triangle scramble②
アリスと戦っている間、俺は一つの違和感を感じていた。なぜアリスはあの刀を使わずあえて気絶させると言う方法を選んで二人をこの場から排除したのだろう。おそらくアリスはあの刀で二人を殺すことはいつでもできたはずだ。
「それじゃあ、続き。行きますかー☆」
俺のそんな思考はアリスの一言でかき消された。そんなことよりまずは戦う方法を考えなければ。
「アラン! 時間を稼げるか?」
「誰にもの言ってんだ。っと言いたいところだけど、そんなに多くは稼げねぇぞ!!」
アランはそう言うと、アリスの方に向かって走り出した。走りながらアランは腰につけるベルトのようなものを装着した。そこにはミニサイズの武器類が山ほど装着してあった。アランはアリスの攻撃をその一つ一つの武器を巨大化、硬化させることで防ごうとするが、どれもアリスの刀の前に無残に切り裂かれていく。
アランがアリスを引きつけている間に何らかの手段を考えなければ……。
まずアリスの黒い炎。あれに関してはわからないことが多すぎる。とりあえず、触れないと言う対策しかない。しかしあの空気の足場に関しては何とかできそうだ。アリスの機動性を大きく上げているのがあの空気の足場なわけだから、あれさえ何とかしてしまえばある程度アリスの戦闘力は落ちるはずだ。
その時ふと頭の中に先ほどのアイラの攻撃の時の様子が浮かんだ。アリスは身体強化と言っていたが、アイラの攻撃はその魔法を使わなければ切り抜けられないものだったのだろうか。ただの爆発魔法なのに。
爆発が連鎖してアリスの方に向かっているとき、いくつか不自然な様子を見せた爆発があった。いくつかは規模の大きな爆発をしていたのだ……。あれはああ言う魔法なのだとばかり思っていたが、アリスのあの反応と何か関係があるのだろうか。
思考を凝らしている途中でアランが戦っている様子が目にはいった。何とかアリスの攻撃をしのいではいるが、武器のストックがあからさまに減っていっている。そう時間はない。
「空気の足場……空気の足場……」
独り言のようにそう呟くと、一つの考えが頭に浮かんだ。
「空気を圧縮しているから爆発もしやすいのか……?」
その考えに至ったやいなや、俺は一つの魔法をプログラミングした。紙にペンを走らせ、大急ぎでプログラムを組み立てる。それはアイラの魔法の模倣であったが、進化版でもあった。爆発した地点から2m以内にあるオブジェクトめがけて爆発を起こすと言うシンプルなものだ。
「おい! アラン! 一旦引け!!」
俺の指示に頷いたアランはアリスから距離をとった。それを逃すまいとアリスは空気の足場を蹴って追う。そのスピードは予想以上に早く、アランが俺に追いつくと同時にさっきプログラミングした魔法を放った。連鎖的に爆発は増えていくので、俺もアランも一心不乱に逃げた。
作戦を伝える前に魔法を放ったので、アランは正気かと言う目で俺を見たが、仕方ないだろとアイコンタクトで答えた。
アリスの方はと言うと……
「やってくれるねぇ……」
めっちゃ怒ってた。怖い。右手に刀をもち、今度は足場を作らずにこちらに向かおうとした。しかしその瞬間、アリスは何かに気づいたようでバッと隣を向いた。かと思えばまたこちらを向いて口を開いた。
「やっぱもういいや。十分楽しませてもらったし。あとは頑張ってね」
アリスはそう言うと出口の方へと向かっていった。
「おい! アリス! どこへいく! 命令を違えるつもりか!」
ダンテの言葉に臆さず、アリスは背中越しに言う。
「ボクが従うのはお前じゃない。それを忘れてもらっちゃ困るかな☆」
あくまで自分のペースなアリスは、そうとだけ言うとダンテの言葉を聞かずに去っていった。
「助かった……のか?」
俺はアランに向かって問いかけた。
「お前の魔法で自滅しかけたけどな……それにまだ、終わってない。二人を助けなきゃだろ」
アランに言われそういえばともう二つの戦いの行方を見てみると、ラストールは押されていて、シンシアはソレイユを巨大な氷のドームで覆い、ソレイユはそれを溶かすのが追いついていないようだった。
それを余裕の表情で見るシンシアはゆっくりとポケットを漁ると、長い巻物のようなものを取り出した。シンシアはその巻物を開くと、そこには十数個の魔法陣が描かれていた。
「ラン」
