負け犬の矜持⑤終
お待たせいたしました。
前回の更新から少し間が空いてしまいましたが、とりあえずの完結に向けてラストスパートかけて書いていきます。
「随分と派手にやってくれたものだねぇ。いやぁ、君がこんな事をしでかすタイプには見えなくてね。油断したよ」
向こうから歩いてきた人物はそう声をかけてきた。白いひげを生やした老人。当の学校の学園長、ダンテ・フローラスその人だった。
「なっ!? なんであなたがここに?」
俺は思わず思ったままのことをその老人に言ってしまった。これではまるで小物だ。
「あの合成機を壊しておいて無事に逃げられるとでも思っていたのか? それならかなりおめでたい頭と言わざるおえないのう?」
「くっ。それでお前が直々に手を下しにきたってことか」
学園長直々に出てきたとなってはかなり部が悪い。しかし逃げようにも向こう側の扉にたどり着くには学園長が邪魔して来るだろう。
「いや、お前たちの相手なぞ私はしないぞい?」
「なに? なら俺たちは逃げていいってのか?」
「ふふ。そんなはずもなかろう?ほれ、お前。相手をしてやりなさい。同じS+同士。あと……そうだ。お前たちもきなさい。ラン!!」
ダンテがそう言うと取り出した魔法陣から光が放たれ、ダンテの目の前に3人の人物が現れた。それはS+ランクの生徒、アリス。講師のソレイユとラムザールだった。
まずい。まずい。まずい。
状況はどんどんと悪化していく。
「ああ、また汚れ仕事なの? 校長」アリスはあくびをした。「この3人であの3人の相手なんて、退屈すぎてあくびが出そう……ってもう出てるや。ま、命令とあらばなんでもうやるよう言われているし、従うのは従うけどね? ……アキヤマ他2名さん。なんとか持ちこたえて見せてね?」
なんだか気になる物言いが多かったが、今は気にしている余裕はない。しかし持ちこたえる? とはなんのことなんだろう。講師の二人は黙ってため息をつくとこちらを見た。
「ちょっとこれはシャレにならないのです……アキヤマさんがアリスさんと最悪同等と仮定しても実力差は歴然なのです……」
「でもおとなしく投降して許してくれるって感じでもないわよね……?」
二人には申し訳ないことをしたと思いながらも、この場を切り抜ける策を考える。しかし、どう考えても切り抜けられる策はなさそうだった。
一つ希望があるとすれば、先ほどのアリスの言葉だ。あいつはおそらく校長直属の者ではない。それに加え、あの持ちこたえてねと言うセリフ。何事も面白ければそれでいいと言うアリスのことだ。もしかしたら何かが待っているのかもしれない。
「では、始めるとしようかの? 3人とも。さぁ処分してあげなさい」
ダンテの言葉で、戦いの火蓋は切って落とされてしまった。
「ラン!!!」
ラムザールとソレイユがこちらを向いて攻撃の意思を示した瞬間、俺は逃げのために用意していた魔法陣を展開した。もちろんこんな展開になるとまでは予想していなくとも、なんらかの追っ手が来ることは予想していたからだ。俺の用意していた魔法陣が書かれた紙から炎が放たれ、一直線にラムザール、ソレイユ、アリスに向かっていく。
「そんな程度の魔法でボクたちを倒せるとでも?」
アリスは馬鹿にするようにせせら笑ったが、俺の狙いはあいつらを倒すことではない。あくまで逃げることが目的だ。こんな状況になった今でも。なぜなら今の戦力差であの三人に勝てるとは思えないからである。
「倒そうとなんて思っていないさ!!」
炎は3人に近づくと、3人の円心状に炎は広がっていき、3人の視界を奪った。この魔法は選択したオブジェクトの半径1メートルの円上に炎がただただ燃え上がるという見掛け倒しの魔法だ。その目的は相手を傷つけることではなく、目くらましの目的が主だった。
「今のうちだ!」
俺はルシエラとアイラに指示して逃げるようにいうが、その指示が意味のないものだと気づくまではすぐだった。
「「「ラン」」」
3人は各々の魔法で周りにまとわりつく炎を消し去っていた。ラムザールは風の刃で、ソレイユはさらに強い大きな炎で炎を吸収して、アリスは見たことのない黒い炎で炎を吸収していた。俺たちは3人に対抗するには圧倒的に魔力が少ない。
もはや、どうしようもない。そうとさえ思った。
