幕間 〜旅の行方〜
ペチペチ
ペチペチ
ペチペチ
頬を叩く不快な感触で目が覚めた。しかし枕の代わりになっているのは柔らかな感触。目を開けると、そこには先にいなくなったはずのアリスが膝枕をしていた。……そう、俺の枕になっていたのはアリスの膝だった。
いや、柔らかすぎるだろというツッコミの前に、状況に頭が追いつかない。
「あ、起きた」
アリスは真上から俺の顔を覗き込んだ。
「いや近い近い近い!!!」
急いで起き上がると、アリスと頭をぶつけてしまった。
「いったぁ!!」
目を見開いて改めて見てみても、そこにいるのはさっきまで戦っていたはずのアリスだった。
「どういうことだ?」
周りを見渡すと、夢だったみたいなオチではなく、本当にダンテは倒れていたし、他のみんなも倒れていた。
「じきに魔法教会の人達が来るから、安心しなよ。とりあえずは君の勝ちってことで」
「意味がわかるように説明してくれ。お前は敵じゃなかったのか?」
「……はぁ。アキヤマってバカなの? って言うか、ラストール先生とかシンシアとか、誰が呼んだと思ってたの?」
「え?」
「ボクが呼んだんだよ? 第一こんなところに援軍が来ないでしょ。普通」
「確かに……」
言われてみれば、そうだった。ピンチのところに都合よく登場! ぐらいにしか考えていなかった。
「こんなのにしてやられたのボクは……」
アリスはそれなりにショックを受けているようだった。なんか知らんけどやったぜ。
「あ、でもなんでお前が呼んだんだよ!? お前は一体何者なんだよ?」
「ボク? ボクはね――」
「んぁ!? 本当に倒れてやがるし!! しかもこの魔法陣。アリスの言ってたことは本当だったのか。くそ野郎め。あ、アリス!! それに……誰だお前?」
俺とアリスの会話を遮って部屋に入って来るやいなや大きな声で騒ぎ出した男は、何やらどこかでみた顔である。
「アレス! それにジュリオンも。この後始末、お願いね☆」
「お、おい!! アリス!!! アリスってば!!!」
「アリス……勝手すぎ……」
アレスと呼ばれた金髪男と、その後ろに隠れていた黒い癖っ毛のジュリオンという女は、アマネで見かけた魔法教会の者たちだった。
「ほら、アキヤマも来て。君にはまだ話したいことがあるからサ☆」
アリスに手を引かれ、その場を去った。倒れたものたちが心配だったが、アリス曰く、治療班もじきにつくから心配するなとのことだった。
連れられるまま俺は男子寮のアリスの部屋に移動してきた。部屋の中はものが全くなく、私物は一切なかった。ゴスロリちっくな小物で溢れているのかと思っていたのだけど。
「ハイ、座って座って」
言われるままアリスのベッドに腰掛けた。どうやら相部屋の主はもともといないらしく、荷物も一切なかった。
「ああ……」
「それじゃ、種明かしをしようか?」
アリスはそう言うとさっきまでとは別人かのように優しく笑ってそう言った。
「お前は……アリスは魔法教会の人間なんだな?」
「お、せいかーい! それじゃそれじゃ、なんでシンシアたちを呼んだんだと思う?」
「なんでって……魔法教会に内緒で行なっていたダンテの企みを阻止するためじゃないのか?」
「ブッブー。不正解。魔法教会はダンテの行いを黙認していたんだよ? だって、データが取れるもの。ダンテがスクオラの市民を使って巨大な実験をしてくれれば。まぁそれは黙認であって容認じゃないんだけどね」
「違反だけど黙って見逃してたってわけか」
「そ」
「ならなおさら、なんで援軍を呼んでくれたんだ?」
「なんでだと思う?」
アリスは顔を近づけて聞いてきた。至近距離で見ると綺麗な顔だ。本当の女の子みたいだった。いや男なんだけど?
「そんなのわかんねーよ」
「正解は、面白そうだったから。でしたー。パチパチ」
「は?」
「いや、ちょうど両方の力が釣り合うぐらいに援軍を呼んで、こっそり観戦してたの。端っこで、認識阻害かけて」
「え?」
「さすがにボクがダンテの方に回るとダンテ側が強くなっちゃうし、ボクが逆についてもまたしかり」
「それじゃあ、もしかして俺たちに手を抜いていたのも……?」
「あ、気づいてたんだ。あれはね、調整してたんだ。アイラとルシエラの力で微妙にアキヤマサイドが勝ちそうだなって思ったから。微調整。でも殺しちゃうのはさすがにかわいそうだったから。アキヤマにあとで憎まれそうだったし。あ、逆にそれでもよかったのか」
笑顔で語るアリスがわからなかった。
……何もかもが理解不能。一体コイツはなんなんだ。
「てなわけで、いいもの見せてくれてありがと。足場を破壊した魔法、良かったよ。また、やりたいな」
「俺はもう二度とやりたくないよ」
心のそこからそう思った。アリスの部屋を出て自分の部屋に戻った。もう体力は限界で、とりあえず眠りたかった。そして俺はただただ泥のように眠った。
その後、ダンテ校長は魔法教会によって処理され、ラストールが校長に着任することとなった。ソレイユとラムザールは解凍されたのち、同じく魔法教会によって処理された。ダンテの企みを阻止した俺、アイラ、ルシエラ、アラン、シンシアは特別に卒業が認められ、スクオラを離れることになった。
アランは実家のギルバート家がある王都に戻るらしいのだが、名家らしくお出迎えがあったので、別々で王都に向かうこととなった。ルシエラは企みを阻止した褒美としてスクオラでの商売の権利を獲得したらしく、スクオラに残って一稼ぎするらしい。
そしてシンシアは……というと。
「魔法文……教えてもらう……」らしく、俺についてくるらしい。
「師匠の命を受けたのはあくまで私とアキヤマさんなのですよ!?」
と謎に張り合うアイラももちろん俺とともにスクオラを出るみたいだ。
「それじゃ、行くか」
褒美として与えられた豪華な竜車に俺とアイラとシンシアの3人は乗り込み、王都までの道のりを歩き出した。思えばスクオラには随分長い時間滞在した。死にかけたり、死にかけたり、主に死にかけた思い出しかないように思えるが、名残惜しくはあった。
さらばスクオラ。そう街に心の中で声をかけると、俺たちはスクオラを去り、王都に向かったのだった。