シンシアが魔法の実行を告げると巻物の端に書かれた魔法陣がまず光った。そして次の魔法陣、また次の魔法陣が光っていくと同時に、部屋が寒くなっていくのを感じた。……そして最後の魔法陣が光ったあと、シンシアは両手をソレイユとラムザールの方向へ向けた。
それと同時にソレイユとラムザールの立つ地面から瞬時に氷が現れ、二人を完全に氷漬けにした。急に戦っている相手以外から攻撃を受けたラムザールは不意をつかれ、すでに閉じ込められていたソレイユもその攻撃を受けるしかなかったようだ。
部屋は真冬かのように寒くなっていた。
「いったい何が起こったんですか? あの氷はシンシアさんの魔法ですか」
ラストールはシンシアに駆け寄りそう聞いた。俺もアランも思わずシンシアのところに集まった。しかし、シンシアは膝をついて苦しそうな表情をした。
「そう……魔法陣の限界を超える魔力で魔法を行うために18個の魔法陣を連鎖させた……でも、今のでほとんど魔力を使い果たしてしまったかも……」
ラストール先生と戦っていたはずのラムザールまで一緒に倒してしまうとは。この子恐ろしすぎでは。
「そんじゃあ残りは……校長だけだな」
アランのその言葉で俺は現実に引き戻された。そうだ。校長を倒せば終わるんだ。ダンテ校長はがっくりとうなだれた。
「まったく。どいつもこいつも。役に立たんな。そしてシンシア……邪魔をしてくれおって……死ねぇ!! ラン!!」
ダンテはうなだれたかと思えば、そんなことを言い急に魔法を展開した。アリスと同じ黒い炎が猛スピードでシンシアの方へ向かっていく。思わず俺はシンシアを抱きしめてかばったが、黒い炎が俺を攻撃することはなかった。
怖くてつぶってしまった目を開けて後ろを振り向くと、そこにはラストールが出したと思われる土の壁とお腹に穴の空いたラストール、そして貫通した魔法を武器で防ぎきれずにお腹を焦がしていたアランの姿があった。
「ラストール先生!! アラン!!」
呼びかけるも二人はすぐに倒れ、意識を失ったようだった。
「結局私自らが手を下さないといけないとは、なんとも情けない。それもこれもお前のせいだよ。アキヤマ? お前はなんなんだ? アキヤマ?」
ダンテの問いに俺は精一杯の虚勢を張って答える。
「あんたを倒すための存在さ」
「はははは! 笑わせてくれる!!!」
「笑っていられるのも今のうちだ」
「ふん。ラムザールとソレイユを倒したシンシアの魔力が尽きかけていてもか? ほとんどシンシアの力ではないか」
ダンテの言葉は正しかった。
……でも。
虚勢を張らずにはいられなかった。これまでそう自分にも嘘をつくことでいろんな障害を乗り越えてきたから。
「アキヤマ……これを」
シンシアは力なく俺に一枚の紙を手渡してきた。
「これは?」
「それは私がとある国の遺跡で見つけてきた魔法陣を写したもの。あなた……隠してきたみたいだけど魔法文が読めるんでしょう? 何かの役に立てば……あと。私はまだ戦えるから……」
シンシアはそう言うと立ち上がり、白い髪を振り乱し、ダンテを睨んだ。
「無理は良くないぞ! へとへとじゃないか!」と俺は声をかける。
「大丈夫。こんな時のために用意してきたものがあるから……ラン!!」
シンシアが初めて力強く魔法陣を実行すると、魔法陣は光ったが、なんの変化も起きなかった。……いや、シンシアの顔色が良くなってきている。元々雪のように白い肌だが、青みがかっていた肌に赤みが指している。
「日常的に魔力を貯蔵しておいて、こういうときに体に還元する。一応自作の魔法陣」
シンシアは俺に微笑みかけた。
「自作!? シンシアも魔法文が読めるの!?」
「も、ってことはやっぱりあなた……でもそれは良い。魔法文は読めないけど、テンプレートとして存在するセンテンスの意味はわかるから……それを組み合わせただけ。それより、次の攻撃が来る。早くその魔法陣を解読して。何か役に立つかもしれない」
シンシアが言い終わると、ダンテも計ったかのように攻撃を仕掛けてきた。黒い炎をシンシアの巨大な氷が受け止める。受け止めると言うよりかは包み込んだと言った方が正しかったかもしれない。黒い炎は氷を最初は勢いよく貫通しようと進んでいくが、徐々にそのスピードは失われ、氷の中でその活動を止めた。
そして戦いの最中、俺は渡された魔法陣を読んだ。




