
アイラに聞くと、アイラが竜車の方向を見ていることに気づいた。俺もつられて竜車の方をみて、気づく。竜車、凍ってる。
白い蒸気をうっすら立ち上らせながら、凍った竜車の中から登場したのはもちろんシンシアだった。彼女はついさっき眠ったばかりの睡眠を邪魔されて相当お怒りのようだった。竜車は凍りつき、その反動で熱風が草原に吹き、あたりの草は黒焦げになっていた。シンシアの氷の魔法は火の魔法の応用であり、熱を移動させることによって無理やり氷の魔法を作り出しているのだ。
「アキヤマさん。多分あれ。やばいです。自分の身を守らないと王都に行く前に死んでしまうかもなのです」
アイラは青い顔でそう言った。いきなり、それも味方の魔法で死の危険!? と思いつつも、魔道学園の生活を思い出した。仕方ないなぁと思いながら魔方陣を展開する。その前に指示を出すのを忘れていた。
「アイラ、アースドームを頼む」
「!? 了解なのです!! アースドーム!!」
アイラのインストールしていた魔法、アースドームによって視界が奪われて行く。小物ーずには悪いが自分の身より可愛いものはない。頑張れ! と心の中でエールを送り、ドームの中に入った。
「アキヤマさん。これだけじゃシンシアさんの本気の氷魔法は防げませんよ」
アイラは心配そうにそういうが、そう慌てるなと指示を出す。
「ふふ。安心しろ。ぽっかぽかにしてやるから。ラン!!」
お待たせしました。
新章、スタートです。




