負け犬の矜持②
そこからは地獄だった。最悪な仕事だった。難易度としては別に高いというわけではない。むしろ今まで習った魔法を使えばなんてことはなかった。むしろ簡単な仕事だったはずだ。でもそれが逆に俺を苦しめた。
俺はほぼ無抵抗な弱々しいキメラを、この手にかけた。苦しめないようにと、圧倒的な火力で、焼き尽くした。
「ラン……ッ!!」
火の魔法陣が実行され、座標軸を固定した後、キメラの位置を選択しロックオン、あとはできるだけ苦しませないように魔力を最大限送ることで火力をできるだけ高くした。
「ピギィィィィィィ」
キメラは甲高い悲鳴をあげて燃え尽きた。それは時間にするとたいした時間ではなかったが、俺にとっては永遠のように長く感じた。
「これで、いいでしょう」
俺は校長に背を向けて言った。怒りでまともに顔を見る自信がなかった。
「ああ。いいぞい。十分じゃ。さすが、S+にこれだけ早く上がって来ただけのことはあるのう」
「もう、いいですよね」
俺はつっけんどんに言った。
幸い、校長はさして気にも止めない様子で。
「そうじゃな。帰るとするかのう?」
校長が再び転移魔法を使うと、俺と校長は元の部屋に戻った。
「では! 今日の追加課題はこれまでとする!もう行っていいぞい!次の追加課題は当分先になるじゃろうから、安心して待つがよいぞい。……なぁに、次もそんなに難しい課題ではないからの。その点も心配は無用じゃ」
「そうですか……わかりました。それでは失礼します」
俺はそう校長に告げると、急いで階段を駆け上がった。そして近くのトイレに駆け込み。……吐いた。胃に入っていたものを全て吐き切ってもなお吐き気がおさまらなかった。
「かぁ……はぁ……はぁ……俺は地獄に落ちるだろうな……。もちろんあの校長はもっとクソみたいな地獄に落ちるだろうけど……おえ……くそっ」
俺は吐き気が収まるのを待つと、トイレから出て寮の自分の部屋へと戻った。
「おお! アキヤマ!! どこ行ってたんだ?」
ハルトはのんきに俺にそう話しかけて来たが、正直こいつの相手をしている余裕などない。俺はすぐにベッドに横になり、気分がましになるよう祈った。
「おいったらーー」
「すまん……気分が悪いんだ。ほっておいてくれないか」
「そうだったのか? 何かあったのか?」
「……」
だからほっといてくれと言ったろうに。ハルトに八つ当たりをしそうになってしまいそうだったので、ハルトの声を無視した。横になると自然と気分は少し楽になった。そして俺は少しの睡眠をとることに成功した。……しかし。
夢でもさっきのキメラ合成の様子が浮かんでくる。そのせいでちゃんとした睡眠は取れずに夜中に起きてしまった。
そこで俺は少し夜の散歩に出ることにした。夜はあまり出歩かないようにとは言われているが、別に構わないだろう。S+ランクなんだし少しぐらいの勝手許されるだろ。
寮を出て少し外を歩きながら、あの魔物達のことを考えた。冷静に考えれば、俺が合成しなくても、いずれはほかの誰かにキメラに合成された魔物たちであったのだろう。しかし、俺が合成することになったのもまた事実。罪のない魔物達の命をおれは奪ったんだ。しかも非人道的なやり方で。
俺はルクスで俺のために死んでいったプニタローに心の中で謝った。
「……すまん。お前と同種族の奴をひどい目に合わせちまった」
それは心の中だけでなく声に出ていたようだった。
「アキヤマさん? どうしたんですか? こんなところで」
後ろから話しかけてきたのはアイラだった。
「ああ、アイラか。アイラこそどうした? こんな時間に」
「私は散歩です。眠れなかったのです」
「そっか……」
「アキヤマさんは……?」
「俺もちょっと眠れなくってさ」
「課題のことでなのですか……?」
よっぽど俺の顔に出ていたのか。
「ああ。まぁ……。そうだ!アイラとルシエラに話があったんだった!」
俺は落ち込んでいる場合じゃないことを思い出した。アイラとルシエラに協力してもらうわけには行かないが、俺は例のキメラ合成の機器を破壊し逃亡を図る計画を実行しなければならない。
校長や研究員の様子を見ていると、キメラ合成についてそこまで詳しいわけではなく、例の機会類が重要なファクターだということはわかった。つまり、俺のやるべきことはあの機械を破壊し、気づかれないうちに逃げる。……これが最善だ。
「なんです?」
俺はアイラに追加課題の内容とキメラ合成の機械について、またそれを壊して逃げる作戦についてアイラに話した。
「……」
「絶句って感じだな。無理もないよ。でも俺は決めたよ。やるって」
「……アキヤマさんがやるというならお供しますよ。なんせこれはお師匠様のきっての願いで始まった旅ですから。それで? 逃げるって一体どこに逃げるつもりなんです?」