「こんな面白くもなんともない仕事、さっさと終わらせてしまいましょうか……ラン!!!」
ソレイユは極大の炎魔法で俺たちを焼き尽くさんと魔法を展開した。極大の炎魔法は轟々と燃えながら俺たちを包み込もうと目の前まで迫ってきた。……その時。
「……ラン」
目の前に突然巨大な氷の壁が現れ、炎と俺たちとの間に立ちはだかってくれた。
「なんじゃ!?」
ダンテが後ろを振り返ると、魔法を放った人物がこの部屋に入ってきた。また、人影は一つではなく、3つの人影がこの部屋に入ってくると俺たちの方に駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫ですか!?」
と声をかけてきてくれたのはラストール先生だった。そして、さっきの氷の魔法を放ったのはシンシアだった。そしてその後ろにはなぜかアランまでいるではないか。
「ダンテ校長!! なぜこのようなことを!!」
ラストールはダンテに向かって強く問いかけた。
「なぜ?? ふーむ。そうじゃなぁ。其奴らがわしの大事な機械を壊してくれたから、ああ、あといらぬ秘密を知ったまま逃げようとしていたからじゃのう」
「大事な機械……? いらぬ秘密……?」
「この学園はS+の生徒にキメラ合成の仕事をやらせていたんです! そして僕たちはその大元のキメラ生成装置を壊し逃げる途中だったんです!」
俺はラストール先生に真実を告げる。こんなこと信じてもらえるかはわからなかったが、この状況を見ればわかってくれるだろうと踏んだ。
「……本当ですか、校長」
俺の話を聞いたラストールは、真剣に相手の目を見てダンテに問いかけた。
「……うむ。本当だったらどうするというのかね? 一介の教師にすぎない君が?」
「それは……」
「君はこういうことにうるさそうだから黙っていたんだが、仕方ない。ほれ、君もこちらにきてその子たちを処分するのを手伝いなさい」
「何を言うのですか!? 校長!?」
「私に従えと言っている」
ダンテはドスの効いた声でラストールを脅した。しかし、ラストールには逆効果だったようで。彼はローブを振り乱し、高々と宣言する。
「私は圧力には屈しない。アキヤマくんのいうことが本当なら、ますます生徒を殺すなんて真似は見過ごすわけにはいきません」
「ふん。……なら、シンシア。なぜお前はそちらにいる?」
ダンテはラストールを説得するのは諦め、今度はシンシアに語りかける。その口調は優しいようで、容赦のないドス黒さが隠しきれていなかった。
「アキヤマの魔法陣に興味がある……まだ死なれるわけにはいかない」
「ははは!! そうじゃったのう!! お前はそう言う奴じゃ!!なら、最後に、アラン。お前はなぜそこに?」
「俺もラストール先生と一緒だ。ギルバート家の名にかけて、事情をもみ消すために生徒を抹殺するなんて真似、見逃せねぇ」
「ふん、どいつもこいつも。身の程をわきまえない馬鹿ばかりか。お前たち。事情は変わったが命令は変わらん。あいつらを消せ」
ダンテは冷たい口調でアリスとラムザール、ソレイユに言った。
「私はラムザールの相手をします。アキヤマくんとアイラさんとルシエラさんはアリスさんの相手を、シンシアさんとアランくんはソレイユの相手をお願いします!」
ラストールの的確な指示でそれぞれの戦う相手が決まった。それは戦力的にちょうど良い塩梅であり、多少は勝ち目が見えそうな相手だった。しかし、シンシアだけは不満そうに一言。
「私は一人でいい」
そうとだけ言うと単身ソレイユの方へ走って言ってしまった。
「っ! じゃあアランくんもアリスさんの方にお願いします!ただしシンシアさんが危なくなりそうになったら補助をお願いします!!」
「チッ!! わぁったよ!!」
シンシアとの実力差を理解しているアランはラストールの言葉に従った。ラストールはラムザールの方に走っていき、アリスは俺とアラン、アイラとルシエラのいるこちらに一直線に向かってくる。ラムザールの先制の風の刃の魔法をラストールの土の壁が防ぎ、ソレイユの炎の魔法をシンシアの氷の壁が防いだ。それを合図に火蓋は切って落とされた。
そしてアリスは俺たちにゆっくりと近づいてきた。
「作戦会議は終わった? じゃ、殺し合おうよ☆」
アリスは可愛らしい顔に、悪辣な笑みを浮かべた。