「王都、かな。もはやこの状況は俺らの手に余るからな、ジャックと合流するべきだろう」
「どうやって逃げるんです?」
「それは……えーっと……」
俺は返答に詰まってしまった。まだそこまで考えていなかった自分が恥ずかしい。
「はぁ。やっぱりアキヤマさんはアキヤマさんなのですね。いいです。逃亡に関しては私が紅蓮の牙と連絡を取って話を進めておきます。そして……ルシエラさんにはパワーアップした認識阻害の力を見せてもらいましょうか」
「すまん。頼りにさせてもらうよ。でもいいのかな? ルシエラはここに残りたいと思ってるんじゃないか?」
「……はぁ、あのねぇ。アキヤマさんはルシエラさんを舐めすぎです。それにここに残っていても危険はあるのでしょう? おいていくわけにもいかないのです」
「それは……確かにそうだよな……すまん」
「いいのですよ。それで? 決行はいつにするのです? というかその部屋には絶対に入れるのですか?」
「そうだな……それについてはまだ調査が必要だからな。一週間後ぐらいでいいんじゃないか? 次の追加課題まではしばらく時間がありそうだし」
「不安がのこる作戦ですね……まぁ仕方ないといえば仕方ないのですが」
アイラは不安そうに俺を見ながらそう言った。
「ま、いざとなったら俺一人が責任を負えばいいからさ。お前らは脱出が確実になってから助けてくれよな」
俺のその言葉を聞くと、アイラは血相を変えた。
「何を言ってるんです? また自己犠牲の精神なのですか!? そんなことされて私たちが嬉しいとでも!?」
アイラは珍しくすごく怒っていた。毛を逆立て、猫耳はピンと立っている。
「おいおい、どうしたよ。急に」
「急にじゃないのです。前から思っていたことなのです。次に同じようなこと言ったらぶっ飛ばすのです」
「ぶっとばっておい。アイラいきなりどうしたんだ? 俺そんなに変なこと……」
アイラの目を見ると、この話はこれで終わりにしろというオーラを感じ取ったので、仕方なくその場は引き下がることにした。
「わかったよ。俺が死にそうになったら、迷わず助けに来てくれ」
「それでいいのです」
アイラは先ほどとは打って変わってにこっと満面の笑みを浮かべた。それにしても……アイラってば、歳の割にしっかりしすぎでは?
「それじゃ、帰るとするか。戦力を上げるために魔法も新たに考えたいし……って、ん? そういえば、あの壁を開く魔法陣、内容を読んだいなかったけど……もしかして」
「内容が読めるなら……どうやってあの部屋に行くことができるのかわかるのではないですか???」
「それだ!!」
アイラに美味しいところを持っていかれたが、そんなことよりも例の魔法陣だ。見て見ると、条件分岐がいくつかあった。同じ魔法陣で違うところに繋がるのは不思議に思っていたが、そもそも魔法陣を読めば理屈がわかるはずだったのだ。
分岐はこうだ。
廊下横にある炎のドラゴンの像に魔力が満たされていれば校長室につながる。
水のドラゴンの像に魔力が満たされていれば演習室につながる。
雷のドラゴンの像に魔力が満たされていれば合成の間につながる。
風のドラゴンの像に魔力が満たされれば地下牢につながる。
土のドラゴンの像に魔力が満たされれば金庫につながる。
全てのドラゴンの像に魔力が満たされれば転生の間へとつながる。
まるで何かのロールプレイングゲームのような仕組みになっているようだが、これで例の壁の仕組みはわかった。あの時は先生があらかじめ雷のドラゴンに魔力を注いでいたから合成の間につながったのだろう。これならいつでもいける。
「その転生の間っていうのはなんなのでしょう……?」
「わからないな……。地下牢についても調べる必要がありそうだ。脱走の準備が整い次第俺に伝えてくれ。出来次第調査を開始しよう」
「そうですね……くれぐれも慎重に行動しましょう。ただ時間もないようですから、私も急いで紅蓮の牙と連絡を取るようにします」
「頼んだ……。それじゃ……そろそろ遅くなって来たし帰るとするか」
それから俺とアイラは自分の部屋へと戻り、眠りについた。同室のハルトはすでに寝ていたので無駄な面倒がなくて済んだ。
そしてそれから数日、授業をなんとか乗り切っていた俺に朗報が入った。
……逃走の手段が準備できたらしい。
そしてその夜。
俺たちの器物破損&大逃走、題して「負け犬大作戦」が幕を上げることとなった。
大分間が空いてしまいましたが、小説を書いていないわけではなく、投稿用の別作をコツコツと書いている状況です。
しかしこの作品もまだまだ続きます。
できるだけ間があかないように頑張りますね╭( ・ᄇ・)و




